The Strait

無邪気な棘

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消えた積み荷を追え!

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「侵入者」




黄金の夕日が静かに水平線へと潜り始める頃、巨大な船体がゆっくりと、おだやかな波を立てながら、静かに海峡を通過して行く。

本土と丸加島との間の海峡は、最も広い部分で約380km。そして、最も狭い部分では約18kmだ。

丸加海峡は、年間8万隻以上の船舶が通航しており、単純計算すると一日当り約220隻以上が通行する。

一般的なコンテナ船の航行速度は、約20~25ノット(時速約37~46km)程度だが、海峡では、事故を防止するために、大幅に速度を落とす。

いよいよ太陽が沈み、水平線だけが赤く染まり、海の支配を夜の闇に明け渡す頃、一隻のコンテナ船がゆっくりと海峡を通過し、本土の港を目指していた。

パナマ船籍の「アメージング・ウェーブ号」だ。

この船が、海峡の最も狭い箇所に差し掛かり、最低速度を保ちながら航行する頃、5隻の小型ボートが、海面を切り裂きながら、ゆっくりと船に接近した。

船の乗組員たちは、それに気付かない。やがてボートは船の横に着いた。

ボートには一隻辺り10人の黒い戦闘服と目出し帽を被った人物達が乗っていた。5隻、つまり、全部で50人だ。

アメージング・ウェーブ号は、ボートに気付かないまま航行を続ける。それに上手く着いてボートも移動する。

その姿はまるで巨大なサメにコバンザメが貼り付く様だった。

ボートの黒尽くめの人物達が、大きなアンカーの付いたワイヤーロープを専用の発射機で、船の甲板目掛けて発射した。

アンカーが船に掛かる。

すると、その人物達は、ワイヤーロープを使って、船に乗り込んで行った。

やがて海は完全に闇に支配され、ただ月だけが船を照らした。

黒尽くめの人物達は、コンテナ船の一部屋、一部屋を廻り、船の乗組員たちを、携えていたカラシニコフで脅し、船底の部屋へ連行した。

乗組員たちは、ロープで身体を拘束された。

次に侵入者達は、操舵室を占拠した。そして、船長以下、船を操作する乗組員を銃で脅し、指定した場所へ船を移動させる様に命じた。

アメージング・ウェーブ号の乗組員たちは、なすすべがなかった。

侵入者のうちの10が、ボートに戻ると、船から離れ、夜の闇の凪に消えて行った。

船には残り、 40人の賊が立て籠もりながら、乗組員を脅し、船を彼らの望む場所へゆっくりと導いた。

巨大な船が海の闇に消えて行った。それはまるで、鮮やかなイリュージョンを見るかの様だった。

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「ミーティング」




夜8時。村岡の携帯がなる。彼は液晶画面に目を遣ると、着信番号を確認して、電話に出た。

「もしもし。はい。はい。分かりました。直に向かいます。」

村岡は35歳、独身だ。183cmの身長に筋骨隆々の逞しい身体を持つこの男は、防衛海軍とフランス外人部隊を経て、海上警備隊に入隊した経歴を持つ。現在の階級は少佐だ。

村岡は急ぎ着替えると、車を走らせた。15km先にある、海上警備隊の基地に向かって。

基地に着いた村岡は、静脈認証で、内部に入る。すると、部下の今池が、村岡をブリーフィングルームに案内した。

部屋に入る二人。すると、そこには、海上犯罪取締局の後藤局長以下5名の幹部が集まっていた。

「来たか、座り給え。」

局長が言う。緊急ミーティングが開かれた。

局長補佐官の宮田が事件に関して説明した。

「本日18時頃、丸加海峡を通過中の大型コンテナ船が姿を消した。」

プロジェクターのレンズから青白い光が伸びて、映像をスクリーンに映し出した。

「船はパナマ船籍のアメージング・ウェーブ号。最大出力30ノット。自動制御システム搭載。」

すると局長が付け足した。

「自動なら乗組員数は多くないな。せいぜい20人弱か?」

宮田が答える。

「御名答。25人です。」

村岡が軽く手を上げる。

「その船が姿を消す前の無線記録は有りませんか?」

幹部達は眉をひそめた。

「いや、無い。全くだ。」

宮田が返した。

局長が村岡に告げる。

「大型の船が忽然として姿を消した。乗組員と共に。記録も無し。今言えるのはそれだけだ。」

村岡と今池は、顔を見合わせた。

「村岡、君の部隊に船を捜索して貰いたいんだ。」

宮田が村岡に告げると村岡が口を開いた。

「行方不明の船の捜索は、俺達の管轄外です。それに、何でそもそも海上犯罪取締局が招集されてるんですか?」

ブリーフィングルームを暫くの間、静寂が支配した。その静寂を破る様に局長が口を開いた。

「これは海賊の仕業だろう。その可能性があるからだ。」

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「家宅捜索」




ブリーフィングルームを出た村岡と今池は、早速、丸加海域近くの海上警備隊基地へ移動する準備に取り掛かった。

「仮に海賊の仕業なら、積み荷は相当カネになるモノでしょうね。或いは、乗組員を人質にして身代金をふんだくるとか。」

今池が言った。

二人はロッカールームで荷物を纏めながら話した。

「身代金の線は低いだろう。リスクが高い。」

村岡が返した。

「じゃあ、積み荷が目的?」

と、今池。

「例えばそうだとしても、かなりヤバいブツかも知れない。輸入物のブランド品とか宝石類は、確かにカネにはなるが、海賊してまで奪うほどの価値は無いだろう。売り捌けば足が付くしな。」

村岡がそう言うと、二人はロッカールームを出た。荷造りが終わったのだ。

丸加海域近くの基地にはヘリで移動する。飛行場にUH-60が待機していた。

プロペラが激しく回転し、夜の闇と空気を切り裂く。

二人は素早く搭乗すると、ヘリはゆっくりと離陸して行った。

翌日、本土のとある場所の雑居ビルの前に、軍用車輌が5台停車した。

車内から、迷彩服と防弾チョッキ、ヘルメットを身に着け、MP5を構えた男達が出て来て、雑居ビルに突入した。

軍警察だ。

彼らは、ビルの一階から最上階の五階までの全ての部屋の扉を蹴破り、内部をくまなく制圧して行く。

最後の一部屋、最上階の最も奥の部屋に突入した。

「軍警察だ、全員両手を頭の後に組んで、跪け!」

部屋の中にいたのは、六人の男達だった。全員が、拳銃を所持していたので、軍警察の隊員が、速やかに没収した。部屋の壁には自動小銃が、数丁立て掛けられていた。

部屋の男達は組織犯罪集団「影獣党」の構成員だった。

影獣党は、恐喝、強盗、誘拐、売春、人身売買、麻薬密売、武器密輸、不正資金洗浄など、その犯罪ネットワークは多岐に渡る。

軍警察の目的は、彼らの武器の押収だった。

軍警察は、雑居ビルの隅から隅までくまなく家宅捜索を行い、また、組織が管理している雑居ビル近くの貸し倉庫も捜索した。

幾らかの武器を押収したが、目的のモノは発見出来なかった。

軍警察は六人の構成員達を基地へ連行した。また、何らかの手掛かりになりそうなものも押収した。パソコン、書類、DVDなど。

突入部隊の隊長が、組織のアジトの壁に目をやった。

そこにはコンテナ船の写真が貼り付けてあった。アメージング・ウェーブ号の写真だ。

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「偽装工作」




村岡と今池は、ブルーの迷彩服と黒い防弾チョッキを身に纏い、ヘリに乗り込んだ。

ここは丸加海域近くの海上警備隊基地の飛行場だ。

二人を乗せたUH-1がゆっくりと離陸して行った。

ヘリは丸加海峡をぐるりと一周する様に、目的の船である、アメージング・ウェーブ号を捜索した。

眩い太陽光が海面を照らす。ヘリは隅から隅まで飛び回り、船を捜索した。燃料の許す限りに。

「見当たりませんね。」

今池が言った。村岡は答えなかった。彼はただひたすら、海に目をやった。

ヘリは一周まわり、基地へ一旦引き返そうとしたその時、本土の貿易港が見えた。たくさんの船が停泊し、色とりどりのコンテナが所狭しと積まれていた。

その船の中に見覚えのある船があった。色や形、様々な特徴が、事前に資料で見たアメージング・ウェーブ号にそっくりの船が停まっていた。

「着陸できるか?」

村岡が操縦士に伝えると、ヘリは着陸場所を探した。貿易港の近くに、商業施設の建設予定地の広い空き地があったため、そこにUH-1は着陸した。

ヘリから降りた村岡と今池は、貿易港の敷地内に入った。守衛に身分証明を見せ、電話を借り、応援を要請した。

二人は、そのまま守衛室に隠れ、待機した。

やがて、捜査チームが到着した。村岡は、チームと合流して、上空からみえた問題の船を探した。すると、最も奥の埠頭に繋留されていた。あった。

その船は何から何まで、どう見ても、アメージング・ウェーブ号だったが、船体の文字だけが異っていた。

「ブルーオーシャン号」

船体にはそう書かれていた。

村岡は訓練を思い出した。海外の海賊事件では、拿捕した船の名前を塗り替えたり、船籍を変更したりして、追跡を逃れようとする偽装工作が行われるという。

捜査チームは高所作業車を手配した。港が封鎖された。

作業車が問題の船の横に着けられた。作業台のアームが静かに伸びて行く。やがて、船の名前が書かれた箇所に作業台が到達した。

捜査チームのメンバーが、ヤスリなどの工具で、船の名前のペンキを削る。村岡と今池は、それを静かに見守る。

やがて、ペンキが剥げる。そして、「ブルーオーシャン号」の「B」 の下から「A」が姿を現した。

「アメージング・ウェーブ号」の「A」だ。

時間が掛かったがやがて隠された文字の全てが露わになった。それは、紛れもなく、姿を消したはずの船だった。

村岡は本部に連絡した。

アメージング・ウェーブ号発見、と。

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「積み荷」




捜査チームが増員され、船の捜索が行われれた。

船底の部屋から、縄で拘束された乗組員たちが発見される。やや衰弱してはいたが、皆、無事の様だ。

ただ一つ不可解なのが、船長を始めとする、船の操作に関わる人員の姿だけが見当たらない。

「どうなってやがる?」

村岡は頭を抱えた。

そこで先ず、積み荷を確認することにした。船の積み荷のリストや情報は、貿易港のデータベースにあった。

それによると、積み荷は主に、東南アジアからの日用品や家電製品となっていた。リストにあるコンテナの数と実際に船にある数との照合が行われれた。非常に時間がかかり、夕方が過ぎようとしていた。

リストの数と実際の数が一致した。しかしまだ気は抜けない。肝心の中身を確認しなくてはならない。

村岡達は捜査チームと共に、交代しながら、また、港の協力も得て、コンテナの中身を一つづつ確認した。作業は実に二日掛かった。

そして遂に、怪しいコンテナを一つだけ発見した。そのコンテナは空だった。

この船は荷物をこちらに運んできた船であり、仮に、再び荷物を積み込んで帰国するにしても、わざわざ空のコンテナを積んでくるなど考え難い。ましてや一つだけなどあり得ない。

「つまり、このコンテナの中身がうばわれたって訳だ。」

村岡が今池に話した。

「船長達はどこへ?」

今池が言う。

「分からん。」

村岡が静かに返した。

丸加島は面積8,630km²の島だ。この島と本土とは歴史的因縁がある。 

本土が極楽本宗という仏教宗派であるのに対して、丸加島は明西宗という古い宗派だった。島の住民も九割方が、明西宗だった。

中世に本土の極楽本宗の武将が侵攻し、島を制圧。併合したのだ。

以後、丸加島は、政治や経済を少数派の極楽本宗の門徒が主導し続けた。

明西宗の門徒達にすれば、この状況は我慢出来なかった。

島の中の主要な街では、時折、極楽本宗の門徒を狙った、明西宗派による銃や爆弾を使用したテロ事件が発生していた。

それで、丸加島の主要な街々には、軍警察が駐留していたのだ。

丸加島の県庁所在地から20km離れた所にある農家に密かに人が集結した。ある集団に属する人々だ。

相次ぐテロ事件を引き起こしている集団「典執霧(nostrum:ノストルム」の構成員達だ。

典執霧の起源は先ほどの丸加島併合の時代に遡る。

明西宗の住民らによる極楽本宗派に対する抵抗運動を行う民兵組織が、その起源であるといわれる。

彼らは地下に潜り、表には滅多に姿を表さない。故にその活動資金は、非合法なビジネスで稼ぎ出している。

典執霧は、摂裁(せっさい)を頂点にして、その下に摂裁代(せっさいだい)がおり、さらにその下に五人から十人程度の長頭(おさがしら)がいる。また、組織内のいざこざを調停する、和議人(わぎと)という相談役が存在する。

これら、摂裁、摂裁代、長頭、和議人らには、それぞれ、兵士が五人から十人程度付き従う。

こうして、一つの団体が構成されているが、団体は複数あり、分かっているだけで、五十三団体弱存在するとされている。

典執霧は秘密主義的な組織であるため、全貌が解明されていない。

農家に集まった典執霧の摂裁である香海は敷地内にある蔵にやってきた。船から強奪した積み荷を確認するためだ。

蔵に入ると、香海は、積み荷である、モスグリーン色の大きな木製の箱のうちの二つの中身を蓋を開けて覗いた。

そして、にこりと微笑んだ。

箱の中身はフランス製の歩兵用軽対戦車ミサイルであるMilanと、アメリカの携帯式防空ミサイルFIM-92 Stingerであった。

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「情報」




軍警察の基地において逮捕された影獣党のメンバーの尋問が行なわれた。

そのうちの一人で党の副官が司法取引に応じることとなった。

尋問を担当するのは、軍警察大尉の早坂である。雑居ビルへの家宅捜索を行った部隊の隊長だ。

「ちゃんと守れよな。裏切ったことがバレたら、殺されちまう。」

影獣党の副官が言う。そこで、早坂が返す。

「心配するな。お前の身の安全は保障する。さて、じゃあ、話してもらおうか。」

副官は話始めた。

「積み荷はヨーロッパの闇市場で仕入れた。それを、アフガンとパキスタン経由で運び、カラチの港で積み込みだ。そのはずだ。」

早坂が返す。

「現地滞在の仲間が積み込んだのか?」

すると副官が続けて話した。

「あぁ。船もこちらで手配した。パナマ船籍の「アメージング・ウェーブ」だ。」

続けて早坂が言う。

「成る程。船員はお前達とグルって訳か。」 

副官が返す。

「いや、一部だけだ。船長や航海士とか、船を操作する奴らだけだ。」

早坂が少し間を置いて口を開く。

「その後はどうなるんだ?」

尋問室の LED照明が冷たく光る。副官は全て話した。

「途中、シンガポールに停泊した時に、船を偽装しているはずだ。船籍を変えたり、船の名前を変えたりな。現地滞在の仲間が関与したはずだ。」

早坂が聞いた。

「どんな名前に偽装した?その後、こちらに無事着いたか?積み荷は?」

すると、副官はため息を付いて答えた。

「あの日、船は無事に着いたよ。少し遅れたがな。船の名前は「ブルーオーシャン」に変えてあった。だが、肝心の積み荷は空だった。船長らの話じゃ、海賊に奪われたそうだと。」

早坂が席を立ち、副官に近付いた。

「でたらめじゃないよな?本当なんだろうな?船長らは何処に隠れてる?」

副官がすかさず返す。

「嘘じゃねぇ、本当だ。積み荷が何処へ消えたかも分からねぇ。船長らは、隠れてるよ。」

そう言うと、副官は、船長らの隠れ家を告げた。

港から35km離れた小さな田舎町の古い民家に船長達は隠れていた。

軍警察の要請を受けた地元警察が、民家に捜索に入り、そこにいた船長や航海士など、主要なメンバーを逮捕した。

一方、村岡達は丸加海域を管轄する海上警備隊の基地にいた。

「もし俺が海賊なら、この辺りで積み荷を隠すならば、考えられるのは、ただ一箇所、丸加島だ。」

今池が返す。

「少佐、それは何故です?」

村岡が答えた。

「積み荷が何かは分からないが、盗み出すにしても、本土に到着した後じゃ目立つ。だから海上で盗み出して、海上の何処かに隠す。となると、島がちょうどいい。」

今池が言う。

「成る程、てことは、積み荷が空のまま本土に到着した訳か。あれ、待てよ、なら、船を操作してた連中は、なぜ、船底の船員を助けなかったんでしょうか?しかも、海賊被害に遭ったことも通報しなかった。」

村岡が少し微笑みながら答えた。

「あぁ、そう言う訳さ。つまり、船長達はグルって訳さ。」

二人は廊下を歩きながら話した。やがてエントランスに出ると、軍服姿の人物が立っていた。

軍警察の早坂だ。

「失礼します。海上警備隊の村岡少佐殿でありましか?」

早坂大尉は36歳。彼も村岡に負けないくらいの長身と身体つきだった。

「はい。そうですが。」

と村岡。

「自分は軍警察の早坂と申します。大尉を務めております。」

早坂がそう言うと、村岡は手を出した。二人は握手を交わした。

「情報をお持ちしました。」

早坂は事の次第を村岡に話した。

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「入会」




この日、典執霧の摂裁である香海は、丸加島の港にある、組織が所有する倉庫に来ていた。

香海は三人の部下を連れて来ていた。摂裁代、和議人、そして、長頭が一人の計三人だ。

「希望者は来ているか?」

香海は和議人に尋ねた。

「はい。来ています。部屋に待たせてあります。もうかれこれ5時間です。」

すると香海が答えた。

「そうか。意思は固そうだな。では始めるとしよう。」

彼らはその日だけ、ダークスーツに身を包んでいた。普段は何処にでもいる市民を装うために、カジュアルな服装なのだが、特別な日だけスーツを着る。

倉庫内の事務所、密閉された部屋に、一人の若者がいた。彼の父親もまた典執霧の構成員だった。

上座に摂裁の香海が立ち、その前列に、摂裁代、和議人、長頭が続いた。

若者は最も下座に位置している。

入会の儀式が始まる。

典執霧に入るためには覚悟を試される。先ず長時間、部屋で待たされる。「自分は本当に組織の一員になりたいのかどうか?」をじっくり考えさせる。同時に待つことで忍耐力が試されるのだ。

入会希望者はこの時点ならば、まだ引き返すことが出来る。

典執霧への入会資格は限られている。両親のどちらかが典執霧で、かつ、生粋の丸加人であること。

待たされる試練に耐えた者に、組織の幹部、大抵は、摂裁代か和議人のどちらかが、最後の確認をする。

「本当に組織に加わる覚悟はあるか?今なら止められる。一度組織へ入ったら、死んだ時以外に脱退は認められない。それで良いか?」と。

希望者が、それでも、入会を希望する場合、いよいよ儀式が始まる。

和議人が一通の書を持って来る。その書には観音菩薩の画と御朱印が記されている。

入会希望の若者は、そこに、墨と筆で、姓名と誓いの言葉を書く。

摂裁代が言った。

「道具(拳銃)はどっちの手を使う?利き手はどっちだ?」

若者は右手であることを伝える。すると、摂裁代が、漆塗りの桐の箱から、匕首を取り出す。鋭い刃が鈍く光る美しい匕首。

この匕首の刃で、若者の右手を軽く斬る。手にジワリと血がにじむ。

その後、先ほどの書に血判させる。

最後に書を燃やし灰にすると、その灰を酒を汲んだ盃に浸し、摂裁、摂裁代、和議人、長頭、そして、若者の順に廻し飲みをしていく。

若者が酒を飲み干すと、ボスである香海は若者に告げる。

「君は今日この瞬間から一門だ。」

そう言うと、連れてきた部下の一人、長頭を紹介した。

「これが君の親(直属の上司)だ。」

最後に和議人が五律を伝える。五つの掟である。

一、逆らうな。
一、強き男であれ。
一、仕事は完徹せよ。
一、女子供に手を出すな。
一、組織に命を預けよ。

である。

こうしてこの日。新しい典執霧が誕生した。

典執霧も影獣党とほぼ同様に、恐喝、強盗、誘拐、人身売買、麻薬密売、武器密輸、不正資金洗浄など、多岐に渡る犯罪ビジネスを展開している。

ただし、影獣党と違うのは、典執霧は売春は取り扱わない。また、前述の様な犯罪を犯す場合も女子供を標的にはしない。

彼らは男の名誉を重んじる。故に彼らは、影獣党を「女々し奴ら」と呼び、非常に軽蔑していた。

そもそも、影獣党は本土人の団体であり、彼らとつるんだりすることは、丸加人としてのプライドが許さないのである。

そこに両者の違いがある。

その頃、村岡らは海上警備隊基地にて、軍警察の早坂から、全ての情報を受け取った。

先ず、船の乗組員のうち、船長などの一部が影獣党とグルであったということ。途中の港で船は既にほぼ偽装されていたということ。そして、積み荷が輸送途中で本当に何者かに奪われたということ。

「船長らも既に逮捕されました。地元警察の協力の下に。」

早坂が言う。

「奪われた積み荷は何ですか?」

今池が早坂に尋ねた。

その積み荷は、対戦車ミサイルと携行型の地対空ミサイルであるということを、村岡と今池は早坂から聞いた。

「早坂さん、自分は積み荷は丸加島だと考えます。海上で強奪した積み荷を隠すなら、それがちょうど良い。」

村岡が言うと早坂が答えた。

「自分もそう思います。恐らく、強奪した海賊らは、典執霧の可能性が高いかと。」

続けざまに早坂が言う。

「ご協力頂くことは可能でしょうか?自分はあと2時間後に丸加へ飛びます。」

村岡と今池は顔を見合わせると同時に答えた。

「もちろんであります!」

と。

三人は準備に取り掛かった。丸加へは民間人を装うために私服で行く。

ただし、身分証と電話と拳銃は携帯して。

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「別れ」




丸加に入った三人は、別々に行動して、捜索することにした。纏まっていると目立つためだ。

宿も別々にとった。同じ宿の同じ部屋では、万が一襲撃に遭った場合、一網打尽になる恐れがあったからだ。

一件の牡蠣小屋があった。今はシーズンオフだが、それでも一人だけ、小屋の中の席に座っていた。

静山だ。

この静山という男は典執霧の香海組の構成員の一人で、長頭の一人でもあった。非常に冷酷な人物で知られており、仲間からは「野獣」とよばれていた。

三人の若い衆が小屋に入ってきたので静山は席に座る様に言った。

「君らに仕事を頼む。」

そう言うと、静山は一枚の写真を取り出した。

「この男を殺れ。丸加に入ったと、密偵が知らせてきた。当局の関係者だ。」

静山から写真を受け取ると、若い衆達は牡蠣小屋を出て行った。

「あの当局の男、気の毒なもんだ。かみさんと子供がいるというのに。」

静山は軽く笑いながら独り言を呟いた。

村岡と早坂から別れた今池は、レンタカーを借りた。島中を捜索するためだ。

今池は32歳。二つ下の妻と10歳の息子がいる。

彼は身分証と電話と拳銃の他に妻と息子が一緒に写っている写真を持ってきた。

書類に記入して、車を受け取り、今池はレンタカー屋を後にした。

その様子を確認したレンタカー屋の店長が、ある人物に電話した。

「もしもし、はい。今、出て行きました。」

車を走らせる今池。海岸沿いの国道は、空いていた。今池は60km/hで車を走らせる。

今池は小柄で華奢な身体つきながらも、非常に厳しい超難関の海上警備隊入隊試験をクリアした男だった。

努力家であり、周囲からの信頼も厚く、村岡に最も可愛がられた部下だった。

彼がふと、バックミラーに目をやると、後方から一台の乗用車がやってきた。

今池は、その乗用車を先に行かせようと思い、窓を開けると、手で合図した。

ややスピードを上げて後方の乗用車が今池の車を追い越していく。

乗用車が今池の車の横を通過したその時、その乗用車の中から、カラシニコフが火を吹いた。

激しいフルオートによる銃撃に、今池の車の車体が、みるみる穴だらけとなり、窓やフロントのガラスが砕け始める。

今池はとっさにハンドルを切るが、間に合わなかった。今池の車は歩道に乗り上げて、電柱に衝突した。今池の車が煙を上げて止まった。

すると、犯人の乗用車が前方で停まり、乗っていた三人の男のうちの二人が手にカラシニコフを持って、今池の車に近付いた。

今池は意識が朦朧としていた。

そこへ二人の男がやって来ると、今池に向けて銃撃を始めた。

今池の身体を銃弾が容赦なく貫いていく。

二人の男らはフルオートで全弾撃ち尽くすと、乗用車に戻った。

乗用車は走り去った。

今池の意識は次第に遠くなり、遂に、この世に戻ることはなかった。

今池の車の車内は、割れたガラスの破片と今池の血で溢れていた。

このことを村岡や早坂はまだ知らなかった。

今池を殺害した犯人は、アジトの牡蠣小屋に戻ると、静山に「標的」を仕留めた旨を報告した。

静山は摂裁代に電話を掛けて、仕事が完了した旨を伝えると、笑いながら、部下から返還してもらった今池の写真をライターで燃やし、灰皿にそっと置いた。

「まぁ、人間いつかは死ぬもんさ。」

静山はそう言うと、ゆっくりとタバコに火を着けるのであった。

宿を借りた村岡は、部屋でコンビ二で買った地図を広げると、部屋にあったボールペンで、一つ一つ丸を付けていった。

捜索場所は、様々な、飲食店や会社、倉庫など、典執霧が、アジトに使っていそうなポイントに、片っ端から丸を付けた。

時刻はやがて夜の9時になった。

テレビを点ける村岡。

すると、丸加関連のニュースが流れた。銃弾事件だそうな。

その映像を観た村岡は怒りに震えた。「死亡したのは今池正数(32)さん。海上警備隊所属。」

村岡は言葉を失った。今池と共に送った訓練の記憶が蘇る。

彼は、最も信頼していた部下と、突然の別れを味わう羽目になったのだ。

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「業火」




香海を別の組の摂裁が訪ねた。

「それぞれ一機ずつ試しに使ってみるといいよ。奴ら腰を抜かすだろう。」

そう言うと香海は、その摂裁の組に、MilanとFIM-92 Stingerを一機ずつ引き渡した。

翌日、村岡は今池の死への悲しみと怒りを抑え、自らを奮い立たせ、捜索に出掛けた。彼は徒歩で捜索することにした。

厳しい訓練での超長距離行軍で培われた脚力は伊達じゃない。

彼は典執霧のアジトと思しき物件を一つずつ訪ね歩いた。旅行者を装い、道を尋ねるフリをしながら、怪しいものを見つけ出そうというのだ。

何km、何十km、と、歩き続けた彼の目に、一件の飲食店らしき建物が見えた。牡蠣小屋だった。

中に誰かおり、囲炉裏に火を焚いている。

この店は地図にチェックを入れていなかったのだが、村岡は不審に思った。今はシーズンオフのはずだが…。

店の敷地に足を踏み入れる村岡。すると、敷地内に一台の乗用車が停まっている。

乗用車のフロントガラスと車体の隙間に光るものがある。車のガラスの破片だった。

「おかしい。この車の破片じゃない。」

村岡はますます怪しく思い、店の中に入ることにした。

丸加の市街地には軍警察が展開しており、上空を常にヘリが偵察して周っている。地上には銃を持った隊員と、装甲車両が待機している。

ある一台の装甲車両が、団地の前を通り過ぎようとしたその時、車体が爆発炎上した。

犯人は団地の三階部分辺りから、対戦車ミサイルを撃ち込んだのだ。

隊員達は戦闘態勢に入った。上空の軍警察のヘリが低空飛行で地上に近付いたその時、ヘリが、爆発大破した。何者かが、団地の屋上から、地対空ミサイルを発射したのだ。

この知らせを捜索中の早坂が聞くのに時間は掛からなかった。

鉄道で島の反対側に向かっていた早坂の携帯が鳴った。

「はい。本当ですか!わかりました。」

そう言うと、早坂は、電車を乗り換えて、市街地へ向った。

村岡はゆっくりと牡蠣小屋に入った。

店の中には従業員らしき、若い男が三人いた。囲炉裏の火が燃えている。

すると、店の奥から貫禄のいい中年の男が現れた。店主だろうか?

その男は村岡を見ると話し掛けた。

「お客さん、まだシーズンオフだよ。」

村岡はそれを聞くと囲炉裏のある机を見渡した。誰かがタバコでも吸ったようで、灰皿に灰が溜まっていた。

すると村岡は不審に思った。灰皿には、燃えきっていないものがある。どうやら誰かの写真の様だ。良く目を凝らして見る。

それは、今池の顔った。間違いない。こいつらだ。

「シーズンオフですか?仕方ない。友達も一緒なんだがなぁ。」

村岡がそう言うと、中年の男が言った。

「お客さん、一人じゃないの?」

と。

すると村岡は灰皿の中の完全に燃えていない今池の写真を指さして言った。

「こいつが友達だよ。」

中年の男は驚いた、そして、従業員、いや、手下に命じた。

「殺せ!!」

と。

三人のうちの一人が村岡の背後から殴り掛かってきた。すかさず村岡は肘でその男の顔面を打つと、振り向きざまに拳をその男の頬にお見舞いした。

倒れ込む男。

すると他の男が村岡の背中に飛び掛かり、羽交い締めにしようとしたので、村岡はそのままその男を背負い投げにして飛ばした。

男が店の木製の長椅子に勢い良く倒れ込み、椅子が木っ端微塵になり、そのまま店の床に叩きつけられた。

最後の一人が店のカウンターから出刃包丁を取り出して、村岡に斬り付けてきた。

村岡は、それをかわし、男の腕を掴むと、それを木の枝を折るようにして、へし折った。  

「うおあぉあ!!!」

痛みで叫ぶ男は、出刃包丁を落とした。その隙に村岡は男の胸ぐらを掴み、店の窓ガラス目掛けて投げ飛ばした。粉々になる窓ガラスと共に、男は外へ投げ出された。

逃げようとする中年の男目掛けて、拾い上げた出刃包丁を投げる村岡。

包丁はその男の顔面の直ぐ横の店の壁に突き刺さった。

男の動きが止まる。 

村岡は銃を構え、その男を跪かせた。中年の男は静山だった。

村岡は全員をロープで店の柱に縛り拘束すると、静山から車の鍵を奪い、そのまま停めてある車に乗った。

典執霧は絶対に組織を裏切らない。摂裁の居場所は吐かないだろう。

村岡は自力で探す道を選んだ。

車のエンジンを掛ける。すると、搭載されているカーナビが起動した。村岡はナビの履歴を押す。すると、何度も同じ場所に移動した形跡がある。

「間違いない、ここだ!」

村岡は車を急発進させると、早坂に電話した。

「もしもし!敵の居場所が分かった!今、何処にいる!」

すると早坂が答えた。

「奴ら積み荷を使いやがった!気を付けろ!」

と早坂。

村岡は、先ずは早坂の所へと急いだ。

炎上する装甲車両やヘリの残骸、そして、囲炉裏の炎が赤々と燃えていた。

まるで地獄の業火の様に。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「鎮魂歌(レクイエム)」




市街地に到着した村岡は素早く車を下りると、身分証を見せて、非常線を通してもらった。

現場には黒焦げになった装甲車両と、墜落したヘリの残骸があった。

早坂と合流できた。

「この通りだよ。奴ら攻勢に出た。」

丸加島全島に軍警察の部隊が展開して20年になる。明西宗派住民の不満は頂点に達していた。

その住民の怒りの代弁者が典執霧という訳だ。決して国家権力には屈しない。そのための力を彼らは手に入れたのだった。

「見て欲しいものがある。」

そう言うと村岡は早坂を車に案内した。

エンジンを掛け、カーナビを起動させると、履歴を表示した。

「この場所に何度も足を運んでる。どう思う?」

と村岡が言うと早坂が答えた。

「ここは…。香海組の支配地域だよ。古くからの活動拠点だ。」

早坂は、現場の軍警察の指揮官達とその場で緊急ミーティングを開いた。そして、急ぎその場で急襲部隊を編成した。

「君も来い。敵を討ちたいだろ?」

早坂が村岡に言う。

臨時の部隊は早坂が指揮を執り、村岡がこれをサポートする。

二人を入れて12人だけの部隊。

だが、全員が、海兵隊、陸軍や海軍などの特殊部隊での活動経験のある人員ばかりだった。

さらに緊急部隊でのミーティングを重ねる。急襲作戦は夜間に決行されることになった。作戦名は「オペレーション・レクイエム」だ。

出撃の準備をしながら村岡は早坂と話した。

「なぜ軍警察に入隊を?」

すると早坂が答えた。

「元々は海兵隊の特別急襲部隊にいたんだ。」

早坂は続けて話した。

「十年になるかな、もう。モスルで任務に就いてた。イラクの。」

着替えながら話す早坂。肩に銃傷があった。

「モスルで、ある建物に突入したんだ。テロ組織の掃討作戦だよ。作戦は見事に成功。テロリストを全員殺害したんだ。」

そう話す早坂はどこか悲しげだった。

「だがなぁ、それが不味かった。テロリストの一人にかみさんと子共がいたんだ。で、その人らまで殺っちまったんだ。」

防弾チョッキを装着しながら静かに聞く村岡。

「もし俺達が、敵を「殺害」するんじゃなくて「生捕り」にする訓練を積んでいたら、あんなことには…。」

早坂の言葉に村岡が返した。

「それで軍警察に移動したのか。」

早坂は静かに頷いた。

「君こそ何故輝かしい経歴を捨ててまで海上警備隊に?」

早坂が村岡に言うと、笑みを浮かべて村岡は答えた。

「海が好きだからさ。」

と。

太陽が姿を消し、夜の闇が島を支配する頃「オペレーション・レクイエム」は発動された。

ターゲットから5km離れた所まで、急襲部隊は民間のピックアップトラックで移動した。軍用車輌ではかえって目立つからだ。

早坂を先頭に村岡と、10人の隊員が続く。

ナイトビジョン(暗視ゴーグル)は感度良好。緑色の景色に、ターゲットの農家が入ってきた。

サプレッサー装着のM4カービンを携えた12人の戦士達がターゲットに侵入した。

すると、敷地内に何人かの人影が見える。香海の護衛の兵隊だ。

静かに忍び寄ると、先ず、一人の男を隊員が首を絞めて気絶させ仕留めた。

次に早坂がもう一人の男の背後に廻り、スタンガンで仕留めた。

するとその時、懐中電灯の光が差し込んだ。敵が気付いた様だ。

村岡はM4の引き金を引き、セミオートで二発発砲し、一発が、敵の脚を貫いた。敵は倒れ込む。

するとまた一人の護衛の兵隊が、逃げて行くのが見えたので、二人の隊員が追いかけ、その男の脚と腕に向けて発砲した。見事命中した。

倒れた敵を二人の隊員が拘束したその場所には大きな蔵があった。

報告を受けた早坂が蔵へ駆け付け、電動の工具を使い、蔵の鍵を破壊すると中に入った。

そこには大量の対戦車ミサイルと携行式地対空ミサイルが保管してあった。

あのコンテナ船から奪われた積み荷を遂に押えた。

最後に村岡は他三人の隊員と共に、母屋に侵入した。

狭い廊下を慎重に一歩一歩進む。広い空間が見えてきた。僅かに明かりが見える。護衛の兵隊が一人いた。

村岡はM4をいったん下げると、脚のホルスターからベレッタM92Fを取り出し、ポケットからサプレッサーを取り出すと、銃口に装着した。

すかさず広い空間に出た村岡は敵の両脚を撃ち抜いた。

隊員の一人がその兵隊を拘束した。

広い空間には二階に上がる階段がある。村岡はそのままベレッタを構えながら、ゆっくりと階段を上がる。

外では早坂が、積み荷を差し押さた旨の連絡を本部に入れていた。同時に応援も要請した。

二階に上がった村岡が、明かりが見える部屋の扉をそっと開ける。

「動くな。両手を頭の後で組め。」

と村岡。

そこにいたのは、紛れもなく香海だった。彼は畳に胡座をかいて座り、島地図を広げていた。

香海は村岡の指示に従おうとしない。そして、ゆっくりと口を開いた。

「殺るなら殺ればいい。私一人殺したところで何も変わらん。貴様ら本土の連中に、愛する郷土を踏み荒らされるくらいなら、死んだ方がマシだ。」

そう言うと香海は来ている浴衣の懐から  22口径を取り出し、引き金を引こうとしたので、村岡は素早く二発発砲した。

一発は香海の胸にもう一発は肩に命中した。

倒れる香海。

すると、他の隊員が部屋に入り、香海を拘束した。命に別状はない。

終わった。

蔵の中からは武器以外に海賊行為に使用された道具も押収された。

軍警察の車輌が、続々と到着した。

「見事な腕前だ。全員逮捕できた。」

村岡が言うと早坂が返した。

「君も見事だった。」

一日置いて、その翌日。村岡は元の所属基地に帰るため、丸加海域の海上警備隊の基地でヘリを待った。

するとそこに早坂が来た。

「君に渡し忘れたものがある。」

そう言うと早坂は村岡の手に、焼け残った今池の写真を渡した。

ヘリが来た。

村岡は早坂に敬礼すると、素早くヘリに乗り込んだ。

離陸するヘリに対して、早坂はいつまでも敬礼で見送った。

雲一つ無い青空がヘリと村岡、そして、今池を包みこんでいった。

(終)
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