怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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Father

第44話 二度目の帰省

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◆◇◆

 
 2073年12月
 (2度目のダークから約5ヶ月後)

「……で、ひかるくんとタカくんは?」

 さくら号に掃除に来ていたパワフルが、他の3人に不意に聞いた。
 2人は早朝には既に居なくなっていた。

「里帰りでス」

「里帰り?」

「ひかるもタカと家が近いかラ、一緒に行くっテ」

「最近やたら2人でこそこそやっとると思ったら……、これじゃったんじゃの」

 パワフルはふぅんと浅く納得してから、ニタリと笑って言った。

「ま、2人はちゃんと家賃払ってるし、いいけど? 総志くんはまた滞納してるけど、いつ払うのかしら?」

「来月! 必ず!」

「先月もそう言ってたけど……?」

 パワフルは、そう言えばと尋ねる。

「今日って何日だったかしら」

「今日ですカ? 2日ですけド」

「……そう」

 パワフルは何故か少しだけ難しい顔をして、それだけ聞いて去って行った。

「はぁ~。帰ったー」

「まさかりさんのせいでボクも力入っちゃうヨ」

「ほほほ」

 それから、緊張が解けた様に話しだすまさかりさん・エリンギ・じーさん。

「なぁ、オレずっと思ってたけどな……。ひかるってあれだよな」

「アァ……、あれだよネ」

「あれじゃの……。なんじゃ、誰も触れてこなかったのに、ついに核心に触れるのか……」

「んだよ、皆気付いてたのかよ」

「割と最初からネ……」

「だってのぅ。ひかるは嘘が下手じゃろ……?」

「ぷっ……。そこがひかるの良いところだけどな」

「でモ、タカ気付いてなくなイ?」

「わからんぞ? 今日だって……。もしかしたら既に“ああ”なってるかもしれん……」

「“ああ”なってるかもネ……」

「やー、高英は激ニブだから、ないと思うけどなぁ……」

「タカは自分が鈍いって事にも気づいてなイ?」

「鈍いって気づいとる時点で鈍くないじゃろ」

「そりゃそうだネ」

 3人は腹を抱えて爆笑していた。


◆◇◆


 2073年12月2日

 飛行機、バスと乗り継いで数時間。
 昼過ぎ、俺とひかるはようやっと俺の実家に辿り着く。

「ここがタカんちかぁ……」

 7月ぶりに帰った。
 庭は雑草で荒れ、至る所に蜘蛛の巣がかかっていた。
 今日と明日、一日泊まり込んで掃除と墓参りをする予定。

「……タカ、入っていい?」

 興味津々といったように、ひかるは玄関に立って言った。

 ひかるの足はまだ今までのスピードは出ないものの、走れるまでに回復していた。

 ダークの話はあれ以来、出て来ない。

「……は? お前はお前のところに帰れ」

「いや……」

 ひかるとは同郷の上高校まで一緒だ。俺の家から数駅分しか家は離れていない。
 ここから普通に帰れるはずだが。

 するとひかるは明らかに渋い顔をした。

「その予定はなかったし……。今日はここに泊めてもらうつもりで来たんですけど……」

「はぁ!? 駄目に決まってるだろ! お前にだって実家があるんだ。ちゃんと親に顔見せろ」

「……まぁまぁ。とりあえず上がらせてよ。掃除手伝うからさ」

「おいっ」

 俺の有無を聞かず、ひかるは強引に玄関に入った。
 そして「タカの家だー!」と、きゃっきゃと1人ではしゃぎ始める。

 はぁ……、帰省するなんてアイツに言うんじゃなかった。
『ついでにおれも帰る!』と言うから、ただ道中一緒なだけだと思ってたのに……。

 俺はあいつに聞こえるようにわざと大きな溜め息をついて、一歩中へ踏み出そうとして……、

 戻った。

 ……郵便受けの中身が気になった。
 郵便受けの中には、俺宛ての手紙がいくらか溜まっている。
 それを全部出して、丁寧に物色する。

「……ない」

 確かに7月に入れた、俺のメールアドレス……。
 〝奴〟は俺の連絡先を知ったはずだ。なのにまだ、一度も連絡が来ない。

 何故だ? 奴は何がやりたい?

「タカ? どうしたの?」

 ひかるに呼ばれて、俺は郵便物を持ったまま中に入った。

「何でもない」

「そ……。あの、一番最初にお父さんに線香をあげたいなと思ったんだけど……。その、聞きにくいんだけど、お母さんは……?」

 恐る恐る、小声で申し訳なさそうに聞いた。

「いない。母も死んでる」

「……。じゃあお父さんとお母さんに、お邪魔する前に挨拶するね。仏壇は?」

 ゆっくり慎重に言葉を選ぶひかる。

 こいつと同居して10ヵ月――、もう俺の扱いを知っている。
 下手に俺の領域に、干渉しないことだ。

 埃っぽい仏壇をさっと掃除してから、俺とひかるは並んで合掌した。

「明日で一年ですね……」

 ひかるが仏壇に向かって呟く。

「ひかる、明日が……。明日が親父の本当の命日なんだ」

「明日……? でも、処刑されたのは3日後って……」

「それは……」

 言いかけて、口を噤んだ。
 ひかるは言いかけて止めた俺の顔を、不思議そうに見ている。

 ――だから、何で俺はこんなにコイツに曝け出そうとしてる?
 ひかるに今それを語る必要はないだろ。

「……まぁいいよ。それよりお昼食べようよ。おれ何か買ってくるよ」

「……」

 ……何と言うか。
 扱いを攻略されすぎて、なんだか悔しい。

「昼飯じゃなくて、お前は実家に帰れ」

「え、いや、だから、掃除やってから……」

「誰も頼んでないだろ! 最初から俺1人でするつもりだったし、お前はお前で実家に帰るつもりで来たんだろ」

 俯くひかるに、容赦なく言葉をぶつける。
 こいつこのまま、ここに泊まるだとか言いかねない。

「実は、親と喧嘩して家出て来たままで……」

「喧嘩?」

 ぼそぼそと呟いて事情を話し出したひかる。

「親の反対を押し切ってさくら号に来た感じで……。全然連絡もしてない」

「はぁ!?」

「だからお願いします! おれ帰れないし、行くとこもないから、今日はここに……」

「信じられない」

 ひかるは俺の変化した口調を聞き逃さなかった。

「親と喧嘩するのは分かる。でも一年近くぶりに帰って親に会いたくないなんて、理解に苦しむな。それがどんな内容の喧嘩であれ」

「でも、じゃあどうすればいいの? おれにだってプライドあるし、謝りたいとは思えない! 親はおれの気持ちなんか分かってくれないし!」

「でもそれは全部、お前のことを想って言ったことじゃないのか!?」

「……そうは思えないよ」

 ひかるは唇をきつく結んで、俯いた。
 俺は拳を固く握った。
 イライラする。こういう人間は。

 あまり俺は他人に自分の境遇は語らないタチだ。
 だが今ばかりは、ひかるにこの苛立ちの理由を吐き出さずにはいられなかった。

「俺の母親は、俺が8歳の時に事故で死んだ。お腹には俺の弟もいた」

「……!」

 ひかるが顔色を変えて俺の目を見た。
 俺は自分の左腕の袖を捲り上げた。
 二の腕に、大きな切り傷の痕が残っている。

「親父の話によると俺もその場にいたらしく、その時事故から母親が俺を守ってくれたらしい。この傷はその時受けたものだ。……すごいよな。母さんは死んだのに俺はこの切り傷だけ。掠り傷一つ他にはなかった」

「『守ってくれたらしい』……?」

「事故のことは全く覚えていない。目覚めたら母が死んでから5日経っていた。俺は一瞬で、母と産まれるはずだった弟を失った」

「……」

 ひかるはかける言葉が見つからず、目線を再び仏壇に移した。
 親父の遺影の隣には母の遺影。

 何度も何度も、事故のことを思い出そうと努力した。
 けど話を聞く度に、まるで絵空事のように聞こえるのだ。

 思い出せないのは、精神的に余程のショックを受けたからだろうか。
 親父は無理をするなと言った。

 しかし幼い俺を守った最期の母の背中を思い出さなければ、母に対して申し訳ないと思っている。

「だから、俺の言いたいことが分かるか? 両親共死んだ俺にとって、お前の様な人間を見ると腹がたつのが分かるか?」

「……ごめんなさい」

 ひかるは静かに謝った。

「じゃあさっさと行け」

「……はい」

 ひかるはゆっくりと踵を返し、3歩進んで一度立ち止まって、また振り向いた。

「お願い! タカもついて来て!」

「はぁ? 俺は関係ないだろ」

「それが全くの無関係ではないってゆーか、なんと言いますか……」

 俺はこいつの親との面識は全くないのだが?
 露骨に怪訝な顔をして見せると、ひかるは更に加えた。

「タカが顔を親に見せてくれれば解決するから!」

「だからどういう理由なんだと聞いてるんだ」

「けんかの内容は言えないけど……。でも、本当の本当にタカが顔を出せば丸く収まる話だから! お願いしますっ!」

「はぁ……?」

 ペコペコと手を合わせて、頭を下げるひかる。
 訳が分からないが……。

「遠くから見てるだけでいいのか」

「えっと、うちの親にタカの顔が見えるようであれば……」

「一言も言葉を発しなくてもいいんだな」

「う、うん」

 はぁと大きく溜め息をついてから、行くぞと言うと、ひかるは嬉しそうに何度も礼を言った。
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