怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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第18話 バカとハサミは使いよう

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 目をキラキラさせるけいに対して、一瞬重い沈黙がさくら号を包む。

「な、何言ってるんだヨけい。そんなわけないっテ」

 エリンギが少々片言で否定する。

「えー? でも最初にまさかりさんが『ダークの成功を祝いまして――』って言ってたよねー?」

「言ってない言ってない聞き間違いだよーん?」

「え~、言ったよ~?」

「いやいや、しかしそれじゃわしらがダークという証拠にはならんぞ。わしらはそう、ダークの大ファンなんじゃ……。ファンが成功を祝うのは、おかしくないじゃろ?」

「そ、そうそう! だ、ダークって、ほ、ほんと凄いよねー? おれも大好き! あははは」

 絶望的に嘘が下手なひかるは喋らないで欲しい。

「えぇー? でもでも、その後にタカが『ダークは俺が仕切ってるんだ』って……」

「……」

 皆からの視線が痛い。

「ねぇねぇ? ダークなんでしょー? ねぇタカー?」

「……」

 大家であるコイツの母親も中々に口達者であるが、その影響か妙に口が達者で勘がいい……。

 どうする。ここまで会話を聞かれてしまうと、下手な嘘でも誤魔化すのは難しい。
 他の連中は、黙って俺の言葉を待っている。

「ねぇ、おれダークすっごい好きなんだよ? 格好いいし、みんなの注目の的だしっ! 今すっごいドキドキしてるんだよ? まさか本物に会えるなんて、思ってなかったもん!」

 不幸中の幸いなのは、会話を聞かれたのは小学生の餓鬼ということだ。
 通報してやろうとかいう考えは一切なく、ダークに対する強い興味と憧れで他意はない。

 俺は深いため息を吐いた。

「……その通りだ」

「た、タカ……」

 俺はけいとしっかり目を合わせて言った。

「俺たちがダークだ」

 するとけいの表情は、一気に輝く。

「すっっごーい!」

 けいは大興奮して、今度はひかるの服の袖を掴んでぴょんぴょん跳ねる。
 まさかりさんが俺に近寄って、怪訝な顔で迫る。

「お前何フツーにバラしてんだよ? アホじゃねーか」

「バカにアホと言われる筋合いはない。この状況で隠し通せると思うか?」

「あ゛ぁ?」

「もうやめんさい」

 じーさんが無理矢理、まさかりさんを引き剥がす。

「ん? ところで誰がダークなの?」

 けいがひかるの顔を見上げる。

「あぁ、1人じゃなくて、おれたち全員がダーク」

「そうなの? うーん……、どういうこと?」

「えーと。どう言えばいいのかな……」

「おいひかるまで! もう言うなって」

「けい」

 俺はけいと視線を合わせてしゃがみ、真顔で低い声で言った。

「知ってしまったな……、俺たちの秘密を。もう、タダで返す訳にはいかない」

「え……っ」

「た、タカ……。どうする気?」

「俺たちは命懸けでダークという犯罪を行った。お前の口は俺たちにとって最大の凶器だ。今日から、俺の言うことに従ってもらう。さもなくば」

「さもなくば……?」

「お前の一番大切なものを盗む。俺たちは、怪盗だからな……。子どもだからって容赦しない」

 フフ、と不気味にほくそ笑む俺を見て、けいだけでなく皆が背筋を凍らせた。

「た、タカの言う事ってなに……?」

「共犯になれ。俺たちと同じ罪を背負え」

「えっ」

「6人目だ。次回以降お前もダークに協力しろ」

「えぇーっ!?」

 皆から悲鳴のような声があがった。

「い、いいの……? いいのいいの?」

 他の4人の心配とは裏腹に、けいは目をキラキラと輝かせて俺を見た。

「ただし、どうして俺がお前をダークに引き込む必要があるのか。はっきり言うぞ」

「え……?」

「同じ罪を被り、お前の口が外部に漏れないようにするためだ」

 俺を見上げ、口を半開きにするけい。

「ダークをやるということは、即ち犯罪者の仲間入りをするということ。つまりダークのことを他人に言いふらすことは、自分の首を絞めることになる。分かるな」

「う、うん……。言わなければいいんだよね?」

「言えばお前はともかく、俺たち全員死ぬと思え。大袈裟じゃないぞ。俺達が闘っている鷲尾は、3日で犯罪者の死刑を執行させた前科があるからな」

「わ、わかった……」

 俺の脅しかかった声に、けいは初めて不安な表情を見せた。

「おい高英、ジョーダンだよな?」

 まさかりさんが苦笑いで言う。
 はぁ、それを今聞くアンタは本当にバカだな。
『冗談だ』なんてけいの前で言ったら、話が振り出しに戻るだけだろ。

 ……もうこうなったら、とことんコイツを利用させてもらう。

「時にけい、お前の特技は? 才能は?」

「え、才能?」

「何か持っていなければ当然役割を与えない。お前をただのマスコットにしたままで、ダークの情報を与える訳にはいかない」

「えぇ、えー……」

 懸命に悩み始めるけい。
 そして数秒経って、はっとした様に言った。

「おれ、泣きマネ出来るよ!」

 一瞬、皆ポカンとする。

「泣きマネ……?」

「うん。やってあげようかー?」

「や、後でいいヨ……」

 するとけいは、一気に悲しげな顔を作った。

「そんな……っ、今見てよ……。うぅ……、うわあああああん!!」

 けいはボロボロと涙を溢し、しゃくりあげ始めた。
 その迫力に、唖然とする一同。

「けい!? ゴメン! ゴメンって泣かないデ!」

「いやいやエリンギ、これ泣き真似だから……。え、そうだよねけい?」

「うわあああああッ! 泣き真似って言うなんて酷いよおおおお!!」

 ひかるとエリンギが困惑するほどにリアルだ。
 俺は苦笑しつつも、少し思考した。

「……有りだな」

「アリなの!?」

「いいだろう。次の作戦に組み込んでおこう」

 俺がそう言うと、けいはケロリと泣き止んだ。

「やったー!」

「子どもらしくていい。けいは“子ども”として色々活用出来る」

「こどもとしてがんばりまーす!」

「ダークにそんな要素必要なノ……?」

「流石、タカが考える事は一歩先をいって読めんのう……」

「タカ! ありがとう大好き!」

 けいは突然俺に抱きついてきた。
 俺はそれを力づくで引き剥がす。

「そうと決まれば早く帰れ。時間見ろ」

 全員が壁の時計に目を移すと、もう21時を回っている。

「げっ、早く帰れけい! じゃなきゃオレたちが殺されるんだよ、パワフルに」

 “パワフル”とは大家の……けいの母親のあだ名である。

 女性であるがこの威力のあるあだ名は、まさかりさんが嫌味を持って付けたらしい。
 ……まさかりさんは家賃をしばしば滞納する為、彼女に激しく取り立てられているのである。

 だが他の奴らもこのあだ名にしっくり来ており、皆彼女をパワフルと呼んでいる。
 そして本人も最初は眉を顰めていたが、もう慣れたようだった。

「はーい。みんな今日はありがとー!」

「送るヨ」

「待てエリンギ、言っておきたい事が」

「うン?」

 俺はエリンギを引き留めた。

「お前にその内、警察が訪ねて来る。ダークの件で」

「エェー!? 何デ!?」

「警察は今ほとんど手掛りがないからな。藁にもすがる想いで、パーティ客に聞き回るだろう。無論、マイケル・エレンジも例外なく、だ」

「ウソ……」

 顔が青白くなるエリンギ。いや、元から白いが。

「下手な嘘はつくな、なんて言われなくても分かってるだろうな。帰ってきたら上手い言い訳を考えるぞ」

「ウッ……、ラジャー……」

 青白い顔のエリンギと、ニコニコのけいは共にさくら号を出て行った。

「タカ、もしかしてもう2回目の作戦考えてるの……?
 けいをダークに組み込める作戦を……」

 ひかるが問うのに対し、俺は鼻で笑う。

「まだに決まってるだろ」

「だ、だよね……」

「だが、足踏みしている時間はない。次はもっと大きな盗みをするぞ」

「ねえ、あまりけいを酷使しちゃダメだよ……?」

「しない。所詮アイツはオマケだ」

 重要なのは、お前ら4人の力だ。
 初回のダークで確信出来た。次も行ける。

 この天才バカ達を、俺が上手く使いこなせば。

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