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第6章:暗黒騎士ルシアスの襲来(1)
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闇の騎士団との交戦を経て、カイルたちはいったん王都エルデリアへ戻っていた。
廃墟に潜んでいた騎士たちを討伐したことで、冒険者ギルドからは一定の評価を得られたが、肝心の黒幕らしき存在には出会えずじまい。
エレーナを狙う本当の敵がどこに潜んでいるのか、依然として謎は深いままだ。
そんな中、ある朝カイルたちが宿で身支度を整えていると、ギルドの使者が慌ただしくやってきた。
「王城で緊急の会議が開かれるそうだ。騎士団と教団、それに魔術院の上層部が集まるらしい。冒険者の代表としてお前たちにも招集がかかっているぞ!」
「王城の会議? どうして私たちが呼ばれるの?」
ライナは剣を磨く手を止めて顔を上げる。
エレーナは戸惑いながらも、教団が絡む会議だと聞いて瞳を伏せた。
もしかすると、自分に関係のある話かもしれない――そんな予感が胸をざわつかせる。
ギルドの使者の話を総合すると、王国の各機関が『闇の勢力』の台頭を危惧し、本格的な対策を協議するため緊急会議を行うようだ。
最近の廃墟での事件も報告され、冒険者たちの働きが注目を浴びた結果、カイルたちも意見を求められる立場になったらしい。
「代表って……そんな責任重大なこと、俺たちが務まるのかな」
カイルは不安そうにつぶやくが、ライナは決意を込めて拳を握る。
「でも、これってチャンスじゃない? 教団の上層部が集まるなら、エレーナを狙う連中の動向も探れるかもしれないわ」
「それは、そうだけど……」
エレーナは微かに唇を噛みしめる。
もし教団内部に自分を利用しようとする者がいるなら、王城の会議で何らかの情報が得られるだろう。
だが、危険も伴うはずだ。
結局、カイルたちは意を決して招集を受けることにした。
ギルド側からも「お前たちならこれまでの活動で一定の信用がある。正々堂々と自分の体験を話してくれればいい」と後押しされる。
少し心強い言葉に、カイルは緊張しつつも参加を決意するのだった。
◇◇◇
王城へ向かう前、カイルたちはギルドの訓練所に立ち寄り、見慣れた頑固そうな大柄の男を見つけた。
元騎士団副団長、ガレス・トゥルーシールドである。
「やっぱりお前たちが呼ばれたか。俺も連絡を受けたが、今回はギルド側の『顧問』として参加することになりそうだ」
「ガレスさんも一緒なら心強いです」
カイルはほっとした笑みを浮かべる。
ガレスはぶっきらぼうに腕を組んでいるが、その視線にはどこか不安の色が混じっていた。
「今回の会議には、王家の重臣や貴族、教団の高位神官、それに魔術院の代表も勢揃いする……どうにもきな臭い。お前たちも迂闊にしゃべらないほうがいい」
ガレスはさらに声を低めて忠告する。
「もし会議が荒れるようなら、適度なところで身を引け。闇の勢力だけじゃなく、王城内部にも何らかの思惑があるかもしれん。騎士団の一部が闇に通じているという噂だってあるんだ」
こうして、カイルたちとガレスは連れ立って王城へと向かうことになった。
王宮区画は厳重に守られており、石造りの堅牢な門をくぐる際にも徹底した持ち物検査が行われる。
カイルは小枝を隠すべきか迷ったが、『怪しい呪具』とみなされるのも怖いので、正直に冒険者の装備として申告した。
「念のため没収されるんじゃない?」
ライナがひやひやしたが、兵士たちは忙しそうで、「ギルド公認の道具なら構わない」とあっさり通してくれた。
ほっと胸を撫で下ろすカイルに、エレーナは安堵の微笑を向ける。
◇◇◇
王城の内部は豪奢そのもので、光が差し込む広間には赤い絨毯が敷かれ、金銀の装飾が眩しく輝く。
だが、外見の華やかさとは裏腹に、雰囲気は張り詰めた空気に包まれていた。
騎士や侍従が行き交い、貴族然とした老齢の男性や、厳かなたたずまいの神官らが次々と会議室へ入っていく。
ガレスに導かれるまま、カイルたちは王城の奥にある大広間へ通された。
そこには長いテーブルが据えられ、様々な立場の人々が席を埋めている。
王族の代理として重臣が一人、教団からは数名の高位聖職者、魔術院からは貴族出身の研究者たち――。
そして冒険者ギルドの代表としてガレスと、カイルたちも後ろのほうに控える形だ。
「すごい……これが、王城の会議……」
カイルは思わず呟くが、ライナは落ち着かない様子で周囲を見回す。
エレーナは神官の一人と視線が合うと、恐る恐る目を逸らした。
下手に正体を知られるわけにはいかない。
やがて、重臣の一人が重々しい声で議題を宣言した。
「近頃、王国内各地で確認される『闇の勢力』――教団の一部が関与している可能性、および騎士団内部の疑義について、この場で協議を行う」
話し合いが始まると、貴族たちや教団側が互いに責任を押し付け合うような形で口論を繰り返す。
「闇の儀式など、我ら教団が許すはずがない!」
「しかし、実際に暗黒騎士団なる存在が確認されている。そちらの管理不行届きでは?」
「我ら貴族だって、ずっと協力してきたのだ。むしろ騎士団の監査が甘いのではないか?」
激しいやり取りを横目に、カイルとエレーナは息を呑む。
思った以上に泥沼化した空気だ。
ガレスは腕を組んでそれを黙って見つめている。
程なくして、魔術院の代表が「異なる可能性」について言及し始めた。
「闇勢力は外部の国から侵入してきたのではないか」とか、「危険な魔術を使う犯罪組織が暗躍している」など、それぞれが推測を述べ、まるで堂々巡りの様相を呈してくる。
そのとき、大広間の扉が開き、王城の侍従が駆け込んできた。
青ざめた表情で「緊急事態です!」と叫ぶ。
「何者かが城内に侵入した可能性があります! しかも鎧姿の集団が……!」
場内は一気にざわめき、貴族たちが一斉に色めき立った。
すぐさま騎士団の一部が立ち上がり、武器を握りしめる。
ガレスも顔色を変えてカイルたちに目配せする。
「まさか、闇の騎士団……? こんな厳戒態勢の王城にどうやって……」
ライナが息を呑むと、エレーナは不安に肩を震わせる。
「私たちを狙っているのか、それとも……」
そして、次の瞬間。
大広間の壁が轟音とともに破砕された。
石塀が崩れ落ち、破壊された壁の向こうから漆黒の甲冑が姿を現す。
甲冑の男は黒銀色の髪を振り払い、不敵な笑みを浮かべながら大剣を携えていた。
まるで死神のような存在感を放つ男こそ、暗黒騎士団の首魁、ルシアス・ヴァルトールだった。
「お初にお目にかかる、諸君。騒がしいようだな……まさか俺のことを議題にしてくれているのか?」
低く冷徹な声が広間を支配する。
貴族たちは悲鳴を上げ、教団の神官らは慌てふためき、魔術師の一部が呪文詠唱を始める。
しかし、それを嘲笑うかのように、ルシアスは片手で大剣をゆっくりと振りかざし、空間を切り裂いた。
「ひっ……!!」
バリアを張ろうとした高位魔術師が吹き飛ばされ、騎士団の兵士数名が一瞬で床に倒れ込む。
まるで彼らの鎧が紙同然のように切り裂かれ、血が石畳に飛散した。
「馬鹿な……これほどの力……!」
ガレスは一瞬目を疑うが、すぐに理性を取り戻し、剣を構えて吼えた。
「全員、武器を取れ! こいつを止めるんだ!」
しかし、周囲はすでに混乱に陥っている。
貴族たちは逃げ惑い、神官たちは祈りの言葉を叫ぶばかり。
ライナがカイルの袖を掴んで声を張り上げる。
「カイル、私たちも戦うしかないわ!」
「わ、分かってる!」
カイルは震える手で小枝を握りしめる。
だが、目の前の圧倒的な暴威に、全身の血が凍りつくような感覚を覚える。
「俺の計画に口出しをする連中は、ここで粛清する」
ルシアスは大広間を一瞥すると、教団の高位神官を見下ろし、不敵に笑うのだった。
廃墟に潜んでいた騎士たちを討伐したことで、冒険者ギルドからは一定の評価を得られたが、肝心の黒幕らしき存在には出会えずじまい。
エレーナを狙う本当の敵がどこに潜んでいるのか、依然として謎は深いままだ。
そんな中、ある朝カイルたちが宿で身支度を整えていると、ギルドの使者が慌ただしくやってきた。
「王城で緊急の会議が開かれるそうだ。騎士団と教団、それに魔術院の上層部が集まるらしい。冒険者の代表としてお前たちにも招集がかかっているぞ!」
「王城の会議? どうして私たちが呼ばれるの?」
ライナは剣を磨く手を止めて顔を上げる。
エレーナは戸惑いながらも、教団が絡む会議だと聞いて瞳を伏せた。
もしかすると、自分に関係のある話かもしれない――そんな予感が胸をざわつかせる。
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最近の廃墟での事件も報告され、冒険者たちの働きが注目を浴びた結果、カイルたちも意見を求められる立場になったらしい。
「代表って……そんな責任重大なこと、俺たちが務まるのかな」
カイルは不安そうにつぶやくが、ライナは決意を込めて拳を握る。
「でも、これってチャンスじゃない? 教団の上層部が集まるなら、エレーナを狙う連中の動向も探れるかもしれないわ」
「それは、そうだけど……」
エレーナは微かに唇を噛みしめる。
もし教団内部に自分を利用しようとする者がいるなら、王城の会議で何らかの情報が得られるだろう。
だが、危険も伴うはずだ。
結局、カイルたちは意を決して招集を受けることにした。
ギルド側からも「お前たちならこれまでの活動で一定の信用がある。正々堂々と自分の体験を話してくれればいい」と後押しされる。
少し心強い言葉に、カイルは緊張しつつも参加を決意するのだった。
◇◇◇
王城へ向かう前、カイルたちはギルドの訓練所に立ち寄り、見慣れた頑固そうな大柄の男を見つけた。
元騎士団副団長、ガレス・トゥルーシールドである。
「やっぱりお前たちが呼ばれたか。俺も連絡を受けたが、今回はギルド側の『顧問』として参加することになりそうだ」
「ガレスさんも一緒なら心強いです」
カイルはほっとした笑みを浮かべる。
ガレスはぶっきらぼうに腕を組んでいるが、その視線にはどこか不安の色が混じっていた。
「今回の会議には、王家の重臣や貴族、教団の高位神官、それに魔術院の代表も勢揃いする……どうにもきな臭い。お前たちも迂闊にしゃべらないほうがいい」
ガレスはさらに声を低めて忠告する。
「もし会議が荒れるようなら、適度なところで身を引け。闇の勢力だけじゃなく、王城内部にも何らかの思惑があるかもしれん。騎士団の一部が闇に通じているという噂だってあるんだ」
こうして、カイルたちとガレスは連れ立って王城へと向かうことになった。
王宮区画は厳重に守られており、石造りの堅牢な門をくぐる際にも徹底した持ち物検査が行われる。
カイルは小枝を隠すべきか迷ったが、『怪しい呪具』とみなされるのも怖いので、正直に冒険者の装備として申告した。
「念のため没収されるんじゃない?」
ライナがひやひやしたが、兵士たちは忙しそうで、「ギルド公認の道具なら構わない」とあっさり通してくれた。
ほっと胸を撫で下ろすカイルに、エレーナは安堵の微笑を向ける。
◇◇◇
王城の内部は豪奢そのもので、光が差し込む広間には赤い絨毯が敷かれ、金銀の装飾が眩しく輝く。
だが、外見の華やかさとは裏腹に、雰囲気は張り詰めた空気に包まれていた。
騎士や侍従が行き交い、貴族然とした老齢の男性や、厳かなたたずまいの神官らが次々と会議室へ入っていく。
ガレスに導かれるまま、カイルたちは王城の奥にある大広間へ通された。
そこには長いテーブルが据えられ、様々な立場の人々が席を埋めている。
王族の代理として重臣が一人、教団からは数名の高位聖職者、魔術院からは貴族出身の研究者たち――。
そして冒険者ギルドの代表としてガレスと、カイルたちも後ろのほうに控える形だ。
「すごい……これが、王城の会議……」
カイルは思わず呟くが、ライナは落ち着かない様子で周囲を見回す。
エレーナは神官の一人と視線が合うと、恐る恐る目を逸らした。
下手に正体を知られるわけにはいかない。
やがて、重臣の一人が重々しい声で議題を宣言した。
「近頃、王国内各地で確認される『闇の勢力』――教団の一部が関与している可能性、および騎士団内部の疑義について、この場で協議を行う」
話し合いが始まると、貴族たちや教団側が互いに責任を押し付け合うような形で口論を繰り返す。
「闇の儀式など、我ら教団が許すはずがない!」
「しかし、実際に暗黒騎士団なる存在が確認されている。そちらの管理不行届きでは?」
「我ら貴族だって、ずっと協力してきたのだ。むしろ騎士団の監査が甘いのではないか?」
激しいやり取りを横目に、カイルとエレーナは息を呑む。
思った以上に泥沼化した空気だ。
ガレスは腕を組んでそれを黙って見つめている。
程なくして、魔術院の代表が「異なる可能性」について言及し始めた。
「闇勢力は外部の国から侵入してきたのではないか」とか、「危険な魔術を使う犯罪組織が暗躍している」など、それぞれが推測を述べ、まるで堂々巡りの様相を呈してくる。
そのとき、大広間の扉が開き、王城の侍従が駆け込んできた。
青ざめた表情で「緊急事態です!」と叫ぶ。
「何者かが城内に侵入した可能性があります! しかも鎧姿の集団が……!」
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すぐさま騎士団の一部が立ち上がり、武器を握りしめる。
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「まさか、闇の騎士団……? こんな厳戒態勢の王城にどうやって……」
ライナが息を呑むと、エレーナは不安に肩を震わせる。
「私たちを狙っているのか、それとも……」
そして、次の瞬間。
大広間の壁が轟音とともに破砕された。
石塀が崩れ落ち、破壊された壁の向こうから漆黒の甲冑が姿を現す。
甲冑の男は黒銀色の髪を振り払い、不敵な笑みを浮かべながら大剣を携えていた。
まるで死神のような存在感を放つ男こそ、暗黒騎士団の首魁、ルシアス・ヴァルトールだった。
「お初にお目にかかる、諸君。騒がしいようだな……まさか俺のことを議題にしてくれているのか?」
低く冷徹な声が広間を支配する。
貴族たちは悲鳴を上げ、教団の神官らは慌てふためき、魔術師の一部が呪文詠唱を始める。
しかし、それを嘲笑うかのように、ルシアスは片手で大剣をゆっくりと振りかざし、空間を切り裂いた。
「ひっ……!!」
バリアを張ろうとした高位魔術師が吹き飛ばされ、騎士団の兵士数名が一瞬で床に倒れ込む。
まるで彼らの鎧が紙同然のように切り裂かれ、血が石畳に飛散した。
「馬鹿な……これほどの力……!」
ガレスは一瞬目を疑うが、すぐに理性を取り戻し、剣を構えて吼えた。
「全員、武器を取れ! こいつを止めるんだ!」
しかし、周囲はすでに混乱に陥っている。
貴族たちは逃げ惑い、神官たちは祈りの言葉を叫ぶばかり。
ライナがカイルの袖を掴んで声を張り上げる。
「カイル、私たちも戦うしかないわ!」
「わ、分かってる!」
カイルは震える手で小枝を握りしめる。
だが、目の前の圧倒的な暴威に、全身の血が凍りつくような感覚を覚える。
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