怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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3rd DARK

第69話 3rd DARK inside ④

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 青山は少し目を伏せて続けた。

「その時俺の警官としての正義は揺らいだ。だから俺はお前の敵でありながら、密かに鷲尾を破滅に追い込む、その目的には共感していたんだよ。
 ……でもだからこそ、俺の警官としての正義を、責務を果たす為に、忖度なしで窃盗犯であるお前を捕まえる」

「……」

 ピリッと俺の中で苛立ちが走る。

『やった事を悔いている』だと?
 何なんだこいつは。何故被害者面をしている。
 鷲尾にさせられたとは言え、最終的に逆らわず加担すると決めたのは自分だろう。

「だけど今、本当に分からない。お前が鷲尾に何の因縁があるのかは知らないが、教えてくれ。
 何故、急に平野に狙いを変えた? 俺だけじゃない……、お前に希望を持っていた多くの人々が、失望しているぞ。もう鷲尾に掌を返して味方しているのでは? と思っている人間もいるくらいだ」

「……」

「正直俺も、お前に失望しているんだ。お前なら何か変えられるんじゃないかと……、敵ながら少し期待していたくらいなのに……」

 ……苛つかせてくれる。
 結局自分の地位や立場を失う事を恐れて何もしていないくせに、正義正義と綺麗事を並べる。

 俺はお前みたいな口だけの奴が、一番嫌いなんだよ。

 ……しかし、冷静を装わなければ。
 コイツが今その話をしている相手は、糸原高俊ではなくダークだ。

 俺は嘲笑した。

「結局、あなたも人任せですか?」

「は……?」

「この国の人間の大多数は思っています。『この世の中が変われば良いのにな』と。しかし大半は他力本願で、自ら動こうとする者は少数派です。何故なら、自ら動く事はリスクを伴うから。
 対岸の火事として安全圏から静観し、火中にいる者が事を成せば手を叩き、犠牲になれば知らぬフリをすればいい。皆都合の良い卑怯者だ」

「……」

「貴方もその烏合の衆の一人だ。正義正義と綺麗事を並べておきながら、結局元凶の鷲尾の言いなりのまま、何もしていない」

「くっ……」

 青山は言い返せない。当然だろう。
 お前みたいな中途半端な奴が、義憤に駆られ不退転の決意を持った俺を止める事なんて、一生できるものか。

「何の事件を隠蔽したのかは存じ上げませんが。犯人の息子にやった事を悔いているのなら、先ずは本人に懺悔し深く頭を下げたら如何でしょう?
 ただし幾ら謝罪したところで、結局貴方が烏合の衆のカラスのままでいるなら、彼にとって貴方のしている事は自己満足のパフォーマンスに過ぎないですけどね」

 謝罪なんて求めてない。
 これは挑発だ。どうせ出来ないだろうがな。

 謝罪するという事は、記憶を失っている筈の俺に全てを語らなければならなくなる。
 それは命令を下した鷲尾や警察という組織に、逆らうと言うことだ。

 コイツには何のメリットもない。
 結局正義だの何だの綺麗事を並べて何も事を起こさず、烏合の衆の一人であり続けるだろう。

 青山が目を伏せた隙に、俺は麻酔銃を向けた。

「時間です」

 俺は間髪入れず麻酔銃を青山に撃った。

 正直、期待外れだ。ダークと肩を並べるのは、もっと不撓不屈の精神がある刑事であって欲しかったのに。
 もうグダグダとコイツの愚言《たわごと》を聞くのは時間の無駄だし、不愉快だ。

「……っ!」

「もっと話をしたいのですが、警察の方々が目覚められると逃げにくくなるので」

「……」

「また会いましょう、青山刑事」

「……」

「……?」

 ……倒れない?
 青山は、ほくそ笑んだ。

「……なんか、勘違いしてんじゃねーか? 怪盗さん」

「っ!?」

 まさか。

「抗麻酔剤、実は俺だけ自腹切って買って飲んでたりしてな!」

 ――しま……ッ

 完全に油断していた。
 青山は3歩前に進んで俺の腕を掴み、一気に背負い投げた。

 俺は背中を床に強く打ち付け、その衝撃でシルクハットと仮面が弾け飛んだ。

「あ……ッ」

 受け身なんて取れなかった。
 一瞬息ができなくなり、意識が飛びかけた。

「拝ませてもらう! お前の素顔を……!」

 ……いや、そうだ。今の俺の顔は。
 刹那、俺の顔を見た青山は、動揺した。

 どうだ。鏡写しのように現れた自分の顔は……!

「は!?」

 俺は一瞬の隙を逃さず、ポケットから青山の空いた腹にスタンガンを押し込んだ。
 次の瞬間、全身に電流が流れた青山は倒れ、気を失った。

「い……ッ~……」

 俺は背中を摩って、床の上で悶え転がった。
 危なかった……。あそこで気を失ってたら完全にアウトだった……。

 青山、コイツ足の速さだけじゃなくてこんな体術まで……!
 いや、忘れていた訳ではないが。コイツは窃盗犯専門の刑事だ。訓練はしていて当然か……。

 この男、意志薄弱という点では苛立たせてくれたが、頭の回転も遅くはないし運動能力面でもオールラウンダーな刑事である。
 ダーク……俺やひかるが相手でなければ、青山という刑事はもっと頭角を表せていただろうに。と、少し憐んだ。

「おい高英! 大丈夫か!?」

 まさかりさんは監視カメラで一部始終を見ていた。
 俺は痛みを堪えてよろよろと立ち上がった。

「……何とか」

「いや、マジで綺麗な背負い投げだった……。ひかるじゃなくてお前で良かったぜマジで……」

「あぁ、小柄なアイツだったらもっと吹っ飛ばされてただろうな……」

「……お? 『俺なら良いのか!?』って言い返されると思ったのに。どした!?」

「……」

 しまった。動揺してつい本音が……。

 俺はゆっくりと立ち上がり、着ているものを脱ぎ始めた。
 そして青山の着ていたものも脱がし、今度はそれを俺が着る。

 最中、無線の3人が俺を茶化し騒ぎ立てる。

「おいおい高英何だよお前、実は『投げられたのが俺で良かった~』って思ってる?」

「思ってないっ」

「エ? ナニナニ?」

「高英が、ひかるの身代わりになれて良かったってさ」

「オォ~。それひかるに伝えるネ、喜ぶヨ」

「漢気あるのぅ……。見直したぞタカ」

「そんな事言ってないだろ!? まだ終わってないんだから集中させろバカ!」

「タカ、動揺してル~」

 3人はケタケタと笑っていた。
 クソ……コイツら本当に発言に気を付けないと、ネチネチと永久に突っ込んでくる。面倒臭い……。

 青山にはダークの衣装を着せ、仮面を被らせた。
 気絶している男を着替えさせるのは、一人では中々骨が折れる作業ではあったが……。

 こうしてダークと青山は、いとも簡単に入れ替わったのだ。





 午後10時20分

 青山の無線が繋がるようになる。
 俺は青山に成り済まし、ダークを取り押さえたのでシャッターを開けろと指示した。

 シャッターが開かれると、警官たちは俺の横で倒れているダークを見るなり、口々に歓喜する。

「青山ぁ!」

 声を張り上げてこちらに猛然と近付くのは、警部の松浦。

『憎むならこんな事件を引き起こした父親を憎むんだな』

 ――あいつだ。

「お前……!」

「はい」

「よくやった!」

「……はい。ありがとうございます」

 何故か怒られるのかと思ったので、拍子抜けする。

「警部、これを見てください」

 俺はダーク(青山)の仮面をはぎ取った。

「え……?」

「青山さん……!?」

 驚く一同。

「ダークは僕に成り済ましてどうにかしようとしたようです。一度気絶させられかけましたが、何とか」

「いやいやホントによくやったぞ青山! これで警察もなんとか汚名返上出来るな!」

「……」

 汚名返上……。
 その言葉、俺は不快に思った。

 松浦……コイツは青山以上に好かない。
 何より俺にMBを打つ時、嬉々としていた感じすらした。
 ……青山と違って、鷲尾の隠蔽に加担する罪悪感すら無かったのかもしれない。

「……では、宝石は僕が」

 俺はダークが盗んだ宝石の袋を担ぐ。

「ご苦労青山!」

「ご苦労様です!」 

「青山さーん! お供しますっす!」

 妙な敬語で後ろについて来たのは、巡査部長の中林だ。
 ……なるほど、どうりで前回じーさんの変装が見抜かれる訳だ。

「いやー、ほんっとよかったっす! 無事にダークを捕まえれて!」

 エリンギたちとの待ち合わせの場所まで、青山に変装したまま宝石を持ち向かっているのだが。
 ……俺の後方を歩く中林は、ベラベラと1人で五月蠅く喋っていた。

 俺は適当に相槌を打っていた。

「いやー、でもホントにオレとほとんど歳変わらないのに、尊敬しちゃうっすよ~。しかも本当に素手で捕まえちゃうなんて……、本当にオレの為に、ありがとうございますっす!」

「……オレの為?」

「え、はいっ! 逃してしまったんで、今回は撃たずに捕まえましょ! って約束、守ってくれたんすよね?」

 俺は、思わず息を呑んで中林を凝視した。

 今、コイツなんて言った?
 このアホが? 前回ダークを撃った??
 ……嘘だろ。

 お前か。ひかるを撃ったのは。

「……青山さん……?」

 俺は、中林に光線銃を向けていた。

 息を呑む中林。
 時間にして、多分3秒くらいそうしていた。
 しかし、長い3秒に感じられた。

「タカ! ポイント着いタ! 早ク!」

 エリンギの迎えの車が、待ち合わせ場所に着いた。
 俺は中林に背を向け、走り出した。

「え……っ、青山さん!?」

 イエロージュエリーの敷地を出て、中林の死角に入ったところでエリンギとじーさんの乗る車に乗り込む。

 中林が慌てて連絡したのであろう、他の警官たちがわらわらと出てきたが、もう遅い。
 エリンギは強くアクセルを踏み、逃げ去った。

 ……冷静になれ、俺。
 ひかるの仇を取ったところで、何もならない。
 何より本人が一番それを望んでいない。

 しかし、自分自身でも少し驚いている。

 俺は突発的な激情に駆られた時、たぶん。
 ……人を殺せる。

「おっしゃあ! 大成功だ!」

「ホッとしたわい。これでひかるを助けられるの」

「タカ、合言葉ハ?」

「は?」

「エ……、まさか本物の青山刑事ジャ……?」

「Treat me to yakiniku instead of sushi(寿司より焼肉を奢れ)」

「ア、タカですネ」

「何て言ったんじゃ?」

「『俺がひかるに焼肉を奢ってやる』だっテ」

「おいふざけるなエリンギ」

「高英お前やるな」

「漢気じゃの~」

「だから話を盛るな! 大体これくらいの英会話わからないなんて、小学生からやり直せ」

「わし50年前じゃもん……」

 俺は内心、作戦の成功に心底ホッとしていた。


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