怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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第9話 “怪盗ダーク”爆誕

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 2073年5月3日

 警視庁

 刑事部捜査第三課の刑事・青山春樹警部補は、ため息混じりで扉をノックした。
 嫌いな男に呼び出されたからだ。

「青山君、仕事が入ったぞ」

「はい」

 仕事内容は、薄々把握していた。
 所謂、雑用だ。

 青山の上司である松浦警部は、一枚の紙を机に置いた。

「これの存在を、知ってるな?」

 昨日、鷲尾邸に届いた紙を更にコピーしたものだ。と言うのもこの紙について今まで散々ニュースでやっていたから、一般人でも知り得ること。

 では何故、たかが一枚の紙がそれほどまでに騒ぎを起こすのか。
 それは、中に書かれている内容にあった。




***********************************************


 端午の節句の戌の正刻

 内閣総理大臣鷲尾氏の邸宅にて

 金色かねいろの宝を頂きに参る



 怪盗DARK

**********************************************




 これは立派な、犯行予告文書。
 高級紙の上に金の装飾までご丁寧に施されている。(今見ているのはコピーだが)

 鷲尾邸に届いた封筒には、ただこの紙一枚が入っていたという。
 鑑識の結果は、指紋1つ付いてなかったらしい。

「“ブラック”に影響された誰かが、悪戯で送ってきたんじゃ?」

「それはテレビで繰り返し言われていた文句だな」

「要するに鷲尾さんが、警護をするよう言って来たと」

「そう。それを青山君、指揮を是非君に頼みたかったんだよ」

 あぁ……、やはりそう来たか。

 青山の所属する捜査第三課は、主に窃盗事件を担当する。
 今回は警備部との合同での仕事にはなりそうだが。

 正直、誰も、こんな悪戯など本気にしていない。
 だからまだ警部補に階級が昇格して日が浅い青山に、白羽の矢が立ったのだろう。

「……そう嫌な顔はするなよ。総理の前では」

 ……顔に出ていたらしい。

「“端午の節句の戌の正刻”……。5月5日の午後8時ってところですか。何かありましたっけ?」

「その日は鷲尾氏と夫人の結婚記念日で、鷲尾邸大広間でパーティを催すらしい。著名な人間もいくらか参加する」

「へぇ……。で、この“金色かねいろの宝”って何でしょう?」

「わからん」

「はぃ?」

「鷲尾邸には宝石が、ましてやキンイロの宝石なんてゴロゴロ眠っているだろうな。鷲尾氏本人でさえ心当たりは無い。目星を付けるのは無理だ」

 青山は少し思考する。
 わざわざ、“カネイロ”とルビが振ってある。“キンイロ”と読ませないのがミソだろう。

「でもわざわざパーティの日を指定して来たってことは、鷲尾さんの私物ではなくパーティ客の持ち物が目当てじゃ? どーせ招かれる客は大富豪ばかりでしょう? 怪盗も盗りがいがあるじゃないですか」

「おぉ」

 パチンと指を鳴らす松浦。

「なるほど」

「だから、会場の大広間を中心に警備すればいいんじゃないでしょうか」

「冴えてるな青山。興味持てたか?」

「いえ、逆ですね……」

「何故?」

 首を傾げる松浦に、首をすくめて言う。

「富豪たちは本職のボディガードを連れて来る筈ですから。仮に怪盗が現われたとして、何も盗めずに捕まって終わりですよ」

「それは無事に怪盗が現れ、無事に宝石を盗んでしまえと言う様な言い草だな?」

「はは、まさか……」

 図星だ。
 青山は、鷲尾のことが嫌いだ。
 過去に卑劣な事をしでかしたのを……彼は知っている。

 しかし鷲尾が嫌いだからという理由もあったが、やはり第一は、ただ警備しているだけではつまらないという理由だ。
 怪盗と言えば、グライダーに乗って空中を飛び回ったり、屋根の上を走り回ったり……。
 現代にそんな超人がいるものなら、是非お目にかかりたい。

 少なくともこの予告状は今世間を騒がせていて、しかもそれは庶民の敵である、鷲尾を狙っている。

 是非ともこの鬱々とした空気の日本中の期待に応えて欲しいものだ。
 と、刑事という立場ながらも青山は思っていた。


◆◇◆


 2073年5月3日
 ダーク作戦決行2日前。

 さくら号の和室で、俺達(エリンギのみ外出中)はテレビのニュースを眺めていた。

 やはり今日の一番のニュースは、鷲尾邸に怪盗ダークからの予告状が届いたというものである。
 だが世間の反応は、誰も本気になどしていない。
 鷲尾本人ですら恐らくそうで、パーティを中止する気はないようだ。

 ……初回はそれでいい。油断してくれた方がこちらとしては助かる。

 予告状を出す事については、さくら号の奴等からも反対の声が挙がった。
 当然だが警備が固くなるからだ。

 しかし、それではただの窃盗犯になってしまう。
 大事なのは怪盗として奇抜な事をし、庶民の心を奪う事だ。
 当然、俺の作戦には警備の目を掻い潜る事も考えてある。

「何か……緊張してきた。本当に、やるんだよね……?」

 テレビを見ていたひかるが、俺の顔を窺う。

「何を今更。怖気付いて逃げるなよ」

「逃げないよ。タカが……本気ならね」

 真っ直ぐ俺の目を見るひかるのその言葉に、嘘はなさそうに見えた。

 コイツは俺の弱みを握っているのにも関わらず、一番思い通りに動いてくれる。
 “組む”必要なんてなかったと思えるくらいに。

 何故だろう……、バカすぎて逆に怖いのだが。
 一周回って俺を陥れようと考えてるのでは、とすら思えてくる。
 まあ、ひかるがそこまで考えているようには到底思えないが……。

「ひかる、じーさん。ネット見てみろよ。エゴサ超楽しーぞ」

 まさかりさんが呑気に自分のノートパソコンを見せびらかす。
 こいつは、本当にバカ。

「みんな、怪盗頑張れ! やっちまえ! って言ってる。やる気めっちゃ出て来たぜ」

「おぉ……、もうわしら有名人じゃのぅ」

「まさかりさんは緊張してないの……?」 

「……してるから、こうやって気を紛らわしてるんだよ」

「あはは……だよね……」

「ただいマー」

 玄関からエリンギの声。
 エリンギは大きなダンボールを抱えて、俺たちの元へやって来る。

「おかえりー……うわなにそれ!? 手伝うよ」

「ありがト。これダークセットだヨ」

「ダークセット?」

「開けてみろ」

「オッケー」

 エリンギはガムテープを剥し、フタを開く。

「ジャン! 怪盗グッズ其の一、タキシード!」

「エリンギ、そういうのいらない」

「エー」

「見れば分かる」

「エー」

 他にも、シルクハット、顔を半分隠せる(=口元だけが見える)仮面、純白の手袋等小物。

「で、このインカムは?」

「そウ! それが一番の目玉の小型無線機!」

「へぇー」

 インカムと言っても、ピアス程の大きさでよく見ないと分からないだろう。

 エリンギ曰く、

 特徴その一、
 耳に直接つけられるので髪に隠れる。

 その二、
 僅かな音でも拾う。(小声で会話可)

 その三、
 まさかりさんの操作するパソコンが起動している時なら、いつでも通話状態。

 ──これをどう使いこなすかで、ダークの命運が決まる。
 チーム戦であるこの闘いにおいて、マストアイテムである。

「これが来たからには、いよいよって感じじゃの」

 じーさんの言葉に、皆が深く頷く。
 気付けば、5人はダンボールを囲むように立っていた。

「……よし、円陣組もうぜ」

 そう言い出したのは、まさかりさん。

 ──はぁ? スポ根の部活動じゃないんだぞ……?

「え、気が早くない?」

「いいだろ。今日もやって前日もすれば! 今やりたい気分なんだよオレは」

「わしは構わんぞ」

「せっかくだシ、やロ」

「……うんっ」

 その時さりげなく輪から外れようとした俺の肩を、まさかりさんががっちり掴んだ。

「お前もやるんだよ!」

「俺の性に合わない。やるなら勝手にやってろ」

「何言ってんだ発案者! オレだってハッキングという犯罪を、性に合わないと思いながらやってんだぜ? 少しは付き合え」

「……」

 はぁとわざと大きなため息をつく。
 もう、抵抗するのも面倒だ。

 俺は強引に肩を組まれて、皆で向かい合う。

「掛け声は……と」

「シメてよまさかりさん!」

「……うし、決めた」

「おぉ」

 すぅ、と息を肺に掻き込む。

「行くぞぉ!!」

「おー!!」

「普通じゃの」

「ふつーダ」

「うっせ」

「あはははは……」

 本当に、これから強大な敵に立ち向かい、犯罪を犯すというのに能天気な奴らだ。

 勿論失敗するつもりは毛頭ない。
 だが、万が一の時は……コイツらの事を切り捨てるつもりでいる。

 俺がそう考えている事すら気づかないほど、コイツらが愚かで良かった。
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