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第12話 触れるか否か
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「意味など、持つ人間次第じゃろ」
老人の言葉が、俺の中で反響する。
とぼけているようでいて、その言葉は明らかに俺の核心を突いていた。
「相反する二つの流れ」「矛盾を抱えた場所」……偶然で片付けるには、あまりにも的確すぎる表現だ。
この老人は、知っている。
俺が、魔法と超能力という、相容れないはずの力を同時に宿していることを。
どうして? なぜ? どこで知った?
疑問が次々と湧き上がるが、それ以上に、自分の最大の秘密が、見ず知らずの他人に露見しているかもしれないという事実に、背筋が凍るような恐怖を感じていた。
だが、ここで怯んでいては駄目だ。
相手のペースに乗せられてはいけない。
俺は必死で平静を装い、震えそうになる声を抑えつけて、口を開いた。
「あなた……一体、何を知っているんですか?」
できるだけ冷静に、だが、その声には隠しきれない動揺が滲んでいたかもしれない。
「この箱のことも……そして、俺のことも」
直接的な問い。
もはや、探り合いをしている余裕はなかった。
老人は俺の問いかけに、やはり動じない。
それどころか、その皺だらけの顔に浮かんだ笑みは、さらに深くなったように見えた。
「さぁのぅ。わしはただの古物商じゃよ。ただ、ちいとばかし『物』や『人』を見る目があるだけじゃ」
まただ。はぐらかすような、それでいて全てを見透かしているような物言い。
腹立たしいが、同時に、この老人には何を言っても無駄だという諦めにも似た感覚が湧いてくる。
俺が次の言葉を探していると、老人はふと、俺が先ほどまで見つめていた黒い木箱へと視線を移した。
「言葉で聞くよりも、自分で確かめてみるのが一番じゃろうて」
そう言うと、老人は再び俺に向き直り、顎で箱を示した。
「その箱が、そんなに気になるのなら……触れてみるといい」
「……え?」
予想外の提案に、俺は思わず聞き返す。
「もし、お主がその箱に『選ばれた』のなら……あるいは、箱がお主に何かを語りかけてくるかもしれんぞ?」
老人の目は、笑っているようでいて、その奥に鋭い光を宿している。
誘っているのか? 試しているのか?
俺は、老人の言葉と、目の前にある黒い木箱を交互に見つめた。
触れる? この、得体の知れない箱に?
触れば、何が起こる? 俺の力が、また暴走するかもしれない。
あるいは、この箱自体が危険な罠かもしれない。
老人の思惑通りに動くのも癪だ。
だが……。
もし、この箱が本当に俺の力と共鳴しているのなら。
もし、この箱に触れることで、俺が抱える力の謎や、俺を追う者たちの正体について、何か少しでも手がかりが得られるとしたら……?
それは、危険を冒してでも掴む価値のある、唯一のチャンスなのかもしれない。
どうする?
触れるか、否か。
俺は、答えを出せないまま、ただじっと、目の前にある古びた黒い木箱を見つめていた。
その箱が持つであろう未知の力と、それを差し出してきた老人の真意を測りかねて、心が激しく揺れ動いていた。
◇
目の前にある、古びた黒い木箱。そして、その箱に触れるよう促す、謎めいた老人。
触れるべきか、否か。
思考がぐるぐると巡る。
危険だという警鐘と、答えを知りたいという渇望が、俺の中で激しくせめぎ合う。
この箱に触れれば、何かが起こる。
それは間違いない。良いことか、悪いことかは分からないが、現状を打破するきっかけになるかもしれない。
(……このままじゃ、何も変わらない)
俺は腹を括った。恐怖はある。
だが、それ以上に、このまま何も分からずに怯え続けるのは、もう耐えられなかった。
「……分かりました」
俺は短く呟くと、ゆっくりと箱に向かって手を伸ばした。
老人の目が、興味深そうに細められるのを感じる。
震える指先が、箱の冷たく、そして滑らかな木肌に触れた――その瞬間。
「――っ!?」
ビリッとした衝撃と共に、俺の脳内に凄まじい奔流が流れ込んできた。
それは、映像だった。
断片的な、しかし鮮烈なイメージの洪水。
見知らぬ場所、見知らぬ人々、炎、悲鳴、そして……あの公園で感じたものと同じ、冷たく無機質なエネルギーの渦。何かの儀式? 破壊? それとも……。
情報量が多すぎる。
脳が焼き切れそうだ。
イメージは目まぐるしく移り変わり、意味のある情報として繋ぎ合わせることができない。
ただ、圧倒的な悪意と、虚無感だけが生々しく伝わってくる。
同時に、俺の体の中で、何かが弾けた。
「ぐっ……う、ああ……!?」
抑えきれない力が、体内から溢れ出そうとする。まずい、制御できない!
パチパチッ!と、俺の周囲に淡い紫色の火花――魔法的なエネルギーの火花が散る。
そして、それと同時に、棚に並んでいたいくつかの軽い品物が、ガタガタと震え、宙に浮き上がりかけた――念動力の暴走だ。
魔法と、超能力。
二つの相反する力が、俺の意思とは関係なく、同時に、そして不安定に迸る。
これが、俺の力の……デュアルホルダーとしての本質の一部なのか?
「くっ……!」
俺は歯を食いしばり、全身の力でこの奔流を抑え込もうとする。
だが、箱に触れている指先から、さらに強力な波動が流れ込んでくるようだ。
(やめろ……! 止まれ……ッ!!)
必死の抵抗も虚しく、力の奔流は収まらない。
視界が明滅し、意識が遠のきかける。
その時、ふと、カウンターの奥で一部始終を見ていた老人の呟きが、耳に届いたような気がした。
「……ほう。やはり……『両方』か。面白い……」
その声は、驚きよりも、むしろ何かを確信したような、あるいは満足したような響きを帯びていた。
そして、その言葉を最後に、俺の意識は――。
老人の言葉が、俺の中で反響する。
とぼけているようでいて、その言葉は明らかに俺の核心を突いていた。
「相反する二つの流れ」「矛盾を抱えた場所」……偶然で片付けるには、あまりにも的確すぎる表現だ。
この老人は、知っている。
俺が、魔法と超能力という、相容れないはずの力を同時に宿していることを。
どうして? なぜ? どこで知った?
疑問が次々と湧き上がるが、それ以上に、自分の最大の秘密が、見ず知らずの他人に露見しているかもしれないという事実に、背筋が凍るような恐怖を感じていた。
だが、ここで怯んでいては駄目だ。
相手のペースに乗せられてはいけない。
俺は必死で平静を装い、震えそうになる声を抑えつけて、口を開いた。
「あなた……一体、何を知っているんですか?」
できるだけ冷静に、だが、その声には隠しきれない動揺が滲んでいたかもしれない。
「この箱のことも……そして、俺のことも」
直接的な問い。
もはや、探り合いをしている余裕はなかった。
老人は俺の問いかけに、やはり動じない。
それどころか、その皺だらけの顔に浮かんだ笑みは、さらに深くなったように見えた。
「さぁのぅ。わしはただの古物商じゃよ。ただ、ちいとばかし『物』や『人』を見る目があるだけじゃ」
まただ。はぐらかすような、それでいて全てを見透かしているような物言い。
腹立たしいが、同時に、この老人には何を言っても無駄だという諦めにも似た感覚が湧いてくる。
俺が次の言葉を探していると、老人はふと、俺が先ほどまで見つめていた黒い木箱へと視線を移した。
「言葉で聞くよりも、自分で確かめてみるのが一番じゃろうて」
そう言うと、老人は再び俺に向き直り、顎で箱を示した。
「その箱が、そんなに気になるのなら……触れてみるといい」
「……え?」
予想外の提案に、俺は思わず聞き返す。
「もし、お主がその箱に『選ばれた』のなら……あるいは、箱がお主に何かを語りかけてくるかもしれんぞ?」
老人の目は、笑っているようでいて、その奥に鋭い光を宿している。
誘っているのか? 試しているのか?
俺は、老人の言葉と、目の前にある黒い木箱を交互に見つめた。
触れる? この、得体の知れない箱に?
触れば、何が起こる? 俺の力が、また暴走するかもしれない。
あるいは、この箱自体が危険な罠かもしれない。
老人の思惑通りに動くのも癪だ。
だが……。
もし、この箱が本当に俺の力と共鳴しているのなら。
もし、この箱に触れることで、俺が抱える力の謎や、俺を追う者たちの正体について、何か少しでも手がかりが得られるとしたら……?
それは、危険を冒してでも掴む価値のある、唯一のチャンスなのかもしれない。
どうする?
触れるか、否か。
俺は、答えを出せないまま、ただじっと、目の前にある古びた黒い木箱を見つめていた。
その箱が持つであろう未知の力と、それを差し出してきた老人の真意を測りかねて、心が激しく揺れ動いていた。
◇
目の前にある、古びた黒い木箱。そして、その箱に触れるよう促す、謎めいた老人。
触れるべきか、否か。
思考がぐるぐると巡る。
危険だという警鐘と、答えを知りたいという渇望が、俺の中で激しくせめぎ合う。
この箱に触れれば、何かが起こる。
それは間違いない。良いことか、悪いことかは分からないが、現状を打破するきっかけになるかもしれない。
(……このままじゃ、何も変わらない)
俺は腹を括った。恐怖はある。
だが、それ以上に、このまま何も分からずに怯え続けるのは、もう耐えられなかった。
「……分かりました」
俺は短く呟くと、ゆっくりと箱に向かって手を伸ばした。
老人の目が、興味深そうに細められるのを感じる。
震える指先が、箱の冷たく、そして滑らかな木肌に触れた――その瞬間。
「――っ!?」
ビリッとした衝撃と共に、俺の脳内に凄まじい奔流が流れ込んできた。
それは、映像だった。
断片的な、しかし鮮烈なイメージの洪水。
見知らぬ場所、見知らぬ人々、炎、悲鳴、そして……あの公園で感じたものと同じ、冷たく無機質なエネルギーの渦。何かの儀式? 破壊? それとも……。
情報量が多すぎる。
脳が焼き切れそうだ。
イメージは目まぐるしく移り変わり、意味のある情報として繋ぎ合わせることができない。
ただ、圧倒的な悪意と、虚無感だけが生々しく伝わってくる。
同時に、俺の体の中で、何かが弾けた。
「ぐっ……う、ああ……!?」
抑えきれない力が、体内から溢れ出そうとする。まずい、制御できない!
パチパチッ!と、俺の周囲に淡い紫色の火花――魔法的なエネルギーの火花が散る。
そして、それと同時に、棚に並んでいたいくつかの軽い品物が、ガタガタと震え、宙に浮き上がりかけた――念動力の暴走だ。
魔法と、超能力。
二つの相反する力が、俺の意思とは関係なく、同時に、そして不安定に迸る。
これが、俺の力の……デュアルホルダーとしての本質の一部なのか?
「くっ……!」
俺は歯を食いしばり、全身の力でこの奔流を抑え込もうとする。
だが、箱に触れている指先から、さらに強力な波動が流れ込んでくるようだ。
(やめろ……! 止まれ……ッ!!)
必死の抵抗も虚しく、力の奔流は収まらない。
視界が明滅し、意識が遠のきかける。
その時、ふと、カウンターの奥で一部始終を見ていた老人の呟きが、耳に届いたような気がした。
「……ほう。やはり……『両方』か。面白い……」
その声は、驚きよりも、むしろ何かを確信したような、あるいは満足したような響きを帯びていた。
そして、その言葉を最後に、俺の意識は――。
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