怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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Birth

第8話 お前らがバカでよかった

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 話は怪盗から一時逸れて、“12月の国会事件”について。

「俺はあんな計画性のないことは実行しない」

「計画性のない?」

「心身共に準備が出来てなかったから、銃口が向けられても引き金がひけなかった。俺はこんな阿呆なことはしない」

「え?」

 皆がキョトンとした顔で俺を見る。

 ……しまった。
 少し感情的になって余計な事を言った。

「あ? 『銃口が向けられても引き金を引けなかった』って、なんの話だよ」

「犯人は天谷《あまや》って人を殺したんだよネ?」

「よくわからんが……。国会事件の状況を知ることが出来たのかのぅ? あの事件、確かに大きな事件の割には報道が少ないと思っとったんじゃ」

「……」

 俺が上手く話を逸らそうかと、目を泳がせて考えていると、

「ねぇ、タカ」

 何かを察したひかるが、助け舟を出した。

「絶対、誰も殺さないんだよね」

 そう真っ直ぐ聞いてくるひかるの目を見て、俺はひかるの言わんとしたい事を察した。

 俺は本心から、強く言った。

「あぁ、それは絶対だ」

「なら、おれやるよ。タカがやるって言うなら」

 その発言に皆が驚くと共に、俺は口元を歪ませた。
 コイツの賛同は、俺の境遇を知ってるからなのか、はたまたそうでないのかは……分からないが。

 何にせよ、最初の賛同者になってくれた事は有り難い。後が続きやすい。

「おいひかる……、お前こいつの話理解出来たか?」

「馬鹿にしないでよっ。おれは本気だから!」

 ひかるは俺の目を、真っ直ぐに見た。

「タカ、おれタカを信じるよ」

「……」

「タカなら出来ると思う。鷲尾を倒せると思う」

 ……コイツ、出会った日からそうだが。
 何故そんなに俺の懐に入って来ようとするのだろう。

「んナ……、何の根拠もないの二?」

「だってタカが本気だから。冗談で物がいえる人じゃないじゃん!」

「ひかる、お前さ。何でそんなに高英に肩入れすんだ?」

「えっ」

 まさかりさんが首を傾げるのに、しどろもどろになるひかる。

「そ、そんなに肩入れしてるっけ……?」

「だってお前初日から、コイツの事『良い人だよ!』ってムキになってたし」

「そ、それは……」

「まさかりさん、そレ、聞かなくてもいいんじゃなイ……?」

「わしもそう思う」

 エリンギが苦笑いで意味深な事を言うのに、うんうんと頷くじーさん。

「……やっぱ、今のナシ」

「あ、うん……?」

「……?」

 いや、何故今のでまさかりさんが納得したのか俺には分からなかったが。
 まあひかるが俺の味方をしてくれる事は都合が良いので、いいか。
 どちらにせよ俺と“組んでいる”お前には、拒否権は無い。

「わしもやるよ、タカ」

「えぇ!?」

 じーさんがあまりにも平然と言うのだから、まさかりさんとエリンギは思わず声をあげてしまう。

「じ、じーさん。なんで……」

「わしな、実は先月孫が産まれての」

「そ、そーなノ?」

「じーさん結婚してたんだ……」

「わしはばーさんが死んで一人じゃ寂しいから、シェアハウスを選んだんじゃよ。息子夫婦の世話になるのも申し訳ないし。孫がこれから生きていくのに、今の鷲尾政権には託したくないんじゃ。
 ……それに、わしの変装技術がどこまで通用するか試したい……ほほ」

「分かってんのか!? こいつが計画してんのがどんだけ無謀なことかが!」

「無謀? そうかの……、そうは思えんが」

「これが無謀じゃなかったら何が無謀なんだよ逆に!」

 耳まで真っ赤にして怒鳴るまさかりさんを、まぁまぁと静めるじーさん。

「まさかり、鷲尾とわしらの違いは何じゃ」

「違い? そんなもん――」

「同じ人間に変わりない。ただ考え方と環境が違うだけじゃ。つまり同じ人間であるわしらにも、工夫すれば手が届く可能性はゼロじゃない」

「いや……限りなくゼロだろ……」

「千里の道も一歩から。わしはさっきのタカの作戦を聞いて、彼がわしらの司令塔になれば、いずれ何かを成せる気はしたぞ。それ程タカは賢い」

「いや、賢いとかそういう問題じゃ――」

「まさかりさん」

 再び俺は口を開いた。

「“12月の国会事件”について、報道機関はあまり詳しく取り上げなかった。何故だ?」

「は、またその話かよ……。知らねーよ」

「それは、何か鷲尾が不利になる要素があるからだ。鷲尾はあの事件を、うやむやにして終結させたかったんだ」

「は? アイツは被害者だろ? 殺されかけたんだから」

「だったら鷲尾の性格から、もっと大々的に国民に真実を伝え、あの人をもっと悪人にした筈だ」

「そ……、そうか?」

「報道機関もこんなビッグニュースに飛び付かない筈がなかった。裏で奴が糸を引いているのは間違いない」

「……って、だからそれと怪盗の何が関係あんだよ」

「……エリンギ」

「エ?」

「は? シカト!?」

 また顔を赤くするまさかりさんを無視して、俺は今度はエリンギに問う。

「ダンボールハウスの人々が、年間何人餓死や凍死しているか、知ってるか」

「エ……」

「全国で年間約1,200人だ」

「……知らなかったヨ」

「知らないのは当然。報道機関がそれらに一切触れないからだ」

「それも、鷲尾か」

「そう。奴は他国や富裕層からこの国を少しでもよく見せようと、不都合な事実は人々から揉み消している」

 1,200人は嘘……というか根拠のない想像だ。
 そもそも報道機関が触れてない内容を、俺も知る事は出来ない。
 だが具体的な数字を出す事で、信憑性は増す。

「じゃあその報道機関を、奴の都合のいいように手懐けさせるには。……もう手段は限られる」

「弱みを握る、とか」

「もっと簡単に」

「……やっぱ、お金?」

「そうだ。当然、報道を買ってるのは鷲尾の金だろうな。いや、報道だけじゃない。警察や政治家たちさえも……。ならその鷲尾の金はどこから来る?」

「……税金じゃの」

「そうだ、鷲尾の金のでどころは税金、即ち俺たちの金だぞ。まさかりさん」

「お、オレたちの金は鷲尾のために消えてんのかよ!」

「度重なる増税も、そのためだ。あんたの生活も日に日に苦しくなっていくだろうな……」

「許せねぇ……!」

 まさかりさんの目の色が変わる。

「で、怪盗の話に戻るが。鷲尾を倒すには多くの国民の信頼が必要だ」

「どうするの?」

「怪盗をすれば多額の金が入る。その一部を下層庶民の寄付金にまわすんだ」

「おォ……!」

 声をあげたのはエリンギ。

「俺たちの都合がいいように彼らの気持ちを利用しているだけだが、結果として彼らの命も救える」

「すごイ!」

「俺たち怪盗は義賊でありながら、正義のヒーローになるんだ。エリンギ」

「ヒーロー……!」

「ちなみにティアラの換金予想額は5,000万。内経費を200万で見積り、3,800万を寄付。残りの1,000万を5人で山分けだ」

「1人200万!?」

「もし初回でうまくいけると確信を持てれば、2回目以降は更に盗品の額を上げる。即ち、俺たちの取り分も増えるわけだ」

 まさかりさんもエリンギも、思わずほくそ笑んだ。

「200万……ぐふふ」

「怪盗万々歳だネ!」

 それから4人は和気藹々と怪盗について話し出した。

 全員、落ちたな。こんなので言い包められるとは。
 俺の目的の為に命を賭けてくれるなんて、有難い。
 余程緩い人生を送って来たんだろうな、それはそれで羨ましい。

 お前らがバカで良かった。


 ◆


 数分後。

「……ところで高英」

「何だ」

「名前って考えてあんのか?」

「あっ、そーいえば……」

 怪盗の名前。
 あるドラマの怪盗が“ブラック”という名前があったように。ただ“怪盗”だけでは印象が薄い。

「考えてある、当然」

「オ? 何な二?」

「……ここで言うのか」

「いーじゃん、もったいぶることないじゃん。はいっ、せーの」

「怪盗“ダーク”」

「え……」

 全員が言葉を失って俺を見る。
 ……何だその沈黙は。何だその目は。

「それはどうかと……」

「却下」

「ヤだ」

「おれもやだー」

「やっぱブラックのパクリじゃねーか」

 チッと物凄い形相で俺は舌打ちする。

「ナ……、なんか悪役っぽいヨ? みんなを救う正義のヒーローじゃないノ?」

「ヒーローみたいなカッコいい名前だろ」

「うーン……」

「タカが黒が好きだから?」

「違う。黒は嫌いじゃないが」

 ……これは、あの人への弔いの意味も込めて。

「俺たちの決心が何色にも染まらない様に。目的に対する想いが黒よりも濃く、何者にも染まらない様に。俺たちの色が漆黒よりも濃く、混ざるように」

 ほぉ、と皆が声を漏らした。

「そ、それって。おれたちの結束が強いものでありますように。っていう願いを込めてる……?」

「……そうだ」

「タカが……そんな想いを……」

 何故かひかるは、嬉しそうに笑っていた。

「初めて高英が、チームワークを意識してるの見たぜ」

「当たり前だ。俺一人でやるんじゃないからな。誰かがしくじれば皆が転ける、それを肝に銘じろ」

 本当は団体より個人競技の方が良いのだが。
 コイツらの力が無ければこの計画は成し得ない。致し方ない。

「……他に意見はあるかの?」

「……ヤ。何かそう言われるト、それ以上のアイデアは出なさそうだヨ」

「じゃあ、決まりだね」

 ひかるが、パチンと大きく手を叩いた。

「今日は怪盗ダークの結成記念日! おれ、何か美味しいもの作るね!」

「おっしゃー! 飲むぜ!」

「飲まないけド盛り上がロー!」

「わしは茶がいい」

 皆が盛り上がる中、俺は鼻で笑って輪から外れた。
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