怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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Father

第45話 12月の国会事件

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「ここだよ」

 ひかるが指差した住居は、糸原家よりも大きく綺麗だった。
 ……少なくとも、金には困ってないようだ。

「……何してる」

 ひかるはインターホンを前に、立ち止まっていた。

「や……、緊張して……」

「家族との対面なのにどこに緊張する必要があるんだ」

 俺は構わず、ひかるを押し退けてインターホンを押した。

「あぁぁ! ばかーっ!」

「第一自分の家に帰るのに、何故わざわざインターホンを押さなければならないのか分からない」

 インターホンのカメラがひかるを捉える。

「……光里」

 スピーカーから女性の声。恐らく、母親だ。

「あの、お母さん……? えっと、突然帰って来ちゃって、えっと……」

 突然、玄関から人が出て来た。

「お母さ……」

「あんたって子は! こんなに長い時間連絡も寄越さないで、本当に今まで……」

 その時、初めて俺とひかるの母と目が合う。
 そして突然、何故か母親は満面の笑みになった。

「あんた、男の子を家に連れてくるなんて。そういう事ね。良かったじゃないの~」

 ――そういう事ね? 
 は? 何が??

「ごめんなさい。本当に勝手ばっかり……、許してください」

「いいから中で話しましょ。……あなたもどうぞ?」

 母親はひかるだけでなく、俺まで家の中に促す。
 何か分からないがとてつもなく嫌な予感がした。

「いや、結構です。帰ります」

「あ、タカ……」

 俺はひかるを置いて早急に立ち去った。

 ……ひかる。
 俺はお前が羨ましい。

 認めたくない感情が沸き出して来た。



 

 その後再び実家に戻った俺は、最低限の掃除をしてやっと落ち着いていた。

 しかし、夜8時過ぎ。
 玄関チャイムが鳴る。

 扉を開けると、半笑いのひかるが立っていた。
 俺はすぐ無言で閉めて、鍵も掛けた。

「タカー! お願い開けて!」

「何故帰って来た」

「お願いしますっ! 泊めてくださいお願いします!」

「だから何故!?」

「やっぱりお父さんには許してもらえなかった。家に帰って来るか、今すぐ向こうに帰るかのどっちかにしろって言われて……。飛び出して来ちゃった」

「はぁ……? じゃあ普通にホテルに泊まれ。金がないならやるから」

「うぅ……。駅前まで歩かないとホテルないじゃん……。女の子を1人にする気?」

「そういう時だけ女になるな」

「酷い……まだ足も病み上がりなのに……」

「……」

 ……コイツ、分かって言ってるのか?
 俺がお前の足の話を出されると、何も言えなくなると。

 俺は深い深い溜息を吐いた。
 玄関の扉を開けてひかるを見る。

「……2階の部屋を使え。今まで俺が使っていた部屋でベッドもある。さっき掃除したから寝れるだろ」

「え、ほんと!?」

「二度も言わせるな」

「あ……、ありがとう! 明日掃除手伝うから!」

 俺はひかるに背を向け中に入った。

「最初からそのつもりで来たんだろ」

 ひかるは、へへっとはにかんで笑った。





 ……あれ?

 ひかるはふと、目を覚ます。

 タカのベッドで寝れる! 
 と大興奮でベッドでゴロゴロしていたら、いつの間にかそのまま寝ていた。

 ──あー……やっちゃった……。
 人の家に泊まっておいてだらしない奴だな、とタカに幻滅されたに違いない……。

 ひかるはがっくりしながら鞄を漁って、携帯を取り出す。
 深夜2時半か……。

 同じ画面に、12月3日と日付も表記されていた。

「……」

『明日が親父の本当の命日なんだ』

 その言葉のあと口を噤んだタカ。
 一体、何を言いたかったんだろう。

 眠れなくて、テレビをつけてみる。
 東京と違って、深夜は何も番組をやっていなかった。
 無機質な電子音だけがテレビから発せられる。

 タカの部屋のテレビ。
 ひかるは何となく、何か録画のメモリが残ってないか見てみた。
 勝手にそれを漁る罪悪感以上に、好奇心の方が優ってしまった。

 ──やばい。18禁のやつとか出てきたらどうしよう……。
 と勝手にワクワクしながら見たが、残っていたデータはたった1つだけだった。

 ひかるは息を呑んだ。

『国会中継 (2072/12/3)』

「12月、3日――」

 ちょうど、1年前の日付。
 まさか、これ、“12月の国会事件”の映像じゃ……。

 国会の議事は常に生中継されている。
 しかし事件後、事件の様子は『ショッキングな映像の為』と一切秘匿にされていた。
 誰かがたまたま録画してても良さそうなのに、ネット上にも全く出回っていない。

 タカ、データを隠し持っていたんだ。
 ひかるが知らない“12月の国会事件”の真相がここに――。

「……」

 ……いや。
 いやいやいや。見ちゃダメだよ。許可も取らずに。

 でもたぶん、聞いたら見せてくれない気がする……。

 あの事件について、ひかるは世間一般の常識だけしか知らない。
 だけどたぶん、それ以外に当事者しか知らない何かがある。

 タカが真冬の海に飛び込もうとしたあの日、ひかるが何も声をかけてあげる事が出来なかったのは、事件の事を何も知らなかったからだ。

『だから、誰も、殺してない』

 河川敷でそう言ったあのタカの言葉は、冗談じゃない。
 とても苦しそうに、本当は胸の中の何かを吐き出したそうだった。

 だけどひかるは、受け止める事ができなかった。
 ……これも、何も知らなかったからだ。

 このまま蚊帳の外じゃ、結局何もタカの支えにならない。

 だから、知りたい。
 本当のことを。

「……ごめん、タカ」

 意を決して立ち上がり、まず部屋の明かりをつけた。
 音を自分が聞き取れる限度の最小まで絞る。

 この家の2階はこの部屋と物置しかなかったから……、タカは1階で寝てるだろうし、バレないだろう。

 心臓が緊張で少し速く波打つのがわかる。
 ひかるは慎重に、再生ボタンを押した。

 画面はひかるにも見覚えのある風景を映していた。

「……国会議事堂、本会議場……」

 録画は会議の途中からで、議場の正面中央で一人の議員が発言していた。
 しかしその内容は激しく鷲尾を批判するもので、斜め後ろに座る鷲尾は険しい顔をしていた。

 その時、悲鳴が響き渡る。

「鷲尾! 鷲尾はどこだ!!」

 怒鳴り声が聞こえ、一人の男が乗り込んで来ると共に逃げ惑う議員達。

 たぶん、この人がタカの父親――糸原高成《いとはらたかなり》。

 高成は銃を振りかざしながら、鷲尾がいるであろう議場の奥・総理大臣席へと大股で向かう。

 しかし、既にそこに鷲尾の姿は見えない。
 大勢の議員に紛れ逃げたのだろうか。

 高成は尚も銃を構えながら、四方八方を見廻し鷲尾を探す。
 しかし議員達の9割ほどがもうその場から逃げ去っていた。

 その時、高成が銃を構えたすぐ目の前に、先程鷲尾を批判する内容を発言していた議員が尻餅をついて動けなくなっていた。

 次の瞬間。
 その議員の顔面を光線が貫いた。

「っ……!!」

 ひかるは声が出そうになったのを、慌てて手で抑えた。

 撃たれた議員は無言で突っ伏した。
 後の報道で知る、国会事件の唯一の犠牲者・天谷あまやだろう。彼は即死だった。

 しかし、ひかるの見間違えでなければ、光線を撃ったのは高成ではなかった。

 光線は高成の背後から飛んできた。
 高成の後ろにいた――鷲尾。

 ――お父さんじゃなくて、撃ったのは鷲尾!?

 あまりの衝撃にひかるは動悸が強くなってきたが、動画を止めなかった。
 最後まで見なければ。

 高成はハッとして振り向いた。
 刹那、鷲尾と高成は銃を向け合う形になったが、高成は撃つのを躊躇った。

 その一瞬の隙を逃さず、鷲尾は間髪を入れずに3発光線を放った。
 そしてそれは高成の、左脇腹・右足・左胸を的確に貫いた。

 高成は、仰向けで突っ伏した。
 そのまま、二度と動くことはなかった。

 ひかるは、人が殺される瞬間を初めて見た。

「はぁ、はぁ……っ」

 焼け焦げた高成の左胸が、ひかるの目に焼き付いた。

 胸が苦しい。比喩ではない。
 息が、空気が、吸ってるのに吸えない。

「はぁっ、はぁっ……」

 ひかるは胸を押さえてその場に倒れ込んだ。
 息が苦しくて、溺れそうになった。
 もがいて、携帯にやっと手が届いた。

 ――助けて、タカ……!





 深夜3時前。
 2階にいる筈のひかるから着信。

 ……寝ぼけてるのか? とも思ったが、それは俺の方もだった。
 ボンヤリと電話に応答する。

「……何だよ」

 はぁはぁと、強く荒い呼吸が聞こえてきた。

「ひかる……?」

 俺はハッとして飛び起きた。
 2階の俺の部屋へと駆け上がり、扉を開けた。
 ひかるが倒れていた。

「おいっ、どうした!?」

 俺はテレビを一瞥して、ハッとした。
 国会事件の映像だ。

 見たのか……。
 しかし、ひかるにとっては赤の他人の事件の筈なのに、ここまでショックを受けてしまうとは……。

 激しく呼吸を繰り返すひかるを、抱き抱えて前屈みに座らせる。
 過呼吸だ。対処法は、とにかく冷静になる事。

「落ち着け。過呼吸じゃ絶対死なない。お前が見たのは1年前の映像だ。もう、とっくに終わった話だろ」

「っ……」

「息を吸うより、吐く事を意識しろ。ゆっくり、冷静にしてれば、必ず落ち着く」

 俺はひかるの背中を数分、さすり続けた。
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