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革命哀歌
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政府を批判する哀歌(ラメント)を歌ったシンガーが逮捕されたその日。
昼。天空の頂点に太陽が君臨し、民を容赦なく、熱く照らした。
物価は急上昇を続けた。それに並行して、税金も上昇していった。
政府は、その高い税率に見合う行政サービスを提供出来ないでいた。
厳密に言えば「出来ない」ではなく「しない」と言った方がより正確だった。
政府は腐敗していた。政治家は集まった税金を自らの懐を温めるために使い、役人は、企業から袖の下を受け取った。
彼らにとって、民の暮らしなど、どうでもよかったのだ。
民は疲弊し、困窮し、飢えた。
人々は言った。
「このままでは政府に殺される。」
と。
この民の貧困と危機を憂いた一人の僧侶がいた。輪行寺の大覚和尚だ。
見兼ねた和尚は、貧しい民に施しをした。
寺の境内では炊き出しが行なわれた、民はその列に並んだ。
民の中には、まだ多少暮らしに余裕が残る者達がいたが、彼らは和尚の行いに感涙を流し、財産の一部を寺に寄進した。
寺に想定外の収入が入った。和尚はその資金を元に、貧困家庭の子供らが、食事を無料で摂る事が出来る食堂を建てた。
和尚の行いを聞いて、各地から若い僧侶が輪行寺に集まった。
大覚和尚に教えを授かりたいというのだ。
和尚は当初、自分は弟子は取らない旨を、集まった若い僧侶らに伝えたが、彼らは諦めず、和尚に懇願した。
この若い僧侶らの情熱に心打たれた和尚は、彼らの弟子入りを認めた。
民からの寄進は続いていた。寺は集まった資金で、子供のための食堂を増やしていった。
一人の医者がいた。彼は名門の家に生まれ育ち、有名国立医大を首席で卒業したエリートだった。
しかし、彼の瞳には、常に困窮した民の姿があった。
彼は輝ける経歴を捨て、無償で貧しい民の診療に当たった。
寺には寄進が続いていた。
医者が和尚の寺を訪ね、下座して頭を下げて懇願した。
「どうか寺のお力で診療所を開設して頂けないか?」
と。
和尚は快く応じた。
寺に集まった資金を元に診療所が開設された。医者が診療所の責任者となり、民の診療を行った。
これを聞いた民達は、更に寺に寄進をしたので、莫大な資金が寺に集まった。
和尚は医者と相談した上で、更に多くの診療所を開設する事にした。
熱意ある若い医者が、全国から集まり、民の診療を行う様になった。
全て無料である。
和尚の元での修行を終えた若い僧侶達は、和尚の教えを広める為に、各々全国へ旅立った。
やがて、和尚の教えを実践する為の寺が、各地に建立された。
全国に食堂と診療所が次々と開設されていった。
全国に和尚の弟子だった僧侶らが、寺を建てた事で輪行寺の系列の寺が増えていった。
すると、全国の貧しい民から寺に寄進が、続々と集まった。
和尚は、子供のための食堂を、より規模を大きく拡張し、また、診療所だけではなく、大きな病院も次々と建設していった。
民の中には逮捕されるものがいた。彼らの罪は「子供を学校に行かせなかった」事だった。
政府は義務教育を謳っていたが、学校の教科書代や給食費は親負担だった。
貧しい民には賄えない。
和尚は寺に集まった莫大な資金を元に、次々と学校を建設していった。勿論、全て無料だった。
こうして民達は国立病院には行かなくなった。公立学校に子供を遣らなくなった。
寺の建てた病院や学校の方が無料で、しかも質がよかった。
民は急速に政府を見限り始めた。
これを知った無能な政治家や役人達は、強引に法改正を行い、寺から税金を取り立てようとした。
和尚は、粛々と政府に税金を納めた。
この頃、寺の学校で学んできた若者らが、続々と徴兵されていった。
彼らの親達は涙を流し、彼らを見送った。
無能な政治家や役人は、相変わらず寺から税金を取り立てた。そして事件が起こる。
寺の財産を調査しに税務署の役人が寺に来た。そして、一通り調査を終えると、役人は何時までに幾ら税金を納めるかが記された書類を和尚に渡して立ち去った。
政府の横暴なやり方に我慢の限界を向かえた寺の門徒の民らが、税務署の役人を襲撃して殺害してしまったのだ。
事件に関与した民らは逮捕された。
すると、数えきれない民が、仲間が拘留されている警察署の前に集まり抗議した。
抗議行動はあちらこちらに飛び火していった。やがて全国規模になっていった。
抗議行動は、当初は、平和的なデモや集会だったが、公権力側は機動隊を動員して、力尽くで解散させた。
すると一変し、平和的なデモや集会が、過激化し、やがて、暴動に発展していった。
民らは石や火炎瓶を機動隊に投げ付けた。機動隊は催涙ガスや放水で応戦した。
暴動は国土を襲う津波の様に全国に広がっていった。
若者らが軍を除隊して地元に帰ってきた。その一人、奈津羽という若者がリーダーとなって、輪行寺を守るための「蓮華の党」という自警組織を立ち上げた。
蓮華の党は暴動を扇動した。これにより、民衆による抗議デモ、集会、そして、暴動は組織的なものとなった。
騒乱は全国に飛び火して、もはや政府には制御不能なものとなっていた。
蓮華の党は、各々の構成員が、自宅にある、刀や出刃包丁、或いは、猟銃といったもので武装した。
そして、国軍の武器庫を襲撃した。
武器庫を警備していた国軍の兵士達も、徴兵された元は貧しい民だったこともあり、蓮華の党にすんなり武器庫を明け渡した。
リーダーの奈津羽は、配下に命じて、武器庫の責任者だった国軍の将校を公衆の面前に引き摺り出すと、自ら刀を使い、その将校を斬首した。
集まった民衆は熱狂した。
武器庫の襲撃により、蓮華の党は、自動小銃、手榴弾、対戦車擲弾、無反動砲などの大量の武器弾薬を手に入れた。
蓮華の党のメンバーは一万人以上に膨れ上がった。
政府は緊急事態宣言を発令し、戒厳令を布告したが、その判断は遅かった。
如何にこの国の政府が無能かがお分かり頂けるだろう。
汎ゆる街、汎ゆる道に国軍が展開した。兵士達はM16A1自動小銃を携えて警備に当たった。
街中をM113兵員装甲輸送車が、キャタピラを唸らせて走り続けた。
国軍は大覚和尚が首謀者ではないかと考え、彼を捕縛しようと試みたが、民衆らが道にバリケードを築き、また、蓮華の党が奪った武器で攻撃されて、輪行寺には近付けなかった。
奈津羽や主要な蓮華の党のメンバー、そして、かつて、和尚の元で修行した僧侶らが数人だけ輪行寺にやって来た。
「和尚、民衆の手で、国家をひっくり返しましょう。」
奈津羽が言う。
元弟子の僧侶らも言った。
「大師、お願い致します。我らに戦う様に命じて下さい。」
これは天魔の所為だった。仏門に帰依する者は、争いと暴力を遠ざけねばならないのだが、もはや、僧侶や蓮華の党を止めることが出来るのは和尚しかいない。
和尚は暫く考えると、彼らに暫く待つ様に伝え、書院に引きこもった。そして、ある書状をしたためた。
それは「御経書(高僧の命令文書)」だった。
和尚はその書状を奈津羽に渡すと、こう話した。
「敵を討ち取り、殺害することは、御仏のご意思である。戦う者は極楽往生が約束される。」
と。
和尚のお墨付きを得た蓮華の党らは、国軍に攻撃を仕掛けた。
全国のあちこちで銃弾が飛び交った。
多くの血が流れ、黒煙が上がり、その黒さたるやいなや、あの天空に君臨する太陽を覆い隠さん勢いであった。
和尚は蓮華の党と戦う民衆の精神的指導者となっていった。
国軍は、どんどん撤退を繰り返した。叛乱軍は勢い付いた。
政府側は国際社会に援軍を要請したが、腐敗した政権に味方する国は、どこも無かった。
他の仏教国が、蓮華の党を支援した。党が制圧した港に貨物船が到着する。
積み荷は他の仏教国からのもので、中身は大量のAK47自動小銃を始めとした、東側の兵器だった。
政府側はいよいよ窮地に陥った。叛乱軍は首都の25km先に迫った。時より、叛乱軍の榴弾砲の砲弾が、首都の中心部に着弾した。
政府側の指導者や閣僚、有力な政治家や官僚たちは、国軍を見捨てて、首都から脱出していった。
公官庁の屋上から政府高官を乗せたヘリが、次々と離陸していった。
叛乱軍は遂に議会と首相官邸を占拠して、首都は陥落した。
首都陥落後、逃げ遅れた政府関係者の処刑が始まった。
ある者は銃殺され、また、ある者は街の信号機に吊るされ絞首刑となった。
生き残りの国軍の関係者は軍服から私服に着替えて民間人のフリをして逃亡を図る者もいたが、バレて首を斬られるものもいた。
政府側には叛乱軍に大人しく降伏した者達もおり、彼らが主体となって、臨時の暫定政権が樹立された。
叛乱軍はこれを了承した。
暫定政権と叛乱軍は和平協定を結び、ようやく騒乱が終結した。
一年後、暫定政権は協定に基づいて、議会選挙を実施した。
その結果、蓮華の党は459議席のうち、実に、386議席を獲得し、新政権を樹立した。
この新政権は早速行動に出た。先ず、政府に反対的な政党を非合法化し、活動を禁止した。
蓮華の党に味方する政党だけが活動を許された。
次に暫定政権時代の元高官らが逮捕され、即日処刑された。
全て大覚大師(和尚)の命令だった。
仏教以外の宗教は弾圧を受け、新政権に対する反体制派はことごとく、処刑された。
全て大師やその弟子だった僧侶達が計画し、奈津羽率いる蓮華の党の親衛隊である、法経防衛隊が実行した。
新政権は仏法に基づいた憲法や法律を制定して、教えに反する行為を行う民を、宗教警察を使い、投獄していった。
蓮華の党は海外の口座に秘密の資産を隠していた。それは、ジュネーブやリヒテンシュタイン、モナコ、ケイマン、バージン諸島などに存在した。
蓮華の党は民衆に寄付やお布施を強制した。
こうして集められた潤沢な資金を元にして、公共事業を行い、また、大規模な福祉政策を実施した。
民は以前よりかは豊かになったかも知れないが、基本的には貧しいままだった。
ただし、福祉や社会保障が充実しているために、誰も政府に文句を言う者はいなかった。
その影で、たくさんの無実の人々が粛清されてはいたのだが…。
最高指導者、大覚大師の75歳の誕生日の時、首都は盛大にそれを祝った。
広場で軍事パレードが行われ、閲兵台から、首相の奈津羽や高官達が兵士らに敬礼した。
その様子を大覚大師は満足そうに眺めていた。
民衆は貧しいながらも充実した福祉や社会保障に満足していた。
今日も反体制派の処刑は続いた。
新政権を批判する哀歌(ラメント)を歌ったシンガーが逮捕された。
太陽は今日も天空の頂点に君臨していた。
(終)
昼。天空の頂点に太陽が君臨し、民を容赦なく、熱く照らした。
物価は急上昇を続けた。それに並行して、税金も上昇していった。
政府は、その高い税率に見合う行政サービスを提供出来ないでいた。
厳密に言えば「出来ない」ではなく「しない」と言った方がより正確だった。
政府は腐敗していた。政治家は集まった税金を自らの懐を温めるために使い、役人は、企業から袖の下を受け取った。
彼らにとって、民の暮らしなど、どうでもよかったのだ。
民は疲弊し、困窮し、飢えた。
人々は言った。
「このままでは政府に殺される。」
と。
この民の貧困と危機を憂いた一人の僧侶がいた。輪行寺の大覚和尚だ。
見兼ねた和尚は、貧しい民に施しをした。
寺の境内では炊き出しが行なわれた、民はその列に並んだ。
民の中には、まだ多少暮らしに余裕が残る者達がいたが、彼らは和尚の行いに感涙を流し、財産の一部を寺に寄進した。
寺に想定外の収入が入った。和尚はその資金を元に、貧困家庭の子供らが、食事を無料で摂る事が出来る食堂を建てた。
和尚の行いを聞いて、各地から若い僧侶が輪行寺に集まった。
大覚和尚に教えを授かりたいというのだ。
和尚は当初、自分は弟子は取らない旨を、集まった若い僧侶らに伝えたが、彼らは諦めず、和尚に懇願した。
この若い僧侶らの情熱に心打たれた和尚は、彼らの弟子入りを認めた。
民からの寄進は続いていた。寺は集まった資金で、子供のための食堂を増やしていった。
一人の医者がいた。彼は名門の家に生まれ育ち、有名国立医大を首席で卒業したエリートだった。
しかし、彼の瞳には、常に困窮した民の姿があった。
彼は輝ける経歴を捨て、無償で貧しい民の診療に当たった。
寺には寄進が続いていた。
医者が和尚の寺を訪ね、下座して頭を下げて懇願した。
「どうか寺のお力で診療所を開設して頂けないか?」
と。
和尚は快く応じた。
寺に集まった資金を元に診療所が開設された。医者が診療所の責任者となり、民の診療を行った。
これを聞いた民達は、更に寺に寄進をしたので、莫大な資金が寺に集まった。
和尚は医者と相談した上で、更に多くの診療所を開設する事にした。
熱意ある若い医者が、全国から集まり、民の診療を行う様になった。
全て無料である。
和尚の元での修行を終えた若い僧侶達は、和尚の教えを広める為に、各々全国へ旅立った。
やがて、和尚の教えを実践する為の寺が、各地に建立された。
全国に食堂と診療所が次々と開設されていった。
全国に和尚の弟子だった僧侶らが、寺を建てた事で輪行寺の系列の寺が増えていった。
すると、全国の貧しい民から寺に寄進が、続々と集まった。
和尚は、子供のための食堂を、より規模を大きく拡張し、また、診療所だけではなく、大きな病院も次々と建設していった。
民の中には逮捕されるものがいた。彼らの罪は「子供を学校に行かせなかった」事だった。
政府は義務教育を謳っていたが、学校の教科書代や給食費は親負担だった。
貧しい民には賄えない。
和尚は寺に集まった莫大な資金を元に、次々と学校を建設していった。勿論、全て無料だった。
こうして民達は国立病院には行かなくなった。公立学校に子供を遣らなくなった。
寺の建てた病院や学校の方が無料で、しかも質がよかった。
民は急速に政府を見限り始めた。
これを知った無能な政治家や役人達は、強引に法改正を行い、寺から税金を取り立てようとした。
和尚は、粛々と政府に税金を納めた。
この頃、寺の学校で学んできた若者らが、続々と徴兵されていった。
彼らの親達は涙を流し、彼らを見送った。
無能な政治家や役人は、相変わらず寺から税金を取り立てた。そして事件が起こる。
寺の財産を調査しに税務署の役人が寺に来た。そして、一通り調査を終えると、役人は何時までに幾ら税金を納めるかが記された書類を和尚に渡して立ち去った。
政府の横暴なやり方に我慢の限界を向かえた寺の門徒の民らが、税務署の役人を襲撃して殺害してしまったのだ。
事件に関与した民らは逮捕された。
すると、数えきれない民が、仲間が拘留されている警察署の前に集まり抗議した。
抗議行動はあちらこちらに飛び火していった。やがて全国規模になっていった。
抗議行動は、当初は、平和的なデモや集会だったが、公権力側は機動隊を動員して、力尽くで解散させた。
すると一変し、平和的なデモや集会が、過激化し、やがて、暴動に発展していった。
民らは石や火炎瓶を機動隊に投げ付けた。機動隊は催涙ガスや放水で応戦した。
暴動は国土を襲う津波の様に全国に広がっていった。
若者らが軍を除隊して地元に帰ってきた。その一人、奈津羽という若者がリーダーとなって、輪行寺を守るための「蓮華の党」という自警組織を立ち上げた。
蓮華の党は暴動を扇動した。これにより、民衆による抗議デモ、集会、そして、暴動は組織的なものとなった。
騒乱は全国に飛び火して、もはや政府には制御不能なものとなっていた。
蓮華の党は、各々の構成員が、自宅にある、刀や出刃包丁、或いは、猟銃といったもので武装した。
そして、国軍の武器庫を襲撃した。
武器庫を警備していた国軍の兵士達も、徴兵された元は貧しい民だったこともあり、蓮華の党にすんなり武器庫を明け渡した。
リーダーの奈津羽は、配下に命じて、武器庫の責任者だった国軍の将校を公衆の面前に引き摺り出すと、自ら刀を使い、その将校を斬首した。
集まった民衆は熱狂した。
武器庫の襲撃により、蓮華の党は、自動小銃、手榴弾、対戦車擲弾、無反動砲などの大量の武器弾薬を手に入れた。
蓮華の党のメンバーは一万人以上に膨れ上がった。
政府は緊急事態宣言を発令し、戒厳令を布告したが、その判断は遅かった。
如何にこの国の政府が無能かがお分かり頂けるだろう。
汎ゆる街、汎ゆる道に国軍が展開した。兵士達はM16A1自動小銃を携えて警備に当たった。
街中をM113兵員装甲輸送車が、キャタピラを唸らせて走り続けた。
国軍は大覚和尚が首謀者ではないかと考え、彼を捕縛しようと試みたが、民衆らが道にバリケードを築き、また、蓮華の党が奪った武器で攻撃されて、輪行寺には近付けなかった。
奈津羽や主要な蓮華の党のメンバー、そして、かつて、和尚の元で修行した僧侶らが数人だけ輪行寺にやって来た。
「和尚、民衆の手で、国家をひっくり返しましょう。」
奈津羽が言う。
元弟子の僧侶らも言った。
「大師、お願い致します。我らに戦う様に命じて下さい。」
これは天魔の所為だった。仏門に帰依する者は、争いと暴力を遠ざけねばならないのだが、もはや、僧侶や蓮華の党を止めることが出来るのは和尚しかいない。
和尚は暫く考えると、彼らに暫く待つ様に伝え、書院に引きこもった。そして、ある書状をしたためた。
それは「御経書(高僧の命令文書)」だった。
和尚はその書状を奈津羽に渡すと、こう話した。
「敵を討ち取り、殺害することは、御仏のご意思である。戦う者は極楽往生が約束される。」
と。
和尚のお墨付きを得た蓮華の党らは、国軍に攻撃を仕掛けた。
全国のあちこちで銃弾が飛び交った。
多くの血が流れ、黒煙が上がり、その黒さたるやいなや、あの天空に君臨する太陽を覆い隠さん勢いであった。
和尚は蓮華の党と戦う民衆の精神的指導者となっていった。
国軍は、どんどん撤退を繰り返した。叛乱軍は勢い付いた。
政府側は国際社会に援軍を要請したが、腐敗した政権に味方する国は、どこも無かった。
他の仏教国が、蓮華の党を支援した。党が制圧した港に貨物船が到着する。
積み荷は他の仏教国からのもので、中身は大量のAK47自動小銃を始めとした、東側の兵器だった。
政府側はいよいよ窮地に陥った。叛乱軍は首都の25km先に迫った。時より、叛乱軍の榴弾砲の砲弾が、首都の中心部に着弾した。
政府側の指導者や閣僚、有力な政治家や官僚たちは、国軍を見捨てて、首都から脱出していった。
公官庁の屋上から政府高官を乗せたヘリが、次々と離陸していった。
叛乱軍は遂に議会と首相官邸を占拠して、首都は陥落した。
首都陥落後、逃げ遅れた政府関係者の処刑が始まった。
ある者は銃殺され、また、ある者は街の信号機に吊るされ絞首刑となった。
生き残りの国軍の関係者は軍服から私服に着替えて民間人のフリをして逃亡を図る者もいたが、バレて首を斬られるものもいた。
政府側には叛乱軍に大人しく降伏した者達もおり、彼らが主体となって、臨時の暫定政権が樹立された。
叛乱軍はこれを了承した。
暫定政権と叛乱軍は和平協定を結び、ようやく騒乱が終結した。
一年後、暫定政権は協定に基づいて、議会選挙を実施した。
その結果、蓮華の党は459議席のうち、実に、386議席を獲得し、新政権を樹立した。
この新政権は早速行動に出た。先ず、政府に反対的な政党を非合法化し、活動を禁止した。
蓮華の党に味方する政党だけが活動を許された。
次に暫定政権時代の元高官らが逮捕され、即日処刑された。
全て大覚大師(和尚)の命令だった。
仏教以外の宗教は弾圧を受け、新政権に対する反体制派はことごとく、処刑された。
全て大師やその弟子だった僧侶達が計画し、奈津羽率いる蓮華の党の親衛隊である、法経防衛隊が実行した。
新政権は仏法に基づいた憲法や法律を制定して、教えに反する行為を行う民を、宗教警察を使い、投獄していった。
蓮華の党は海外の口座に秘密の資産を隠していた。それは、ジュネーブやリヒテンシュタイン、モナコ、ケイマン、バージン諸島などに存在した。
蓮華の党は民衆に寄付やお布施を強制した。
こうして集められた潤沢な資金を元にして、公共事業を行い、また、大規模な福祉政策を実施した。
民は以前よりかは豊かになったかも知れないが、基本的には貧しいままだった。
ただし、福祉や社会保障が充実しているために、誰も政府に文句を言う者はいなかった。
その影で、たくさんの無実の人々が粛清されてはいたのだが…。
最高指導者、大覚大師の75歳の誕生日の時、首都は盛大にそれを祝った。
広場で軍事パレードが行われ、閲兵台から、首相の奈津羽や高官達が兵士らに敬礼した。
その様子を大覚大師は満足そうに眺めていた。
民衆は貧しいながらも充実した福祉や社会保障に満足していた。
今日も反体制派の処刑は続いた。
新政権を批判する哀歌(ラメント)を歌ったシンガーが逮捕された。
太陽は今日も天空の頂点に君臨していた。
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漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
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