怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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Father

第48話 親父の声

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 2072年12月3日
 午後5時過ぎ

 親父が東京出張に出かけ、俺は普段通り学校に行った。

 学校でも、朝の親父の言動が少し気になっていた。
 特に、へその緒。
 何であのタイミングであんな物を渡したのか。訳がわからない。
 帰って来たら聞いてやろうと思っていた。

 そして俺は家に帰り、玄関扉を開けようとした。
 扉に、一枚の紙が折り畳まれて貼ってある。
 怪訝に思いながらもそれを剥がし、紙を開いた。

『国会中継を見ろ』

 ただ、その一文のみ。
 俺は訝しげに思いながらも、部屋に入ってテレビを付けた。

 中継では、野党ナンバー2の天谷が鷲尾を強く批判する内容を発していた。
 衆議院議員の顔と名前は半数は一致している。

 俺は、鷲尾の政治は嫌いだった。
 国民を思いやる政策に見せかけて、典型的な弱肉強食思想なのが見え見えだからだ。
 だから天谷の言っている事は、俺にとっても至極真っ当な事に感じられた。

 その時、悲鳴が響き渡る。
 一人の男が議場内に大股で侵入して来たのだ。

「……!」

 男は銃を持っている。

 その男から逃げ惑う議員たちで、議場内はパニックに陥った。

 俺は少し興奮していた。
 国会が、今この瞬間占拠された……! 
 こんな大事件を、まさかリアルタイムで見る事が出来るとは。

 俺は少し、ニヤけていた。
 人を殺すという手段はいただけないが、正直『何か変えてくれ』とこの男に期待までしてしまった。

 しかし次の瞬間、その興奮は一気に引いた。

「鷲尾! 鷲尾はどこだ!!」

 俺は、何も考えられなかった。
 ……一瞬、時間が止まった。

 親父の声。
 ありえない。

 ――でも、間違いない。
 俺が、聞き間違える筈がなかった。

 ──親父の声だ。

 一気に血の気が引いた。
 ……いや、いやいや気のせいに違いない。

 そう思い、画面に小さく映る犯人を目を凝らして見た。
 何度目を擦っても……朝と同じ服を着ている。
 親父だった。糸原高成だった。

 何故、どうして、あの親父が!?
 現実とは思えない状況に、呼吸が止まりそうになる。

 俺は慌てて携帯を取り出した。
 真っ白な頭で咄嗟に考えたのは、親父に電話をかけることだった。
『やめろ! 今すぐ何もなかったかのように帰って来い、帰って来てくれ!』……そう、親父に訴えて凶行を止めようとした。
 事情は分からないが、俺が必死に訴えかければ親父はあの銃を下ろしてくれるハズだと──。

 しかし、遅かった。

 親父が天谷に銃を向けた瞬間、親父の背後の鷲尾が天谷を撃ち殺した。
 それに気づいた親父が振り向いた瞬間、鷲尾と銃口を向け合った。

 しかし一瞬、親父は躊躇ったのか、撃たなかった。

 その隙をついて、鷲尾は親父に向けて3発光線を放った。

 親父は何も言わずに倒れた。

 俺は瞬き一つできず、倒れた親父を見ていた。

 何が起こったのか、あまりに一瞬すぎて脳内で処理できなかった。
 もう俺は息をする余裕すら失っていた。

 そうしてピクリとも動かなくなった親父を見て、一つだけ唐突に理解した。



 ──親父が、死んだ。



「……ッ」

 気持ち悪い。

 激しい動悸と強烈な目眩と吐き気が襲って来て、胃の中から押し寄せて来たものを俺はその場に吐き出した。
 全身に悪寒が走り、俺はその場に倒れ込んだ。

 息が上手く吸えなかった。
 胸を押さえながら、溺れそうになる。まるで水面から顔を出すようにもう一度顔を上げてテレビを見たが、もう何も映っていなかった。

 親父の最期の姿が映った中継が切断された事は、親父とのこれまでの関わりそのものが、全て突然遮断されたような気さえした。

 俺は床の上で震えながら、もがきながら溺れていった。
 目の前が真っ暗になった。





 ピンポーン

「高俊! 開けろ高俊!」

 ピンポーン
 ピンポーン

「おい高俊! オレだよ優輝だ!」

 ……マナーモードに設定している俺の携帯は、もう何度も点滅を繰り返している。

 事件からおよそ5時間後の22時、優輝は俺の家へ駆け付けた。

 やがて優輝は、俺の家の玄関に鍵がかかっていないことに気付く。

 優輝は小走りで、俺の部屋に辿り着いた。
 電気もつけていない部屋の隅で、布団にくるまっている俺を見つける。

 俺はテレビも携帯も一切遮断して、暗闇の中でただ呆然としていた。

 現実から目を背ける為に。

「……高俊」

「……」

「高俊! おい高俊!」

 優輝は何度も俺の肩を揺すったが、俺は屍のように反応しなかった。
 優輝はその俺の姿を見て、崩れ落ちた。

「あぁっ、ああああぁぁ――っ!!」

 力なくひざまずいて、泣き崩れた。
 その声を聞いて、俺は少しずつ現実に引き戻された。

 俺は優輝から顔を背けた。

 ──やめろ。このまま、何も無かったことにしてくれ。
 夢が覚めるのを、待っていたのに。

 お前がこんなに泣いてるのを見たら、また現実に向き合わないといけなくなる。

「……帰れ」

「っふ、うぅ――っ」

「泣きに来たんだったら帰れ!!」

 優輝は咄嗟に立ち上がって、持っていたビニール袋で俺を全力で殴り付けた。
 何か柔らかいものが入っていた。

「食え、そんでお前の知ってること全部教えろ」

 優輝はぐちゃぐちゃになった顔を、袖で無茶苦茶に拭いた。
 泣きながら、俺を見て震えながら、必死に叫んだ。

「オレだって、高成さんがやったことが信じられないんだよ! オレも辛い!」

 俺は唇を噛んで、俯いた。

 ……。

 ビニール袋の中には中華まんが3つ入っていた。
 一口噛んだが、強烈な吐き気がまた襲って、それ以上食えなかった。
 水だけは何とか飲めた。

「ニュースは……。事件の事は、何て報道されている……?」

 俺は優輝に聞いた。自分の目で見る気になれなかった。
 優輝は震える声でゆっくりと答えた。

「高成さんは……、天谷って議員を殺して現行犯逮捕された。ほぼ有罪確定だから、害刑制度が適応されて、鷲尾が刑罰を決めるだろうって……」

「……ちょっと待て、何を言ってる?」

「え?」

「天谷を、殺した……? 現行犯逮捕……? 鷲尾が、親父も天谷も殺したんだぞ……?」

「え……? でも、ほらニュースではそう言ってる……」

 優輝は自分の携帯を俺に差し出した。
 俺は震える手で受け取り、ニュース記事を読んだ。
 優輝の言った通りの、報道だった。

 ……そんな、馬鹿な。
 俺が見たのは、幻覚だったのか?

 違う。
 相手は、国のトップ。最高権力者。

「隠蔽、された……?」

 愕然とした。

 親父が国会に乗り込み、鷲尾を殺そうとした動機は分からない。
 しかしあの映像を見た限り、親父は鷲尾を撃つことを一瞬躊躇したように見えた。
 寸前で踏み止まったのだ。

 ……なのに。
 鷲尾の都合の良いように、“殺人犯”にされた。
 自分が天谷も殺した事を、親父に擦り付ける為に……!

「いやでも、高俊の言う事が本当なら、他にも中継を見ている人がいるはずだろ? それにネットに映像が流れてても良いはずなのに……」

 優輝の言う通りだった。

 しかしネット上探してもそのような動画は見つからない。
 ……徹底的に動画を見つけ出し、削除しているとしか思えなかった。運営側の検知システムを使えば可能な筈だ。

 そもそも国会中継なんて見ていた人も少数派だろう。
 幾ら真相を知っている数人が騒いでも、象が蟻を踏み潰す感覚でその声は消されるだろう。

 俺一人が騒ぎ立てても、無駄だと言う事だ。
 真相を知っていても、何もできない。

「クソ……ッ、ふざけるな!!」

 こんな事、あっていい筈がないだろ!!
 親父は一度も撃ってないんだぞ!?
 
 警察は何をしている? 現場の目撃者はいないのか? 中継を放映していたマスコミは?

 何故……、何故誰も本当の事を口にしないんだ……?
 誰にも真実を明らかにしようという“正義”の心は、ないのか……?

 あぁ、そうか。
 誰もがこの事件、対岸の火事なのだ。

 鷲尾に刃向かってはいけない。
 烏合の衆達にとっては、何も見なかった事にするのが自己防衛として賢く、……合理的である。

 ……親父の味方は、誰もいないようだった。
 そして俺はこの状況に絶望しながらも、指を咥えて見ていることしか出来なかった。
 ……まるで、世界に置き去りにされたように。



 ──そしてこの3日後、失意の底にいた俺に、更に追い打ちをかける出来事が起こる。
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