魔力ゼロでも諦めない! 転生エンジニアがITスキルで挑む異世界革命

暁ノ鳥

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【第8章】「小都市の防衛クエスト――ネットワーク導入の序章」

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 ケイたちがコード魔法の可能性を実際に試すための新たな依頼が、ギルドを通じて舞い込んだ。
 その名も「フォーグリア防衛クエスト」。
 グレイヴァルド本都市圏の東方に位置する小都市フォーグリアが、近頃モンスターの襲撃に悩まされているという。

 フォーグリアは人口にして数千人ほど、農作物や林業が主要な産業で、それほど大きな富はないが平穏な暮らしを保ってきた場所だ。
 しかし、ここ数カ月で付近の森に『活性化したモンスター』が増え、結界石の整備が追いつかず領主代理も頭を抱えていた。
 そこで『一定期間、モンスターから街を守ってほしい』というクエストがギルドに出され、その依頼をケイたちが受けたのだった。
 ケイがギルドから送られた書簡を読み上げる。

「今回の目標は、最低でも二週間、フォーグリアの結界の防衛を安定させ、モンスター被害を抑えることらしい。もし成功すれば正式な報酬と、ギルドからの技術評価が得られるようだ」

 小都市フォーグリアは、元々は『結界石』を中心とした防御体制を整えていたが、近年は維持費(保護費)が上昇する中で十分な整備が行き届かず、結界に『ほつれ』が生じているらしい。
 街の周囲をかこむ石壁は部分的に崩れており、領主代理やギルドの支部も人手不足で対応に追われていると報告されていた。

「領主代理は、あまり強権的じゃないらしい。むしろ善良だけど財政面で苦しいんだとか……」
 
 エレナが苦々しくつぶやく。
 彼女は「前に遭遇した汚職領主みたいな連中じゃないなら、まだ話し合いは通じるかも」と期待を抱いているようだ。


 今回、ケイたちが試そうとしているのは魔導端末を利用した『簡易ネットワーク』だ。
 魔導端末とは、結界石や水晶などの魔力触媒を内蔵した通信装置で、一定範囲であれば相互に情報をやり取りできる。
 この世界では比較的新しい技術で、既得権益を守りたい保守派がなかなか普及させていない。
 一方、フォーグリアを守る『結界石』は、街の中央に大きく据えられた大水晶で、領地内外の防御や魔力フィールドを支える心臓部だ。
 しかし整備には継続的な魔力供給と儀式が必要で、負担が大きい。
 保護費は、結界石の維持・管理費用として徴収されるが、小都市ゆえに税収が少なく、モンスターの襲撃で余計に負担が増しているのが現状である。

「端末が結界石からある程度魔力を受け取れるなら、通信を安定させられる。けど、その分魔力消費が増えると結界の防御が落ちるリスクもあるんだよな」

 ケイは魔導端末を手に取り、内部のルーン基板を確認する。
 これが『魔力供給』と『符号化通信』を兼ねる仕組みであり、コード魔法の概念を注入することで情報をやり取りする仕掛けだ。

「要は、魔力の使いすぎで結界が弱まったら本末転倒だし、最低限の魔力で通信を維持するテクニックが必要なんですね」

 アリアがメモに『魔力使用量の見積もり』を走り書きしている。


 フォーグリアの城門付近に到着すると、領主代理が直々に出迎えてくれた。
 まだ若い男性で、困り果てた表情ながらも「ようこそ、遠方から。なんとかモンスター被害を減らしたいんだ」と頭を下げる。

「われわれとしては、保護費を必要以上に上げたくはありませんが、結界石の維持にどうしても費用がかかるんです。モンスターの増加で被害が増えれば、さらなる徴収が必要になる……しかし、住民はもう限界でして」

 領主代理は疲れ切った声で状況を説明した。
 街の人々は半信半疑ながら、モンスター被害で困り果てているため、ある程度はケイたちを好意的に受け入れてくれているようだ。
 しかし、中には「本当に役立つのか」など不安を口にする者も多い。

「大丈夫。俺たちが作るネットワークは、城壁の監視や結界石の魔力状態を同時に共有できる仕組みで、モンスターの侵入を早期に発見できます」

 ケイは端末を見せながら説明を試みる。
 住民の視線は懐疑と期待が入り混じり、ざわめきが広がる。


 具体的な作業はこうだ。
 まず城壁上に複数の魔導端末を設置する。
 端末同士を結界石に設定した『中継ルーン』でリンクし、そこから制限付きの魔力供給を受ける。
 その後、城門や領主代理の執務室に受信装置を置き、どの部分の城壁にモンスターが迫っているかをルーン文字の簡易マップで表示する……これが今回の骨子である。

「ただし、魔力供給量を増やしすぎると結界石の防御が弱まる恐れがあるから、当面は通信を最小限に抑える。情報更新は数分単位のポーリング方式にして、非常事態以外は負荷をかけないようにしよう」

 ケイが作業用のメモを見ながら、住民や民兵の協力を得て端末を取り付けていく。
 エレナは腰に剣を提げたまま、端末の箱を運んだり、見張りの民兵に作業内容を説明したりと奔走している。

「ねえアリア、こっちのルーン基板がうまくはまらないんだけど……配線が間違ってるわけじゃないよね?」
 エレナが少しイライラしながら声をかけると、アリアは慌てて駆けつけ、「あ、そうか、ここは結界石の符号化魔力が逆流しないように『制御ルーン』を一枚噛ませる必要があるんです」と修正する。
 ケイはそのやり取りを見ながら、「まるで、前の世界のITインフラ整備みたいだ」と面白がる。

 こうして丸一日かけて試験ネットワークが形になった。
 しかし、最初のテストでは城門付近の端末がうまくリンクされず、ただちにモンスター接近アラートが飛ばないなどのトラブルが頻発する。

「ケイさん、通信が安定しないですね。たぶん結界石との距離が遠くて魔力が弱いんじゃ……」
「すぐに中継アンテナ……じゃなくて、中継ルーンを追加しよう。負荷は増えるけど、距離を拡張しないと壁全体をカバーできないから……」


 導入作業の翌日、夜が深まる頃に不穏な気配が走った。
 フォーグリアの周辺森から大型のオオカミ系モンスターの群れが迫ってくるという報せが入り、街のあちこちに緊張が走る。

「以前は小型のモンスターが中心だったのに、こんな大群が攻めてくるなんて……」

 領主代理が青ざめながら、民兵たちに指示を飛ばす。
 しかし民兵も数に限りがある。
 夜間の結界維持はいつもより魔力コストが高く、結界石に蓄えている魔力が足りるのか住民も不安を隠せない。

「頼む、あのシステムとやらをちゃんと働かせてくれ!」
「何でもいいから助かりたいんだ!」

 住民が怯える中、ケイたちは急いで端末のモニタリングを開始する。
 城壁の各ポイントに配置した端末が、オオカミ型モンスターの接近距離を『数十メートル単位』で検出し、その情報を中心街の受信装置が即座に表示する。

「来た、壁の北東部分に多数の反応!」

 ケイが叫ぶと、アリアが「北東の見張り台にいる民兵さんに報告を! 結界負荷を一部そっちに回して強化しましょう!」と指示する。

 フレイアは結界石の制御パネルを操作し、コード魔法の簡易UIで保護領域を微調整する。
 エレナは先陣を切って北東壁へ走り、民兵とともに戦う準備だ。
 オオカミ型モンスターは壁を乗り越えようと群れで押し寄せてきたが、早期に発見したおかげで民兵たちとエレナの活躍で大半を撃退することに成功した。

「ふう、大きな被害は出ずに済んだわね」エレナは息を弾ませながら、剣を収める。
 彼女の周囲には倒れたモンスターが散らばっており、民兵たちが歓声を上げる。

「すごい、あのシステムがなければ、もっと手遅れだったかもしれない……」
「あいつら、本当に街を守ってくれたんだな」

 住民の中には、ケイに対して心から礼を言う者も出始めた。
 一方で、結界石の魔力消費が予想以上に大きくなり、一時的に保護費を少し上げなければならないかもしれない……という問題も浮上したが、住民は「それでも以前よりはずっと良い」と受け入れてくれた。

「バグはまだ多いな。端末同士の干渉とか、夜間魔力が足りなくなったときのバックアップ運用とか……」

 ケイは苦笑まじりに言いつつも、今回のシステムが一応の成果を上げたことで手応えを得ている。
 フレイアは「結界石に蓄えられる魔力量は限られているから、通信を常時最大出力で回していると防御が甘くなる可能性があるわ。今後は魔力配分の最適化が課題ね」と助言する。
 アリアは「暗記式をサポートする形でコード魔法を組み合わせれば、詠唱ミスのリカバリーにも使えますし、まだまだ発展できそう」と意気込んでいる。


 こうしてフォーグリアの『防衛クエスト』は、未完成な部分を抱えつつも一定の成功を収めた。
 試験運用のネットワークがもたらした早期警戒システムは、「魔力ゼロでも世界を守れるかもしれない」という新たな希望を芽生えさせる。
 ケイたちは今後もバグを潰し、結界石とのバランスを取りながら、より安定した通信と防衛力を実現するために研究を続けるだろう。

「この先、どんな大きなモンスターが来るか分からない。けど、この仕組みがあれば一歩先に動けるんだ。……まだまだやれるさ」

 ケイは疲れた笑みを浮かべながらも、強い決意をにじませた。


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