怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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Father

第53話 ようこそさくら号へ

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◆◇◆


 2073年2月
 (さくら号入居2週間前)

 俺は1人、東京にいた。
 親父が手紙に記した人物に、会いに行くためだった。

 しかし向かっている途中、俺はどうやってこの手紙を渡そうか悩んでいた。

 親父は住所だけで名前は記してくれなかった。
 俺が知っている人物か分からない。親父とその人がどんな関係なのかも――。

 ストレートに、『糸原高成からの手紙です』と言うのか?
 いやまず、『糸原高成をご存じですか』と尋ねるべき……?
 駄目だ。あの事件を知る人ならば大抵は親父の名を知っている。

 親父の言うことは信じたいが、果たしてそいつが信用に値する人物なのかが分からないと、大事な手紙は渡せない。

 そうこう考えてる内に、俺は住所に辿り着いてしまった。

 一見、ごく普通の一軒家だ。
 “遠藤”と書かれた表札に、俺は全く覚えがない。

 インターホンを押すのにも躊躇する。
 相手が出たら、第一声は……。

「あの~……」

 背後から声がして振り返ると、ランドセルを背負った小学生が不思議そうにこっちを見ていた。

 後に知る、けいだ。

「お母さんのお客さんですか?」

「……」

 お母さん?
 ……あぁ、こいつはこの家の子なんだ。
 にしても、問われたのは『お父さんの』ではなかったことに不思議に感じた。

 ノーと言うべきではない気がしたので、俺は頷いた。

「ホント!? ちょっと待ってて!」

 と、けいは携帯を取り出して、誰かに電話をかけ始める。
 こいつの目が一瞬輝いた気がしたのは、気のせいだろうか……。

「あ、お母さん! あのねー、お客さん来てるよ。……うん。……うんわかったー。じゃあ行くねー。ばいばーい」

 通話を切ると、キラキラした目でけいは俺を見た。

「じゃあ着いて来てお兄さん」

 と、けいは俺の腕を掴んで軽快に歩き出した。

「おい、どこ行くんだ?」

「え? お母さん事務所にいるから」

「事務所?」

 仕事中か。

「いや、仕事中なら待っても……」

「え? 今じゃなきゃ駄目だよー?」

「はぁ?」

 何だか腑に落ちないまま、俺はけいに引っ張られて行った。

 けいの言う事務所は、家のすぐ裏にあった。
 小さな不動産事務所だった。
 まさか、こいつ俺のことを……。

 けいは俺の腕を持ったまま、小さな建物に入る。

「お母さーん、連れて来たー!」

「いらっしゃーい」

 向こうからニコニコしながら女性が出て来る。
 この人が、親父の知り合いなのか……?

「今の時期アポなしで来るとは珍しいわね。さ、座って」

「いや、話は――」

「早く早く。あまり1人に時間かけてられないの」

 女性――パワフルに促され、俺は椅子に強引に座らされる。

「4月から大学生?」

「は?」

「うちはシェアハウスしか扱ってないけど、それを承知で来てるわよね」

 何だ? シェアハウス?
 完全に賃貸契約をしに来た客と勘違いされている。

 と、いつの間にか俺の前に並べられる物件資料。

「いや、俺は家を買いに来たんじゃ……」

「当たり前じゃない。私が貴方に家を貸すのよ」

「いや、そうじゃなく……」

「新大生にはここはどう? 勉強が集中出来るように個室がついてるし――」

 この女、俺の話を聞こうともしない。
 このままでは無理矢理に話が進められてしまう。

 いや、しかし……。
 この女のことを知るには、しばらくこいつの近くに暮らしてみるとか……。
 もしかしたら親父との関係が分かるかもしれない。

 それ以前に、親父が手紙を渡したいのが本当にこの女なのかは定かではないが。
 ……それくらい、慎重にあの手紙を渡したいのだ。

 しかし、シェアハウスか……。
 今まで住んでたあの家は、1人で住むには広すぎて、暗くて静かで逆に息が詰まる。

 しかもここは、国会が、鷲尾がいる東京。
 黒幕――コンドルがいる可能性もある。

 早々にあの家を出て行きたい。
 それにはこの女の所有する住居が一番だとは思うが……。

「……シェアハウスしか、ないのか?」

「ウチはね、シェアハウス専門でやってるの。それが目当てでウチに来たんじゃないの?」

 俺が他人と寝食を共にする?
 考えられない。不可能だ。

「……分かった。なるべく人口密度が低いところね。一番おすすめの場所は、ここの住居。8人の定員だけど今の所3人。貴方に害を与えるような人達ではないと思うわ。内1人は貴方の2つ上。留学生だけど」

『大切な人を作ることに恐れず、明るく生きろ』

 手紙の親父の言葉が頭をよぎった。
 親父は俺のことを全て見抜いていたんだと、思った。

「……他の2人は」

「社会人とおじいさんね。部屋はそこまで汚くならないわ。私が掃除に来るし。ここからも近いし。社会人の人が煙草を吸うけど、外で吸うし。あと――」

「そこでいい」

「え? あらっ、じゃあこれにサインして。見学というか、挨拶も行けるけど――」

「結構、面倒だ」

 ……しかし、俺は他人に心を開くことは出来ない。
 他人は関係ない。俺は自分の目的のためだけにさくら号に暮らす。

 契約書には迷った末、本名を書いて親父との関係がいきなり知れるのは気が引けたので、その場で偽名を考えた。
 母さんの旧姓と、俺の好きな言葉“俊英”から取って“木谷高英”という偽名を考えて調印する。
 身分証は後程偽装したものを送った。

 そのまま3月に挨拶もせず引っ越して、今に至る。





 2073年3月
 タカがさくら号に入居して間もない日

 ひかるはタカには秘密で、優輝にさくら号の住所を教えてもらっていた。

 親とは、突然転校して上京する事に猛反対されたが、それを押し切って無理矢理喧嘩別れする形で東京に来た。
 美容師の姉に髪を男子風にバッサリ切ってもらい、男物の服を着て、パワフルの不動産事務所を訪れた。

「……さくら号に住みたい? ダメよ、あそこは男しか住めないから」

 パワフルには、一発でバレた。
 あまりにもあっさりバレたので、ひかるは心臓が口から飛び出そうになった。

「何でさくら号に住みたいの?」

「いや、その……」

 ……それでも、ここは引けない。
 引けないけど……、何て言おう……。

 ひかるがモジモジしていると、パワフルは察して笑った。

「成程、タカくんね」

「いや!? 何も言ってないんですけど……?」

「消去法で分かったわ。彼、確かにイケメンよね……。無口だけど知的な空気は感じる。まだここに来て数日だから、私は彼がどんな人かよく分かってないけど。でも流石に男装してまで追いかけるのはやり過ぎじゃない?」

「そうなんですけど……、でも、どうしても……。彼を、助けたくて」

 ひかるが決心した顔で強く言うと、パワフルは少し驚いて、鼻から息を吐いた。

「……まあ、タカくんの事は分からないけど。他の同居人3人は、少なくともあなたが女の子だとバレたとしても、何かしようだとか考える人達ではないと思うわ」

「……」

「でも何かあっても、私は責任取れないわよ」

「……はい……」

「今から、見学を兼ねて挨拶に行きましょう。どんな人が住んでいるか見てから、決めた方がいいと思うわ。ただしあなたが女の子という事は秘密よ」

 パワフルが立ち上がったのに、ひかるも続いた。





 さくら号の先住者は、
 茶髪で癖毛の20代後半の男性、
 金髪碧眼白人の大学生、
 白髪混じりの清潔感ある老人の3人。

 さくら号に着いて、パワフルから紹介された3人は、ひかるを見て少し驚いた顔をした。

「ほぉ……キミが、ここに住むのかい……?」

「あ、まだ、見学なんですけど……」

「……パワフルも物好きだよなぁ」

「何か言ったかしら? 総志くん。家賃滞納してるアナタに何か言う権利はないけど」

「何も言ってません」

 ひかるがキョロキョロしているのを見て、パワフルが尋ねる。

「タカくんは?」

「出かけてまス。基本日中は図書館に篭ってるみたいデ、夕方まで帰ってきませン」

「そう……、残念ね。本当にあの子は何でシェアハウスを選んだのかしら……」

 タカの不在に、ひかるはちょっと残念に思った。
 まあ、緊張とバレないか不安で、たぶん目も合わせられなかっただろうけど……。

「アイツはどーでもいいよ。どうせオレらとつるまないから。それより……ひかるって言ったか?」

「あ、はい」

 まさかりさんは、ひかるの肩を掴んで言った。

「この後暇か? オレたちの事を知るなら、メシ行くのが一番早いぜ」

「……! はい!」

「お前ら! 居酒屋行くぜ!!」

「お酒はダメよ、ひかるくんは高校生なの」

「……じゃ、焼肉行くぞ!」

「いいのぅ、行こう行こう」

「まさかりさんの奢りだよネ?」

「バーカ、お前が奢れよ御曹司」

 結局この日ひかるはタカに会えなかったが。
 この3人の和気藹々とした空気感が凄く好きで、さくら号の入居を決めた。

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