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第8章 見えすぎる眼
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全てお見通しのマダム、か。
なんともまあ、大層な名前をつけられたもんだ。
だが、その透視能力とやらが本物なら、確かに裏社会では女帝として君臨できるだろうな。
俺はまず、マダムの「眼」がどれほどのものか、探りを入れることにした。
数日間、俺はトレイドの黒市場、マダムの店の周辺を執拗に嗅ぎまわった。
時には、わざと目立つように、価値のありそうな(もちろん、大半はガチャで出したガラクタか、俺が巧妙に偽造したイミテーションだが)宝石のケースなんぞをこれ見よがしに持ち歩いてみたり、用心棒に怪しまれるような素振りで店を観察したりもした。
案の定、すぐにマダムの手下らしきチンピラどもが俺の前に現れた。
「おい、あんた。さっきからウチの店の前をウロチョロと嗅ぎまわっているが、何か用か?」
脅し文句と共に、懐のナイフをチラつかせてくる。
やれやれ、物騒なこった。
俺はとぼけて「いやあ、美しい装飾の店構えなんでね。つい見とれちまって」なんて適当なことを言ってごまかした。
しかし、その日の夕方には、宿の部屋で俺が隠していた偽物の宝石の正確な隠し場所やら、昨日の晩飯のメニューやら(なんでそんなもんまで見てるんだ、あの女は)を、マダムが正確に言い当てた、という情報が、わざとらしく俺の耳に届いた。
どうやら、俺の行動は筒抜けらしい。
(なるほどな。ある程度の過去の行動すらも透視できる、と。だが、範囲は? 同時に、いくつの対象を詳細に見れるんだ? まさか、この街の全てを常時監視してるわけでもあるまい)
俺は一度、夜陰に紛れてマダムの店への潜入を試みた。
怪盗としての本能が、内部構造を確かめろと囁いていたからだ。
だが、それは想像以上に困難だった。
物理的な警備もさることながら、建物全体がまるでマダム自身の「眼」になっているかのように、どこからともなく視線を感じる。
俺の怪盗としての本能が危険を告げていた。
ほんのわずかな殺気や、侵入の意図すらも、あの女には筒抜けになる可能性が高い。
(……これは厄介だ。いくら俺でも、四六時中見られてるんじゃ、仕事にならねえ。直接触れるのはリスクが高すぎるな)
さすがの俺も、少しばかり頭を抱えたくなった。
宿に戻り、うんうん唸っている俺を見かねたのか、ミーアが心配そうな顔をする。
「影時様、なんだかお悩みのご様子ですわね……。あのマダムの透視能力、やはり相当なものですか?」
「ああ、思った以上にな。直接触れるのは、ほぼ不可能に近い。何か……間接的に能力を奪う方法でもない限りはな」
俺がそう呟くと、ミーアはポンと手を打った。
「うーん……直接触れずに能力を奪うなんて、チートスティールの基本原則に反しますね……。でも、影時様の『ガチャマスター』なら、何か特別な『触媒』となるようなアイテムを引き出せるかもしれません! それを使えば、あるいは……!」
「触媒、だと?」
「はいなのです! 例えば、対象の魔力や魂に微弱な繋がりを作って、そこから力を吸い上げるような……そんな都合の良いアイテムが、もしかしたら……!」
なるほどな。
ガチャで、そんな反則級のアイテムが引き当てられるなら、確かに勝機はあるかもしれん。
「だが、ピンポイントでそんな都合の良いアイテムが出るか……? だが、他に手がないなら、やるしかない……か」
あの女の「全てお見通しの眼」を出し抜くには、こちらも規格外の手段で対抗するしかないだろう。
その日から、俺は来る日も来る日も、ただひたすらにガチャを回し続けた。
狙うは、マダムに気づかれず、遠隔で、かつ確実に『チートスティール』を発動させるための触媒アイテム。
部屋には、ハズレアイテムの山がみるみるうちに積みあがっていく。
一瞬だけ光るキノコ、意味不明なポエムが書かれた羊皮紙、どこかの誰かの古い日記……。
「うう……影時様、お部屋がゴミ屋敷みたいになってきました……」
ミーアが泣きそうな顔で訴えるが、俺は構わずガチャを回し続ける。
もはや意地だ。
そして、そんな日々が数日続いたある夜。
疲労困憊で、意識も朦朧としてきた俺の目の前に、ついに、これまでとは明らかに違う輝きを放つアイテムが出現した。
それは、一本の針だった。
長さは数センチほど。
ほとんど透明で、目を凝らさなければ見逃してしまいそうなほど細い。
だが、その針は確かな存在感を放ち、周囲には蜘蛛の糸のように、微細な魔力の糸がゆらゆらとまとわりついているように見えた。
「こ、これだ……! 間違いない、この途方もない魔力の奔流……! この感覚……!」
俺は、本能的に確信した。
これが、俺が求めていた「解」だと。
なんともまあ、大層な名前をつけられたもんだ。
だが、その透視能力とやらが本物なら、確かに裏社会では女帝として君臨できるだろうな。
俺はまず、マダムの「眼」がどれほどのものか、探りを入れることにした。
数日間、俺はトレイドの黒市場、マダムの店の周辺を執拗に嗅ぎまわった。
時には、わざと目立つように、価値のありそうな(もちろん、大半はガチャで出したガラクタか、俺が巧妙に偽造したイミテーションだが)宝石のケースなんぞをこれ見よがしに持ち歩いてみたり、用心棒に怪しまれるような素振りで店を観察したりもした。
案の定、すぐにマダムの手下らしきチンピラどもが俺の前に現れた。
「おい、あんた。さっきからウチの店の前をウロチョロと嗅ぎまわっているが、何か用か?」
脅し文句と共に、懐のナイフをチラつかせてくる。
やれやれ、物騒なこった。
俺はとぼけて「いやあ、美しい装飾の店構えなんでね。つい見とれちまって」なんて適当なことを言ってごまかした。
しかし、その日の夕方には、宿の部屋で俺が隠していた偽物の宝石の正確な隠し場所やら、昨日の晩飯のメニューやら(なんでそんなもんまで見てるんだ、あの女は)を、マダムが正確に言い当てた、という情報が、わざとらしく俺の耳に届いた。
どうやら、俺の行動は筒抜けらしい。
(なるほどな。ある程度の過去の行動すらも透視できる、と。だが、範囲は? 同時に、いくつの対象を詳細に見れるんだ? まさか、この街の全てを常時監視してるわけでもあるまい)
俺は一度、夜陰に紛れてマダムの店への潜入を試みた。
怪盗としての本能が、内部構造を確かめろと囁いていたからだ。
だが、それは想像以上に困難だった。
物理的な警備もさることながら、建物全体がまるでマダム自身の「眼」になっているかのように、どこからともなく視線を感じる。
俺の怪盗としての本能が危険を告げていた。
ほんのわずかな殺気や、侵入の意図すらも、あの女には筒抜けになる可能性が高い。
(……これは厄介だ。いくら俺でも、四六時中見られてるんじゃ、仕事にならねえ。直接触れるのはリスクが高すぎるな)
さすがの俺も、少しばかり頭を抱えたくなった。
宿に戻り、うんうん唸っている俺を見かねたのか、ミーアが心配そうな顔をする。
「影時様、なんだかお悩みのご様子ですわね……。あのマダムの透視能力、やはり相当なものですか?」
「ああ、思った以上にな。直接触れるのは、ほぼ不可能に近い。何か……間接的に能力を奪う方法でもない限りはな」
俺がそう呟くと、ミーアはポンと手を打った。
「うーん……直接触れずに能力を奪うなんて、チートスティールの基本原則に反しますね……。でも、影時様の『ガチャマスター』なら、何か特別な『触媒』となるようなアイテムを引き出せるかもしれません! それを使えば、あるいは……!」
「触媒、だと?」
「はいなのです! 例えば、対象の魔力や魂に微弱な繋がりを作って、そこから力を吸い上げるような……そんな都合の良いアイテムが、もしかしたら……!」
なるほどな。
ガチャで、そんな反則級のアイテムが引き当てられるなら、確かに勝機はあるかもしれん。
「だが、ピンポイントでそんな都合の良いアイテムが出るか……? だが、他に手がないなら、やるしかない……か」
あの女の「全てお見通しの眼」を出し抜くには、こちらも規格外の手段で対抗するしかないだろう。
その日から、俺は来る日も来る日も、ただひたすらにガチャを回し続けた。
狙うは、マダムに気づかれず、遠隔で、かつ確実に『チートスティール』を発動させるための触媒アイテム。
部屋には、ハズレアイテムの山がみるみるうちに積みあがっていく。
一瞬だけ光るキノコ、意味不明なポエムが書かれた羊皮紙、どこかの誰かの古い日記……。
「うう……影時様、お部屋がゴミ屋敷みたいになってきました……」
ミーアが泣きそうな顔で訴えるが、俺は構わずガチャを回し続ける。
もはや意地だ。
そして、そんな日々が数日続いたある夜。
疲労困憊で、意識も朦朧としてきた俺の目の前に、ついに、これまでとは明らかに違う輝きを放つアイテムが出現した。
それは、一本の針だった。
長さは数センチほど。
ほとんど透明で、目を凝らさなければ見逃してしまいそうなほど細い。
だが、その針は確かな存在感を放ち、周囲には蜘蛛の糸のように、微細な魔力の糸がゆらゆらとまとわりついているように見えた。
「こ、これだ……! 間違いない、この途方もない魔力の奔流……! この感覚……!」
俺は、本能的に確信した。
これが、俺が求めていた「解」だと。
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