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抑圧と搾取、血と暴力
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「芋虫」
薄暗い教室で、私はセーラー服の白い襟に着いた小さな墨汁の黒い染みを気にしながら椅子に浅く腰掛けていた。
ふと、擦れて傷だらけの、土汚れのついた黒いローファーの右の片方を脱いだ。
足の親指が黒いタイツを突き破り、ひょこりと顔を出している。
私はため息をついた。三つ編みが乱れ、手が震える。
擦れて傷だらけの、土汚れのついた黒いローファーが、私を嘲笑った。
心の中で一つ、チッ、と舌打ちをした私は、その不様なローファーで、右足の穴の空いたタイツを隠した。
窓の外は午前中までいてくれた太陽はどこかに姿を消し、黒い雪雲が空を覆っている。
私は教科書を、親族のお下がりの黒いひび割れた革の鞄に詰め、帰ろうとした。
すると、何匹かのローファーが私に近付いてきた。
級長と2人の手下だ。
完璧に編まれた三つ編み。メガネのフレームが光り、シワ一つ無い清潔なセーラー服とその白い襟が神々しく見える。
級長の両脚を、一点の汚れも無い黒いタイツが覆い隠している。その黒い脚からは威厳すら感じる。
級長のローファーが静かに床を叩く。傷も汚れもない純粋無垢なローファーが、私をうっとりとさせた。
「ちょっよろしいかしら。」
冷たい声が教室に響き、メガネの奥で嫉妬が光った。
肩に置かれた手が重く冷たい。
手下の背の高い方がニヤリと笑う。鋭い八重歯が「貴方、準備が遅いわね。」と囁く。
手下の背の低い方は、目をそらしながら俯き、私の様に、擦れて傷だらけの、土で汚れた不様な自分のローファーを見つめている。手が震えている。
「向こうで話しましょう。」
級長がそう言うと、背の高い八重歯の娘が、私の白い襟の肩を掴んで校舎の裏へ連れていった。
黒い墨汁の染みが、八重歯の手で隠れた。
裏庭の泥濘んだ地面にローファーが沈み、三つ編みが風に揺れる。
古い井戸が不気味に佇み、冷たい風が黒いタイツを刺した。
級長がメガネを調整し、「あの人とお付き合いするなんて、貴方には100年早くってよ。どういうおつもりかしら?」と冷たく言い放つ。
メガネの奥で嫉妬が燃える。
私は背筋を伸ばし、両脚をぴたりと付けて、何も言わず、ただ俯いていた。両手を後ろに組んで。
私の左右二匹の不様なローファーが、私を嘲笑った。
ぴしゃり。
級長の平手が、私の頬を撃った。鋭い音が静寂を切り裂き、頬が熱く腫れた。
「何とか仰いなさい!」
級長が怒鳴る。
背の低い方が震えながら近づき、怯えた手で平手打ちをした。頬に新たな痛みが走り、「ごめんなさい。」と呟く。
すると今度は八重歯がニヤリと笑い、力強く平手打ちを撃った。八重歯が私の脚を軽く蹴った。彼女の右足の擦れて傷だらけのローファーが私の脚に噛みついたのだ。
「赦さないわ!」
そう金切り声を上げると、級長は、私の肩を掴んで泥に押し倒した。
地面にうずくまる私。3人は順番に私を蹴りはじめた。
3人は自分の右足を私の身体に撃ち込んだ。三匹のローファー達が私に牙を剥いた。
背の低い方の弱々しい蹴り。擦れて傷だらけの、土汚れのついた不様なローファー。
八重歯の力強い一撃。擦れて傷だらけのローファー。
級長の冷酷な足が脇腹に当たる。光沢のある真っ黒な威厳のあるローファー。
3分が途方もなく長く感じられ、体が焼けるような痛みに耐えた。歯を食いしばる。
やがて三匹のローファー達は動きを止める。級長の威厳のあるローファーが、私の顔を押しつぶした。
級長は、私の顔を踏みつけ、「不様なものね。」とニヤリと笑った。
突然、級長が私の胸ぐらを掴み、無理やり立たせた。セーラー服の白い襟が締め付けられ、三つ編みが顔に張り付く。
「あら、汚れてるじゃない。洗って差し上げるわ。」と冷たく皮肉な声を発した。
メガネの奥で嘲笑が広がり、級長は私を学校近くの古い橋に連れていった。
橋の木製欄干が錆び、冷たい川風が黒いタイツを刺す。橋に来ると、級長が「しっかり身体を洗って、ついでに頭を冷やすといいわ。」と言い放つ。
メガネが冷たく光り、背の低い方が震えながら私の腕を掴み、八重歯がニヤリと笑って背中を押す。
3人は、この世に有ってはならない忌まわしいものを葬り去る様に、3人がかりで欄干から私を突き落とした。
冷たい川風が肺を刺し、水面に到達するその瞬間までの間、私の心は自分の惨めさに涙を流した。
岩にぶつかり、白い襟が水で重くなり、黒いタイツが泥と混ざる。ローファーが川底に沈み、必死にもがいた。
水面に出ようとしたが、橋の上にまだ3人がいるかも知れず、死角になる橋の下から顔を出した。
冷たい水が体を刺し、橋の柱に爪を立てる。
遠くで、背の低い方の「浮いてこない?」という声が聞こえた。
級長が「よろしいじゃないかしら。身投げなんて良くある話よ。」と冷たく言う。八重歯が頷き、3人のローファーの音が遠ざかった。
私は柱にしがみつき、凍えた手で耐え、彼女らが去るのを待った。
3人が去った事に気付いた私は、川の岸まで何とか泳ぎ着き、土手の上まで、まるで芋虫のように四つん這いで這い上がった。
よろけて、土手の窪みに転がり落ちた。
窪みの中でうずくまり、湿った土と落ち葉が体を包む。
白い襟が泥で汚れ、黒いタイツが冷たく貼り付く。
しゃっくりが止まらず、涙が頬を伝った。凍えた手で土を握る。
黒いシワだらけのセーラー服が鉛の様に重い。小さな墨汁の黒い染みのついた白い襟が、私の両肩に伸し掛かっている。
うずくまり、涙を流す私を、両足の、擦れて傷だらけの汚れたローファー二匹が嘲笑った。
雪雲が割れて、光が私を照らした。
私は泣き続けた。
「Glass Prison」
そびえ立つ前面ガラス張りのビル。
「一度転落すれば二度と這い上がっては来れない。絶対に仕事を失う訳にはいかない。」
そう自分に言い聞かせて、今日も女達は、自分で自分を監獄に収監する。
薄暗いロッカールーム。冷たい床。無機質な白い壁。女達は何も言わずに、ただ黙って着替える。
全員が、まるで示し合わせていたかの様に純白の何の飾りもない安物のブラジャーとパンティーを着用している。
何人かは、周りの目も気にせず、全裸になっている。
濃い肌色の乳房に満々と股間に蓄えられた陰毛。
女達は白いブラウスを着ると、緑色の裾が膝辺りにあるタイトなスカートを履いた。
両脚はストッキングで覆われている。
ブラウスの首周りに緑色のリボンを締める。
ブラウスの上から、襟が鎖骨辺りにある、窮屈なタイトなベストを身に纏う。
黄色地に緑色のラインのチェック柄のベストが上半身をキツく拘束した。
足に黒い安物のパンプスを履けば、これで「女囚」の出来上がりだ。
女達は、まるで同じ金型と同じ規格で作られた人形の様に、全員が同じ姿をしていた。
「もしかすると、身体の何処かに、みんな、シリアルナンバーが記載されていたりして。」
私は心の中で、そう呟きながら、自分の安物のパンプスをじっと見つめた。
カタカタカタ。
オフィスにはキーボードを叩く音だけがこだまする。
全員が表情の無い顔で、パソコンの画面を見ながら、一心不乱にキーボードを叩き続ける。
私達「女囚」を監視するかの様に、最もオフィスが見渡せる場所に女上司の机がある。
黒いスーツ、ハイヒール、ネックレス。女帝は、高いブランド物を身に纏い、事務椅子という玉座に座り、鋭い眼光で女囚達を監視した。
女帝の威厳と恐怖が、私達を支配していた。
同僚が一人、女帝の前に呼び出された。
その子は、背筋を伸ばし、両脚をしっかりと付けて、両手を後ろで組むと、怯えた表情で俯いて、自分の安物のパンプスを見つめていた。
玉座に座る女帝の切り刻む様な言葉の嵐が彼女の身体を容赦なく叩いた。
「ちょっと、何これ?!間違えてるじゃないの!」
女帝が言う。
「申し訳ありません。直ぐにやり直します。」
彼女は、か弱い小さな声で返した。声が震えていた。
女帝は私達「女囚」全員に聞こえるように切り出した。
「あんた達の作業は、この書類の文字を、一言一句間違えない様に、正確にコンピューターに入力する事でしょ!」
「どうせ、どうでも良い事を考えながらキーボード叩いてたんでしょ?」
「あんた達は、ただ言われた事だけやってればそれで良いのよ!余計な事は考えるな!」
そうよ、そうだわ。私達は人形、機械仕掛けの人形。同じ金型で製造され、同じ制服を身に纏い、同じ安物のパンプスで足を隠す。
自分では行き先を決められない。哀れな人形。
「私のシリアルナンバーは何番?」
私は自分に聞いてみた。
すると女帝は、動かないその子に続けて言った。
「あんた達みたいな、使えない、役に立たない、下っ端のダメOLの代わりなんて、そこら中に、うじゃうじゃいるんだからね!自分の仕事失いたくなければ、死ぬ気でキーボード叩け!」
私は、ハッとした。
ボールペン、ハサミ、セロハンテープ、そうよ、そうだわ。私達は備品、備品なんだわ。
取り換えができる、簡単に買い換えができる、そうよ、備品なんだわ。
消耗品なんて、良い様に使い捨てればいい。無くなったり、壊れたりしたら、発注すれば、事足りる。
惨めな消耗品達は、女帝の前に立たされた子の姿が見えていないかの様に、ただひたすら黙ってキーボードを叩き続けた。
女帝は最終判決を、立っている子に宣告した。
「あんたには躾がいるね。制服脱いで裸になりなさい。」
その子は、はっとして顔を上げた。恐怖に怯えた顔。
「聞こえないの?さっさと脱げ!」
その子は慌てて制服を脱ぎ始めた。ストッキングもパンプスも。あっと言う間に、白いブラジャーとパンティーだけになった。
それから、また背筋を伸ばして、両脚をしっかり付けて、両手を後ろで組んだ。
両目から大量の涙を流し、ひっくひっくとしゃっくりしながら、泣きはじめた。
女帝は彼女の胸を触り、その手を今度は、パンティーにまわした。
「さぞや立派に生えてるんでしょうね?」
女帝の問に彼女は答えず、ひっくひっくと泣いている。すると女帝は。
「生えてるのか、生えてないのか聞いてるんだ!」
女帝の雄叫びに彼女は大きくびくっとなって、震える声で。
「生えてます!」
と答えた。
女帝は手でゆっくりと彼女のパンティーを掴むと、それを引っ張りパンティーの中を覗いた。
彼女の股間には、満々と陰毛が蓄えられていた。
備品達は怯えながらキーボードを叩き続けた。
私は選択した。備品として、或いは、消耗品として、廃棄処分になる方が良いか、女帝の拷問を受ける方が良いか。
惨めな消耗品達は、何も起きていないかの様にキーボードを叩き続けた。
あの子は、ひっくひっくと泣き続けた。
「鳥籠」
チン。
エレベーターの扉が開く。
私は腕を曲げて手で合図した。
「シタヘマイリマス。」
定めらイントネーションと、定められたトーンで声を発する。私達は、そう訓練されている。
チン。この音。
それは私達にとって「パブロフの犬」の鈴。
チン。反射的に身体が動く。私達には、そうプログラムされている。
お客様は誰も来ない。私はくるりと向きを変え、エレベーターに乗ると扉を閉めた。
この上下に吊るされ、吊り上がり、吊り下がる鳥籠には鏡がある。
私は鏡の中の自分を見つめる。
黄色い鍔広の黒いリボンの巻かれた帽子。白い襟付きの黄色い長袖のワンピース。ワンピースの袖口には白いカフスが着いており、ワンピースの前面の左右には、上から下まで黒いラインが走っている。
腰に巻いた黒い革のベルトが私の身体を捕らえて離そうとしない。
私は白い手袋をはめた手を上げて合図を送る。
「コノカイハ、シンシフクウリバデゴザイマス。」
誰もいない鳥籠の中で、私はテープに録音された音声の様な無機質な声で話した。
私達は、誰かいるいないに関わらず、音声を発する様に調教されている。
背筋をピンと伸ばし、ストッキングと黒いパンプスを履いた脚の左右をきちんと揃える。
私達は笑顔を浮かべる様にプログラミングされている。心で雨が降っていても、表情は笑う様に調教されているのだ。
私達に「違い」は必要なかった。同じ表情、同じ髪型、同じいでたち、同じ動作、そして、同じ声。
エレベーターの壁には、おしゃれなポスターが掲示してあった。そのポスターが、殺風景で機械的なこの鳥籠の中を、色鮮やかに光で照らしていた。
私はチラリとポスターに目をやった。生き生きとした男女。おしゃれな服、自由。
私は鏡の中の自分に聞いてみた。
「ねぇ、本当の私は何処?」
チン。
紳士服売り場だ。
降りる人は誰もいない。乗る人も誰もいない。
それでも私は、インプットされた情報通りに動いた。
扉が閉まり、鳥籠が下へと降りる。
私は意を決してプログラムの命令に、少しだけ叛逆してみた。
首を傾けて下を向く。良く磨かれたパンプスが鈍い光を放っていた。
誰もいないエレベーターの中で、私はプログラムに従い、条件反射の支配に従って、声を発し、身体を動かした。
下を向いた事に罪悪感を感じた。命令に背いた事への罪悪感。
私は思った。
「罪悪感?そうなの?私はまだ人間なんだ。」
完全にロボットになれたら、そんな罪悪感なんて気にもならなかったのに。バカな女。
チン。
「イッカイ、フジンフクウリバデゴザイマス。」
無機質な声、録音テープの音。
降りる人は誰もいない。乗る人も誰もいない。
私は腕を曲げて、白い手袋の手で合図した。
コツン、コツン。パタ。
パンプスが床を打つ。私はくるりと向きを変えて鳥籠に入った。
扉を閉めようとする。
「シタヘマイリマス。」
エレベーターは地下へと沈んで行く。黄色い帽子の鍔が、微かに揺れた。
「ねぇ、私は誰?」
「The Ranch」
理想の惑星(地球)を見つけたので本国に報告する。
この惑星の人類という生命体は、効率よくエネルギーを採取する事が可能な、良い供給源となり得る。
人類には二種類が存在し、一つは子孫の種を与えるものと、もう一つは種を培養養育する袋を持つものの二種類だ。
袋を持つものを雌という。
ここで一つ注意して貰いたいのが、必ず雌を選択する事である。
雌は雄に比べて、身体的および精神的に耐性があり、外部からの衝撃に強いという事。
雌を選ぶ際には、若過ぎず、また、年寄り過ぎない、均整のとれた年齢のものを選ぶと良い。
効率よく雌を狩る方法として「会社」というシステムを構築すると良い。
毎年、同じ様な季節に同じ様な姿をした雌達が、このシステムに群れを成す習性が確認できた。
この習性を「就活」という。
会社というシステムは、雌達の「労働力」を採取し、その見返りとして「給料」という餌を与えるというものだ。
労働力は長過ぎず、短過ぎず、この惑星の時間で8時間分だけを採取する事。
給料は、多過ぎず、少な過ぎない分量を与える事。
これらの均整が崩れると人類は故障する様にできている。
次に「面接」という検査をする事。ここで注意して貰いたいのは、雌達が、労働力の提供に対して、高い志しや使命感を持った者は避ける事。そういった雌は壊れやすい。
雌は、「楽、適当、安定」という概念を持つ者を重視する事。そうすれば、こちらの指示だけの範囲で動く。
つまり、言われた事だけをこなす者を選ぶ事。そうすれば、雌は我々に従順になる。
雌の選別が完了したら、次は雌に「制服」というものを身に着けさせる事。これにより、雌を精神的に均一な状態にして支配できる。
労働力を如何にして採取するかといえば「業務」と呼ばれる運動をさせる事。この場合、過酷でも穏やかでもない、ちょうど良いレベルのものを行なわせる事。
雌達に、この惑星の文字を、ただ淡々とコンピューターへ入力させると良い。この惑星のコンピューターは、実に原始的な構造をしており、今だに指を使い入力する。
この運動を、毎日、同じ時刻から始め、同じ時刻に終わる様に設定する事。時刻を過ぎて運動させると「残業代」という追加分の餌を与えなければならなくなるので注意してほしい。
時折、雌達を調教すると良い。この惑星では「社内教育」という。
言葉使いや、マナーといった倫理を習得させる。また、人類は「お辞儀」という仕草でコミュニケーションを図るので、お辞儀を身に着けさせる事。
会社システムには「社訓」という、このシステムが目指すものを記したものがある。
この社訓を毎日雌達に朗読させる事。繰り返し叩き込む事で、脳神経レベルで、我々のイデオロギーに従わせる事ができる。
雌に対して、身体的及び精神的な苦痛を与えない事。
苦痛を与える事で、雌を保護する法律が発動して、会社システムに打撃を与える様になっている。
この、身体的、精神的な苦痛を与える行為を「ハラスメント」という。
この惑星の雌を飼育する際は、このハラスメントを与えないように注意する事。
雌は「嫉妬」という、我々が理解できない精神的行動をとる事がある。大抵が、雄絡みの事が原因で起こる。
そこで、なるべく組織内でのコミュニケーションを業務に差し支えないレベルに保ち、秩序を維持すると良い。
人類は労働力を提供し続けると、体内に疲労物質が蓄積する。これは、雌も例外ではない。
この惑星の会社では、会社にもよるが、一年に一度程度「健康診断」と呼ばれる、破損箇所の確認を行うので、それを利用して疲労物質を採取すると良い。
以上の様なシステムを用いて、雌を効率良く支配して飼育すれば、大量の疲労物質を採取する事が出来る。
まさに理想の「牧場」である。
以上、報告を完了する。
「泥の人形」
深く狭い塹壕で、彼女達は、突撃の合図を待った。塹壕の地面は、彼女達自身の大便や小便、そして、雨水で、激しく泥濘んでいる。彼女達は全身汚れながら、銃剣付きの歩兵小銃を構えて待機していた。たくさんの女子兵達が、緊張と恐怖で嘔吐したり失禁したりしている。一人の女子兵が「死にたくない!死にたくない!」と言いながら、突然、カビた泥の着いたパンを貪り食い始めた。
戦争が始まり二年もしないうちに、男が足りなくなった。国は強引に女どもを徴兵し、かき集めた。上は60歳から下は13歳まで。女どもに充てがう軍服がなかったために、取り急ぎ代わりになるものが用意された。女学生用のセーラー服だった。老いも若きも、黒い長袖のセーラー服を着て、裾の位置が膝と足首の中間辺りにある黒いスカートを履いた。両脚を厚めの生地の真っ黒なタイツで、素肌が見えない様に、しっかりと覆った。足には黒いローファーを履いている。セーラー服の襟元に、黒い地の色に横に一本幅が広い赤いラインが入ったネクタイを巻いている。セーラー服の襟には、赤いラインが三本入っており、手首にも赤いラインが二本入っていた。頭を保護するために、カーキ色のブロディヘルメットが支給された。女どもは、それをしっかりと深く被った。彼女達は荷物の全てを、大きなカーキ色の布袋に詰めて、それを身体に斜めに袈裟懸けした。一人一丁ずつ、歩兵小銃が与えられた。
塹壕近くに砲弾が着弾し、激しい轟音とともに、大量の土が女子兵達に降り注ぐ。すると、何人かの女子兵は、「ぎゃーっ!」と泣き叫びながら錯乱してしまった。一人の女子兵が恐怖の余りうずくまり、ガタガタ震えだした。隊長が、その女子兵の胸ぐらを掴み、無理やり立たせ、平手打ちをくらわせた。「怖いのは全員一緒である。」と言い聞かせた。一人の女子兵が、上官に、突撃までの時間を聞いた。「5分後である。」旨を確認すると、突然しゃがみ込み、塹壕の地面に向かって、激しく大便を垂れた。下痢をしており、非常柔らかく、どこまでが泥で、どこまでが大便かが分からないぐらいだ。もう一人の女子兵が、それを見て、笑いながら唾を吐いた。
突撃開始の笛が鳴った。女子兵達が順番に塹壕の壁に掛けられたハシゴを登っていく。もたついている子に「さっさと登れ。」と歳上の女子兵が背中を強く押した。上官が女子兵達に「勇気を出して、元気よく!」と声をかけた。
全員が銃剣付の歩兵小銃を前に突き出して構え、ゆっくりと前進する。敵の塹壕の方角から、機関銃や小銃の弾が、ヒュンヒュンと、嵐の様に飛んでくる。前進する女子兵達の目は、大きく見開いている。ある者は胸を、ある者は腕を、またある者は脚を撃たれ、バタバタ倒れていく。その倒れている仲間を乗り越え、また、死体となった仲間を踏み付けながら、女子兵達は前進する。
ある所まで前進すると、敵の中距離砲の砲弾が着弾し始める。激しい爆音と火炎とともに土が女子兵達に降り注ぐ。砲弾の餌食となった女子兵の身体が粉々になって飛び散る。女子兵達は、その場に腹這いなり、わずかな距離を恐怖で怯えながら、銃を持ちながらも、四つん這いで前進する。
「今だ、いっせい突撃!」と言わんばかりに、上官が手で合図する。すると、残りの女子兵達は立ち上がり、銃を構え、目を見開き、口を大きく開き「やーっ!」と叫びながら全力疾走し始めた。敵の銃弾の嵐と雷鳴が、草より脆い女子兵達を容赦なく貫いていく。バタバタと折り重なり、戦場は死体の海と化していく。取るに足らない使い捨ての消耗品達は、か弱さを隠す様に叫びながら全力疾走した。ある者は泣きながら、ある者はよだれを垂れながら、泥濘んだ戦場の泥の中を、雨水の溜まった穴を越えて、敵の塹壕の手前、鉄条網の森に近づいた。
次々と撃たれる女子兵達は、まるで、風に飛ばされた紙切れが、木の枝に引っかかる様に、鉄条網に倒れ、引っかかり、ぶらんと垂れ下がった。余りに大量の消耗品達がぶら下がったので、鉄条網に突破口ができるほどだった。生き残りは、ぶら下がり、死んでいる仲間を利用して、死体を遮蔽物にしながら、鉄条網の間をすり抜けて行く。
鉄条網の突破口から、女子兵達が、敵の塹壕にいっせいに飛び込んだ。敵も同じ様に女子兵だった。彼女達はもみくちゃになり、銃剣で突いたり、突かれたりした。ある者は胸を、ある者は尻を突かれ、塹壕の中で、敵と味方の区別がつかないほど折り重なり倒れ、転げ回り、のたうち回る。その様は、まるで、肥溜めの中で、蛆虫が、ゆらゆら蠢くようだった。ある女子兵は、死んでいる敵の女子兵を、何度も叫びながら、小銃で殴り続けた。
どれくらいが経過したか分からない。辺りが静まり返る。果てしなく続く死体の海原。血、泥水、汚物…。司令部に敵の陣地を陥としたと連絡が入る。1キロメール前進。幹部達は、「たった1キロか。」と不満を漏らした。司令部が忙しくなる番だった。消費した消耗品や壊れた消耗品を確認する必要がある。誰かが言った。「在庫が足りない、補充するように。」と。そして、また大量の消耗品が、狩り集められる。
生き残った女子兵達は、戦場近くの村にあるキャンプに戻ってよい事になった。傷付いた者は手当てを受けていた。全員が、疲労し、腹を空かせ、ふらふらとしていた。パンが配給された。女子兵達は、パンの山にいっせいに飛び付き、素早く分捕ると、地面に倒れ込み、必死にパンを貪り食った。順番にシャワーを浴びる様に言われた。女子兵達は村人の視線など気にする事なく全裸になり「キャッ!」と言いながら、上官の監視下でシャワーを浴びた。村の地面に泥だらけの人形が落ちている。
「嘲笑」
暗い下水道を抜けて、仄かな光が射し込む様に、そっと目を開ける。午前5時半。私は目を覚ました。薄暗い半地下の台所の壁は、所々に黒い染みが付いている。壁が冷たく私に言う。「さっさと起きろ。さぁ働け。」と。ひび割れた床と天井を一通り見渡すと、私は、台所の狭い一角にある錆びた粗末な硬いベッドから起き上がった。このベッドが私の寝室だ。
とある良家の娘がいた。しかし、父親が事業に失敗し、そのまま亡くなった。3人の娘が残された。上2人の姉は行方をくらませた。末の娘が1人残された。彼女は高利貸しから借金をして、父親の負債を返済した。高利貸しは、末の娘に「働いて返済するか、債務不履行で刑務所にいくか。」の選択を迫り、末の娘は働く事にした。
高利貸しは、とある金持ちの屋敷の小間使いの職を末の娘に紹介した。屋敷の女主人は人使いが荒い事で有名だった。この職は住み込みであった。末の娘の寝室は薄汚い半地下の台所の一角にある錆びた粗末なベッドだけ。屋敷のトイレと風呂は使用禁止だ。彼女はこのベッドのそばで壺に排便し、盥で身体を洗った。彼女の食事は、女主人の食べ残しである。
私は制服に身を包んだ。黒いUネックの長袖のワンピースタイプの制服。両腕の袖口に白いカフスが着いている。制服の前面を隠す様に白いエプロンを着ける。両脚は真っ黒なタイツで素肌を完璧に隠す。ゴツゴツした紐付きの革靴を履いてベッドから立ち上がると、壁にある小さな鏡の前に立つ。じっと自分を見つめる。頭にコロネットキャップを巻いた。
彼女の一日は朝6時から始まり、夜3時に終わる。一日21時間の労働をこなした。休日は無かった。時給は15ペンスだ。彼女の給料は、家賃、食費、制服の貸与費、そして、高利貸しへの返済分。残りが彼女の手取りとなる。
朝から晩まで立っていられるのがやっとなくらいに働いた。女主人の食事のお世話。洗濯。掃除。屋敷の床を丁寧にモップ掛けする。それでも落ちにくい汚れや隅の方のホコリは、四つん這いになって雑巾を使い手で磨く。
女主人にお茶を運ぶ。「お茶をお持ちしました、奥様。」大きな声で元気良くハキハキと声を出す。「ありがとう。置いといてちょうだい。」と女主人が言う。「はい、奥様。」そう言うと私はテーブルにお茶を置く。「おつぎ致しますか?」私が聞く。「えぇお願い。」と女主人が冷たく答えた。満面の笑顔を浮かべて、私はお茶をつぐ。この「大きな声」や「笑顔」を作り上げるのは大変だ。傷付いて汚れた衰弱した心を奮い立たせるには、大変な努力が必要になる。女主人の機嫌を損ねたら一巻の終わりだ。背に腹は代えられない。「他に何かお申し付けは御座いますか?」私が聞く。女主人は「無いわ。お下がり。」と冷たく答えた。この「無いわ、お下がり。」は「屋敷中をピカピカに磨きあげろ。」という暗号だ。私はくるりと向きを変えると居間をあとにした。コツコツコツ。革靴の音が虚しく廊下に響く。
月に一度、高利貸しが屋敷に来て、私の仕事ぶりを監督しに来る。「逃げようなんて考えるなよ。刑務所行きだぞ。」そう言うと、諸経費を差し引いた残りの手取り分を私のベッドに投げ捨ててさって行く。私はこのネズミの心臓よりも小さな額の小銭をかき集め、急いで手取りを貯金してあるジャムの空き瓶に入れた。
女主人にとって、この小間使いは、非常に使い勝手が良かった。なにより、低賃金で長時間働かせる事が出来る召使いは魅力的だ。
ある日、女主人は靴を履き替えるので、今履いているものとは別の靴を持って来るよう私に命じた。跪き、女主人の右足に靴を履かせる。次に左足。すると女主人は左足の足の裏を、私の顔面に押し付けた。足の裏が私の鼻をグイグイと押す。私は目一杯笑顔を作った。女主人は楽しそうに笑った。
女主人はしばしば私に躾(せっかん)をした。制服を脱ぎ、裸になる。女主人は、私に居間の壁側を向くように命じると、硬く冷たい鞭で、私の背中を何度も打った。
躾が終ると、私は笑顔で「有り難う御座います、奥様。」と答えた。機嫌を損ねたら一巻の終わりだ。女主人は満足そうに煙草に火を付けた。
私は常に、全身の力を込めて笑顔を作り、がむしゃらに働き続けた。「自分には住む場所がある。」「食事にもありつける。」そう自分に言い聞かせて。私は、働ける事を神に感謝しながら、今日も屋敷の床を磨く。
錆びた粗末なベッドが私を嘲笑った。
「Sales performance」
午前二時。私は居酒屋の一番奥の席に座り、一人ポツンと酎ハイを飲んだ。
人を待っている。
すると、誰かが私の前に立った。私は顔を上げた。
真っ白なワンピースに白いサンダル。黒くて長い髪、透き通る様な肌、芳醇な胸と唇。黒い瞳の中に私の姿が映る。
少女だ。歳は17か18ぐらい。
彼女は静かに私の向かい側に座った。私は息を飲んだ。
「で、誰をやればいい?」
彼女は、にっこり笑って私に聞いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「全く使えねぇなぁ!」
怒号がオフィスの空気を切り刻んだ。
「てめぇみてぇな使えねぇ穀潰しの代わりなんざ、ゴロゴロいるんだからなぁ!」
今日もいつもの調子だ。
「さっさと見積もりし直せよ!給料泥棒が!」
もう何年目だろう。我ながら良く耐えていると関心する。私は何しにここに毎日出勤している?怒鳴られるのが私の仕事か?
同僚も、後輩も、先輩も、まるで何も見えないかの様に椅子に座り、カチカチカチカチとマウスをダブルクリックしている。
二人の女子社員が、顔を見合わせクスクス笑っている。
もう限界だ。私の心は音を立てて崩れた。それはもう、全く途切れる事のないドミノの様に。
バタバタバタバタバタバタバタバタ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は少女に課長の自宅住所の書いたメモを渡した。
毎年欠かさず年賀状を送っているから、住所は直ぐに分かった。
一度も返る事のない片道切符の年賀状。
少女は静かに、私に問いかける。
「家族はいる?奥さんとか、子供とか?」
私は答えた。
「いるよ、奥さん。子供は一人。」
すると彼女はこう提案した。
「じゃあ、課長の奥さんも子供もやっちゃおうよ。スッキリするよ。奥さんは専業主婦?子供は何歳?男の子?女の子?」
私は彼女に、課長の奥さんは専業主婦であり、子供は男の子、小学三年生である、と、伝えた。
彼女は無邪気に答えた。
「課長クラスなら100万。専業主婦なら60万。子供は10万かな。計170万ね。工賃込みで、この価格はお得よ。どうする?」
私は決めた。
「じゃあ、三人とも、やってくれる?」
私は恐る恐る彼女に依頼した。
「じゃあ決まり。この口座に振り込んどいてね。いつやる?」
彼女は口座番号の書かれたスマホの液晶画面を私に見せた。
「いつでもいいよ。出来ればこれくらいの時間帯が良いかな。いつも残業してるし。残業代は付かないけどね。」
私は酎ハイを飲み干した。
「了解。じゃあ、交渉成立。」
そう言うと彼女はゆっくりと立ち上がり、居酒屋をあとにした。
彼女の姿が、夜の繁華街の雑踏の中に消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
8月15日(金)午前二時。
約半月経った。
照明が落とされた暗い誰もいないオフィスで、私はパソコンに向かって見積もりを作成していた。
「半月か。」
私はそっと呟いた。
壁に掲示された営業成績のグラフ達が、私にガヤガヤ語り掛けた。
「良く我慢したな。まぁ、肩の荷物を降ろせよ。」
と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
8月15日(金)午前二時。
私は、お気に入りのワンピを着て、課長の自宅にやって来た。大きなスーツケースを持って。
「このドア楽勝。この鍵なら簡単に破れるね。」
私はお邪魔させてもらうと、部屋を一つずつ周った。
夫婦の寝室にそっと入ると、課長と奥さんの頭に22口径を撃ち込んだ。次に二階の子供部屋に入り、男の子にも22口径をプレゼントした。
それから、三人の衣服を、商売道具のハサミやカッターナイフで切り裂いて、全員を全裸にした。
一階のお風呂場に三人を運ぶ。
スーツケースから、良く斬れる万能枝切り鋏を取り出すと、三人を、両腕、両脚、頭、の順で切り離した。
まだ生温かい鮮血が、お風呂場の白いタイルを赤く染めた。
「綺麗ね。」
そう心とお話しながらバスタブに三人を放り込んだ。
スーツケースからビンを取り出すと、私は三人のバラバラになった身体に硫酸を振り掛けた。
白い煙がお風呂場の天井を這った。それはうっとりとする光景だった。
何人も逝かせてきたけれど、この瞬間がたまらない。この仕事の美学は、この瞬間に凝縮されている。
私はこの悦楽の時を、いつまでも、じっくりと味わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
日が昇り、オフィスに出社し直すと、何やら慌ただしい雰囲気だった。
課長が出社しておらず、連絡が付かないというのだ。
私は身体の力が抜け、自分の椅子に、倒れない様に、ゆっくりと座った。
「終わった、終わったよ。」
壁の営業成績のグラフ達が、私を励ました。
「良くやった。良くやった。」
と。
相変わらずオフィスは騒がしかった。
私の闘争は終わった。私の魂は解放された。
真夏の太陽光線が、摩天楼を照らした。
「濡れ衣」
薄暗く冷たい、コンクリートが剥き出しの、硬い廊下を、私は、二頭の女性看守に、腕を捕まれ、引き摺られながら尋問室に運搬されて行く。
「痛い!離して!私はやってない!」
二頭の女性看守は、私の訴えを、片耳で聞きながら、もう片耳から、聞き流した。
私は容赦なく、尋問室へと運搬されて行く。市場で競り落とされた家畜の様に。
ある日のこと。屋敷の主人は私を居間に呼び出した。
私は、背筋をピンと伸ばし、両脚をしっかりと付けて、両手を後で組むと、長年身体に染み付いた習性と条件反射に従って、満面の造り笑顔を浮かべて、主人の前に立った。
「私の指輪が無いの。何処にやったか知らないかしら?」
主人は冷たい声で、私に聞いた。
「いえ、存じ上げません。」
私は答えた。
この場合、私には絶妙なバランスが求められる。先ず、主人の機嫌を損ねない様に、召使いとして、目一杯の造り笑顔を形成しつつも、指輪が無い事への共感を演出する為に、困った口調と表情も作らねばならない。
口角を吊り上げ、歯を見せて微笑みながら、少し眉毛を斜めにして、困った眼差しを組み立てる。
これが、長年、地べたを這い蹲りながら、ひたすら従順に奉公してきた、私の生き残りの為の技術だ。
「そう。じゃあ、仕方ないから、警察を呼んで頂戴。」
召使いが濡れ衣を着せられるのは、良くある話だ。
私は「あぁ。また始まったか。」と思い、屋敷の電話で警察を呼んだ。
過去に何度かあった話だ。これで何度目だろうか?
警察が来て、私の荷物や部屋を徹底的に調べ、その後に、警官と主人が監視する中で、丸裸にされ、身体の穴という穴を調べられる。最後に主人が、亡くした物の在り処を思い出して終る。
これがいつものルーティーンだ。
キンコーン、コンコン。
玄関のチャイムがなり、ドアをノックする音がした。警察だ。
私は主人に見えない様に、ため息を一つ付くと、警官達を屋敷の中に案内した。
男性の刑事が一人と女性の警官が二人。全員で三人だ。
屋敷の主人が、事の顛末を説明して、早速捜査が開始された。いつもの調子で。
先ず、私の部屋の捜査と私物の検査だ。と言っても、私は何も持っていない。地下の湿っぽくカビ臭い私の部屋には、錆びた硬いベッドが一つ。私物は、疲れてくたびれた革靴だけ。
貧しく、取るに足らない、社会の底辺を這い蹲りながら生きている様な私が、私物なんて持ってる訳がない。
捜査はあっと言う間に終わった。だが、この日は少し違った。
「失礼ですが、この子をお借りできないでしょうか?署で詳しく調査したいのですが?」
男性刑事が主人にそういうと、主人は、あっさり許可した。私はこの主人の私物に過ぎず、簡単に取り引きや交換の効く日用品に過ぎない。
私は警察署に連行された。
車が到着したのは警察署ではなかった。
コンクリートの高い壁。有刺鉄線。監視塔。刑務所だ。
私の全身から滝の様に大量の冷や汗が出た。全ての毛穴から。いつもとは完全に違う。
私は二頭の女性看守に引き摺られて、尋問室に向かう。
私はほとんど無意識に、動物としての生存本能に従って、腹の底から声を上げた。
「私はやってない!」と。
廊下の突き当たりに尋問室の扉があった。鋼鉄の扉が私に挨拶した。「生と死の狭間へようこそ。」と。
ギィーッ、と、扉が開くと、二頭の女性看守は、私を尋問室に放り込んだ。
冷たく硬いコンクリート製の床と天井。壁には、所々に黒い染みがある。壁の高い位置に鉄格子の小さな窓があり、僅かに外の光が射し込んでいる。
ふと見上げると、貫禄のある、中年の女性看守が一人立っている。看守長だ。
私は看守長に全身の力を込めて訴えた。
「私は奥様の指輪を盗んだりなんかしていません!お願いです!信じて下さい!」
すると看守長は、私に近付き、私の頬に平手打ちを食らわせた。
「黙れ!それをこれから調べるんだ!」
看守長は、まるで地獄の魔王の様な声で、私を怒鳴った。
私の片方の鼻の穴から、生温かいものが、ゆっくりと流れ出た。鼻血だ。
「服を脱げ。どうした?聞こえないのか?もう一度、打たれたいのか!」
私はビクッとなって、慌てて、着ている召使いの制服を脱ぎ始めた。ひっくひっくとしゃっくりして泣きながら。
頭から順番に、白いコロネットキャップ、白いエプロン、そして、袖口に白いカフスの付いた長袖の黒いUネックのワンピースタイプの制服を、脱いでいった。
すると看守長が、おかわりを要求した。
「誰がそれで満足すると言うのだ?靴もタイツも脱げ。シミーズもブラジャーもパンティーもだ。何してる?さっさとしろ!!」
私はまたしてもビクッとなった。思わず失禁しそうになったが、何とか堪えながら、残りのものを脱いでいった。
黒いくたびれた革靴を、黒いタイツを、白いシミーズを、白いブラジャーを。
最後に、白いパンティーを脱ごうとすると、看守長は、待ち切れなくなり、私のパンティーを片手で引っ張り、下へ下げた。
股間が露わになった。
満々と蓄えられた陰毛。看守長は、それを見て、ニヤリと笑った。
看守長は、私に、気を付けの姿勢で、まっすぐ顔を上げる様に命じると、部下の若い二頭の女性看守を呼んだ。
私は背筋をピンと伸ばし、両脚をしっかり合わせ、両腕をシャンと下に伸ばしながら、ひっくひっくと泣き続けた。
二頭の女性看守が、私の、両耳の穴、両方の鼻の穴、そして、口の中を調べた。
「何も確認できません。」
二頭のうちの一頭が、看守長に、そう報告すると、看守長は、私に、四つん這いになるよう命じた。私は、ひっくひっくと泣きながら、急いで命令に従った。
もう一頭の女性看守が、ゴム手袋をはめて、私の肛門めがけて、手を突っ込み、穴の中を弄った。中が見えるように、もう一頭の女性看守が、懐中電灯で、肛門を照らした。
二頭の女性看守は、首を振った。
すると看守長は、尋問室の片隅にある、古い事務机の上に仰向けになり、両脚を、大きく開く様に、私に命じた。
私は、相変わらず、ひっくひっくと泣きながら、急いで命令に従った。
ほとんど正気を失った私に一頭の女性看守が近付き、ステンレス製の器具を、私の膣に挿入した。器具は冷たく、硬い。女性看守は、器具の持ち手を広げると、それに伴い、私の膣が、大きく開いて、穴が見えた。もう一頭の女性看守が、懐中電灯で穴を照らす。何もない。
看守長は、大きくため息を付くと、二頭の女性看守に、私を、別の部屋へと連行する様に命じた。またしても、私は、引き摺られていった。ひっくひっくとしゃっくりして泣きながら。
私は全裸のまま、独房に放り込まれた。全面コンクリート製、鋼鉄の扉、小さな鉄格子の窓。独房の床を、一匹のゴキブリが這っている。
看守達は、私にステンレス製のバケツと古い新聞紙、それから、錠剤を渡した。
「錠剤を飲め。暫くすると便意を催す。そうしたら、バケツに排便しろ。尻は新聞紙で拭け。」
そして、扉は閉められた。バタンッ。
いくら調べても無駄。私は指輪を盗んでなんかいない。身体の中に隠すわけがない。そもそも盗んいないのだから。
それでも私は、言われた通り、下剤を飲み、便意が込み上げるのを待った。暫くすると、腹がゴロゴロしてきたので、私はバケツに跨り、勢い良く、大便を垂れた。尻は新聞紙で拭き取った。
何時間が経過したか分からないが、忘れかけた頃に、独房の鋼鉄の扉が開いた。看守達は、バケツに入った私の排泄物を回収した。そして、また暫く待たされると、再び鋼鉄の扉が開いた。
二頭の女性看守が、私を無理やり立たせ、看守長を先頭に、別の部屋へと、私を連行した。引き摺るように。
広い空間に連れてこられた。お風呂場だ。
私は恐る恐る看守長に聞いた。
「看守長様、指輪はありましたか?」
すると看守長は、私の首根っこを引っ掴んで、お風呂場の大きな浴槽にはられた水の中に、私の頭を押し込んだ。
「指輪は何処だ!言え!」
水から頭が引き揚げられる。ゴホゴホと咳き込みながら、私は口から水を吐き出した。
「知りません!やってません!」
私は必死に訴えた。すると看守長は、再び私の頭を水に沈めた。
「盗んだと言え!」
これが何度も何度も繰り返された。私の意識は遠のいた。
気が付くと、私は、尋問室の床に力なく転がっていた。丸太の様に。
看守長が入ってきた。鋼鉄の扉が、ギィー、と開き、バタン、と閉じた。
私は服を着ていた。黒い制服。他のものは身に着けてはいなかったが、それでも、いく分かはましだった。「これで助かる。」そう思った。
しかし、私の儚い希望は、脆くも打ち砕かれた。
看守長は、私の顔面を、何度も殴った。時々立たせ、腹も殴った。私が床に倒れると、硬い革靴の足で、何度も私を蹴り、踏み付けた。
私の目の周りは青くなり、両方の鼻の穴から鼻血が流れ、鼻はひん曲がった。顔が歪み、口から血を流した。私の意識は遠くなった。
「どうして、こんな事を、私は、やってないのに。」
蚊の鳴く様な声で、看守長に、質問した。
「お前が、主人の指輪を盗んだか、盗んでないかは、どうでも良い。今月は、あと一人、犯罪者を創り上げれば、ノルマは達成できる。悪いが協力してくれないか?やったと言えば楽になれる。」
私は、この果てしない暴力の楽園から抜け出したい一心で「はい、やりました。」と答えた。この苦しみから脱出できるならば、服役した方が楽だ。
自白に成功した看守長は、上機嫌だった。部下の女性看守は、調書に、私が指輪泥棒である旨を記録した。
私は尋問室の床に倒れ、全身の力が抜けた。私の脚の間から、温かいものが流れ出た。
私は、思う存分、失禁した。
「Occupation」
周りの子達が始めたから、ただ、何となく私も「始めなきゃなー。」って思って、就活開始。
シャツ、スカート、ジャケット、鞄、ストッキング、そして、パンプス。
これ、全部セットで五万円。安い。バイトで貯めたお金で、余裕、余裕。
私は、安物就活セットに身を包み、会社説明会やセミナー、そして、面接を受けた。
安物に身を包んだ、安っぽい存在。それが私だ。
私の希望は「楽と安定」だ。ただ何となく出勤して、何となく適当に仕事して、何となく安くもなく高くもない給料を貰う。それが私の仕事観だ。
勿論、面接でそんな事言える訳がない。「御社の将来性が。」とか「社会的使命を。」とか、もっともらしい事を満面の造り笑顔で答えとけば、楽勝、楽勝。
超売り手市場だから、すんなり内定ゲット。
私は決められた始業時間から終業時間まで、ただ与えられた業務を、ただ言われた事だけを、ほどほどの労力でこなした。
「OL最高。」適当にやってれば、それで良いんだから、こんな楽な商売はない。
私は窮屈な制服で身体を締め上げると、パソコンに伝票をひたすら入力した。
カタカタカタ、カチカチカチ。
同僚も先輩も、みんな、同じ様な髪型、同じ制服、同じ様な安物のパンプスを履いて、パソコンとにらめっこしている。
端的に言うと、私達の仕事って、伝票入力マシーンになる事。朝から夕方まで、ひたすら入力作業。楽だけど単調。ディスプレイ、マウス、キーボード、と、私。
周辺機器な私。
今日も良い天気。会社の屋上でお弁当を食べた私は、浮腫んだ脚を、パンパン叩いた。そして、何となく、片足のパンプスを脱いでみた。
ストッキングの足先が汗でほんのり黒ずんでいる。パンプスの中を覗くと、靴底も、汗でほんのり黒ずんでいた。
私は、そっとパンプスの臭いを嗅いでみた。
「臭っ!」
何やってんだろ、私。
就活の時に買ったパンプス。別に買い換えても良いけど、もったいないから、履き続けよ。
オフィスに戻ると、貴方は仕事が早いから、この伝票も、入力お願い、と、上司が私に伝票の束を渡した。
「はい!喜んで!」
あぁ、残業決定。私の気楽なOLライフが妨害される。
夜8時、作業終了。
「さて、帰ろうっと。」
私はエレベーターで二階にあるロッカールームに向かった。
ガタン!ガガガッ!
エレベーターが止まった。
「マジかよ!」
私は緊急ボタンを押したけど、全く動かない。私はどっと疲れた。そして、エレベーターの壁にもたれて、体育座りをして、顔を伏せた。
少し時間が経った。私は顔を上げて、エレベーターの天井に目をやった。天井に通気口。
私は立ち上がり、両足のパンプスを脱ぐと、勢い良くジャンプして、通気口の蓋を手で押してみた。通気口が開いた。
私は、パンプスを通気口に軽く投げて、それから、もう一度、勢い良くジャンプした。通気口に手が届いた。私は腕に力を込めて、エレベーターの上によじ登った。
エレベーターをよじ登ると、そこにパンプスが転がっていたので、そっと履いた。さて、次はどうする?辺りを見渡すと、通気用ダクトの蓋があった。
私は蓋を外すと、通気用ダクトの中を、四つん這いになって、奥に進んだ。
ダクトを進むと、外の風が入ってくる場所があった。出口だ。私は出口の蓋を取り外し、外に出た。非常階段の踊り場だ。私はゆっくりと踊り場に出た。
ここで問題だ。この非常階段は二階まで。私が出たのは二階の踊り場。ビルの中に入るためのドアは施錠されていた。
暫く考えてから、ふと下を覗き込むと、路地裏の大きなゴミ回収用のボックスがあった。ボックスの中には、たくさんのゴミ袋が詰められていた。近くに飲食店があるから、中身は生ゴミだろう。
私は意を決して、非常階段の柵を乗り越え、柵に掴まり、ぶら下がると、そのまま手を離し、ゴミ回収ボックスの中に落ちた。
ガサッ!
生ゴミがクッションになって、ショックを吸収した。私は生ゴミだらけになった。
私は身体に付いた生ゴミを払い、頭に載ったバナナの皮を払うと、ボックスから出ようと乗り出した。すると、足が滑り、ボックスの横にある、バケツ型のステンレス製のゴミ箱に頭から突っ込んで、倒れた。私はまたしても、ゴミまみれになった。
ゆっくりと立ち上がり、身体に付いたゴミを払うと、制服のポケットに手を入れた。千円札が一枚。
「良かった。電車料金ある。」
会社は既に閉まってるから、中には入れない。今日はこのまま帰るしかない。
「あーぁ、散々な日だなぁ。返して、私の、お気楽OLライフを。」
表通りに出ると、ちょうど、歩行者信号が青だった。
ピッポー、ピッポー、ピッポー。
信号が鳴る。
私は小走りで横断歩道を渡ろうとした。すると。
「あれ?こんなはずじゃ。」
私の身体が宙を舞う。
「どこ見て運転してるのよ!私のお気楽OLライフ、返してよ。」
人集りができた。たくさんの人。警察が来た。救急車のサイレンが聞こえる。私の意識が遠くなった。
ピーポー、ピーポー、ピーポー。
私の気楽な暮らしは25歳で終りをむかえた。路上に転がった、私の安物のパンプス達が、そっと呟いた。
「お疲れ様。永遠の眠りを。」
と。
「自主練」
8月の溶けてしまいそうな熱気の中で、私の何の取り柄も無い大きな身体が、体育館の床に転がった。
「さっさと立て!起きろ!」
監督の怒号とボールが、倒れて無防備な私の大きな身体に容赦なくぶつけられた。
三年生。もう私には後がない。
私は醜かった。大きな顔面には、二つの小さな眼。太い眉毛。ぺちゃんこの鼻。分厚い唇に大きな口。髪はクセの強い天然パーマ。ヒラメみたいな顔面。唯一誇れるのは、180センチ弱の長身だけ。
私は長身を生かしたくて、バレー部に入部した。現実は甘くない。
私の部員生活は、ボールを磨く事と体育館の床を磨く事。鈍臭い私が練習に参加できる訳がない。
私は毎日毎日、先輩から怒鳴られ、後輩から顎でこき使われた。
レギュラーはおろか、補欠にすらなれない。こんなの終わらせたい。私はある日、意を決して、監督に特訓して貰える様に申し出た。
「覚悟は出来てるか?」
監督は言った。私は頷いた。
特訓は私以外の部員が全員帰宅した誰もいない体育館で行われた。
私は、襟の付いた白い、腕に緑色のラインが入った体操着と緑色のブルマを着用し、白いスポーツシューズと白いハイソックスを履いた。両膝にサポーターを当てると、自分の不様な顔面を両手でパンパン叩いて気合いを入れた。
正直、すごく不様な格好だった。体操着とブルマのサイズは、これが限界のサイズで、私には小さい。でも、このサイズしか無いから仕方がない。
体操着が、私の身体に張り付き、私の身体を締め上げた。ブルマは目一杯Vの字で、両脚の付け根に食い込んだ。
特訓が始まった。
飛んでくるボールに必死に食らいついた。
膝を曲げて腰を落とす。両腕をピンと伸ばし、前で組む。レシーブすると、次のボールが飛んでくる。ボールを追い掛けて腹這いになり、体育館の床を滑る。ひたすら繰り返えされる。
はぁ、はぁ、ひぃ、ひぃ。
私は息が切れ、今にも倒れそうなのを必死に堪え、ボールに食らいついた。涙を流さぬ様に。
ボールを取り逃がすと、監督は、容赦なく、私に、怒号とボールをぶつけた。
「泣け!立て!悔しくないのか!」
ボールを逃し、不様に床に転がる私に、次々と、怒号とボールがぶつけられた。
ふらふらになりながら、私は立ち上がり、飛んでくるボールに食らいつき続けた。
はぁ、はぁ、ひぃ、ひぃ、ひっくひっく。
私は息を切らし、泣きながら、死ぬ気でボールに食らいついた。
ボールは時々、私の醜く不様な顔面を直撃した。目の周りに青い痣ができ、鼻血が滴り落ちた。
「どうせ、汚ったねー顔なんだから、気にすんな!全身使ってボールを受け止めろ!」
ボールが容赦なく飛んでくる。私は食らいつき続けた。
腹這いになり、床を滑る。ボールを逃し、また怒号とボールをぶつけられる。今度はお尻にボールをぶつけられた。
私は必死にボールに食らいつき続けた。
時々監督は、意図的に、体育館の遥か彼方へボールを投げた。私は、何としてもボールを逃すまいと、息を切らし、ふらふらになりながらも、全力疾走でボールを追い掛けた。
ボールを逃す。
ところが、勢い余って、これでもかと言わんばかりのスピードで、思い切り、体育館の壁に激突した。
バンッ!
大きな音が体育館にこだました。私は力なく床に倒れ込み、意識を失った。
バシャ!
監督が、バケツに入った水を勢い良く私にかけた。私は目を覚ました。
気が付くと、体育館の外にある、手洗い場に横になっていた。
私は起き上がれない。すさまじい激痛が私を襲った。
「ダメだ、もういい、止めろ。良く頑張った。」
監督は私を肩に担いで、病院に連れて行ってくれた。
アキレス腱断裂。
「あぁ、終わった。」
私の取るに足りない不様な部員生活は、何の日の目も見ないまま、静かに幕を下ろした。
体育館の床に転がったボール達が、ケラケラ笑いながら、私をバカにした。
「婚礼」
「和議」
長きに渡る戦乱で、民は疲弊し、飢えた。田畑は荒廃し、ただ、血と亡骸だけが、大地を覆う。
国王は一計を案じた。「どうすべきか?」と。
乱世の無情は容赦なく人々を渦に巻き込んだ。本来ならば人々を救済するはずの御仏の教えが、よもや、争いの種になるとは、誰が想像できようか?
国王は妹の部屋を訪ねた。この22歳の若く野心家の王は、自らの権勢によって、国家を平定する事に意欲を燃やしていた。実権を握る母親が邪魔ではあったが。
「新教派と和議を結び、国家を安寧に導きたい。世の意向、分かってはもらえぬか?」
国王は妹に訪ねた。
春姫は静かに答えた。
「兄上の御意の御ままに。」
この王の妹は、絶世の美女として、天下にその名を知られていた。
白く透き通る様な肌、黒く艶のある長い髪、芳醇な唇、そして、万人を虜にする魔性の瞳。19歳とは思えない、天女の様な美しさ。
国王は、早速、書状を書き上げると、使者にそれを、新教派の頭目である、和州守に渡す様に命じた。
程なくして書状が和州守に届いた。和州守は、国王からの提案に、警戒しつつも、それを主の財務卿に渡した。
「これは、我が新教派と旧教派が和睦し、国家天下を安寧に導く、またとない好機。殿、御返答は如何に?」
この53歳の和州守は長きに渡り、主たる財務卿を支えた軍師である。名だたる戦を勝利に導いた名将でもある。
財務卿は答えた。
「あい分かった。良きにはからへ。」
と。
和議が成立した。春姫と同年齢の財務卿との婚礼が決まる。
「策略」
国王の母親、香桜局は策略を巡らせた。如何にして、憎き新教派を殲滅すべきか?
香桜局は、自らの相談役に、登城するよう命じた。
大地頭が呼ばれた。浅黒い肌、鋭い眼光。香桜局は、如何にすべきかを、大学頭に尋ねた。
大学頭曰く。
「国家を維持する為には、信義に反したり、慈悲に背いたり、人間味を失ったり、宗教に背く行為をも、度々やらねばならぬ事を、知って頂きたく候。そして、なるべくならば、良き事から離れず、必要に迫られたおりに、悪に踏み込む事も、心得えおき候。」
香桜局は、なるほどと頷いた。
この53歳の王母は、元は上方の両替商の娘で、亡き先代の国王の側室であった。絶世の美女とうたわれ、年老いた今も、その美しさは健在であった。
「婚礼」
都にて、春姫と財務卿との婚礼の儀が執り行われた。綺羅びやかな衣に身を包んだ、数多の大名諸侯が参列した。豪華な食事、能狂言。おおよそ、この世のものとは思えぬ、極楽浄土絵巻が繰り広げられた。
一点不可解だったのは、鎧兜に身を包み、腰に大太刀を携えた、完全武装の、直参旗本衆が、婚礼の会場の守りを、過剰なまでに固めていた。
その数千人。
婚礼の儀に先立ち、香桜局は、息子で国王の弟である、20歳の松原大納言を呼び出すと、謀の詳細を伝え、旗本衆の指揮を委ねた。松原大納言は、若いながら、武勇の誉れ高い人物であった。
婚礼の儀は、何事もなく、幕を閉じた。
「未遂」
婚礼の儀を終えて、大名諸侯が城から下りて行く。
その中に、和州守の姿もあった。
城の大手門をくぐり、市中に出ようとした、その時、大太刀を持った、数人の旗本が、和州守に襲い掛かった。
和州守は、とっさに自分の腰に差した太刀を抜くと、応戦した。
しかしながら、多勢に無勢。和州守は、手傷を負いながらも、辛うじて、脱出に成功し、そのまま宿舎の屋敷に戻ると、急ぎ兵を集め、守りを固めた。
暗殺は未遂に終わった。
同じ頃、財務卿は、城に監禁され、新教から旧教への改宗を迫られた。
「説得」
香桜局は、急ぎ国王のもとへ馳せ参じ、国王を説得しようとした。
「陛下、今やらねば、我ら旧教側は、新教側の反撃に合いまする。ご決断を。」
国王は、暫く考え、これを了承した。
この機を逃すまいと。フォルトゥナを掴むのは、まさに今である。
松原大納言が呼ばれ、策略を完結すべしとの下知が下った。
松原大納言は、旗本衆に命じて、謀略の最終段階を貫徹しようとした。
大納言は、自らが携えた太刀を抜いた。鋭く光る太刀。鏡の様なその刃に、顔が映る。太刀が大納言に話し掛けた。
「早う、我に血を吸わせ給え。」と。
大納言は静かに太刀に返した。
「焦るでないわ。後日、思う存分に吸わせてやる。」
「赤き地」
暗殺未遂から二日後、夜明けを告げる旧教側の寺の鐘が合図だった。
ごーん、ごーん、ごーん、と。
鐘が鬨の声を上げた。すると、完全武装の旗本衆が、大太刀を振り回して、新教側の大名屋敷を一軒ずつ周り、殺戮を繰り広げた。
暗殺未遂から二日経過し、何も起きなかったためか、新教派は油断していた。
真っ先に標的になったのは、和州守だった。屋敷に旧教派の兵がなだれ込み、朝餉をとっていた守に襲い掛かる。
五人の旗本の大太刀が、和州守を貫き、屋敷の書院を赤く染めた。守の首は討ち取られ、屋敷の門に吊るされた。
旧教派の兵は、新教派の屋敷を一軒一軒周っては、屋敷の主人、家老から、下は、足軽雑兵や侍女や下女に至るまで、根こそぎ斬り刻み、四肢を切り離し、腸を抉って周った。斬殺された者の一族郎党、尽く討ち取られた。
この騒ぎを聞きつけた、旧教派の町人達が、斧や鉈を携え、新教派の町人に襲い掛かった。
老若男女、老いも若き、尽く斬殺された。
ある者は首を斬られ、またある者は腸を抉られて。
旧教派は、踝まで血の海に浸かりながら、新教派を見つけると、手当たり次第に、息の根を止めていった。
殺戮は夕刻まで続いた。
日が傾き、烏が鳴く頃に、寺の鐘が鳴った。
ごーん、ごーん、ごーん、と。
市中は静まり返り、血の海の中に、解体された新教派の人体が、所狭しと転がっていた。
香桜局が、家臣を率いて、市中を視察に来た。果てしなく続く血の海原。
「何と美しや。」
局はそう呟くと、一首詠んだ。
「都路の赤き衣の夕烏、落つる桜(はな)にぞ、思い忘らん。」
国家に平和がおとずれた。
「Product Order」
【前編】
・女子社員募集
・簡単な入力作業
・残業なし
・女子寮完備
・楽に安定的に
スーツに身を包んだ女子の新卒者達が列を成した。先ずは、会社説明会だ。
「みんな、楽してお給料貰いたいよね?努力?根性?いやいやいや、昭和じゃないんだからさぁ、もっと気楽に行こうよ。」
彼女らには、事前にアンケート用紙が配ってある。本音を書いてもらうため、そして、身長と体重を記入して貰うために。
一人一人をセンサーでスキャンさせて貰った。我が社の基準に合致する人材を。
同じ髪型、同じ顔の骨格、同じ形のパーツ、同じ身長、同じ体重、など。
我が社の基準、つまり、身体的特徴に合致する子達が抽出できた。早速、電話にて、連絡を入れた。
後日、一人一人面接を行なった。
「本音で話そうよ。この仕事にエントリーした理由は?」
「はい。そのぉ、私は、周りが就活してるから、ただ何となく就活始めました。何となく適当に、何となく楽して、何となくそれなりの給料貰えればそれで良いかなと思って。」
この様な調子で選考していった。志しの高い志望動機の子は、我が社には御縁がない。
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「始めまして、皆さん。今日から宜しく。先ずは皆さんに、これらのものを支給致します。」
新人には、制服が支給される。また、支給品は制服だけではない。
白いブラジャーとパンティー、ストッキング、そして、パンプスだ。
制服は、白いシャツ、緑色のリボン、タイトな緑色のスカート、黄色地に緑色のラインのチェック柄のベスト。
新入社員達は、不思議そうな顔をしつつも、ロッカールームで、支給品に着替えた。
「では、皆さん一緒に社訓を朗読致しましょう。」
全員が声を揃えて社訓を朗読した。同一的な骨格ばかりが集まっているため、ほぼ同じ様な質の声が、綺麗に揃った。
「私達は、楽・適当・安定をモットーに、社会に貢献して参ります。」
「私達は、言われた事だけを忠実に実行致します。」
「私達は、余計な事をする必要はありません。」
「私達は、組織の一員として、組織の一部となって、日々勤労します。」
実際に業務を与えた。業務内容は、パソコンに、与えた書類の文章を入力するというもの。それだけである。
ここで注意したいのは、朝8時から夕方17時までの8時間でこなせるだけの分量を与える事。多過ぎず、少な過ぎず。
このルーティーンを6月になるまで続ける。
初任給は、一般的な女子の新卒者が受け取るであろう額が支払われた。
6月に入ると、全員の目が虚ろになっていた。
7月に入ると、虚ろな目だけでなく、声に生気が無く、死んだ様な表情になる。
我が社の秘密職員が先輩の男性社員に成りすまし、彼女らのお尻を触ってみる。全く何の反応も無い。
どうやら下地ができ上がった様だ。
8月の頭。新人研修を実施した。全員を研修室に集める。
「では皆さん。制服を脱いで整列して下さい。下着も。」
彼女達は、全く抵抗する事なく、全裸になって整列した。
「鏡を見て下さい。裸のありのままの自分を見つめ、確認して下さい。」
この作業は、羞恥心とプライドを削ぎ落とす作業だ。
「おはようございます。有り難う御座います。いらっしゃいませ。」
45度に身体を傾けお辞儀する彼女達。
これを延々と反復する。
この作業は、同一の動作を繰り返しさせる事で、状況に順応させるための作業だ。
「では皆さん、鏡の中の自分に向かって、にこやかに。口角を上げて、歯を見せて、笑顔で。」
この造り笑顔の訓練は、状況と心理が一致しなくても、常に指示に従える様にするための訓練、要は個性を剥奪する作業だ。
彼女達はほぼ完全に自我を失い、見事に順応した。
【中編】
9月に入り、私の担当している企業さんから、「OL型✕5台」の注文が入った。予てより「新機種」をアピールしてあった。
私は、シリアルナンバー、A01638、A01639、A01640、A01641、A01642、の計5台を手配し、「出荷(派遣)」した。
商品は、全てにシリアルナンバーが付けてあり、我が社のシステムが一元管理している。
先方は、オプションは付けなかったので、燃料補給と簡易メンテナンスは、先方の企業さんが行う。
このオプションとは、綿密にカロリー計算された燃料(食事)を与え、簡易メンテナンス(身体検査と体重測定)を行うというもの。
オプションを付けなかったという事は、先方が責任を持ってそれらを行うというもの。その代わり、30%オフになる。なお、朝と夜の燃料補給は、こちらが行うので、企業さんが準備するのは、昼の燃料補給という事になる。
燃料は、錠剤やカプセル、或いは、ゼリー状の特使なサプリメントを与える。
簡易メンテナンス方法は、先ず、商品を全裸にして、破損箇所の有無を確認した後に、グラム単位で体重を測るというものだ。
体毛や爪の処理はこちらが行う。
10月。昨年納品した「OL型:A01523」が故障したとの連絡が、他の企業さんから入ったので、最新型の「OL型A01651」を手配した。
故障したA01523は、全身をチェックした後に、初期化して、再プログラミング(再教育)する。
商品は、我が社が用意した管理施設(社宅)で24時間・1年365日管理する。各区画に監視カメラとセンサーが設置されている。
商品は、この施設から出荷先へ出勤し、再びここに帰宅する。所定のルートを外れる場合、我が社のシステムが異常を検知する。
商品の衛生管理も欠かせない。商品は、我が社のエンジニア監視の元で、全裸になり、順番に、専用の装置で洗浄する。
放水、回転スポンジによる汚れ落とし、再び放水、そして乾燥。
19時から21時までの間に行う。その間、商品は監視の下で、全裸で洗浄機の順番を並んで待つのだ。
【後編】
商品管理において、我々が最も注意したのが、商品のスペック上の問題、何と言うか、商品に備わった、動物的本能、或いは、生物学的生理現象とでも言うべきか。
商品は完全管理されているため、人間の生身の男性を知らない。従って、品質を保つために、定期的に、性欲を発散してやる必要がある。
まだ出荷前の商品ならば、我が社の施設において。出荷済の場合は、出荷先へ、設備を搭載した車輛を手配する。
この品質保持のためのメンテナンスは、非常にシンプルで、何も身に着けていない事を確認するために、商品を全裸にした後、2名のエンジニア監視のもと、専用の器具を用いて、自慰行為をさせる。その間、エンジニアは、行為の様子を克明に記録する。
特に発情している商品は、入念にメンテナンスする必要がある。通常の2倍の時間を費して、自慰行為を、満足するまで行わせ、それでも収まらない場合は、ホルモンバランスを調整する薬品を投与する。
年末になって、慌ただしくなる。何台かの商品が故障して、修理不能となった。
我々は取り引き先との契約に従い、代金の三分の一を返金した上で、故障した商品を受けとった。
調査の結果、どうやら、内部パーツ、特にモーター(心臓)の不調による故障だった。人間で言うところの心臓発作と言うやつだ。
我々は、全ての支給品を取り外し(全裸にする)て、再利用可能なパーツ(臓器)を確認して、可能なパーツに関しては、取り出して、然るべき業者に売却する。
残りの不要な部分は廃棄処分とする。
廃棄処分が決まった商品は、施設内の廃棄物回収ボックスへ捨てる。後は、オートメーション処理システムが、故障品を焼却炉へ搬入して、これで、廃棄処分が完了する。
来年度は、更に品質の良いモノを選別し、より高度な加工を施した商品をお客様に提供できる様に努めたいと思うのであった。
「砲弾孔」
ヒュンヒュンと飛んでくる敵の小銃と機関銃の弾が仲間達を貫き、なぎ倒した。私はとっさに泥濘んだ地面に腹這いになった。
一本の草も木も生えていない広大な戦場には、おびただしい数の仲間の女子兵達の死体が転がっており、所々に砲弾の着弾で空いた大きな穴が点在していた。
ゴーッ、ダンッ!
私の数メートル近くに砲弾が着弾した。私は慌てて、四つん這いになり、失禁しながら近くにある、泥水の溜まった砲弾孔まで移動すると、勢いよく、その中へ転がった。
穴の中には、四人の先客がいた。
一人は半狂乱になり叫び、一人はガタガタと震え、一人は恐怖で嘔吐し、そして、もう一人は歩兵小銃を片手で抱え、もう片手で自分の股間を押さえて硬直していた。
私達は、黒いセーラー服に黒いスカートを着用していた。脚全体を黒いタイツで覆い隠し、足には黒いローファーを履いている。セーラー服の襟と手首には赤いラインが入っている。
徴兵された時、女性用の軍服を準備する手間とコストを抑えるために、軍は学校制服をそのまま軍服に流用したわけだ。
支給品は僅かで、頭を保護する為のカーキ色のブロディヘルメットに、歩兵小銃と銃剣、そして、様々な小物を入れた、カーキ色の大きな布袋だった。
上層部は、私達に常に無謀な突撃を命じた。数の力で敵陣を強引に突破する作戦だ。私達は肉壁なのだ。
銃剣を付けた歩兵小銃には、弾は5発しか入っていない。それ以上の弾は支給されなかった。銃は槍としての機能しかない。
「あぁ!嫌だ!死にたくない!こんな所で死んでたまるか!死にたくない!死にたくない!死にたくない!」
半狂乱の女子兵が叫び続けた。しかし、あちこちで聞こえる爆音に、その叫びは掻き消された。
暫く時間が経過したが、相変わらず、爆音も銃弾が飛んでくる音も止まない。穴の外で仲間の女子兵達が、引き続き突撃し続けている事が分かった。
半狂乱の女子兵が、やがて冷静さを取り戻し、そっと穴の外を覗いた。
穴の約2メートル先に、布袋を携えた、他の女子兵の死体が転がっていた。
すると、その穴の外を覗いていた女子兵が、仲間の女子兵に言った。
「おい!あの布袋を取ってこい!腹が減った。中にパンが入っているかも知れない。」
それを言われた女子兵は、ガタガタと余計に震えだした。
「あたしは隊長だぞ!命令は絶対だ!さっさと取ってこい!」
すると隊長は、ガタガタ震える女子兵と、もう一人、さっきまで嘔吐していた女子兵の二人を蹴飛ばして無理やり穴の外へ出した。
私達の隠れている穴の中には泥水が満々と蓄えられている。
無理やり追いだされた二人の女子兵は戻ってこない。死んだようだ。
「ちきしょう!役に立たねぇ奴らだなぁ!」
隊長は吐き捨てた。するともう一人、さっきまで股間を押さえていた女子兵が、隊長に訴えた。
「隊長殿、貴方が手本を示して下さいよ!」
と。
そうだ。そうなんだ。私達は女子兵。使い捨ての道具。ただの消耗品なんだ。私はそう思うと、汚れた自分の手のひらをそっとながめた。
隊長に反抗したその女子兵は「いやーっ!」と力いっぱい叫びながら、勢い良く、穴から飛び出していった。
「あんたはどうする気だい?!」
隊長は私に冷たく言う。
「あんたが突撃するって言うなら勝手にしな!あたしはごめんだよ。あんたが生き残っても、あたしが穴に隠れてたこと司令部にチクるんじゃないよ!」
あぁ、たいした隊長だよ。自分だって消耗品のくせに。私に口止めするのも無理もない。こんなことが司令部にバレたら「臆病罪」で死刑だ。
私は隊長の言葉を無視して「いやーっ!」と叫び、穴の外へ全力で飛び出した。
と、次の瞬間、シュルシュル!ダンッ!と、さっきまで隠れていた砲弾孔に着弾した。
私は爆風で吹き飛ばされ、他の穴に落ちた。私は気を失った。
どれくらいの時間が経ったか分からない。私はそっと目を覚ました。辺りが静まりかえる。突撃は終わったようだ。
私は、よろよろと立ち上がると、ゆっくり穴の中から外へ出た。
辺り一面、死体の山だった。たくさんの女子兵が折り重なり倒れている。鉄条網に引っ掛かった死体が、ブラブラと風に煽られ揺れていた。
私はふと思い出して、隠れていた穴を探した。あった。
ゆっくりとその穴を覗きこんだ。そこには、粉々になり、バラバラになった肉の塊が転がっていた。
私は全身の力が抜け、その場に跪いた。相変わらず地面は泥濘んだいた。
直ぐ側の死体が履いているローファーが、私に言った。
「卑怯者、臆病者。」
私は罪悪感に心を支配された。
「初仕事」
ブリーフィングルームで、私は部長とミーティングした。
「つまりデータは奴の貸金庫の中ってわけか。」
部長はそっと、ため息をついた。
「はい。どうすべきかですよね。しかも問題が。」
私は部屋の外、ブラインドの隙間から見えるオフィスに目をやりながら、部長に話した。
「問題とは?」
部長は何か不可解なものを見るかの様な表情で答えた。私は部長に説明した。
「その貸金庫のロックシステムは網膜認証なんです。ですから、ターゲット自身が必要になります。」
私が説明を終えると部長は徐ろに席を立ち、部屋のドアを開けると、手招きして誰かを呼んだ。
「この野郎、大使のくせに、ペドフィリア(小児性愛症)なんだってな。」
部長がターゲットの情報が記された書類を指差した。
私はゆっくりと頷いた。
すると、ブリーフィングルームに、誰かがやって来た。部長が手招きして呼び寄せたその人物。
女の子だ。小さな女の子。歳は10歳ほど。薄いピンク色のワンピースに、赤い小さな靴。黒くて長い真っ直ぐな髪。透き通る様な肌。光る瞳。
「やぁ、私の天使。初めてのお仕事だよ。」
私は驚いた。まさか子供を囮に使うつもりか?
「あの、どうしろと?」
私がそう言うと部長は静かに答えた。
「ターゲットは週末にレストランに現れるだろ?この子をレストランの入り口の前に立たせておけ。後はこの子がどうにかする。」
私は不安に駆られた。こんな子供に何が出来るというのか。
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作戦当日。私はレストランの側の路肩に車を停車させた。助手席には、例の女の子が座っている。
「ねぇ、君。名前は?」
女の子は何も答えなかった。すると、女の子は徐ろに車を降りて行く。
20分ほど経過した。レストランからターゲットが出て来た。間違いない、大使だ。
大使は女の子に気付くと、二人の部下、或いは、ボディーガードと思しき、屈強な男達に何かを伝えている。その声は、女の子に持たせた小型集音器で聞こえてくる。
「君たち悪いが、この後、大使館ではなくホテルに行ってくれないかね。」
大使はそう言うと女の子を黒塗りの高級車の後の席に乗せた。
車がゆっくりと発進する。私は後を着けた。成る程、ターゲットは筋金入りのペドフィリアだ。
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高級車がホテルに着くと、車から大使と女の子が降りた。
二人の屈強な男達は車の中で待機している。
「部長、何考えてんだ。本当にあんな子供で大丈夫なんだろうな?」
私は少しだけ冷や汗を流した。するとマイクの音が聞こえてきた。
「さぁ、部屋に着いた。お嬢ちゃん、お入り。」
大使の声だ。
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初仕事の事は覚えているわ。超簡単だった。
ターゲットがジャケットを脱いで、私の方を振り向いた時に、私はターゲットのでっぷり太った脇腹に、隠してたナイフを突き立てた。
ターゲットの動きが止まって、崩れ落ちたから、そのまま馬乗りになって、身体中を穴だらけにしたの。
何度も何度もナイフを振り下ろしてね。真っ赤。とっても真っ赤だったわ。
「わぁ、綺麗ね。」
私は少しうっとりしながら、ターゲットの顔面から、鍵を抉り出した。念のため、両方とも。
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女の子がホテルから出て来た。そして、車に気付くと、再び助手席に乗り込んだ。何か手にもってる。
私は車を発進させた。
車内は暗くて良く確認できなかったが、街の明かりに時々照らされる度に、女の子の服が、血まみれである事が分かった。
すると女の子は、持参してきたパスタを入れる瓶の中に、手にもっている何かを入れた。瓶には液体らしきものが入っており、その何かを液体に浸した。
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翌日、私はブリーフィングルームに呼ばれた。
部屋に入ると、部長と、作戦三課の主任が同席していた。
「部長、鍵は?」
主任が言う。
すると、部長はゆっくりと立ち上がり、部屋のドアを開けると、手招きして、誰かを呼んだ。例の女の子だ。
女の子は部屋に入ると昨夜何かを入れたパスタの瓶を部長に渡した。部長は静かに席に着くと、主任に渡した。
「鍵だ、受け取りたまえ。」
あぁ、何という事だ。私は背筋が凍った。ホルマリンの中に漬けられたターゲットの左右の眼球が、私を見ている。
主任が言った。
「大したもんだよ、本物の悪魔だな。」
そう言うと主任は、瓶をもって部屋を後にした。
部長は女の子を、まるで父親の様にキツく抱きしめた。そして、目一杯の愛情を女の子に与えた。
「私の可愛い天使、良くやった、良くやった。」
と。
女の子は無邪気に笑った。
「Special allowance」
就活が始まって直に、私は大学の就職支援課の棚にある求人票に目を通した。一枚一枚に目を通す。
すると、ある一枚の求人票が、目に止まった。驚くほどの好条件だった。
ただ一つ、給与欄に「特別手当」というものがあった。私は眉を顰めながらも求人票のコピーをもらうと、早速、エントリーした。
一週間ほど経った後に、先方の企業から連絡が入った。面接に来て欲しいとのことだった。
面接当日、私はスーツに身を包み、パンプスを履くと、意気揚々と出掛けた。
面接会場は先方の会議室だった。丁寧に案内してくれた。とても印象が良い。ここに就職したいと素直にそう思った。
面接官は男性で、人事の責任者だった。とても紳士的な人で、丁寧に質問を投げ掛けてくる。「志望動機は?」とか「挑戦したい事は?」とか。
私は面接対策で身に付けた技術に従って、坦々と答えた。にこやかに。
面接は至って穏やかに終わった。最後に「何か聞きたいことはある?」と聞かれた。私は例の「特別手当」のことが気になったので質問することにした。
「あぁ、それはね…。」
人事担当は詳しく説明してくれた。
「という訳なんだ。だから、みんな、内定辞退しちゃうんだよね。」
私は納得した。成る程、こんな好条件なのに、どうりで人がこないはずだ。私は迷ったが、この好条件と例の「特別手当」の誘惑に負けた。
「君みたいな優秀な学生さんが来てくれると助かるんだけどな。」
人事担当者が、困った様に、そう言う。そこで私は答えた。
「私も御社の様に広く社会に貢献する企業で、身に付けたスキルを活かしたいと思います。」
すると担当者は嬉しそうに答えた。
「本当?!有り難う。ぜひ、弊社へ来て下さい。」
私はその場で、あっさりと内定を得ることができた。好条件と「特別手当」は魅力的だ。失うものもあるのだが…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
四月。私は社会人となった。
初めて出社した当日、会社に着くと、私は一通り、会社内を案内された。とても丁寧だ。
見学の途中で女子社員が優しく声をかけてくれた。
「アットホームな職場だよ。頑張ってね。」
車内の案内が終ると、私は会社の制服を受け取り、ロッカールームで着替えた。白いシャツ、リボン、スカート、そして、ベスト。
私の配属先は営業三課だった。仕事の内容は至ってシンプルで、営業関連の書類のパソコンへの入力作業をしたり、たまに来客があると、お茶を出したり、コピーを撮ってあげたり、ごく普通のOLの仕事だった。
それでも私は少しだけ緊張していた。あれはいつ始まるのかと。
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ある日のこと。私はFAXを送ろうと、複合機の前に立っていると、一人の先輩の男性社員がやって来た。
「だいぶ仕事に慣れてきたみたいだね。君、飲み込みが早い。すごいよ。」
私は先輩にお礼を言った。と、その直後、先輩は、私のお尻に手をまわし、サワサワと弄った。
あぁ、ついに始まっか。私はそれでも笑顔で応えた。
その日を境に、男性社員達の私に対する行為は少しずつエスカレートしていった。
完了したコピーの束を課長に渡しに行くと、課長は立っている私のスカートの中へと手を入れて、太ももを擦った。
私が書類の入力作業をしていると、後から両手を伸ばし、私の両胸を揉む人もいた。
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そういった日が毎日の様に続いたが、私は、その状況に完全に慣れてしまった。何せ初任給が、普通の女子の新卒者の5倍もあるのだから、もう殆ど病み付きだ。
触られるのも悪くはない。
私の感覚は、完全に麻痺していた。
それから二月ほど経ったある日。先輩の男性社員がコピーを撮っている私に近付き、いつもの様に、私のお尻を弄ると、私に話かけた。
「悪いんだけど、ちょっと営業に付き合ってくれない?」
私は快く了承した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
取り引き先では、先輩が熱心に、先方に新しい企画の提案を行なった。先方も真剣に話を聞いていた。
その間、私は、先輩に言われた通り、静かに席に座りながら、先方の担当者に、これでもかというくらいに、淫らな視線を送り続けた。
話が終り、私は先に外へ出ると、それから10分後に先輩が出てきた。
「作戦の最終段階だよ。この場所に、この時間に、さっきの先方の担当者と待合せて。頼むよ。」
さて、いよいよ私の出番だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜、会社を出た私は待合せ場所に向った。制服のままで。先方の性癖らしい。
待合せ場所で先方に合流すると、私達はホテルに向かう。
ホテルの部屋に入ると、私が先に脱ごうとしたので、先方がそれを止めた。脱がせたいらしい。
先方は、私のベスト、スカート、シャツ、と、まるで、着せ替え人形の服を剥ぎ取る様に、徐々に私を裸にしていった。
最後、私はパンティーだけの姿になった。白くて小さなパンティー。
先方はそれを丁寧に両手でゆっくりと下へ下げた。
私の股間が露わになった。豊かに蓄えられた陰毛。
私はゆっくりとベッドに横になると、先方も裸になり、私の上に馬乗りになった。私達は、たっぷりと行為を楽しんだ。
私は先方を楽しませるために、目一杯の喘ぎ声を上げた。
部屋の間接照明が囁いた。
「阿婆擦れめ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
月末。給料が振り込まれる日だった。
私は午前中、いつもの様に、男性社員に身体をたくさん触らせると、昼休憩に近くのATMへ行き、残高を確認した。
驚くほどの額が振り込まれていた。普通のOLなら、何ヶ月か働かないと稼げない額だ。
無理もない。あの夜の私の先方との行為のおかげで、契約が成立したのだから。
「成る程、これが、特別手当か。」
私はもう夢中だった。こんなことなら、会社の中で全裸で仕事しても良いくらいだ。私の感覚は、完全に麻痺してしまっていた。
私は上機嫌で、再び会社に戻っていった。
たくさん触られるために。
(終)
薄暗い教室で、私はセーラー服の白い襟に着いた小さな墨汁の黒い染みを気にしながら椅子に浅く腰掛けていた。
ふと、擦れて傷だらけの、土汚れのついた黒いローファーの右の片方を脱いだ。
足の親指が黒いタイツを突き破り、ひょこりと顔を出している。
私はため息をついた。三つ編みが乱れ、手が震える。
擦れて傷だらけの、土汚れのついた黒いローファーが、私を嘲笑った。
心の中で一つ、チッ、と舌打ちをした私は、その不様なローファーで、右足の穴の空いたタイツを隠した。
窓の外は午前中までいてくれた太陽はどこかに姿を消し、黒い雪雲が空を覆っている。
私は教科書を、親族のお下がりの黒いひび割れた革の鞄に詰め、帰ろうとした。
すると、何匹かのローファーが私に近付いてきた。
級長と2人の手下だ。
完璧に編まれた三つ編み。メガネのフレームが光り、シワ一つ無い清潔なセーラー服とその白い襟が神々しく見える。
級長の両脚を、一点の汚れも無い黒いタイツが覆い隠している。その黒い脚からは威厳すら感じる。
級長のローファーが静かに床を叩く。傷も汚れもない純粋無垢なローファーが、私をうっとりとさせた。
「ちょっよろしいかしら。」
冷たい声が教室に響き、メガネの奥で嫉妬が光った。
肩に置かれた手が重く冷たい。
手下の背の高い方がニヤリと笑う。鋭い八重歯が「貴方、準備が遅いわね。」と囁く。
手下の背の低い方は、目をそらしながら俯き、私の様に、擦れて傷だらけの、土で汚れた不様な自分のローファーを見つめている。手が震えている。
「向こうで話しましょう。」
級長がそう言うと、背の高い八重歯の娘が、私の白い襟の肩を掴んで校舎の裏へ連れていった。
黒い墨汁の染みが、八重歯の手で隠れた。
裏庭の泥濘んだ地面にローファーが沈み、三つ編みが風に揺れる。
古い井戸が不気味に佇み、冷たい風が黒いタイツを刺した。
級長がメガネを調整し、「あの人とお付き合いするなんて、貴方には100年早くってよ。どういうおつもりかしら?」と冷たく言い放つ。
メガネの奥で嫉妬が燃える。
私は背筋を伸ばし、両脚をぴたりと付けて、何も言わず、ただ俯いていた。両手を後ろに組んで。
私の左右二匹の不様なローファーが、私を嘲笑った。
ぴしゃり。
級長の平手が、私の頬を撃った。鋭い音が静寂を切り裂き、頬が熱く腫れた。
「何とか仰いなさい!」
級長が怒鳴る。
背の低い方が震えながら近づき、怯えた手で平手打ちをした。頬に新たな痛みが走り、「ごめんなさい。」と呟く。
すると今度は八重歯がニヤリと笑い、力強く平手打ちを撃った。八重歯が私の脚を軽く蹴った。彼女の右足の擦れて傷だらけのローファーが私の脚に噛みついたのだ。
「赦さないわ!」
そう金切り声を上げると、級長は、私の肩を掴んで泥に押し倒した。
地面にうずくまる私。3人は順番に私を蹴りはじめた。
3人は自分の右足を私の身体に撃ち込んだ。三匹のローファー達が私に牙を剥いた。
背の低い方の弱々しい蹴り。擦れて傷だらけの、土汚れのついた不様なローファー。
八重歯の力強い一撃。擦れて傷だらけのローファー。
級長の冷酷な足が脇腹に当たる。光沢のある真っ黒な威厳のあるローファー。
3分が途方もなく長く感じられ、体が焼けるような痛みに耐えた。歯を食いしばる。
やがて三匹のローファー達は動きを止める。級長の威厳のあるローファーが、私の顔を押しつぶした。
級長は、私の顔を踏みつけ、「不様なものね。」とニヤリと笑った。
突然、級長が私の胸ぐらを掴み、無理やり立たせた。セーラー服の白い襟が締め付けられ、三つ編みが顔に張り付く。
「あら、汚れてるじゃない。洗って差し上げるわ。」と冷たく皮肉な声を発した。
メガネの奥で嘲笑が広がり、級長は私を学校近くの古い橋に連れていった。
橋の木製欄干が錆び、冷たい川風が黒いタイツを刺す。橋に来ると、級長が「しっかり身体を洗って、ついでに頭を冷やすといいわ。」と言い放つ。
メガネが冷たく光り、背の低い方が震えながら私の腕を掴み、八重歯がニヤリと笑って背中を押す。
3人は、この世に有ってはならない忌まわしいものを葬り去る様に、3人がかりで欄干から私を突き落とした。
冷たい川風が肺を刺し、水面に到達するその瞬間までの間、私の心は自分の惨めさに涙を流した。
岩にぶつかり、白い襟が水で重くなり、黒いタイツが泥と混ざる。ローファーが川底に沈み、必死にもがいた。
水面に出ようとしたが、橋の上にまだ3人がいるかも知れず、死角になる橋の下から顔を出した。
冷たい水が体を刺し、橋の柱に爪を立てる。
遠くで、背の低い方の「浮いてこない?」という声が聞こえた。
級長が「よろしいじゃないかしら。身投げなんて良くある話よ。」と冷たく言う。八重歯が頷き、3人のローファーの音が遠ざかった。
私は柱にしがみつき、凍えた手で耐え、彼女らが去るのを待った。
3人が去った事に気付いた私は、川の岸まで何とか泳ぎ着き、土手の上まで、まるで芋虫のように四つん這いで這い上がった。
よろけて、土手の窪みに転がり落ちた。
窪みの中でうずくまり、湿った土と落ち葉が体を包む。
白い襟が泥で汚れ、黒いタイツが冷たく貼り付く。
しゃっくりが止まらず、涙が頬を伝った。凍えた手で土を握る。
黒いシワだらけのセーラー服が鉛の様に重い。小さな墨汁の黒い染みのついた白い襟が、私の両肩に伸し掛かっている。
うずくまり、涙を流す私を、両足の、擦れて傷だらけの汚れたローファー二匹が嘲笑った。
雪雲が割れて、光が私を照らした。
私は泣き続けた。
「Glass Prison」
そびえ立つ前面ガラス張りのビル。
「一度転落すれば二度と這い上がっては来れない。絶対に仕事を失う訳にはいかない。」
そう自分に言い聞かせて、今日も女達は、自分で自分を監獄に収監する。
薄暗いロッカールーム。冷たい床。無機質な白い壁。女達は何も言わずに、ただ黙って着替える。
全員が、まるで示し合わせていたかの様に純白の何の飾りもない安物のブラジャーとパンティーを着用している。
何人かは、周りの目も気にせず、全裸になっている。
濃い肌色の乳房に満々と股間に蓄えられた陰毛。
女達は白いブラウスを着ると、緑色の裾が膝辺りにあるタイトなスカートを履いた。
両脚はストッキングで覆われている。
ブラウスの首周りに緑色のリボンを締める。
ブラウスの上から、襟が鎖骨辺りにある、窮屈なタイトなベストを身に纏う。
黄色地に緑色のラインのチェック柄のベストが上半身をキツく拘束した。
足に黒い安物のパンプスを履けば、これで「女囚」の出来上がりだ。
女達は、まるで同じ金型と同じ規格で作られた人形の様に、全員が同じ姿をしていた。
「もしかすると、身体の何処かに、みんな、シリアルナンバーが記載されていたりして。」
私は心の中で、そう呟きながら、自分の安物のパンプスをじっと見つめた。
カタカタカタ。
オフィスにはキーボードを叩く音だけがこだまする。
全員が表情の無い顔で、パソコンの画面を見ながら、一心不乱にキーボードを叩き続ける。
私達「女囚」を監視するかの様に、最もオフィスが見渡せる場所に女上司の机がある。
黒いスーツ、ハイヒール、ネックレス。女帝は、高いブランド物を身に纏い、事務椅子という玉座に座り、鋭い眼光で女囚達を監視した。
女帝の威厳と恐怖が、私達を支配していた。
同僚が一人、女帝の前に呼び出された。
その子は、背筋を伸ばし、両脚をしっかりと付けて、両手を後ろで組むと、怯えた表情で俯いて、自分の安物のパンプスを見つめていた。
玉座に座る女帝の切り刻む様な言葉の嵐が彼女の身体を容赦なく叩いた。
「ちょっと、何これ?!間違えてるじゃないの!」
女帝が言う。
「申し訳ありません。直ぐにやり直します。」
彼女は、か弱い小さな声で返した。声が震えていた。
女帝は私達「女囚」全員に聞こえるように切り出した。
「あんた達の作業は、この書類の文字を、一言一句間違えない様に、正確にコンピューターに入力する事でしょ!」
「どうせ、どうでも良い事を考えながらキーボード叩いてたんでしょ?」
「あんた達は、ただ言われた事だけやってればそれで良いのよ!余計な事は考えるな!」
そうよ、そうだわ。私達は人形、機械仕掛けの人形。同じ金型で製造され、同じ制服を身に纏い、同じ安物のパンプスで足を隠す。
自分では行き先を決められない。哀れな人形。
「私のシリアルナンバーは何番?」
私は自分に聞いてみた。
すると女帝は、動かないその子に続けて言った。
「あんた達みたいな、使えない、役に立たない、下っ端のダメOLの代わりなんて、そこら中に、うじゃうじゃいるんだからね!自分の仕事失いたくなければ、死ぬ気でキーボード叩け!」
私は、ハッとした。
ボールペン、ハサミ、セロハンテープ、そうよ、そうだわ。私達は備品、備品なんだわ。
取り換えができる、簡単に買い換えができる、そうよ、備品なんだわ。
消耗品なんて、良い様に使い捨てればいい。無くなったり、壊れたりしたら、発注すれば、事足りる。
惨めな消耗品達は、女帝の前に立たされた子の姿が見えていないかの様に、ただひたすら黙ってキーボードを叩き続けた。
女帝は最終判決を、立っている子に宣告した。
「あんたには躾がいるね。制服脱いで裸になりなさい。」
その子は、はっとして顔を上げた。恐怖に怯えた顔。
「聞こえないの?さっさと脱げ!」
その子は慌てて制服を脱ぎ始めた。ストッキングもパンプスも。あっと言う間に、白いブラジャーとパンティーだけになった。
それから、また背筋を伸ばして、両脚をしっかり付けて、両手を後ろで組んだ。
両目から大量の涙を流し、ひっくひっくとしゃっくりしながら、泣きはじめた。
女帝は彼女の胸を触り、その手を今度は、パンティーにまわした。
「さぞや立派に生えてるんでしょうね?」
女帝の問に彼女は答えず、ひっくひっくと泣いている。すると女帝は。
「生えてるのか、生えてないのか聞いてるんだ!」
女帝の雄叫びに彼女は大きくびくっとなって、震える声で。
「生えてます!」
と答えた。
女帝は手でゆっくりと彼女のパンティーを掴むと、それを引っ張りパンティーの中を覗いた。
彼女の股間には、満々と陰毛が蓄えられていた。
備品達は怯えながらキーボードを叩き続けた。
私は選択した。備品として、或いは、消耗品として、廃棄処分になる方が良いか、女帝の拷問を受ける方が良いか。
惨めな消耗品達は、何も起きていないかの様にキーボードを叩き続けた。
あの子は、ひっくひっくと泣き続けた。
「鳥籠」
チン。
エレベーターの扉が開く。
私は腕を曲げて手で合図した。
「シタヘマイリマス。」
定めらイントネーションと、定められたトーンで声を発する。私達は、そう訓練されている。
チン。この音。
それは私達にとって「パブロフの犬」の鈴。
チン。反射的に身体が動く。私達には、そうプログラムされている。
お客様は誰も来ない。私はくるりと向きを変え、エレベーターに乗ると扉を閉めた。
この上下に吊るされ、吊り上がり、吊り下がる鳥籠には鏡がある。
私は鏡の中の自分を見つめる。
黄色い鍔広の黒いリボンの巻かれた帽子。白い襟付きの黄色い長袖のワンピース。ワンピースの袖口には白いカフスが着いており、ワンピースの前面の左右には、上から下まで黒いラインが走っている。
腰に巻いた黒い革のベルトが私の身体を捕らえて離そうとしない。
私は白い手袋をはめた手を上げて合図を送る。
「コノカイハ、シンシフクウリバデゴザイマス。」
誰もいない鳥籠の中で、私はテープに録音された音声の様な無機質な声で話した。
私達は、誰かいるいないに関わらず、音声を発する様に調教されている。
背筋をピンと伸ばし、ストッキングと黒いパンプスを履いた脚の左右をきちんと揃える。
私達は笑顔を浮かべる様にプログラミングされている。心で雨が降っていても、表情は笑う様に調教されているのだ。
私達に「違い」は必要なかった。同じ表情、同じ髪型、同じいでたち、同じ動作、そして、同じ声。
エレベーターの壁には、おしゃれなポスターが掲示してあった。そのポスターが、殺風景で機械的なこの鳥籠の中を、色鮮やかに光で照らしていた。
私はチラリとポスターに目をやった。生き生きとした男女。おしゃれな服、自由。
私は鏡の中の自分に聞いてみた。
「ねぇ、本当の私は何処?」
チン。
紳士服売り場だ。
降りる人は誰もいない。乗る人も誰もいない。
それでも私は、インプットされた情報通りに動いた。
扉が閉まり、鳥籠が下へと降りる。
私は意を決してプログラムの命令に、少しだけ叛逆してみた。
首を傾けて下を向く。良く磨かれたパンプスが鈍い光を放っていた。
誰もいないエレベーターの中で、私はプログラムに従い、条件反射の支配に従って、声を発し、身体を動かした。
下を向いた事に罪悪感を感じた。命令に背いた事への罪悪感。
私は思った。
「罪悪感?そうなの?私はまだ人間なんだ。」
完全にロボットになれたら、そんな罪悪感なんて気にもならなかったのに。バカな女。
チン。
「イッカイ、フジンフクウリバデゴザイマス。」
無機質な声、録音テープの音。
降りる人は誰もいない。乗る人も誰もいない。
私は腕を曲げて、白い手袋の手で合図した。
コツン、コツン。パタ。
パンプスが床を打つ。私はくるりと向きを変えて鳥籠に入った。
扉を閉めようとする。
「シタヘマイリマス。」
エレベーターは地下へと沈んで行く。黄色い帽子の鍔が、微かに揺れた。
「ねぇ、私は誰?」
「The Ranch」
理想の惑星(地球)を見つけたので本国に報告する。
この惑星の人類という生命体は、効率よくエネルギーを採取する事が可能な、良い供給源となり得る。
人類には二種類が存在し、一つは子孫の種を与えるものと、もう一つは種を培養養育する袋を持つものの二種類だ。
袋を持つものを雌という。
ここで一つ注意して貰いたいのが、必ず雌を選択する事である。
雌は雄に比べて、身体的および精神的に耐性があり、外部からの衝撃に強いという事。
雌を選ぶ際には、若過ぎず、また、年寄り過ぎない、均整のとれた年齢のものを選ぶと良い。
効率よく雌を狩る方法として「会社」というシステムを構築すると良い。
毎年、同じ様な季節に同じ様な姿をした雌達が、このシステムに群れを成す習性が確認できた。
この習性を「就活」という。
会社というシステムは、雌達の「労働力」を採取し、その見返りとして「給料」という餌を与えるというものだ。
労働力は長過ぎず、短過ぎず、この惑星の時間で8時間分だけを採取する事。
給料は、多過ぎず、少な過ぎない分量を与える事。
これらの均整が崩れると人類は故障する様にできている。
次に「面接」という検査をする事。ここで注意して貰いたいのは、雌達が、労働力の提供に対して、高い志しや使命感を持った者は避ける事。そういった雌は壊れやすい。
雌は、「楽、適当、安定」という概念を持つ者を重視する事。そうすれば、こちらの指示だけの範囲で動く。
つまり、言われた事だけをこなす者を選ぶ事。そうすれば、雌は我々に従順になる。
雌の選別が完了したら、次は雌に「制服」というものを身に着けさせる事。これにより、雌を精神的に均一な状態にして支配できる。
労働力を如何にして採取するかといえば「業務」と呼ばれる運動をさせる事。この場合、過酷でも穏やかでもない、ちょうど良いレベルのものを行なわせる事。
雌達に、この惑星の文字を、ただ淡々とコンピューターへ入力させると良い。この惑星のコンピューターは、実に原始的な構造をしており、今だに指を使い入力する。
この運動を、毎日、同じ時刻から始め、同じ時刻に終わる様に設定する事。時刻を過ぎて運動させると「残業代」という追加分の餌を与えなければならなくなるので注意してほしい。
時折、雌達を調教すると良い。この惑星では「社内教育」という。
言葉使いや、マナーといった倫理を習得させる。また、人類は「お辞儀」という仕草でコミュニケーションを図るので、お辞儀を身に着けさせる事。
会社システムには「社訓」という、このシステムが目指すものを記したものがある。
この社訓を毎日雌達に朗読させる事。繰り返し叩き込む事で、脳神経レベルで、我々のイデオロギーに従わせる事ができる。
雌に対して、身体的及び精神的な苦痛を与えない事。
苦痛を与える事で、雌を保護する法律が発動して、会社システムに打撃を与える様になっている。
この、身体的、精神的な苦痛を与える行為を「ハラスメント」という。
この惑星の雌を飼育する際は、このハラスメントを与えないように注意する事。
雌は「嫉妬」という、我々が理解できない精神的行動をとる事がある。大抵が、雄絡みの事が原因で起こる。
そこで、なるべく組織内でのコミュニケーションを業務に差し支えないレベルに保ち、秩序を維持すると良い。
人類は労働力を提供し続けると、体内に疲労物質が蓄積する。これは、雌も例外ではない。
この惑星の会社では、会社にもよるが、一年に一度程度「健康診断」と呼ばれる、破損箇所の確認を行うので、それを利用して疲労物質を採取すると良い。
以上の様なシステムを用いて、雌を効率良く支配して飼育すれば、大量の疲労物質を採取する事が出来る。
まさに理想の「牧場」である。
以上、報告を完了する。
「泥の人形」
深く狭い塹壕で、彼女達は、突撃の合図を待った。塹壕の地面は、彼女達自身の大便や小便、そして、雨水で、激しく泥濘んでいる。彼女達は全身汚れながら、銃剣付きの歩兵小銃を構えて待機していた。たくさんの女子兵達が、緊張と恐怖で嘔吐したり失禁したりしている。一人の女子兵が「死にたくない!死にたくない!」と言いながら、突然、カビた泥の着いたパンを貪り食い始めた。
戦争が始まり二年もしないうちに、男が足りなくなった。国は強引に女どもを徴兵し、かき集めた。上は60歳から下は13歳まで。女どもに充てがう軍服がなかったために、取り急ぎ代わりになるものが用意された。女学生用のセーラー服だった。老いも若きも、黒い長袖のセーラー服を着て、裾の位置が膝と足首の中間辺りにある黒いスカートを履いた。両脚を厚めの生地の真っ黒なタイツで、素肌が見えない様に、しっかりと覆った。足には黒いローファーを履いている。セーラー服の襟元に、黒い地の色に横に一本幅が広い赤いラインが入ったネクタイを巻いている。セーラー服の襟には、赤いラインが三本入っており、手首にも赤いラインが二本入っていた。頭を保護するために、カーキ色のブロディヘルメットが支給された。女どもは、それをしっかりと深く被った。彼女達は荷物の全てを、大きなカーキ色の布袋に詰めて、それを身体に斜めに袈裟懸けした。一人一丁ずつ、歩兵小銃が与えられた。
塹壕近くに砲弾が着弾し、激しい轟音とともに、大量の土が女子兵達に降り注ぐ。すると、何人かの女子兵は、「ぎゃーっ!」と泣き叫びながら錯乱してしまった。一人の女子兵が恐怖の余りうずくまり、ガタガタ震えだした。隊長が、その女子兵の胸ぐらを掴み、無理やり立たせ、平手打ちをくらわせた。「怖いのは全員一緒である。」と言い聞かせた。一人の女子兵が、上官に、突撃までの時間を聞いた。「5分後である。」旨を確認すると、突然しゃがみ込み、塹壕の地面に向かって、激しく大便を垂れた。下痢をしており、非常柔らかく、どこまでが泥で、どこまでが大便かが分からないぐらいだ。もう一人の女子兵が、それを見て、笑いながら唾を吐いた。
突撃開始の笛が鳴った。女子兵達が順番に塹壕の壁に掛けられたハシゴを登っていく。もたついている子に「さっさと登れ。」と歳上の女子兵が背中を強く押した。上官が女子兵達に「勇気を出して、元気よく!」と声をかけた。
全員が銃剣付の歩兵小銃を前に突き出して構え、ゆっくりと前進する。敵の塹壕の方角から、機関銃や小銃の弾が、ヒュンヒュンと、嵐の様に飛んでくる。前進する女子兵達の目は、大きく見開いている。ある者は胸を、ある者は腕を、またある者は脚を撃たれ、バタバタ倒れていく。その倒れている仲間を乗り越え、また、死体となった仲間を踏み付けながら、女子兵達は前進する。
ある所まで前進すると、敵の中距離砲の砲弾が着弾し始める。激しい爆音と火炎とともに土が女子兵達に降り注ぐ。砲弾の餌食となった女子兵の身体が粉々になって飛び散る。女子兵達は、その場に腹這いなり、わずかな距離を恐怖で怯えながら、銃を持ちながらも、四つん這いで前進する。
「今だ、いっせい突撃!」と言わんばかりに、上官が手で合図する。すると、残りの女子兵達は立ち上がり、銃を構え、目を見開き、口を大きく開き「やーっ!」と叫びながら全力疾走し始めた。敵の銃弾の嵐と雷鳴が、草より脆い女子兵達を容赦なく貫いていく。バタバタと折り重なり、戦場は死体の海と化していく。取るに足らない使い捨ての消耗品達は、か弱さを隠す様に叫びながら全力疾走した。ある者は泣きながら、ある者はよだれを垂れながら、泥濘んだ戦場の泥の中を、雨水の溜まった穴を越えて、敵の塹壕の手前、鉄条網の森に近づいた。
次々と撃たれる女子兵達は、まるで、風に飛ばされた紙切れが、木の枝に引っかかる様に、鉄条網に倒れ、引っかかり、ぶらんと垂れ下がった。余りに大量の消耗品達がぶら下がったので、鉄条網に突破口ができるほどだった。生き残りは、ぶら下がり、死んでいる仲間を利用して、死体を遮蔽物にしながら、鉄条網の間をすり抜けて行く。
鉄条網の突破口から、女子兵達が、敵の塹壕にいっせいに飛び込んだ。敵も同じ様に女子兵だった。彼女達はもみくちゃになり、銃剣で突いたり、突かれたりした。ある者は胸を、ある者は尻を突かれ、塹壕の中で、敵と味方の区別がつかないほど折り重なり倒れ、転げ回り、のたうち回る。その様は、まるで、肥溜めの中で、蛆虫が、ゆらゆら蠢くようだった。ある女子兵は、死んでいる敵の女子兵を、何度も叫びながら、小銃で殴り続けた。
どれくらいが経過したか分からない。辺りが静まり返る。果てしなく続く死体の海原。血、泥水、汚物…。司令部に敵の陣地を陥としたと連絡が入る。1キロメール前進。幹部達は、「たった1キロか。」と不満を漏らした。司令部が忙しくなる番だった。消費した消耗品や壊れた消耗品を確認する必要がある。誰かが言った。「在庫が足りない、補充するように。」と。そして、また大量の消耗品が、狩り集められる。
生き残った女子兵達は、戦場近くの村にあるキャンプに戻ってよい事になった。傷付いた者は手当てを受けていた。全員が、疲労し、腹を空かせ、ふらふらとしていた。パンが配給された。女子兵達は、パンの山にいっせいに飛び付き、素早く分捕ると、地面に倒れ込み、必死にパンを貪り食った。順番にシャワーを浴びる様に言われた。女子兵達は村人の視線など気にする事なく全裸になり「キャッ!」と言いながら、上官の監視下でシャワーを浴びた。村の地面に泥だらけの人形が落ちている。
「嘲笑」
暗い下水道を抜けて、仄かな光が射し込む様に、そっと目を開ける。午前5時半。私は目を覚ました。薄暗い半地下の台所の壁は、所々に黒い染みが付いている。壁が冷たく私に言う。「さっさと起きろ。さぁ働け。」と。ひび割れた床と天井を一通り見渡すと、私は、台所の狭い一角にある錆びた粗末な硬いベッドから起き上がった。このベッドが私の寝室だ。
とある良家の娘がいた。しかし、父親が事業に失敗し、そのまま亡くなった。3人の娘が残された。上2人の姉は行方をくらませた。末の娘が1人残された。彼女は高利貸しから借金をして、父親の負債を返済した。高利貸しは、末の娘に「働いて返済するか、債務不履行で刑務所にいくか。」の選択を迫り、末の娘は働く事にした。
高利貸しは、とある金持ちの屋敷の小間使いの職を末の娘に紹介した。屋敷の女主人は人使いが荒い事で有名だった。この職は住み込みであった。末の娘の寝室は薄汚い半地下の台所の一角にある錆びた粗末なベッドだけ。屋敷のトイレと風呂は使用禁止だ。彼女はこのベッドのそばで壺に排便し、盥で身体を洗った。彼女の食事は、女主人の食べ残しである。
私は制服に身を包んだ。黒いUネックの長袖のワンピースタイプの制服。両腕の袖口に白いカフスが着いている。制服の前面を隠す様に白いエプロンを着ける。両脚は真っ黒なタイツで素肌を完璧に隠す。ゴツゴツした紐付きの革靴を履いてベッドから立ち上がると、壁にある小さな鏡の前に立つ。じっと自分を見つめる。頭にコロネットキャップを巻いた。
彼女の一日は朝6時から始まり、夜3時に終わる。一日21時間の労働をこなした。休日は無かった。時給は15ペンスだ。彼女の給料は、家賃、食費、制服の貸与費、そして、高利貸しへの返済分。残りが彼女の手取りとなる。
朝から晩まで立っていられるのがやっとなくらいに働いた。女主人の食事のお世話。洗濯。掃除。屋敷の床を丁寧にモップ掛けする。それでも落ちにくい汚れや隅の方のホコリは、四つん這いになって雑巾を使い手で磨く。
女主人にお茶を運ぶ。「お茶をお持ちしました、奥様。」大きな声で元気良くハキハキと声を出す。「ありがとう。置いといてちょうだい。」と女主人が言う。「はい、奥様。」そう言うと私はテーブルにお茶を置く。「おつぎ致しますか?」私が聞く。「えぇお願い。」と女主人が冷たく答えた。満面の笑顔を浮かべて、私はお茶をつぐ。この「大きな声」や「笑顔」を作り上げるのは大変だ。傷付いて汚れた衰弱した心を奮い立たせるには、大変な努力が必要になる。女主人の機嫌を損ねたら一巻の終わりだ。背に腹は代えられない。「他に何かお申し付けは御座いますか?」私が聞く。女主人は「無いわ。お下がり。」と冷たく答えた。この「無いわ、お下がり。」は「屋敷中をピカピカに磨きあげろ。」という暗号だ。私はくるりと向きを変えると居間をあとにした。コツコツコツ。革靴の音が虚しく廊下に響く。
月に一度、高利貸しが屋敷に来て、私の仕事ぶりを監督しに来る。「逃げようなんて考えるなよ。刑務所行きだぞ。」そう言うと、諸経費を差し引いた残りの手取り分を私のベッドに投げ捨ててさって行く。私はこのネズミの心臓よりも小さな額の小銭をかき集め、急いで手取りを貯金してあるジャムの空き瓶に入れた。
女主人にとって、この小間使いは、非常に使い勝手が良かった。なにより、低賃金で長時間働かせる事が出来る召使いは魅力的だ。
ある日、女主人は靴を履き替えるので、今履いているものとは別の靴を持って来るよう私に命じた。跪き、女主人の右足に靴を履かせる。次に左足。すると女主人は左足の足の裏を、私の顔面に押し付けた。足の裏が私の鼻をグイグイと押す。私は目一杯笑顔を作った。女主人は楽しそうに笑った。
女主人はしばしば私に躾(せっかん)をした。制服を脱ぎ、裸になる。女主人は、私に居間の壁側を向くように命じると、硬く冷たい鞭で、私の背中を何度も打った。
躾が終ると、私は笑顔で「有り難う御座います、奥様。」と答えた。機嫌を損ねたら一巻の終わりだ。女主人は満足そうに煙草に火を付けた。
私は常に、全身の力を込めて笑顔を作り、がむしゃらに働き続けた。「自分には住む場所がある。」「食事にもありつける。」そう自分に言い聞かせて。私は、働ける事を神に感謝しながら、今日も屋敷の床を磨く。
錆びた粗末なベッドが私を嘲笑った。
「Sales performance」
午前二時。私は居酒屋の一番奥の席に座り、一人ポツンと酎ハイを飲んだ。
人を待っている。
すると、誰かが私の前に立った。私は顔を上げた。
真っ白なワンピースに白いサンダル。黒くて長い髪、透き通る様な肌、芳醇な胸と唇。黒い瞳の中に私の姿が映る。
少女だ。歳は17か18ぐらい。
彼女は静かに私の向かい側に座った。私は息を飲んだ。
「で、誰をやればいい?」
彼女は、にっこり笑って私に聞いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「全く使えねぇなぁ!」
怒号がオフィスの空気を切り刻んだ。
「てめぇみてぇな使えねぇ穀潰しの代わりなんざ、ゴロゴロいるんだからなぁ!」
今日もいつもの調子だ。
「さっさと見積もりし直せよ!給料泥棒が!」
もう何年目だろう。我ながら良く耐えていると関心する。私は何しにここに毎日出勤している?怒鳴られるのが私の仕事か?
同僚も、後輩も、先輩も、まるで何も見えないかの様に椅子に座り、カチカチカチカチとマウスをダブルクリックしている。
二人の女子社員が、顔を見合わせクスクス笑っている。
もう限界だ。私の心は音を立てて崩れた。それはもう、全く途切れる事のないドミノの様に。
バタバタバタバタバタバタバタバタ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は少女に課長の自宅住所の書いたメモを渡した。
毎年欠かさず年賀状を送っているから、住所は直ぐに分かった。
一度も返る事のない片道切符の年賀状。
少女は静かに、私に問いかける。
「家族はいる?奥さんとか、子供とか?」
私は答えた。
「いるよ、奥さん。子供は一人。」
すると彼女はこう提案した。
「じゃあ、課長の奥さんも子供もやっちゃおうよ。スッキリするよ。奥さんは専業主婦?子供は何歳?男の子?女の子?」
私は彼女に、課長の奥さんは専業主婦であり、子供は男の子、小学三年生である、と、伝えた。
彼女は無邪気に答えた。
「課長クラスなら100万。専業主婦なら60万。子供は10万かな。計170万ね。工賃込みで、この価格はお得よ。どうする?」
私は決めた。
「じゃあ、三人とも、やってくれる?」
私は恐る恐る彼女に依頼した。
「じゃあ決まり。この口座に振り込んどいてね。いつやる?」
彼女は口座番号の書かれたスマホの液晶画面を私に見せた。
「いつでもいいよ。出来ればこれくらいの時間帯が良いかな。いつも残業してるし。残業代は付かないけどね。」
私は酎ハイを飲み干した。
「了解。じゃあ、交渉成立。」
そう言うと彼女はゆっくりと立ち上がり、居酒屋をあとにした。
彼女の姿が、夜の繁華街の雑踏の中に消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
8月15日(金)午前二時。
約半月経った。
照明が落とされた暗い誰もいないオフィスで、私はパソコンに向かって見積もりを作成していた。
「半月か。」
私はそっと呟いた。
壁に掲示された営業成績のグラフ達が、私にガヤガヤ語り掛けた。
「良く我慢したな。まぁ、肩の荷物を降ろせよ。」
と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
8月15日(金)午前二時。
私は、お気に入りのワンピを着て、課長の自宅にやって来た。大きなスーツケースを持って。
「このドア楽勝。この鍵なら簡単に破れるね。」
私はお邪魔させてもらうと、部屋を一つずつ周った。
夫婦の寝室にそっと入ると、課長と奥さんの頭に22口径を撃ち込んだ。次に二階の子供部屋に入り、男の子にも22口径をプレゼントした。
それから、三人の衣服を、商売道具のハサミやカッターナイフで切り裂いて、全員を全裸にした。
一階のお風呂場に三人を運ぶ。
スーツケースから、良く斬れる万能枝切り鋏を取り出すと、三人を、両腕、両脚、頭、の順で切り離した。
まだ生温かい鮮血が、お風呂場の白いタイルを赤く染めた。
「綺麗ね。」
そう心とお話しながらバスタブに三人を放り込んだ。
スーツケースからビンを取り出すと、私は三人のバラバラになった身体に硫酸を振り掛けた。
白い煙がお風呂場の天井を這った。それはうっとりとする光景だった。
何人も逝かせてきたけれど、この瞬間がたまらない。この仕事の美学は、この瞬間に凝縮されている。
私はこの悦楽の時を、いつまでも、じっくりと味わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
日が昇り、オフィスに出社し直すと、何やら慌ただしい雰囲気だった。
課長が出社しておらず、連絡が付かないというのだ。
私は身体の力が抜け、自分の椅子に、倒れない様に、ゆっくりと座った。
「終わった、終わったよ。」
壁の営業成績のグラフ達が、私を励ました。
「良くやった。良くやった。」
と。
相変わらずオフィスは騒がしかった。
私の闘争は終わった。私の魂は解放された。
真夏の太陽光線が、摩天楼を照らした。
「濡れ衣」
薄暗く冷たい、コンクリートが剥き出しの、硬い廊下を、私は、二頭の女性看守に、腕を捕まれ、引き摺られながら尋問室に運搬されて行く。
「痛い!離して!私はやってない!」
二頭の女性看守は、私の訴えを、片耳で聞きながら、もう片耳から、聞き流した。
私は容赦なく、尋問室へと運搬されて行く。市場で競り落とされた家畜の様に。
ある日のこと。屋敷の主人は私を居間に呼び出した。
私は、背筋をピンと伸ばし、両脚をしっかりと付けて、両手を後で組むと、長年身体に染み付いた習性と条件反射に従って、満面の造り笑顔を浮かべて、主人の前に立った。
「私の指輪が無いの。何処にやったか知らないかしら?」
主人は冷たい声で、私に聞いた。
「いえ、存じ上げません。」
私は答えた。
この場合、私には絶妙なバランスが求められる。先ず、主人の機嫌を損ねない様に、召使いとして、目一杯の造り笑顔を形成しつつも、指輪が無い事への共感を演出する為に、困った口調と表情も作らねばならない。
口角を吊り上げ、歯を見せて微笑みながら、少し眉毛を斜めにして、困った眼差しを組み立てる。
これが、長年、地べたを這い蹲りながら、ひたすら従順に奉公してきた、私の生き残りの為の技術だ。
「そう。じゃあ、仕方ないから、警察を呼んで頂戴。」
召使いが濡れ衣を着せられるのは、良くある話だ。
私は「あぁ。また始まったか。」と思い、屋敷の電話で警察を呼んだ。
過去に何度かあった話だ。これで何度目だろうか?
警察が来て、私の荷物や部屋を徹底的に調べ、その後に、警官と主人が監視する中で、丸裸にされ、身体の穴という穴を調べられる。最後に主人が、亡くした物の在り処を思い出して終る。
これがいつものルーティーンだ。
キンコーン、コンコン。
玄関のチャイムがなり、ドアをノックする音がした。警察だ。
私は主人に見えない様に、ため息を一つ付くと、警官達を屋敷の中に案内した。
男性の刑事が一人と女性の警官が二人。全員で三人だ。
屋敷の主人が、事の顛末を説明して、早速捜査が開始された。いつもの調子で。
先ず、私の部屋の捜査と私物の検査だ。と言っても、私は何も持っていない。地下の湿っぽくカビ臭い私の部屋には、錆びた硬いベッドが一つ。私物は、疲れてくたびれた革靴だけ。
貧しく、取るに足らない、社会の底辺を這い蹲りながら生きている様な私が、私物なんて持ってる訳がない。
捜査はあっと言う間に終わった。だが、この日は少し違った。
「失礼ですが、この子をお借りできないでしょうか?署で詳しく調査したいのですが?」
男性刑事が主人にそういうと、主人は、あっさり許可した。私はこの主人の私物に過ぎず、簡単に取り引きや交換の効く日用品に過ぎない。
私は警察署に連行された。
車が到着したのは警察署ではなかった。
コンクリートの高い壁。有刺鉄線。監視塔。刑務所だ。
私の全身から滝の様に大量の冷や汗が出た。全ての毛穴から。いつもとは完全に違う。
私は二頭の女性看守に引き摺られて、尋問室に向かう。
私はほとんど無意識に、動物としての生存本能に従って、腹の底から声を上げた。
「私はやってない!」と。
廊下の突き当たりに尋問室の扉があった。鋼鉄の扉が私に挨拶した。「生と死の狭間へようこそ。」と。
ギィーッ、と、扉が開くと、二頭の女性看守は、私を尋問室に放り込んだ。
冷たく硬いコンクリート製の床と天井。壁には、所々に黒い染みがある。壁の高い位置に鉄格子の小さな窓があり、僅かに外の光が射し込んでいる。
ふと見上げると、貫禄のある、中年の女性看守が一人立っている。看守長だ。
私は看守長に全身の力を込めて訴えた。
「私は奥様の指輪を盗んだりなんかしていません!お願いです!信じて下さい!」
すると看守長は、私に近付き、私の頬に平手打ちを食らわせた。
「黙れ!それをこれから調べるんだ!」
看守長は、まるで地獄の魔王の様な声で、私を怒鳴った。
私の片方の鼻の穴から、生温かいものが、ゆっくりと流れ出た。鼻血だ。
「服を脱げ。どうした?聞こえないのか?もう一度、打たれたいのか!」
私はビクッとなって、慌てて、着ている召使いの制服を脱ぎ始めた。ひっくひっくとしゃっくりして泣きながら。
頭から順番に、白いコロネットキャップ、白いエプロン、そして、袖口に白いカフスの付いた長袖の黒いUネックのワンピースタイプの制服を、脱いでいった。
すると看守長が、おかわりを要求した。
「誰がそれで満足すると言うのだ?靴もタイツも脱げ。シミーズもブラジャーもパンティーもだ。何してる?さっさとしろ!!」
私はまたしてもビクッとなった。思わず失禁しそうになったが、何とか堪えながら、残りのものを脱いでいった。
黒いくたびれた革靴を、黒いタイツを、白いシミーズを、白いブラジャーを。
最後に、白いパンティーを脱ごうとすると、看守長は、待ち切れなくなり、私のパンティーを片手で引っ張り、下へ下げた。
股間が露わになった。
満々と蓄えられた陰毛。看守長は、それを見て、ニヤリと笑った。
看守長は、私に、気を付けの姿勢で、まっすぐ顔を上げる様に命じると、部下の若い二頭の女性看守を呼んだ。
私は背筋をピンと伸ばし、両脚をしっかり合わせ、両腕をシャンと下に伸ばしながら、ひっくひっくと泣き続けた。
二頭の女性看守が、私の、両耳の穴、両方の鼻の穴、そして、口の中を調べた。
「何も確認できません。」
二頭のうちの一頭が、看守長に、そう報告すると、看守長は、私に、四つん這いになるよう命じた。私は、ひっくひっくと泣きながら、急いで命令に従った。
もう一頭の女性看守が、ゴム手袋をはめて、私の肛門めがけて、手を突っ込み、穴の中を弄った。中が見えるように、もう一頭の女性看守が、懐中電灯で、肛門を照らした。
二頭の女性看守は、首を振った。
すると看守長は、尋問室の片隅にある、古い事務机の上に仰向けになり、両脚を、大きく開く様に、私に命じた。
私は、相変わらず、ひっくひっくと泣きながら、急いで命令に従った。
ほとんど正気を失った私に一頭の女性看守が近付き、ステンレス製の器具を、私の膣に挿入した。器具は冷たく、硬い。女性看守は、器具の持ち手を広げると、それに伴い、私の膣が、大きく開いて、穴が見えた。もう一頭の女性看守が、懐中電灯で穴を照らす。何もない。
看守長は、大きくため息を付くと、二頭の女性看守に、私を、別の部屋へと連行する様に命じた。またしても、私は、引き摺られていった。ひっくひっくとしゃっくりして泣きながら。
私は全裸のまま、独房に放り込まれた。全面コンクリート製、鋼鉄の扉、小さな鉄格子の窓。独房の床を、一匹のゴキブリが這っている。
看守達は、私にステンレス製のバケツと古い新聞紙、それから、錠剤を渡した。
「錠剤を飲め。暫くすると便意を催す。そうしたら、バケツに排便しろ。尻は新聞紙で拭け。」
そして、扉は閉められた。バタンッ。
いくら調べても無駄。私は指輪を盗んでなんかいない。身体の中に隠すわけがない。そもそも盗んいないのだから。
それでも私は、言われた通り、下剤を飲み、便意が込み上げるのを待った。暫くすると、腹がゴロゴロしてきたので、私はバケツに跨り、勢い良く、大便を垂れた。尻は新聞紙で拭き取った。
何時間が経過したか分からないが、忘れかけた頃に、独房の鋼鉄の扉が開いた。看守達は、バケツに入った私の排泄物を回収した。そして、また暫く待たされると、再び鋼鉄の扉が開いた。
二頭の女性看守が、私を無理やり立たせ、看守長を先頭に、別の部屋へと、私を連行した。引き摺るように。
広い空間に連れてこられた。お風呂場だ。
私は恐る恐る看守長に聞いた。
「看守長様、指輪はありましたか?」
すると看守長は、私の首根っこを引っ掴んで、お風呂場の大きな浴槽にはられた水の中に、私の頭を押し込んだ。
「指輪は何処だ!言え!」
水から頭が引き揚げられる。ゴホゴホと咳き込みながら、私は口から水を吐き出した。
「知りません!やってません!」
私は必死に訴えた。すると看守長は、再び私の頭を水に沈めた。
「盗んだと言え!」
これが何度も何度も繰り返された。私の意識は遠のいた。
気が付くと、私は、尋問室の床に力なく転がっていた。丸太の様に。
看守長が入ってきた。鋼鉄の扉が、ギィー、と開き、バタン、と閉じた。
私は服を着ていた。黒い制服。他のものは身に着けてはいなかったが、それでも、いく分かはましだった。「これで助かる。」そう思った。
しかし、私の儚い希望は、脆くも打ち砕かれた。
看守長は、私の顔面を、何度も殴った。時々立たせ、腹も殴った。私が床に倒れると、硬い革靴の足で、何度も私を蹴り、踏み付けた。
私の目の周りは青くなり、両方の鼻の穴から鼻血が流れ、鼻はひん曲がった。顔が歪み、口から血を流した。私の意識は遠くなった。
「どうして、こんな事を、私は、やってないのに。」
蚊の鳴く様な声で、看守長に、質問した。
「お前が、主人の指輪を盗んだか、盗んでないかは、どうでも良い。今月は、あと一人、犯罪者を創り上げれば、ノルマは達成できる。悪いが協力してくれないか?やったと言えば楽になれる。」
私は、この果てしない暴力の楽園から抜け出したい一心で「はい、やりました。」と答えた。この苦しみから脱出できるならば、服役した方が楽だ。
自白に成功した看守長は、上機嫌だった。部下の女性看守は、調書に、私が指輪泥棒である旨を記録した。
私は尋問室の床に倒れ、全身の力が抜けた。私の脚の間から、温かいものが流れ出た。
私は、思う存分、失禁した。
「Occupation」
周りの子達が始めたから、ただ、何となく私も「始めなきゃなー。」って思って、就活開始。
シャツ、スカート、ジャケット、鞄、ストッキング、そして、パンプス。
これ、全部セットで五万円。安い。バイトで貯めたお金で、余裕、余裕。
私は、安物就活セットに身を包み、会社説明会やセミナー、そして、面接を受けた。
安物に身を包んだ、安っぽい存在。それが私だ。
私の希望は「楽と安定」だ。ただ何となく出勤して、何となく適当に仕事して、何となく安くもなく高くもない給料を貰う。それが私の仕事観だ。
勿論、面接でそんな事言える訳がない。「御社の将来性が。」とか「社会的使命を。」とか、もっともらしい事を満面の造り笑顔で答えとけば、楽勝、楽勝。
超売り手市場だから、すんなり内定ゲット。
私は決められた始業時間から終業時間まで、ただ与えられた業務を、ただ言われた事だけを、ほどほどの労力でこなした。
「OL最高。」適当にやってれば、それで良いんだから、こんな楽な商売はない。
私は窮屈な制服で身体を締め上げると、パソコンに伝票をひたすら入力した。
カタカタカタ、カチカチカチ。
同僚も先輩も、みんな、同じ様な髪型、同じ制服、同じ様な安物のパンプスを履いて、パソコンとにらめっこしている。
端的に言うと、私達の仕事って、伝票入力マシーンになる事。朝から夕方まで、ひたすら入力作業。楽だけど単調。ディスプレイ、マウス、キーボード、と、私。
周辺機器な私。
今日も良い天気。会社の屋上でお弁当を食べた私は、浮腫んだ脚を、パンパン叩いた。そして、何となく、片足のパンプスを脱いでみた。
ストッキングの足先が汗でほんのり黒ずんでいる。パンプスの中を覗くと、靴底も、汗でほんのり黒ずんでいた。
私は、そっとパンプスの臭いを嗅いでみた。
「臭っ!」
何やってんだろ、私。
就活の時に買ったパンプス。別に買い換えても良いけど、もったいないから、履き続けよ。
オフィスに戻ると、貴方は仕事が早いから、この伝票も、入力お願い、と、上司が私に伝票の束を渡した。
「はい!喜んで!」
あぁ、残業決定。私の気楽なOLライフが妨害される。
夜8時、作業終了。
「さて、帰ろうっと。」
私はエレベーターで二階にあるロッカールームに向かった。
ガタン!ガガガッ!
エレベーターが止まった。
「マジかよ!」
私は緊急ボタンを押したけど、全く動かない。私はどっと疲れた。そして、エレベーターの壁にもたれて、体育座りをして、顔を伏せた。
少し時間が経った。私は顔を上げて、エレベーターの天井に目をやった。天井に通気口。
私は立ち上がり、両足のパンプスを脱ぐと、勢い良くジャンプして、通気口の蓋を手で押してみた。通気口が開いた。
私は、パンプスを通気口に軽く投げて、それから、もう一度、勢い良くジャンプした。通気口に手が届いた。私は腕に力を込めて、エレベーターの上によじ登った。
エレベーターをよじ登ると、そこにパンプスが転がっていたので、そっと履いた。さて、次はどうする?辺りを見渡すと、通気用ダクトの蓋があった。
私は蓋を外すと、通気用ダクトの中を、四つん這いになって、奥に進んだ。
ダクトを進むと、外の風が入ってくる場所があった。出口だ。私は出口の蓋を取り外し、外に出た。非常階段の踊り場だ。私はゆっくりと踊り場に出た。
ここで問題だ。この非常階段は二階まで。私が出たのは二階の踊り場。ビルの中に入るためのドアは施錠されていた。
暫く考えてから、ふと下を覗き込むと、路地裏の大きなゴミ回収用のボックスがあった。ボックスの中には、たくさんのゴミ袋が詰められていた。近くに飲食店があるから、中身は生ゴミだろう。
私は意を決して、非常階段の柵を乗り越え、柵に掴まり、ぶら下がると、そのまま手を離し、ゴミ回収ボックスの中に落ちた。
ガサッ!
生ゴミがクッションになって、ショックを吸収した。私は生ゴミだらけになった。
私は身体に付いた生ゴミを払い、頭に載ったバナナの皮を払うと、ボックスから出ようと乗り出した。すると、足が滑り、ボックスの横にある、バケツ型のステンレス製のゴミ箱に頭から突っ込んで、倒れた。私はまたしても、ゴミまみれになった。
ゆっくりと立ち上がり、身体に付いたゴミを払うと、制服のポケットに手を入れた。千円札が一枚。
「良かった。電車料金ある。」
会社は既に閉まってるから、中には入れない。今日はこのまま帰るしかない。
「あーぁ、散々な日だなぁ。返して、私の、お気楽OLライフを。」
表通りに出ると、ちょうど、歩行者信号が青だった。
ピッポー、ピッポー、ピッポー。
信号が鳴る。
私は小走りで横断歩道を渡ろうとした。すると。
「あれ?こんなはずじゃ。」
私の身体が宙を舞う。
「どこ見て運転してるのよ!私のお気楽OLライフ、返してよ。」
人集りができた。たくさんの人。警察が来た。救急車のサイレンが聞こえる。私の意識が遠くなった。
ピーポー、ピーポー、ピーポー。
私の気楽な暮らしは25歳で終りをむかえた。路上に転がった、私の安物のパンプス達が、そっと呟いた。
「お疲れ様。永遠の眠りを。」
と。
「自主練」
8月の溶けてしまいそうな熱気の中で、私の何の取り柄も無い大きな身体が、体育館の床に転がった。
「さっさと立て!起きろ!」
監督の怒号とボールが、倒れて無防備な私の大きな身体に容赦なくぶつけられた。
三年生。もう私には後がない。
私は醜かった。大きな顔面には、二つの小さな眼。太い眉毛。ぺちゃんこの鼻。分厚い唇に大きな口。髪はクセの強い天然パーマ。ヒラメみたいな顔面。唯一誇れるのは、180センチ弱の長身だけ。
私は長身を生かしたくて、バレー部に入部した。現実は甘くない。
私の部員生活は、ボールを磨く事と体育館の床を磨く事。鈍臭い私が練習に参加できる訳がない。
私は毎日毎日、先輩から怒鳴られ、後輩から顎でこき使われた。
レギュラーはおろか、補欠にすらなれない。こんなの終わらせたい。私はある日、意を決して、監督に特訓して貰える様に申し出た。
「覚悟は出来てるか?」
監督は言った。私は頷いた。
特訓は私以外の部員が全員帰宅した誰もいない体育館で行われた。
私は、襟の付いた白い、腕に緑色のラインが入った体操着と緑色のブルマを着用し、白いスポーツシューズと白いハイソックスを履いた。両膝にサポーターを当てると、自分の不様な顔面を両手でパンパン叩いて気合いを入れた。
正直、すごく不様な格好だった。体操着とブルマのサイズは、これが限界のサイズで、私には小さい。でも、このサイズしか無いから仕方がない。
体操着が、私の身体に張り付き、私の身体を締め上げた。ブルマは目一杯Vの字で、両脚の付け根に食い込んだ。
特訓が始まった。
飛んでくるボールに必死に食らいついた。
膝を曲げて腰を落とす。両腕をピンと伸ばし、前で組む。レシーブすると、次のボールが飛んでくる。ボールを追い掛けて腹這いになり、体育館の床を滑る。ひたすら繰り返えされる。
はぁ、はぁ、ひぃ、ひぃ。
私は息が切れ、今にも倒れそうなのを必死に堪え、ボールに食らいついた。涙を流さぬ様に。
ボールを取り逃がすと、監督は、容赦なく、私に、怒号とボールをぶつけた。
「泣け!立て!悔しくないのか!」
ボールを逃し、不様に床に転がる私に、次々と、怒号とボールがぶつけられた。
ふらふらになりながら、私は立ち上がり、飛んでくるボールに食らいつき続けた。
はぁ、はぁ、ひぃ、ひぃ、ひっくひっく。
私は息を切らし、泣きながら、死ぬ気でボールに食らいついた。
ボールは時々、私の醜く不様な顔面を直撃した。目の周りに青い痣ができ、鼻血が滴り落ちた。
「どうせ、汚ったねー顔なんだから、気にすんな!全身使ってボールを受け止めろ!」
ボールが容赦なく飛んでくる。私は食らいつき続けた。
腹這いになり、床を滑る。ボールを逃し、また怒号とボールをぶつけられる。今度はお尻にボールをぶつけられた。
私は必死にボールに食らいつき続けた。
時々監督は、意図的に、体育館の遥か彼方へボールを投げた。私は、何としてもボールを逃すまいと、息を切らし、ふらふらになりながらも、全力疾走でボールを追い掛けた。
ボールを逃す。
ところが、勢い余って、これでもかと言わんばかりのスピードで、思い切り、体育館の壁に激突した。
バンッ!
大きな音が体育館にこだました。私は力なく床に倒れ込み、意識を失った。
バシャ!
監督が、バケツに入った水を勢い良く私にかけた。私は目を覚ました。
気が付くと、体育館の外にある、手洗い場に横になっていた。
私は起き上がれない。すさまじい激痛が私を襲った。
「ダメだ、もういい、止めろ。良く頑張った。」
監督は私を肩に担いで、病院に連れて行ってくれた。
アキレス腱断裂。
「あぁ、終わった。」
私の取るに足りない不様な部員生活は、何の日の目も見ないまま、静かに幕を下ろした。
体育館の床に転がったボール達が、ケラケラ笑いながら、私をバカにした。
「婚礼」
「和議」
長きに渡る戦乱で、民は疲弊し、飢えた。田畑は荒廃し、ただ、血と亡骸だけが、大地を覆う。
国王は一計を案じた。「どうすべきか?」と。
乱世の無情は容赦なく人々を渦に巻き込んだ。本来ならば人々を救済するはずの御仏の教えが、よもや、争いの種になるとは、誰が想像できようか?
国王は妹の部屋を訪ねた。この22歳の若く野心家の王は、自らの権勢によって、国家を平定する事に意欲を燃やしていた。実権を握る母親が邪魔ではあったが。
「新教派と和議を結び、国家を安寧に導きたい。世の意向、分かってはもらえぬか?」
国王は妹に訪ねた。
春姫は静かに答えた。
「兄上の御意の御ままに。」
この王の妹は、絶世の美女として、天下にその名を知られていた。
白く透き通る様な肌、黒く艶のある長い髪、芳醇な唇、そして、万人を虜にする魔性の瞳。19歳とは思えない、天女の様な美しさ。
国王は、早速、書状を書き上げると、使者にそれを、新教派の頭目である、和州守に渡す様に命じた。
程なくして書状が和州守に届いた。和州守は、国王からの提案に、警戒しつつも、それを主の財務卿に渡した。
「これは、我が新教派と旧教派が和睦し、国家天下を安寧に導く、またとない好機。殿、御返答は如何に?」
この53歳の和州守は長きに渡り、主たる財務卿を支えた軍師である。名だたる戦を勝利に導いた名将でもある。
財務卿は答えた。
「あい分かった。良きにはからへ。」
と。
和議が成立した。春姫と同年齢の財務卿との婚礼が決まる。
「策略」
国王の母親、香桜局は策略を巡らせた。如何にして、憎き新教派を殲滅すべきか?
香桜局は、自らの相談役に、登城するよう命じた。
大地頭が呼ばれた。浅黒い肌、鋭い眼光。香桜局は、如何にすべきかを、大学頭に尋ねた。
大学頭曰く。
「国家を維持する為には、信義に反したり、慈悲に背いたり、人間味を失ったり、宗教に背く行為をも、度々やらねばならぬ事を、知って頂きたく候。そして、なるべくならば、良き事から離れず、必要に迫られたおりに、悪に踏み込む事も、心得えおき候。」
香桜局は、なるほどと頷いた。
この53歳の王母は、元は上方の両替商の娘で、亡き先代の国王の側室であった。絶世の美女とうたわれ、年老いた今も、その美しさは健在であった。
「婚礼」
都にて、春姫と財務卿との婚礼の儀が執り行われた。綺羅びやかな衣に身を包んだ、数多の大名諸侯が参列した。豪華な食事、能狂言。おおよそ、この世のものとは思えぬ、極楽浄土絵巻が繰り広げられた。
一点不可解だったのは、鎧兜に身を包み、腰に大太刀を携えた、完全武装の、直参旗本衆が、婚礼の会場の守りを、過剰なまでに固めていた。
その数千人。
婚礼の儀に先立ち、香桜局は、息子で国王の弟である、20歳の松原大納言を呼び出すと、謀の詳細を伝え、旗本衆の指揮を委ねた。松原大納言は、若いながら、武勇の誉れ高い人物であった。
婚礼の儀は、何事もなく、幕を閉じた。
「未遂」
婚礼の儀を終えて、大名諸侯が城から下りて行く。
その中に、和州守の姿もあった。
城の大手門をくぐり、市中に出ようとした、その時、大太刀を持った、数人の旗本が、和州守に襲い掛かった。
和州守は、とっさに自分の腰に差した太刀を抜くと、応戦した。
しかしながら、多勢に無勢。和州守は、手傷を負いながらも、辛うじて、脱出に成功し、そのまま宿舎の屋敷に戻ると、急ぎ兵を集め、守りを固めた。
暗殺は未遂に終わった。
同じ頃、財務卿は、城に監禁され、新教から旧教への改宗を迫られた。
「説得」
香桜局は、急ぎ国王のもとへ馳せ参じ、国王を説得しようとした。
「陛下、今やらねば、我ら旧教側は、新教側の反撃に合いまする。ご決断を。」
国王は、暫く考え、これを了承した。
この機を逃すまいと。フォルトゥナを掴むのは、まさに今である。
松原大納言が呼ばれ、策略を完結すべしとの下知が下った。
松原大納言は、旗本衆に命じて、謀略の最終段階を貫徹しようとした。
大納言は、自らが携えた太刀を抜いた。鋭く光る太刀。鏡の様なその刃に、顔が映る。太刀が大納言に話し掛けた。
「早う、我に血を吸わせ給え。」と。
大納言は静かに太刀に返した。
「焦るでないわ。後日、思う存分に吸わせてやる。」
「赤き地」
暗殺未遂から二日後、夜明けを告げる旧教側の寺の鐘が合図だった。
ごーん、ごーん、ごーん、と。
鐘が鬨の声を上げた。すると、完全武装の旗本衆が、大太刀を振り回して、新教側の大名屋敷を一軒ずつ周り、殺戮を繰り広げた。
暗殺未遂から二日経過し、何も起きなかったためか、新教派は油断していた。
真っ先に標的になったのは、和州守だった。屋敷に旧教派の兵がなだれ込み、朝餉をとっていた守に襲い掛かる。
五人の旗本の大太刀が、和州守を貫き、屋敷の書院を赤く染めた。守の首は討ち取られ、屋敷の門に吊るされた。
旧教派の兵は、新教派の屋敷を一軒一軒周っては、屋敷の主人、家老から、下は、足軽雑兵や侍女や下女に至るまで、根こそぎ斬り刻み、四肢を切り離し、腸を抉って周った。斬殺された者の一族郎党、尽く討ち取られた。
この騒ぎを聞きつけた、旧教派の町人達が、斧や鉈を携え、新教派の町人に襲い掛かった。
老若男女、老いも若き、尽く斬殺された。
ある者は首を斬られ、またある者は腸を抉られて。
旧教派は、踝まで血の海に浸かりながら、新教派を見つけると、手当たり次第に、息の根を止めていった。
殺戮は夕刻まで続いた。
日が傾き、烏が鳴く頃に、寺の鐘が鳴った。
ごーん、ごーん、ごーん、と。
市中は静まり返り、血の海の中に、解体された新教派の人体が、所狭しと転がっていた。
香桜局が、家臣を率いて、市中を視察に来た。果てしなく続く血の海原。
「何と美しや。」
局はそう呟くと、一首詠んだ。
「都路の赤き衣の夕烏、落つる桜(はな)にぞ、思い忘らん。」
国家に平和がおとずれた。
「Product Order」
【前編】
・女子社員募集
・簡単な入力作業
・残業なし
・女子寮完備
・楽に安定的に
スーツに身を包んだ女子の新卒者達が列を成した。先ずは、会社説明会だ。
「みんな、楽してお給料貰いたいよね?努力?根性?いやいやいや、昭和じゃないんだからさぁ、もっと気楽に行こうよ。」
彼女らには、事前にアンケート用紙が配ってある。本音を書いてもらうため、そして、身長と体重を記入して貰うために。
一人一人をセンサーでスキャンさせて貰った。我が社の基準に合致する人材を。
同じ髪型、同じ顔の骨格、同じ形のパーツ、同じ身長、同じ体重、など。
我が社の基準、つまり、身体的特徴に合致する子達が抽出できた。早速、電話にて、連絡を入れた。
後日、一人一人面接を行なった。
「本音で話そうよ。この仕事にエントリーした理由は?」
「はい。そのぉ、私は、周りが就活してるから、ただ何となく就活始めました。何となく適当に、何となく楽して、何となくそれなりの給料貰えればそれで良いかなと思って。」
この様な調子で選考していった。志しの高い志望動機の子は、我が社には御縁がない。
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「始めまして、皆さん。今日から宜しく。先ずは皆さんに、これらのものを支給致します。」
新人には、制服が支給される。また、支給品は制服だけではない。
白いブラジャーとパンティー、ストッキング、そして、パンプスだ。
制服は、白いシャツ、緑色のリボン、タイトな緑色のスカート、黄色地に緑色のラインのチェック柄のベスト。
新入社員達は、不思議そうな顔をしつつも、ロッカールームで、支給品に着替えた。
「では、皆さん一緒に社訓を朗読致しましょう。」
全員が声を揃えて社訓を朗読した。同一的な骨格ばかりが集まっているため、ほぼ同じ様な質の声が、綺麗に揃った。
「私達は、楽・適当・安定をモットーに、社会に貢献して参ります。」
「私達は、言われた事だけを忠実に実行致します。」
「私達は、余計な事をする必要はありません。」
「私達は、組織の一員として、組織の一部となって、日々勤労します。」
実際に業務を与えた。業務内容は、パソコンに、与えた書類の文章を入力するというもの。それだけである。
ここで注意したいのは、朝8時から夕方17時までの8時間でこなせるだけの分量を与える事。多過ぎず、少な過ぎず。
このルーティーンを6月になるまで続ける。
初任給は、一般的な女子の新卒者が受け取るであろう額が支払われた。
6月に入ると、全員の目が虚ろになっていた。
7月に入ると、虚ろな目だけでなく、声に生気が無く、死んだ様な表情になる。
我が社の秘密職員が先輩の男性社員に成りすまし、彼女らのお尻を触ってみる。全く何の反応も無い。
どうやら下地ができ上がった様だ。
8月の頭。新人研修を実施した。全員を研修室に集める。
「では皆さん。制服を脱いで整列して下さい。下着も。」
彼女達は、全く抵抗する事なく、全裸になって整列した。
「鏡を見て下さい。裸のありのままの自分を見つめ、確認して下さい。」
この作業は、羞恥心とプライドを削ぎ落とす作業だ。
「おはようございます。有り難う御座います。いらっしゃいませ。」
45度に身体を傾けお辞儀する彼女達。
これを延々と反復する。
この作業は、同一の動作を繰り返しさせる事で、状況に順応させるための作業だ。
「では皆さん、鏡の中の自分に向かって、にこやかに。口角を上げて、歯を見せて、笑顔で。」
この造り笑顔の訓練は、状況と心理が一致しなくても、常に指示に従える様にするための訓練、要は個性を剥奪する作業だ。
彼女達はほぼ完全に自我を失い、見事に順応した。
【中編】
9月に入り、私の担当している企業さんから、「OL型✕5台」の注文が入った。予てより「新機種」をアピールしてあった。
私は、シリアルナンバー、A01638、A01639、A01640、A01641、A01642、の計5台を手配し、「出荷(派遣)」した。
商品は、全てにシリアルナンバーが付けてあり、我が社のシステムが一元管理している。
先方は、オプションは付けなかったので、燃料補給と簡易メンテナンスは、先方の企業さんが行う。
このオプションとは、綿密にカロリー計算された燃料(食事)を与え、簡易メンテナンス(身体検査と体重測定)を行うというもの。
オプションを付けなかったという事は、先方が責任を持ってそれらを行うというもの。その代わり、30%オフになる。なお、朝と夜の燃料補給は、こちらが行うので、企業さんが準備するのは、昼の燃料補給という事になる。
燃料は、錠剤やカプセル、或いは、ゼリー状の特使なサプリメントを与える。
簡易メンテナンス方法は、先ず、商品を全裸にして、破損箇所の有無を確認した後に、グラム単位で体重を測るというものだ。
体毛や爪の処理はこちらが行う。
10月。昨年納品した「OL型:A01523」が故障したとの連絡が、他の企業さんから入ったので、最新型の「OL型A01651」を手配した。
故障したA01523は、全身をチェックした後に、初期化して、再プログラミング(再教育)する。
商品は、我が社が用意した管理施設(社宅)で24時間・1年365日管理する。各区画に監視カメラとセンサーが設置されている。
商品は、この施設から出荷先へ出勤し、再びここに帰宅する。所定のルートを外れる場合、我が社のシステムが異常を検知する。
商品の衛生管理も欠かせない。商品は、我が社のエンジニア監視の元で、全裸になり、順番に、専用の装置で洗浄する。
放水、回転スポンジによる汚れ落とし、再び放水、そして乾燥。
19時から21時までの間に行う。その間、商品は監視の下で、全裸で洗浄機の順番を並んで待つのだ。
【後編】
商品管理において、我々が最も注意したのが、商品のスペック上の問題、何と言うか、商品に備わった、動物的本能、或いは、生物学的生理現象とでも言うべきか。
商品は完全管理されているため、人間の生身の男性を知らない。従って、品質を保つために、定期的に、性欲を発散してやる必要がある。
まだ出荷前の商品ならば、我が社の施設において。出荷済の場合は、出荷先へ、設備を搭載した車輛を手配する。
この品質保持のためのメンテナンスは、非常にシンプルで、何も身に着けていない事を確認するために、商品を全裸にした後、2名のエンジニア監視のもと、専用の器具を用いて、自慰行為をさせる。その間、エンジニアは、行為の様子を克明に記録する。
特に発情している商品は、入念にメンテナンスする必要がある。通常の2倍の時間を費して、自慰行為を、満足するまで行わせ、それでも収まらない場合は、ホルモンバランスを調整する薬品を投与する。
年末になって、慌ただしくなる。何台かの商品が故障して、修理不能となった。
我々は取り引き先との契約に従い、代金の三分の一を返金した上で、故障した商品を受けとった。
調査の結果、どうやら、内部パーツ、特にモーター(心臓)の不調による故障だった。人間で言うところの心臓発作と言うやつだ。
我々は、全ての支給品を取り外し(全裸にする)て、再利用可能なパーツ(臓器)を確認して、可能なパーツに関しては、取り出して、然るべき業者に売却する。
残りの不要な部分は廃棄処分とする。
廃棄処分が決まった商品は、施設内の廃棄物回収ボックスへ捨てる。後は、オートメーション処理システムが、故障品を焼却炉へ搬入して、これで、廃棄処分が完了する。
来年度は、更に品質の良いモノを選別し、より高度な加工を施した商品をお客様に提供できる様に努めたいと思うのであった。
「砲弾孔」
ヒュンヒュンと飛んでくる敵の小銃と機関銃の弾が仲間達を貫き、なぎ倒した。私はとっさに泥濘んだ地面に腹這いになった。
一本の草も木も生えていない広大な戦場には、おびただしい数の仲間の女子兵達の死体が転がっており、所々に砲弾の着弾で空いた大きな穴が点在していた。
ゴーッ、ダンッ!
私の数メートル近くに砲弾が着弾した。私は慌てて、四つん這いになり、失禁しながら近くにある、泥水の溜まった砲弾孔まで移動すると、勢いよく、その中へ転がった。
穴の中には、四人の先客がいた。
一人は半狂乱になり叫び、一人はガタガタと震え、一人は恐怖で嘔吐し、そして、もう一人は歩兵小銃を片手で抱え、もう片手で自分の股間を押さえて硬直していた。
私達は、黒いセーラー服に黒いスカートを着用していた。脚全体を黒いタイツで覆い隠し、足には黒いローファーを履いている。セーラー服の襟と手首には赤いラインが入っている。
徴兵された時、女性用の軍服を準備する手間とコストを抑えるために、軍は学校制服をそのまま軍服に流用したわけだ。
支給品は僅かで、頭を保護する為のカーキ色のブロディヘルメットに、歩兵小銃と銃剣、そして、様々な小物を入れた、カーキ色の大きな布袋だった。
上層部は、私達に常に無謀な突撃を命じた。数の力で敵陣を強引に突破する作戦だ。私達は肉壁なのだ。
銃剣を付けた歩兵小銃には、弾は5発しか入っていない。それ以上の弾は支給されなかった。銃は槍としての機能しかない。
「あぁ!嫌だ!死にたくない!こんな所で死んでたまるか!死にたくない!死にたくない!死にたくない!」
半狂乱の女子兵が叫び続けた。しかし、あちこちで聞こえる爆音に、その叫びは掻き消された。
暫く時間が経過したが、相変わらず、爆音も銃弾が飛んでくる音も止まない。穴の外で仲間の女子兵達が、引き続き突撃し続けている事が分かった。
半狂乱の女子兵が、やがて冷静さを取り戻し、そっと穴の外を覗いた。
穴の約2メートル先に、布袋を携えた、他の女子兵の死体が転がっていた。
すると、その穴の外を覗いていた女子兵が、仲間の女子兵に言った。
「おい!あの布袋を取ってこい!腹が減った。中にパンが入っているかも知れない。」
それを言われた女子兵は、ガタガタと余計に震えだした。
「あたしは隊長だぞ!命令は絶対だ!さっさと取ってこい!」
すると隊長は、ガタガタ震える女子兵と、もう一人、さっきまで嘔吐していた女子兵の二人を蹴飛ばして無理やり穴の外へ出した。
私達の隠れている穴の中には泥水が満々と蓄えられている。
無理やり追いだされた二人の女子兵は戻ってこない。死んだようだ。
「ちきしょう!役に立たねぇ奴らだなぁ!」
隊長は吐き捨てた。するともう一人、さっきまで股間を押さえていた女子兵が、隊長に訴えた。
「隊長殿、貴方が手本を示して下さいよ!」
と。
そうだ。そうなんだ。私達は女子兵。使い捨ての道具。ただの消耗品なんだ。私はそう思うと、汚れた自分の手のひらをそっとながめた。
隊長に反抗したその女子兵は「いやーっ!」と力いっぱい叫びながら、勢い良く、穴から飛び出していった。
「あんたはどうする気だい?!」
隊長は私に冷たく言う。
「あんたが突撃するって言うなら勝手にしな!あたしはごめんだよ。あんたが生き残っても、あたしが穴に隠れてたこと司令部にチクるんじゃないよ!」
あぁ、たいした隊長だよ。自分だって消耗品のくせに。私に口止めするのも無理もない。こんなことが司令部にバレたら「臆病罪」で死刑だ。
私は隊長の言葉を無視して「いやーっ!」と叫び、穴の外へ全力で飛び出した。
と、次の瞬間、シュルシュル!ダンッ!と、さっきまで隠れていた砲弾孔に着弾した。
私は爆風で吹き飛ばされ、他の穴に落ちた。私は気を失った。
どれくらいの時間が経ったか分からない。私はそっと目を覚ました。辺りが静まりかえる。突撃は終わったようだ。
私は、よろよろと立ち上がると、ゆっくり穴の中から外へ出た。
辺り一面、死体の山だった。たくさんの女子兵が折り重なり倒れている。鉄条網に引っ掛かった死体が、ブラブラと風に煽られ揺れていた。
私はふと思い出して、隠れていた穴を探した。あった。
ゆっくりとその穴を覗きこんだ。そこには、粉々になり、バラバラになった肉の塊が転がっていた。
私は全身の力が抜け、その場に跪いた。相変わらず地面は泥濘んだいた。
直ぐ側の死体が履いているローファーが、私に言った。
「卑怯者、臆病者。」
私は罪悪感に心を支配された。
「初仕事」
ブリーフィングルームで、私は部長とミーティングした。
「つまりデータは奴の貸金庫の中ってわけか。」
部長はそっと、ため息をついた。
「はい。どうすべきかですよね。しかも問題が。」
私は部屋の外、ブラインドの隙間から見えるオフィスに目をやりながら、部長に話した。
「問題とは?」
部長は何か不可解なものを見るかの様な表情で答えた。私は部長に説明した。
「その貸金庫のロックシステムは網膜認証なんです。ですから、ターゲット自身が必要になります。」
私が説明を終えると部長は徐ろに席を立ち、部屋のドアを開けると、手招きして誰かを呼んだ。
「この野郎、大使のくせに、ペドフィリア(小児性愛症)なんだってな。」
部長がターゲットの情報が記された書類を指差した。
私はゆっくりと頷いた。
すると、ブリーフィングルームに、誰かがやって来た。部長が手招きして呼び寄せたその人物。
女の子だ。小さな女の子。歳は10歳ほど。薄いピンク色のワンピースに、赤い小さな靴。黒くて長い真っ直ぐな髪。透き通る様な肌。光る瞳。
「やぁ、私の天使。初めてのお仕事だよ。」
私は驚いた。まさか子供を囮に使うつもりか?
「あの、どうしろと?」
私がそう言うと部長は静かに答えた。
「ターゲットは週末にレストランに現れるだろ?この子をレストランの入り口の前に立たせておけ。後はこの子がどうにかする。」
私は不安に駆られた。こんな子供に何が出来るというのか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
作戦当日。私はレストランの側の路肩に車を停車させた。助手席には、例の女の子が座っている。
「ねぇ、君。名前は?」
女の子は何も答えなかった。すると、女の子は徐ろに車を降りて行く。
20分ほど経過した。レストランからターゲットが出て来た。間違いない、大使だ。
大使は女の子に気付くと、二人の部下、或いは、ボディーガードと思しき、屈強な男達に何かを伝えている。その声は、女の子に持たせた小型集音器で聞こえてくる。
「君たち悪いが、この後、大使館ではなくホテルに行ってくれないかね。」
大使はそう言うと女の子を黒塗りの高級車の後の席に乗せた。
車がゆっくりと発進する。私は後を着けた。成る程、ターゲットは筋金入りのペドフィリアだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
高級車がホテルに着くと、車から大使と女の子が降りた。
二人の屈強な男達は車の中で待機している。
「部長、何考えてんだ。本当にあんな子供で大丈夫なんだろうな?」
私は少しだけ冷や汗を流した。するとマイクの音が聞こえてきた。
「さぁ、部屋に着いた。お嬢ちゃん、お入り。」
大使の声だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
初仕事の事は覚えているわ。超簡単だった。
ターゲットがジャケットを脱いで、私の方を振り向いた時に、私はターゲットのでっぷり太った脇腹に、隠してたナイフを突き立てた。
ターゲットの動きが止まって、崩れ落ちたから、そのまま馬乗りになって、身体中を穴だらけにしたの。
何度も何度もナイフを振り下ろしてね。真っ赤。とっても真っ赤だったわ。
「わぁ、綺麗ね。」
私は少しうっとりしながら、ターゲットの顔面から、鍵を抉り出した。念のため、両方とも。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
女の子がホテルから出て来た。そして、車に気付くと、再び助手席に乗り込んだ。何か手にもってる。
私は車を発進させた。
車内は暗くて良く確認できなかったが、街の明かりに時々照らされる度に、女の子の服が、血まみれである事が分かった。
すると女の子は、持参してきたパスタを入れる瓶の中に、手にもっている何かを入れた。瓶には液体らしきものが入っており、その何かを液体に浸した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、私はブリーフィングルームに呼ばれた。
部屋に入ると、部長と、作戦三課の主任が同席していた。
「部長、鍵は?」
主任が言う。
すると、部長はゆっくりと立ち上がり、部屋のドアを開けると、手招きして、誰かを呼んだ。例の女の子だ。
女の子は部屋に入ると昨夜何かを入れたパスタの瓶を部長に渡した。部長は静かに席に着くと、主任に渡した。
「鍵だ、受け取りたまえ。」
あぁ、何という事だ。私は背筋が凍った。ホルマリンの中に漬けられたターゲットの左右の眼球が、私を見ている。
主任が言った。
「大したもんだよ、本物の悪魔だな。」
そう言うと主任は、瓶をもって部屋を後にした。
部長は女の子を、まるで父親の様にキツく抱きしめた。そして、目一杯の愛情を女の子に与えた。
「私の可愛い天使、良くやった、良くやった。」
と。
女の子は無邪気に笑った。
「Special allowance」
就活が始まって直に、私は大学の就職支援課の棚にある求人票に目を通した。一枚一枚に目を通す。
すると、ある一枚の求人票が、目に止まった。驚くほどの好条件だった。
ただ一つ、給与欄に「特別手当」というものがあった。私は眉を顰めながらも求人票のコピーをもらうと、早速、エントリーした。
一週間ほど経った後に、先方の企業から連絡が入った。面接に来て欲しいとのことだった。
面接当日、私はスーツに身を包み、パンプスを履くと、意気揚々と出掛けた。
面接会場は先方の会議室だった。丁寧に案内してくれた。とても印象が良い。ここに就職したいと素直にそう思った。
面接官は男性で、人事の責任者だった。とても紳士的な人で、丁寧に質問を投げ掛けてくる。「志望動機は?」とか「挑戦したい事は?」とか。
私は面接対策で身に付けた技術に従って、坦々と答えた。にこやかに。
面接は至って穏やかに終わった。最後に「何か聞きたいことはある?」と聞かれた。私は例の「特別手当」のことが気になったので質問することにした。
「あぁ、それはね…。」
人事担当は詳しく説明してくれた。
「という訳なんだ。だから、みんな、内定辞退しちゃうんだよね。」
私は納得した。成る程、こんな好条件なのに、どうりで人がこないはずだ。私は迷ったが、この好条件と例の「特別手当」の誘惑に負けた。
「君みたいな優秀な学生さんが来てくれると助かるんだけどな。」
人事担当者が、困った様に、そう言う。そこで私は答えた。
「私も御社の様に広く社会に貢献する企業で、身に付けたスキルを活かしたいと思います。」
すると担当者は嬉しそうに答えた。
「本当?!有り難う。ぜひ、弊社へ来て下さい。」
私はその場で、あっさりと内定を得ることができた。好条件と「特別手当」は魅力的だ。失うものもあるのだが…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
四月。私は社会人となった。
初めて出社した当日、会社に着くと、私は一通り、会社内を案内された。とても丁寧だ。
見学の途中で女子社員が優しく声をかけてくれた。
「アットホームな職場だよ。頑張ってね。」
車内の案内が終ると、私は会社の制服を受け取り、ロッカールームで着替えた。白いシャツ、リボン、スカート、そして、ベスト。
私の配属先は営業三課だった。仕事の内容は至ってシンプルで、営業関連の書類のパソコンへの入力作業をしたり、たまに来客があると、お茶を出したり、コピーを撮ってあげたり、ごく普通のOLの仕事だった。
それでも私は少しだけ緊張していた。あれはいつ始まるのかと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ある日のこと。私はFAXを送ろうと、複合機の前に立っていると、一人の先輩の男性社員がやって来た。
「だいぶ仕事に慣れてきたみたいだね。君、飲み込みが早い。すごいよ。」
私は先輩にお礼を言った。と、その直後、先輩は、私のお尻に手をまわし、サワサワと弄った。
あぁ、ついに始まっか。私はそれでも笑顔で応えた。
その日を境に、男性社員達の私に対する行為は少しずつエスカレートしていった。
完了したコピーの束を課長に渡しに行くと、課長は立っている私のスカートの中へと手を入れて、太ももを擦った。
私が書類の入力作業をしていると、後から両手を伸ばし、私の両胸を揉む人もいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
そういった日が毎日の様に続いたが、私は、その状況に完全に慣れてしまった。何せ初任給が、普通の女子の新卒者の5倍もあるのだから、もう殆ど病み付きだ。
触られるのも悪くはない。
私の感覚は、完全に麻痺していた。
それから二月ほど経ったある日。先輩の男性社員がコピーを撮っている私に近付き、いつもの様に、私のお尻を弄ると、私に話かけた。
「悪いんだけど、ちょっと営業に付き合ってくれない?」
私は快く了承した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
取り引き先では、先輩が熱心に、先方に新しい企画の提案を行なった。先方も真剣に話を聞いていた。
その間、私は、先輩に言われた通り、静かに席に座りながら、先方の担当者に、これでもかというくらいに、淫らな視線を送り続けた。
話が終り、私は先に外へ出ると、それから10分後に先輩が出てきた。
「作戦の最終段階だよ。この場所に、この時間に、さっきの先方の担当者と待合せて。頼むよ。」
さて、いよいよ私の出番だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜、会社を出た私は待合せ場所に向った。制服のままで。先方の性癖らしい。
待合せ場所で先方に合流すると、私達はホテルに向かう。
ホテルの部屋に入ると、私が先に脱ごうとしたので、先方がそれを止めた。脱がせたいらしい。
先方は、私のベスト、スカート、シャツ、と、まるで、着せ替え人形の服を剥ぎ取る様に、徐々に私を裸にしていった。
最後、私はパンティーだけの姿になった。白くて小さなパンティー。
先方はそれを丁寧に両手でゆっくりと下へ下げた。
私の股間が露わになった。豊かに蓄えられた陰毛。
私はゆっくりとベッドに横になると、先方も裸になり、私の上に馬乗りになった。私達は、たっぷりと行為を楽しんだ。
私は先方を楽しませるために、目一杯の喘ぎ声を上げた。
部屋の間接照明が囁いた。
「阿婆擦れめ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
月末。給料が振り込まれる日だった。
私は午前中、いつもの様に、男性社員に身体をたくさん触らせると、昼休憩に近くのATMへ行き、残高を確認した。
驚くほどの額が振り込まれていた。普通のOLなら、何ヶ月か働かないと稼げない額だ。
無理もない。あの夜の私の先方との行為のおかげで、契約が成立したのだから。
「成る程、これが、特別手当か。」
私はもう夢中だった。こんなことなら、会社の中で全裸で仕事しても良いくらいだ。私の感覚は、完全に麻痺してしまっていた。
私は上機嫌で、再び会社に戻っていった。
たくさん触られるために。
(終)
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