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第12章 見えざる敵意
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アークライト家の屋敷は、月明かりの下、まるで巨大な怪物が息を潜めているかのように静まり返っていた。
だが、その静寂は、俺の「眼」には通用しない。
俺は、マダムから奪った『透視』の能力を使い、屋敷の内部構造、警備員の配置、そして何よりも、あの「見えない」チート能力者の気配を探っていた。
「……なるほどな。外見の壮麗さに反して、内部は随分と入り組んでいる。まるで迷路だ」
俺は潜入服に身を包み、音もなく屋敷の壁を登り、狙いを定めていた窓から内部へと侵入する。
そこは、豪華な調度品が並ぶ客間だった。
「影時様、今の部屋、何か魔力の歪みを感じます!」
ふわふわ飛びながら後ろからついてきているミーアが、小さな声で報告する。
俺は頷き、透視能力をさらに集中させる。
壁の向こう、床下、天井裏……屋敷の隅々まで、俺の視線が浸透していく。
警備の目をかいくぐり、いくつかの部屋をやり過ごし、ついに宝物庫と思われる厳重な扉の前にたどり着いた。
ここにも、もちろん鍵はかかっているが、俺にとっては無いも同然だ。
特殊なピックツールで瞬時に開錠し、内部へと滑り込む。
そこには、噂に違わず、金銀財宝が山と積まれていた。
だが、俺の目的はそれじゃない。
透視の「眼」を凝らすと、宝物の山の中に、陽炎のように輪郭だけがぼんやりと揺らめく「何か」が動いているのが見えた。
それは間違いなく人間の形をしている。
だが、肉眼では、そこには何もないようにしか見えない。
(……あれが、今回のターゲットか。なるほど、透明化能力とは厄介な。だが、俺の『眼』からは逃れられないぜ)
俺はその透明な人影を、気づかれないように慎重に追跡し始めた。
人影は、まるで自分の家のように慣れた様子で壁に隠された秘密の通路を通り、屋敷の地下深くへと向かっていく。
地下は、地上とは打って変わって、薄暗く湿った空気が漂っていた。
そして、その最奥には、簡素だが頑丈な造りの隠し部屋があった。
透視すると、その部屋の中には、数人の若い女性たちが、不安げな表情で寄り添うように座り込んでいるのが見えた。
噂の誘拐された令嬢やメイドたちだろう。
あの透明な人影は、時折その姿がフッと実体化し、その女性たちに何かを冷たく指示しているようだった。
実体化した姿は、アークライト家の護衛の制服をきっちりと着こなした、平凡な顔つきの若い男だった。
だが、その瞳には、獲物を前にした捕食者のような、冷酷な光が宿っている。
(護衛を装いながら、裏では宝を盗み、女を攫う……とんだ外道だな。アークライト家の当主もグルか、あるいは、この男に利用されているだけか?)
どちらにしても、許せる行為じゃない。
俺は気づかれないよう、息を殺し、気配を完全に消して追跡を続ける。
だが、相手も相当な手練れと見え、時折、誰もいないはずの空間――俺が潜んでいるであろう場所――に鋭い視線を向けたり、ピタリと動きを止めて周囲の気配を探ったりする。
(こいつ、透明化しているが、気配までは完全に消せていない、あるいは俺の視線を感じ取っているのか? それとも、ただ単に用心深いだけか?)
その時だった。
俺がほんのわずかに床板を軋ませてしまった、その瞬間。
奴は音もなく俺のいた方向へと何かを投げつけてきた!
透視していたおかげで、それが煌めく短剣であることが分かったが、もし「眼」がなければ、気づくことすらできずに致命傷を負っていただろう。
ヒュンッ、と風を切る音と共に、短剣は俺の頬を掠めて壁に突き刺さる。
冷や汗が一筋、背中を伝った。
(ちぃっ……! や はり、ただ透明なだけじゃない、相当な手練れだ。だが、今の動きで、お前の大まかな攻撃パターンと、反応速度は見切ったぜ)
俺は体勢を立て直し、不敵な笑みを浮かべる。
見えない敵との、命がけの鬼ごっこ。
面白いじゃないか。
だが、いつまでも追いかけっこをしてやるつもりはない。
そろそろ、こちらから「罠」を仕掛けてやるとしよう。
だが、その静寂は、俺の「眼」には通用しない。
俺は、マダムから奪った『透視』の能力を使い、屋敷の内部構造、警備員の配置、そして何よりも、あの「見えない」チート能力者の気配を探っていた。
「……なるほどな。外見の壮麗さに反して、内部は随分と入り組んでいる。まるで迷路だ」
俺は潜入服に身を包み、音もなく屋敷の壁を登り、狙いを定めていた窓から内部へと侵入する。
そこは、豪華な調度品が並ぶ客間だった。
「影時様、今の部屋、何か魔力の歪みを感じます!」
ふわふわ飛びながら後ろからついてきているミーアが、小さな声で報告する。
俺は頷き、透視能力をさらに集中させる。
壁の向こう、床下、天井裏……屋敷の隅々まで、俺の視線が浸透していく。
警備の目をかいくぐり、いくつかの部屋をやり過ごし、ついに宝物庫と思われる厳重な扉の前にたどり着いた。
ここにも、もちろん鍵はかかっているが、俺にとっては無いも同然だ。
特殊なピックツールで瞬時に開錠し、内部へと滑り込む。
そこには、噂に違わず、金銀財宝が山と積まれていた。
だが、俺の目的はそれじゃない。
透視の「眼」を凝らすと、宝物の山の中に、陽炎のように輪郭だけがぼんやりと揺らめく「何か」が動いているのが見えた。
それは間違いなく人間の形をしている。
だが、肉眼では、そこには何もないようにしか見えない。
(……あれが、今回のターゲットか。なるほど、透明化能力とは厄介な。だが、俺の『眼』からは逃れられないぜ)
俺はその透明な人影を、気づかれないように慎重に追跡し始めた。
人影は、まるで自分の家のように慣れた様子で壁に隠された秘密の通路を通り、屋敷の地下深くへと向かっていく。
地下は、地上とは打って変わって、薄暗く湿った空気が漂っていた。
そして、その最奥には、簡素だが頑丈な造りの隠し部屋があった。
透視すると、その部屋の中には、数人の若い女性たちが、不安げな表情で寄り添うように座り込んでいるのが見えた。
噂の誘拐された令嬢やメイドたちだろう。
あの透明な人影は、時折その姿がフッと実体化し、その女性たちに何かを冷たく指示しているようだった。
実体化した姿は、アークライト家の護衛の制服をきっちりと着こなした、平凡な顔つきの若い男だった。
だが、その瞳には、獲物を前にした捕食者のような、冷酷な光が宿っている。
(護衛を装いながら、裏では宝を盗み、女を攫う……とんだ外道だな。アークライト家の当主もグルか、あるいは、この男に利用されているだけか?)
どちらにしても、許せる行為じゃない。
俺は気づかれないよう、息を殺し、気配を完全に消して追跡を続ける。
だが、相手も相当な手練れと見え、時折、誰もいないはずの空間――俺が潜んでいるであろう場所――に鋭い視線を向けたり、ピタリと動きを止めて周囲の気配を探ったりする。
(こいつ、透明化しているが、気配までは完全に消せていない、あるいは俺の視線を感じ取っているのか? それとも、ただ単に用心深いだけか?)
その時だった。
俺がほんのわずかに床板を軋ませてしまった、その瞬間。
奴は音もなく俺のいた方向へと何かを投げつけてきた!
透視していたおかげで、それが煌めく短剣であることが分かったが、もし「眼」がなければ、気づくことすらできずに致命傷を負っていただろう。
ヒュンッ、と風を切る音と共に、短剣は俺の頬を掠めて壁に突き刺さる。
冷や汗が一筋、背中を伝った。
(ちぃっ……! や はり、ただ透明なだけじゃない、相当な手練れだ。だが、今の動きで、お前の大まかな攻撃パターンと、反応速度は見切ったぜ)
俺は体勢を立て直し、不敵な笑みを浮かべる。
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面白いじゃないか。
だが、いつまでも追いかけっこをしてやるつもりはない。
そろそろ、こちらから「罠」を仕掛けてやるとしよう。
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