怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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3rd DARK

第68話 3rd DARK inside ③

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「青山春樹」

「!」

 じーさん(DK)が彼の名を呼ぶと、青山はびくりとして上のじーさんを見上げた。
 そして少しばかり怒気を交えた声で言った。

「DK……、ハデにやらかしてくれたな」

 青山は視線を変えずに、ゆっくりと銃口を下ろした。

「まだ、これからが本番だ。奴を殺すという大事な仕事が」

「……どうしてわざわざ、俺だけ残した?」

 後に青山を、ダークが逃走するために利用するからだ。
 先程換気したのは、催眠ガスを外へ出し青山を眠らせないため。

「ダークの身体能力は並外れている。だからオレたちはダークを容易には殺せないと悟った……。そこでまだダークに対抗出来そうなお前に、捕まえてもらおうと思っている」

 言うまでもなく、これは嘘。
 本当の理由は、ダークとDKの関係を壊さないため。

 勘のいい人間ならばこの事件が終わった後、
『DKがやっていたことは全て、ダークに都合のいいことであり、DKはダークの手助けをしていた』
 ということに気付く筈だ。

 それはまずいので、敵であるDKが青山を利用する最もな言い分を、奴の頭の中に植え込む必要があった。

「俺一人より人数が多い方が勝率が上がるだろうに」

「だが大人数では、たった二人だけのこちらに貴様らが従うとは思えない」

「……」

 じーさんは腕時計を一瞥する。

 ――あと30秒。

「ダークを今日こそ捕まえろ。そして身柄をこちらに引き渡せ。奴の処分はオレたちがやる」

 青山は眉間にしわを寄せ、じーさんを見上げる。

「……断る、と言ったら」

「人質の頭に風穴を開ける」

「人質……?」

 青山の喉仏が上下する。
 “人質”の意味は理解しているようだ。

「高英、10時だ」

「行くぞ」

 俺は職員入口側から、ゆっくりとショールームへ入っていく。

「本当に、物騒ですね」

「!」

「ダーク!」

 青山との距離は、逃げ切れる許容範囲内だろう。
 俺はじーさんの方を向いて言った。

「人質を取るなんて卑怯ですね。必ず私が殺されなければならないじゃないですか」

「……よく、あの海に飛び込んで生きてたな」

「まぁ、私は怪盗ですから」

 俺はほくそ笑んだ。

 また青山も、ダークとの再会を喜ぶように口元を緩めている。
 しかし同時に、何か懸命に頭を働かせているようだった。

 俺は目的のショーケースの方へと、青山を焦らせないようゆっくり歩き出す。

 ショーケースはそれぞれ入っているジュエリーは違う。つまり、値段も違う。
 俺は今回の盗品総額をキッカリ1億1,600万円と決めている。
 多過ぎても少な過ぎてもいけない。即ちその金額ちょうどのジュエリーが入ったショーケースが、先程鍵庫から拝借してきた鍵のものだ。

 エリンギとじーさんは、打ち合わせ通りに銃口を俺に向けた。
 床には警官が倒れている。そちらにも意識を配らせながら、俺はさらに口を開く。

「……一つ、お聞きしたい。――Dark killer、俗にDKと呼ばれている貴方方は、何故そこまで私に固執するのかを知りたい」

「おぉ……、確かに俺もそこまでダークを殺したい理由を聞きたかった」

 この問いを青山の前ですることによって、さらにダークとDKの敵対心を浮き彫りにする。

「当然、貴様に対する恨みだ」

 これも打ち合わせ通り、じーさんが答えた。
 あやふやな返答にしたのは、後に矛盾が生じないようにするため。

 それでも青山は納得したように、ふぅんと喉を鳴らした。

 俺は顎に手を当て、考えているようなふりをする。

「……全くもって見当つきませんね。そもそも私は、貴方方の仮面の下を知りませんから」

「な……、知らなかったのか」

 少しずつ、俺は目当てのショーケースに近付いていく。

「オレたちのことより貴様だダーク。何故、ここに?」

「おぉ……、それも聞きたかった」

 目的のショーケースの前に辿り着き、鍵穴の横の番号を確認する。
 “R6223”……。

 歩きながらポケットに突っ込んでいた右手を、静かに抜き出す。
 親指と人差し指で鍵を摘みながら。

「私のことより貴方だ、青山刑事。何故警察で貴方だけ立っているんですか?」

 カチッ

「!」

 鍵を開ける際の音に、青山が反応した。
 青山がこちらへ向かって走り出す。

 俺は持っていた袋の中へ、ショーケースの宝石を一つも余すことなく掻き込む。これ全部で丁度目当ての金額になる。

 ――ちなみに予告状の“星色の宝石たち”とは、不特定の色や形をした宝石を意味する。
 このショーケースの中身も、ネックレスや指輪等、宝石の形状は様々である。

 宝石を袋に入れる作業を終えると同時に、俺は袋を担ぎ走り出した。

 青山との距離は確実に縮まっていた。……俺の想像以上に足が速いかもしれない。
 そして上のじーさんとエリンギが、光線銃で俺を狙う。

 しかし2人は明らかに外してきた。

「馬鹿っ、撃つなDK!」

 青山が怒鳴った。
 俺も走りながら無線に小声で怒鳴る。

「おい、ちゃんと狙えと言っていただろっ。青山にも怒られてどうする。お前らはダークを殺しに来てるんだぞ!」

「む、ムチャ言わないでヨ! 当たりそうで怖いヨ!」

「今俺が着ているタキシードは光線を打ち消す素材だから、いくら打ち込んでも大丈夫だ。……と言ったのはお前だろエリンギ」

「……顔面に当たるかモ」

「お前の腕じゃ到底不可能だから安心しろ!」

 俺は非常口へと続く長い廊下へと入った。

 今回の作戦では、シャッターの密室の中に俺は青山と共に閉じ込められなければならない。
 あまりにも距離が開きすぎていれば、以前ダークが撃たれた足が痛むふりをして、青山に追いついてもらおうと考えていた訳だが――要らぬ心配だった。

 一瞬振り向いた瞬間、息を呑んだ。
 鬼気迫る形相の青山が、目と鼻の距離にいたのだ。

 ――速……っ!?

「はぁ……っ、く……っ」

 クソ……っ!
 ひかるはこんなのと二度も駆けっこをして、『余裕』だと言っていたのか……!

 まともに逃げ切る作戦だったら、捕まっていたかもしれない――。
 ……次回は絶対に俺と青山が駆けっこする様な作戦は組まない。そう心に固く決めた瞬間だった。

「止まれ怪盗ぉ!」

 背後から青山の怒鳴り声が聞こえたと思うと、俺の前方がシャッターで閉ざされ、行き場を失った。
 振り返ると、肩で息をする青山の背後もシャッターで閉ざされる。

 俺と青山は、密室に閉じ込められた。
 ……作戦通りに。

「このシャッターは元々、防火目的じゃなくて、ここから逃げようとする泥棒を閉じ込める目的で作られた。……そう、お前のような」

 青山は息苦しそうに、たどたどしく言った。
 俺の額にも、汗が浮き出ていた。
 小さな密室に2人の息遣いだけが響く。

「まるでサンタさんだな。色違いの」

 青山が馬鹿にしたように笑った。
 ……狙ったつもりはなかったが、確かに。

 俺は宝石の入った袋を静かに床に置いた。

「黒いサンタさんは、一体何をくれるんだろうな。……いや、盗むのか」

 青山は何故か嬉々としながら俺にゆっくり近づき、僅か3メートル程の距離を取って両の手を開いてみせた。

「今、俺以外の警官は全滅。無線の先は誰も聞いてない。……そこの防犯カメラは、お前の仲間がもう乗っ取っているか?」

 青山は、この密室に唯一1台だけあるカメラを指差し言った。
 その通り。もうまさかりさんの手中だ。

「つまり、今この会話は俺の仲間は聞いてないって事だ。ちょうどいい、実はお前と腹割って話したかったんだ。お前を捕まえてしまった後は、こうやって一対一で話せないからな」

 ……眠らされた味方の目が覚めるのを待つつもりか。
 DKが催眠ガスで眠らせた時間から逆算して――少しなら付き合っても良いだろう。

 何より、俺もこの男と話してみたかった。

「……時間稼ぎですか? まあ、いいでしょう。少しなら話し相手になりましょう」

「俺は、正直、敵ながらお前に期待してた」

 何を言い出すかと思えば。
 今まさにダークを捕まえようとしているくせに。

「大きな声じゃ言えないが、俺もアンチ鷲尾なんだ」

「フッ、公務員としてその発言はいただけないですね」

「前に鷲尾に、したくない仕事をさせられてな。警察官という立場でありながら、ある事件の隠蔽に加担したんだ。
 その犯人の息子に、俺は……本当にむごい事をしてしまった。その事を、ずっと悔いている」

 青山の突然の告白に、驚いた。

 まさか。間違いない。
 国会事件の後……俺にMBを投与した話だ。
 あの時松浦の他に数人警官がいたが、顔は覚えていない……。

 お前もいたのか。あの場に……!
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