怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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第5話 ひかる、俺と組め

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「……天才?」

 人気のない深夜の公園のベンチで、目をパチクリさせる藤井に俺は口元を少し歪ませる。

「まず、まさかりさん。あの人はパソコンが得意だな」

「あぁ……うん……」

「まさかりさんの本業はそれだ。各地で企業のハッキング対策の講習会の講師なんてやってる」

「へぇ……! そうなんだ、詳しいんだね」

「そう。裏を返せば、ハッキングにこれほど長けてる人材はなかなかいない」

「……ハッキングって、犯罪じゃ――」

 怪訝な顔をする藤井を無視して続ける。

「次にエリンギ、あいつにはパトロンになってもらう」

「……ぱとろん?」

「必要な金を出して貰うんだよ。それにあいつは言ってなかったが……、特技は運転や操縦。あの歳で自家用ヘリや潜水艦まで持ってるというのだから、驚きだ」

「そ、それって自分で運転できるの?」

「出来るから持ってるんだろ。ま、免許を持っているかは知らないが」

 ただただ驚く藤井。
 その顔を見るのが面白くて仕方なかった。

「最後にじーさん」

「特技、コスプレのメイク?」

「そう。俺も見たことがあるが、相当腕が立つ。顔だけでない、声も変えられる。……ホンモノと見分けがつかないくらいに」

「それ……、じーさんは何のために習得したんだろ」

「老後の暇つぶしだと」

 はは、と薄く笑う藤井。

「ここまで有能な人材が、どうしてこんなちんけなシェアハウスに集まったのか。笑えるな」

「はぁ……」

 あの煩いシェアハウスに住む事は俺には不向きで、確かに後悔はしている。

 しかしここまで何か大きなことが出来そうなパーツが揃っているのは、何かの導きだろうか。
 あの3人を利用して何か事を起こせと、背中を押されている気がする。

「で、お前は?」

「え?」

「この3人に対等するような何か、お前は持っているか?」

 明らかに困った表情の藤井。

「そんな、急に言われても……」

「俺が納得するものを持っていなければ、俺がお前と仲良くする理由はないな」

「えー!? あ、それで特技を聞かれたのか……。じゃあ、あなたは何かあるの?」

 初めて言い返してきた。

「すっごい偉そうに上から他の3人のこと言うけど、じゃああなたはどうなの?」

 藤井の口調は怒気が含まれる。
 俺は平然と言った。

「それはお前が見つけろ」

「……はい?」

「自分では言わないさ。“能ある鷹は爪を隠す”と言うだろ」

「全く謙遜しないんだね……」

「しない。事実だからな」

「はは……、自信家なんですね……」

 目線を落として、ポリポリと頭をかく藤井。

 自信家で何が悪い。
 俺の自己肯定感の高さは、心より己が有能であると自分自身認めているからだ。そしてそれは積み重ねた努力で培い、実績もあるからそう思える。

「で、お前の特技は? 才能は?」

「おれは……、自分で言うのもなんだけど、足早いと思う」

「は? それだけ?」

「……ごめんね普通の人間でっ!」

 自虐的に言う藤井は、若干ふて腐れたような顔をする。
 俺は、はぁ、とわざと大きなため息を吐く。
 藤井の隣に座り、眉間を指で押さえる。

 まぁ……、期待していた訳じゃないが。

「で? 早いというのはどの程度なんだ」

「一応……、インターハイで大会記録更新したよ。……自慢じゃないけど」

「……は?」

 驚いて、目を見開いて藤井を見る。

「それ、いつの話だ!?」

 やべ、言い過ぎた!
 早口でそう呟くのが聞こえた。

「ひ、秘密~」

 待てよ……?
 こいつ4月から高2と言っていたな。
 ならば、今年しかないじゃないか。

 そして俺のまわりに、そんな大記録を打ち立てたやつが――いた。

 俺はつい先日まで高校生だった訳だが、陸上部だった。夏で引退したが。
 足の早さの話をしていたのだから、こいつが言う記録更新も陸上競技に違いないだろう。
 そして今年度そんな記録を出したのは、俺の知る限り1人だけ。

 藤井の顔をまじまじと見つめる。

「な、何……?」

 なるほど、どうりで分からない訳だ……。

 “藤井ひかる”

 俺の高校時代の、陸上部の2つ下の後輩だ。
 だが接点が希薄だったとは言え、俺がコイツの正体に気づかなかったのは、俺同様事が要因の一つ。更に俺が知る頃より、髪をバッサリ切っている。

 おまけにもう1つ、コイツは皆を騙している。バレたらさくら号に居られなくなる程の、大きな嘘を。

 そうして思い出した。
 さくら号に来る前、俺はコイツと一度だけ会話している。
 しかもこれ以上ない、最悪な状況で。

「……え、もしかしてバレた?」

「いや」

「あ、そっ、か。よかったー……」

 気が変わった。追い出すのはやめる。
 ……コイツは使えるかもしれない。

「藤井。俺と仲良く……、いや。組んでやってもいいぞ」

「えっ、やったぁ!」

「但し、条件がある」

「え?」

「まず、俺の本名は他の奴等に絶対口外するな」

「う、ん……」

「俺の名前は?」

「え、あっ、き……木谷高英」

「そう」

「……タカでいい?」

「何でもいい。本名じゃなければ」

 この時初めて、藤井が微笑んだ。
 やった、と小さく呟く。

「それから今後俺の言う事には基本賛同しろ。そうしたら可能な範囲でお前の望みも叶えてやる」

「うーん、その内容にもよるけど……。じゃあ明日の朝食食べてよ」

「朝食?」

「うん。おれ料理も得意ってみんなに言ったら、まさかりさんに明日の朝食リクエストされちゃってさ。これからみんなの分作るんだ。だからタカも食べて」

「……」

 ……なんて低レベルな要求だ。
 俺がげんなりした顔をすると、藤井はムスッとした顔をした。

「食べて後悔させないよう頑張ります」

「それをしてお前に何の得がある」

「損得じゃないよ。ただみんなに喜んで欲しいだけ。あ、材料費は集金するけど」

「無銭労働までするお前の企みが分からない。毒でも盛る気か?」

「ふふふ。毒は盛らないけど、美味し過ぎてころっと倒れちゃうかもね~?」

「……分かった、そこまで自信があるなら食ってやる。その代わり藤井も約束を守れ」

「あ……、ひかるでいいよ」

「ひかる、俺と組め」

「うん。分かった」

 ひかるは最上級の笑顔で頷いた。

 こいつ、軽い気持ちで考えてるな。
 ひかる、お前が分かってないのは“仲良し”と“組む”の違い。

 “組む”のは、互いに利益だけあればいい。
 その間に、情なんていらないんだよ。





 翌朝……と言うよりも、ひかると組んだ数時間後。
 ひかるがさくら号に来た翌日の朝、さくら号全体に香ばしいかおりが広がる。

「エ……、エ!? タカ? どしたノ?」

 起きて来た3人が、ダイニングで朝食を待つ俺の姿に心底驚いたようだ。

「まさカ、ひかるのご飯待ち?」

「そうだが?」

「エェー!? どういう心境の変化!?」

 エリンギが素っ頓狂な声をあげて、まさかりさんがニヤニヤと俺に言う。

「何だよ、お前もキャワイイところあるじゃねーか。『俺だけ仲間はずれなんてズルい』ってか?」

「バカか。そんなんじゃない」

 ……本当の理由はコイツらには伏せておくべきだろう。

「ひかるは材料費しか集金しないと言った。外で食べるよりコスパがいい。なら、これを利用しない手はないだろ。……まぁ、味が悪ければやめるが」

「あー……、高英《たかふみ》お前、ニートだもんな。節約しねーと……」

「黙れ彼女いない歴6年」

「何だよちゃんと自己紹介聞いてんじゃねーか!」

「アンタの声がデカ過ぎるんだよ。耳障りだから何か口に詰めてやりたいくらいだ」

「酒ならいくらでもいいぜ」

「余計に煩くなるだろバカか?」

「ほほほ、今日もいい天気じゃの~」

 俺とまさかりさんの言い合いを見て、じーさんがのほほんと言った。





「いただきまーす」

 エリンギ曰く、ここの住人全員がこの食卓を囲むことは、これまでなかったと言う。
 食卓に並ぶのは、シンプルにご飯と味噌汁と卵焼きやウインナーやサラダ。

「んうまー……」

 まさかりさんが味噌汁を飲んで、ため息と一緒に出た言葉。
 ひかるが嬉しそうに言う。

「ほんと? おいしい?」

「インスタントの12000倍」

「大袈裟だよ」

 はははと、笑いに包まれる食卓。

 朝食を誰かと食べるなんて久々だ。
 俺はさくら号に来る前の事を思い出していた。

 親父と、2人で暮らしていた。
 朝が苦手な親父を叩き起こし、2人分のパンを適当に焼くのが俺の日課だった。
 夜食は共にできない事が多かったから、朝食だけは一緒に食べるルールだった。
 なんて事ない、穏やかで幸せな日々だった。

 ……突然、全部壊された。

「……」

 ひかるの視線を感じながらも、俺は綺麗な黄色の卵焼きをかじった。
 甘じょっぱい味が口に広がり、箸が止まる。

 ……こういうの、久々に食べた。
 コンビニや飲食店で食べるような大量生産された料理なんかじゃなくて、こう、何というか。
 ひとつひとつ手作りの優しい“おふくろの味”みたいなやつ……。

「た……タカ? どう? 美味しい?」

 緊張しながらも俺の顔を覗くひかるから、俺はハッとして目を逸らして答えた。

「……まぁまぁだろ」

「ほんと!?  やったぁ!」

 余程嬉しかったのか、ひかるは万歳した。

「おいおい、コイツ『うまい』じゃなくて『まぁまぁ』って」

「『マズイ』じゃなかったら何でもいいんだよっ」

「変なノー。まぁタカも照れ隠しだろうけドー?」

「黙れ」

 ニヤニヤと俺の表情を窺うひかる。
 それを無視しながらも、俺は無表情のまま黙々と食事を口に運んだ。
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