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芥子
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金色の朝日が目覚める頃、農民達の一日が始まる。
丸い緑のふくよかな果実部にカミソリで切り込みを入れると、細い傷口から真白な乳液が滴る。
農民達は、それを一つ一つ丁寧にヘラで濾し取っていく。
世界有数の芥子の栽培地は今日も平和だった。
戦争中、政府軍の大隊を率いるアカマダ中佐はジャングルの奥深くに侵攻した。
敵の反政府ゲリラを追撃する中佐率いる大隊は、やがて、補給線が伸びることで窮地に陥っていく。
やがて大隊はラングナ高原に到達する。
大隊はこの地に駐留した。
土地の農民達は大隊を解放者として受け入れた。
一方、政府軍からの援軍と補給はとどかないままだった。
アカマダ中佐は一計を案じた。
「物資を如何に調達すべきか?」
そこで中佐は地元の農民の長達に面会した。
この辺り一帯の村は、全部で167箇所もある。
長達は、一番中心にある、ガンダレー村に集まった。
アカマダ中佐の大隊の一部が、長達を護衛した。
中佐は長達に聞いた。
「この地方の特産品は何ですか?」
すると長達は答えた。
「ヤマイモだよ。」
と。
それ以外の特産品も産業もない、貧しい土地だった。
そこで中佐は、長達を説得して、各村々に芥子の栽培を奨励した。
勿論、違法であり、また、重大な軍規違反である。
早速、栽培が開始された。
「全ての責任は自分が取る。安心して欲しい。」
アカマダ中佐は人々を説得した。
政府軍の援軍と補給はまだ来ない。
栽培が起動に乗るのに二年を費やした。
中佐の大隊の中には、病気で命を落とす兵士もいた。
大隊に志願する村の若者達が出始める。しかし、肝心の武器弾薬が足りない。
大隊は反政府ゲリラと戦闘を交えながら、ゲリラから武器弾薬を奪い、戦い続けた。
もはや大隊の方が「ゲリラ化」していた。
芥子栽培が順調に進んだ。ようやく、第一号の収穫が始まる。
政府軍の援軍と補給はまだ来ない。
捕虜にしたゲリラが、精製方法を知っていたので、それを聞き出して、ラングナ高原の七カ所に、阿片の精製プラントを立ち上げた。
一方、大隊は、村人の協力を得て、大規模な開拓を行った。
ジャングルの木を切り倒して、道を造る。道は、西部の海岸沿いまで、実に53kmになった。
出来上がった阿片を袋に詰めて、自力で調達した騾馬の背中にそれを載せる。
大隊の兵士が護衛する中、村人の商隊は道を西に向かって歩き続けた。
やがて、西部の海岸に到着した。
ここは無法地帯。商隊は載せてきた荷物を地元の有力者に見せた。
すると有力者は興味を示した。
「ぜひ買いたい。」
と。
250万ペルヒ(約36億円)の売上げとなった。
因みにその有力者は、阿片を海外へ輸出するそうな。主に先進国向け。
商隊が村々に戻った。
思い掛けない大金を手に入れた村人らは大騒ぎとなった。
アカマダ中佐は一躍英雄になった。
その夜、冷酷に照り付ける太陽が姿を消し、夜の闇が大地を支配する頃。
ラングナ高原の村々はお祭り騒ぎになった。
高原の村々は、貧困から脱して、裕福になった。
大隊は阿片収入の3割を徴収すると、その資金で、敵であるはずの反政府ゲリラから武器弾薬を購入し、その武器で、ゲリラと戦った。
政府軍の援軍と補給はまだ来ない。
その後も芥子の栽培と阿片の精製は順調だった。
戦争が始まり、12年が経過しようとしていた。
反政府ゲリラのリーダーが、病気で亡くなった。
ゲリラは弱体化していたこともあり、大隊側に降伏した。
アカマダ中佐は、彼らを赦した。
すると、元ゲリラ達は、続々と大隊に志願した。
ゲリラが無くなった今、既に戦う意味もなく、また、武器弾薬の調達も、本来の意味からすると、もはや不要だった。
しかし、村人らや大隊の兵士達は、余りに莫大な利益が出ることで、芥子の虜になっていた。
アカマダ中佐は更にビジネスを拡大していった。
ジャングルを開墾して、芥子畑を拡張していった。
その年の売上げは過去最高を記録した。
この頃、阿片の運搬に騾馬の出番は無かった。
大量の阿片を軍用車輌に載せて、西部の海岸へ走る。
西部の有力者も海外へ輸出していた関係もあって、より一層、裕福になっていった。
アカマダ中佐らは、阿片により得た潤沢な資金を元に、最新の兵器を購入していった。
自動小銃、機関銃、対戦車ミサイル、そして、地対空ミサイル、など。
中佐がジャングルへ足を踏み入れてから20年になろうとしていた。
ようやく政府軍がやってきた。
しかし、援軍や補給のためではなく、アカマダ軍を掃討するためだった。
アカマダ軍は敵、つまり、政府軍と戦闘を繰り広げた。
双方に多数の死傷者が出た。
アカマダ軍は、時々、政府軍側と、一時的に停戦する事があった。
潤沢な資金を用いて、停戦中に、政府軍の兵士や若い将校を買収した。
政府軍から戦線を離脱する者が続出した。
どんどん膨れ上がるアカマダ軍。
アカマダ中佐は、この頃から将軍を名乗り始めた。
アカマダ軍は政府軍を蹴散らし、要所を次々と制圧していった。
国の国土の三分の一を掌握した。
この頃、アカマダ軍の阿片の出荷量は3,500トンで過去最高となった。
アカマダ将軍は、この支配地域の王の様に振る舞ったが、決して人々を敵に回す様な事はしなかった。
アカマダ将軍がジャングルに侵攻してから25年が経った。
アカマダ軍の支配地域は急速に近代化していった。
人々の生活は豊かになり、学校や病院もできた。
それでも前線では、相変わらず、アカマダ軍と政府軍の銃弾の嵐が、ヒュンヒュンと飛び交った。
この頃、欧米のテレヒ局が、アカマダ軍の支配地域を取材した。
テレビクルーが、地元の住民や農民にインタビューした。
ある農夫が言った。
「将軍が来る前は、ここには何も無かった。政府はワシらに何もしてくれなかった。将軍はワシらに富を与えるためにやって来たのだ。」
と。
アカマダ軍と政府軍の戦闘は膠着状態だった。
敵である政府軍は、アカマダ軍から「小遣い」をもらっていた。
政府軍の士気はみるみる下がった。
やる気に満ち溢れていたのは、ただただ、国民の生活に無関心な、無能な政治家と役人だけだった。
アカマダ軍と政府軍は、その無能な連中の目を誤魔化すために、戦っているフリをした。
政府は財政難であったため、莫大な富を生む、アカマダ軍の支配地域は魅力的だった。
将軍がジャングルに侵攻して40年が経った。
アカマダ軍と政府軍は停戦して、勝手に和平協定を結んだ。
政府の政治家や役人は孤立した。
貧しいままの政府側の統治地区では、大した税収は見込めなかった。
軍は離反し給与未払いの警察は動かなくなった。
首相や閣僚、有力な政治家や役人らは、遂に国を見捨てて、海外へ脱出していった。
アカマダ将軍がジャングルに侵攻してから50年が経った。
アカマダ将軍は世を去った。
大勢の人々が葬儀に参列した。
棺には芥子の花が手向けられた。
世界有数の芥子の栽培地は今日も平和だった。
アカマダ将軍が世を去ると、良き纏め役を失ったアカマダ軍は同士討ちを始めた。
皆が豊かな土地を欲しがって戦った。再び国は戦火に飲まれた。
激しい戦争は10年も続いた。
戦火によって大勢が命を落し、建物は崩れ、大地は割れた。学校や病院は焼け落ちて、再び電気が来ない生活に逆戻りした。
やがて戦争は終わった。焼け跡には何も残らない。アカマダ将軍が築き上げた王国は崩壊した。
村々は再び貧困の渦に巻き込まれた。全ての国中のものが、数十年前に逆戻りした。
彼らは自ら築いた富を自ら破壊したのだった。
海外へ逃げていた無能な政治家や役人の子孫が国へ戻って来た。
彼らは失敗から学ぼうてして、農民達に、特産品は何かと尋ねた。
農民達は言った。
「ヤマイモだよ。」
と。
そこで新しい国の指導者達は一計を案じ、芥子の栽培を奨励した。
輪廻は巡りまた還る。
金色の朝日が目覚める頃、農民達の一日が始まる。
丸い緑のふくよかな果実部にカミソリで切り込みを入れると、細い傷口から真白な乳液が滴る。
農民達は、それを一つ一つ丁寧にヘラで濾し取っていく。
世界有数の芥子の栽培地は今日も平和だった。
(終)
丸い緑のふくよかな果実部にカミソリで切り込みを入れると、細い傷口から真白な乳液が滴る。
農民達は、それを一つ一つ丁寧にヘラで濾し取っていく。
世界有数の芥子の栽培地は今日も平和だった。
戦争中、政府軍の大隊を率いるアカマダ中佐はジャングルの奥深くに侵攻した。
敵の反政府ゲリラを追撃する中佐率いる大隊は、やがて、補給線が伸びることで窮地に陥っていく。
やがて大隊はラングナ高原に到達する。
大隊はこの地に駐留した。
土地の農民達は大隊を解放者として受け入れた。
一方、政府軍からの援軍と補給はとどかないままだった。
アカマダ中佐は一計を案じた。
「物資を如何に調達すべきか?」
そこで中佐は地元の農民の長達に面会した。
この辺り一帯の村は、全部で167箇所もある。
長達は、一番中心にある、ガンダレー村に集まった。
アカマダ中佐の大隊の一部が、長達を護衛した。
中佐は長達に聞いた。
「この地方の特産品は何ですか?」
すると長達は答えた。
「ヤマイモだよ。」
と。
それ以外の特産品も産業もない、貧しい土地だった。
そこで中佐は、長達を説得して、各村々に芥子の栽培を奨励した。
勿論、違法であり、また、重大な軍規違反である。
早速、栽培が開始された。
「全ての責任は自分が取る。安心して欲しい。」
アカマダ中佐は人々を説得した。
政府軍の援軍と補給はまだ来ない。
栽培が起動に乗るのに二年を費やした。
中佐の大隊の中には、病気で命を落とす兵士もいた。
大隊に志願する村の若者達が出始める。しかし、肝心の武器弾薬が足りない。
大隊は反政府ゲリラと戦闘を交えながら、ゲリラから武器弾薬を奪い、戦い続けた。
もはや大隊の方が「ゲリラ化」していた。
芥子栽培が順調に進んだ。ようやく、第一号の収穫が始まる。
政府軍の援軍と補給はまだ来ない。
捕虜にしたゲリラが、精製方法を知っていたので、それを聞き出して、ラングナ高原の七カ所に、阿片の精製プラントを立ち上げた。
一方、大隊は、村人の協力を得て、大規模な開拓を行った。
ジャングルの木を切り倒して、道を造る。道は、西部の海岸沿いまで、実に53kmになった。
出来上がった阿片を袋に詰めて、自力で調達した騾馬の背中にそれを載せる。
大隊の兵士が護衛する中、村人の商隊は道を西に向かって歩き続けた。
やがて、西部の海岸に到着した。
ここは無法地帯。商隊は載せてきた荷物を地元の有力者に見せた。
すると有力者は興味を示した。
「ぜひ買いたい。」
と。
250万ペルヒ(約36億円)の売上げとなった。
因みにその有力者は、阿片を海外へ輸出するそうな。主に先進国向け。
商隊が村々に戻った。
思い掛けない大金を手に入れた村人らは大騒ぎとなった。
アカマダ中佐は一躍英雄になった。
その夜、冷酷に照り付ける太陽が姿を消し、夜の闇が大地を支配する頃。
ラングナ高原の村々はお祭り騒ぎになった。
高原の村々は、貧困から脱して、裕福になった。
大隊は阿片収入の3割を徴収すると、その資金で、敵であるはずの反政府ゲリラから武器弾薬を購入し、その武器で、ゲリラと戦った。
政府軍の援軍と補給はまだ来ない。
その後も芥子の栽培と阿片の精製は順調だった。
戦争が始まり、12年が経過しようとしていた。
反政府ゲリラのリーダーが、病気で亡くなった。
ゲリラは弱体化していたこともあり、大隊側に降伏した。
アカマダ中佐は、彼らを赦した。
すると、元ゲリラ達は、続々と大隊に志願した。
ゲリラが無くなった今、既に戦う意味もなく、また、武器弾薬の調達も、本来の意味からすると、もはや不要だった。
しかし、村人らや大隊の兵士達は、余りに莫大な利益が出ることで、芥子の虜になっていた。
アカマダ中佐は更にビジネスを拡大していった。
ジャングルを開墾して、芥子畑を拡張していった。
その年の売上げは過去最高を記録した。
この頃、阿片の運搬に騾馬の出番は無かった。
大量の阿片を軍用車輌に載せて、西部の海岸へ走る。
西部の有力者も海外へ輸出していた関係もあって、より一層、裕福になっていった。
アカマダ中佐らは、阿片により得た潤沢な資金を元に、最新の兵器を購入していった。
自動小銃、機関銃、対戦車ミサイル、そして、地対空ミサイル、など。
中佐がジャングルへ足を踏み入れてから20年になろうとしていた。
ようやく政府軍がやってきた。
しかし、援軍や補給のためではなく、アカマダ軍を掃討するためだった。
アカマダ軍は敵、つまり、政府軍と戦闘を繰り広げた。
双方に多数の死傷者が出た。
アカマダ軍は、時々、政府軍側と、一時的に停戦する事があった。
潤沢な資金を用いて、停戦中に、政府軍の兵士や若い将校を買収した。
政府軍から戦線を離脱する者が続出した。
どんどん膨れ上がるアカマダ軍。
アカマダ中佐は、この頃から将軍を名乗り始めた。
アカマダ軍は政府軍を蹴散らし、要所を次々と制圧していった。
国の国土の三分の一を掌握した。
この頃、アカマダ軍の阿片の出荷量は3,500トンで過去最高となった。
アカマダ将軍は、この支配地域の王の様に振る舞ったが、決して人々を敵に回す様な事はしなかった。
アカマダ将軍がジャングルに侵攻してから25年が経った。
アカマダ軍の支配地域は急速に近代化していった。
人々の生活は豊かになり、学校や病院もできた。
それでも前線では、相変わらず、アカマダ軍と政府軍の銃弾の嵐が、ヒュンヒュンと飛び交った。
この頃、欧米のテレヒ局が、アカマダ軍の支配地域を取材した。
テレビクルーが、地元の住民や農民にインタビューした。
ある農夫が言った。
「将軍が来る前は、ここには何も無かった。政府はワシらに何もしてくれなかった。将軍はワシらに富を与えるためにやって来たのだ。」
と。
アカマダ軍と政府軍の戦闘は膠着状態だった。
敵である政府軍は、アカマダ軍から「小遣い」をもらっていた。
政府軍の士気はみるみる下がった。
やる気に満ち溢れていたのは、ただただ、国民の生活に無関心な、無能な政治家と役人だけだった。
アカマダ軍と政府軍は、その無能な連中の目を誤魔化すために、戦っているフリをした。
政府は財政難であったため、莫大な富を生む、アカマダ軍の支配地域は魅力的だった。
将軍がジャングルに侵攻して40年が経った。
アカマダ軍と政府軍は停戦して、勝手に和平協定を結んだ。
政府の政治家や役人は孤立した。
貧しいままの政府側の統治地区では、大した税収は見込めなかった。
軍は離反し給与未払いの警察は動かなくなった。
首相や閣僚、有力な政治家や役人らは、遂に国を見捨てて、海外へ脱出していった。
アカマダ将軍がジャングルに侵攻してから50年が経った。
アカマダ将軍は世を去った。
大勢の人々が葬儀に参列した。
棺には芥子の花が手向けられた。
世界有数の芥子の栽培地は今日も平和だった。
アカマダ将軍が世を去ると、良き纏め役を失ったアカマダ軍は同士討ちを始めた。
皆が豊かな土地を欲しがって戦った。再び国は戦火に飲まれた。
激しい戦争は10年も続いた。
戦火によって大勢が命を落し、建物は崩れ、大地は割れた。学校や病院は焼け落ちて、再び電気が来ない生活に逆戻りした。
やがて戦争は終わった。焼け跡には何も残らない。アカマダ将軍が築き上げた王国は崩壊した。
村々は再び貧困の渦に巻き込まれた。全ての国中のものが、数十年前に逆戻りした。
彼らは自ら築いた富を自ら破壊したのだった。
海外へ逃げていた無能な政治家や役人の子孫が国へ戻って来た。
彼らは失敗から学ぼうてして、農民達に、特産品は何かと尋ねた。
農民達は言った。
「ヤマイモだよ。」
と。
そこで新しい国の指導者達は一計を案じ、芥子の栽培を奨励した。
輪廻は巡りまた還る。
金色の朝日が目覚める頃、農民達の一日が始まる。
丸い緑のふくよかな果実部にカミソリで切り込みを入れると、細い傷口から真白な乳液が滴る。
農民達は、それを一つ一つ丁寧にヘラで濾し取っていく。
世界有数の芥子の栽培地は今日も平和だった。
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