その小枝、仲間のスキルを増幅します! ~闇を祓う合奏の冒険譚~

暁ノ鳥

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第5章:闇の勢力と初の激戦(1)

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 王都エルデリアでの日々が続く中、カイルたちは得られる限りの情報を集めようとしていた。
 闇の騎士団や教団の動き、教会内部の権力闘争、そして自分たちを狙った謎の暗殺者――。
 どこかに通じる糸口があるはずと信じ、ギルドに寄ったり街の噂に耳を傾けたりする。

 しかし、そんな努力にも関わらず、はっきりとした手がかりは得られないまま日が過ぎていった。
 エレーナを狙う何者かは動きが止まったように見え、ライナが「逆に不気味ね……またいつ襲ってくるのか」と警戒を強める一方、カイルは焦りを募らせる。

 そんな折、冒険者ギルド支部にやや不穏な依頼が掲示された。

「辺境に近い教会の廃墟で、怪しげな儀式の痕跡が発見された。調査と警備の依頼」

 依頼内容を見たカイルたちは、一気に胸がざわつくのを感じた。
 村を出る前からエレーナが口にしていた『教団の闇』と深く関わりがありそうだからだ。

「まさに『教団の残滓』って感じね……。辺境といっても、王都から馬車で数日ほど離れた場所だし、正規の騎士団が手を回しにくいんじゃない?」

 ライナが依頼書を眺め、少し苦い顔をする。
 エレーナも険しい面持ちで頷いた。

「ここに書かれている『古い教会の跡地』……もしかして、昔、教団が地方に布教のため建てた修道院かもしれないわ。長年放置されていたと聞くけど、闇の儀式をするにはうってつけの場所……」
「『闇の儀式』……か。最近も騎士団が絡む怪しい噂があちこちにあったし、ひょっとしてその跡地が拠点になっているのかもしれないよね」

 カイルは大きく息をつく。
 あまり気が進まないが、ここを調べればエレーナを狙う勢力の正体や目的に近づくかもしれない。

「どうする? この仕事、受けてみる? 報酬はそこそこ高いみたいだけど、危険な匂いもするよ」
「行こう。怖がってばかりじゃ、何も分からないもの」

 エレーナが決然とした表情で答える。
 ライナもカイルの方を見て軽く肩をすくめた。

「決まりね。私たちはあくまで『仕事』として引き受ける形にすれば、ギルドからのバックアップも多少は望めるし。闇勢力の手掛かりを探すにはうってつけよ」

 さっそく受付で詳細を確認すると、同じ依頼に興味を持っている冒険者がもう数名いるらしい。
 カイルたちはその仲間と合流し、馬車で移動する段取りを組むことになった。
 もっとも、闇の儀式が行われるとしたら相当な危険が伴うし、行ってみなければ分からない不安要素も多い。
 だが、こうでもしなければ前に進めない。

 ◇◇◇

 出発前、ギルドの奥の訓練所で準備を整えていると、意外な顔がひょっこり姿を現した。
 元王国騎士団副団長、ガレス・トゥルーシールドである。

「やはりお前たちも、あの廃墟の依頼に乗っかったか」
「ガレスさん……どうしてここに?」

 カイルが驚くと、ガレスは苦笑して、訓練用の木剣を壁に立てかけながら答えた。

「俺は王都支部にも顔が利くからな。この依頼が出たときから気になっていて、調整ができれば自分も行こうと思っていたんだが……別件の指導役が残っていてな。大勢は動けんが、代わりに何人か信頼できる冒険者を向かわせる手はずになってる」

 どうやらガレス自身は同行できないものの、ギルドの内部で連絡を取り合い、ある程度のサポートをしてくれるらしい。

「気をつけろよ。闇の儀式なんてものが本当に行われていたら、かなり厄介だ。下手に深入りするな。死にたくなければな」
「あはは……毎回その台詞ですね」

 ライナは苦笑いするが、ガレスは真剣な眼差しを向けてくる。

「笑い事じゃないさ。俺のいた頃の騎士団がこんな動きを許すはずがないのに、今の騎士団はどうも……。いずれは何か大きな事件が起きかねん」

 暗く重い声に、カイルも引き締まる思いがする。
 もしかすると、これは序章に過ぎず、より大きな波乱が控えている――そんな予感を拭えないまま、三人は旅立ちの準備を終えるのだった。

 ◇◇◇

 数日後。
 馬車と徒歩を併用してようやく辿り着いたのは、古い街道沿いの小さな集落。
 ここで一泊し、翌朝さらに半日ほど進んだ先に、問題の廃墟があるという。
 同行する冒険者は六名。
 カイルたち三人に加え、戦士タイプの中年男性と、その仲間らしき女性魔術師、そして―― 。

「おや、また会うとは奇遇だねぇ」

 チャラチャラとした口調で手を振る少女。
 黒髪のショートに革鎧姿の盗賊――リリス・ブライトハンドだ。
 以前ギルドで値段交渉をしていた、あのちゃっかり屋だ。

「リリス……どうしてあんたがここに?」

 ライナが少し警戒を滲ませながら尋ねると、リリスは悪びれずに笑う。

「だって、この依頼報酬が良いんだもの。闇の儀式だか何だか知らないけど、何かヤバそうだからこそギルドも大金を用意するんでしょ? 私の鼻がそう言ってるのよ」
「ほんと、金の匂いに敏感なのね……」

 ライナは呆れ半分だが、リリスは得意げに腰に両手を当てて胸を張る。

「当然。盗賊が金に執着するのは常識でしょ。ま、あんたたちも私のスキルがあれば助かる場面があるはずよ。たとえば罠の解除とか、夜の見回りでの潜入調査とかね」

 カイルは少し複雑な気分だが、リリスが盗賊として役立つというのは否定できない。
 なにより、彼女がどんな動機であれ、一緒に依頼をこなす仲間である以上、互いの能力を最大限活かす方が得策だ。

 ◇◇◇

 そして翌朝、一行は集落を出発し、夕刻近くになってようやく『目的の廃墟』が見える位置まで来た。
 辺りには雑木林が広がり、ところどころに大きな岩が露出している。
 かつての教会らしき建物は、すでに壁や屋根が崩れかけ、蔦が絡まっているのが遠目にも分かった。

「ここが……元・教団の修道院か。随分荒れてるわね」

 ライナがつぶやく。
 エレーナは案内役の戦士に尋ねる。

「ここ、ずっと放置されていたんですよね? 最近、ここを出入りする不審者の目撃情報があるとか……」
「ああ、そう聞いてる。夜な夜な明かりが漏れていたり、怪しい 詠唱の声が聞こえたり……って噂もあるんだが、近隣住民は怖くて近づけないそうだ」

 戦士はそう言うと、大きな斧を抱え直し、厳しい視線を廃墟に向ける。
 隣の女性魔術師は「怖いわねぇ」と気弱な冗談を口にする。

 リリスは盗賊スキルを活かして周囲を偵察し、扉や窓の様子をチェックし始めた。
 カイルたちも後に続くが、そこは薄暗く、不気味な雰囲気が漂っている。
 まるで何かがこちらを監視しているかのような、嫌な圧迫感が空気に混じっていた。

 ◇◇◇

 崩れかかった扉をこじ開け、中へ足を踏み入れると、元は礼拝堂だったとおぼしき大きな空間が目に入る。
 奥の祭壇らしき場所には石像の一部が倒れ込み、壁には奇妙な文字が刻み込まれている。
 エレーナは目にした瞬間、息を呑んだ。

「これ、古い教会の儀式に使われていた『聖典文字』と似てる。でも、ところどころ違う……闇魔法の呪文が混じっているようにも見えるわ」

 ライナやカイルが壁の文字を覗き込むが、素人目にはほとんど意味が分からない。
 ただ、禍々しい雰囲気を漂わせる文様があちこちに描かれていて、乾いた血痕のような跡すら見受けられた。

「うわ……なんか、本当に怪しい儀式が行われてたのかも。ここら辺、魔術的な封印とかないかな?」

 リリスが警戒しながら奥を覗き込む。
 カイルも背筋をぞわりとさせながら、小枝を鞄の中で握りしめた。
 もし敵が出てきたら、すぐに対応できるようにしておきたい。

 そのとき、建物の奥から足音のような音が微かに聞こえた。
 ごとり、ごとり……と、床を踏み鳴らす硬いブーツの響き。
 戦士の男が斧を構え、魔術師の女性が詠唱を準備する。
 ライナは剣を抜き、カイルとエレーナも身構えた。

 現れたのは、漆黒の甲冑を身に着けた男たち。
 三、四人ほどが行列を成すように出てきた。
 いずれも全身を黒い鎧で覆い、兜の奥からは冷酷な視線が覗いている。

「これは……まさか『暗黒騎士団』ってやつかしら?」

 ライナが息を呑む。
 かつて王国騎士団の内部に闇魔術を持ち込んだ裏切り者が集まり、新たな騎士団を結成した――そんな噂を聞いたことがある。
 表向きは存在が否定されているが、闇に通じる者が集まっているとすれば、まさにここがその拠点の一部なのかもしれなかった。
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