怪盗ダーク ―5人の怪盗、世界を欺く―

七梨

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2nd DARK

第30話 2nd DARK outside ③

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 萩本が退出し、少し落ち着かない様子の中林に青山は追い討ちをかけた。

「……中林」

「っあ、はいっ」

「合言葉は?」

 青山は半年以上前にやっていたドラマ、“怪盗ブラック”を思い出していた。

 ブラックの犯行手段の中に、変装があった。
 それは簡単なマスクを被って一瞬で顔を変えれたり、機械で声を変えたりと、あまりにも現実味のない内容だった。

 ただし現実味がないというのはそのブラックの方法で、特殊メイクの知識がある技術者なら、時間をかければ可能なのかもしれない。

 こいつ――目の前の中林が、DKであるという確証がある。

 DKが203号室の扉を閉めてから、青山が103号室の扉の前に辿り着くまで、ざっと30秒あるかないかだった。
 その30秒の間に、DKが非常はしごを降りて103号室から逃げ出すのは、不可能ではないかもしれない。

 しかし、103号室には人質の男の子がいたのだ。
 一体何の目的で人質を下に降ろしたのかは分からないが、DKがいなくなった後、訳もなく人質が1人で下に降りたとは考えにくい。
 よってDKに指示されて、人質は下に降りざるを得なかった、と考えるのが妥当だろう。

 人質は小学生――中・高学年だろうか。
 はしごの高さは小学生には高い。そう簡単には降りられないはずだ。
 ――つまり、人質を降ろした上でDKが逃げ切るには、あの時間では足りない。

 だったら萩本や中林に変装して、青山の目が向いてない内に逃げるのが確実だろう。
 ……ただし、変装出来るということを認めることになるが。

「え……っと」

 合言葉を聞かれ、言葉に詰まるニセ中林。
 この正しい答えは、『そんなもの決めてないっす』だ。

 だがニセ中林が言ったことは。

「……はは、すみません。忘れました」

 予想通り。
 分かった。何か引っ掛かっていた違和感の正体が。

『あーっ。もういい。もーお前には頼んねー』

『く……っ、悔しいっす』

『出直してこい。馬鹿が』

『うぃっす』

 あのアホな言葉遣い。
 そうだ。このニセ中林の言葉遣いは至って普通なんだ。
 だがあのバカ林のお陰で、普通がとても美しい言葉に聞こえる。

「あの、そろそろいいでしょうか」

 中林は少し早口で言った。
 恐らく萩本も偽物だ。引き離されて焦っている。

「その前に、中林」

「……はい」

「ちょっと両手を見せてみろ」

「は?」

 ニセ中林はさらに怪訝な顔をするも、渋々両手を開いて見せた。
 青山はその左腕を掴み、手錠を掛けた。

「な!?」

 ニセ中林は反射的に一歩身を引くも、手錠の片方は青山が握っているため離れられない。

「何をするんですか!」

「もうそのクサい演技はやめろ、DK。部下の見分けくらい簡単につくんだよ。人間てのは個々に口癖があるもんだ」

「っ……、口癖か……」

 青山は奴の胸倉を掴んだ。

「ダイヤはどうした? それと本物の中林と萩本はどこだ。生きてるんだろうな!?」

「……青山さん、何を言って」

「しらを切っても無駄だからな! 諦めろ、俺の勝ちなんだよ。お前の相方もな、すぐに見つけ出して捕まえてや――」

 ゴッ

 鈍い音と共に、後頭部に激痛が走った。
 目から火が出る。
 周りの音が耳に入らなくなった。

 たぶん、殴られた。
 ニセ中林じゃない誰かに。

「っは……ッ」

 青山は何が起こったのか、頭の中で把握出来ないまま床に突っ伏した。

 や……っべ。
 やられた。

 意識が途絶える直前に見たのは。
 ニセ萩本の、ニヒルな冷たい目だった。





【ダーク出没予定時刻12分前】

 レインボー号1階男子トイレの一つに、一人の客が用を足しに来た。
 手洗いの中に、その男以外の人間はいないようだ。
 個室の方も全て開いている。

 男が何も考えずに用事を済ませている最中、

 んー、んーっ

 奇妙な音に気付き、男は一度肩をびくつかせた。
 個室の方から聞こえる。

「はは……、どんだけリキんでんだよ」

 と最初の内は笑っていたが、その内不審に思う。
 声がやけにくぐもり声に聞こえるのだ。

 んーっ

 おそるおそる、声の方に近寄ってみる。
 個室は使えるものは全て開いている。

 ……と言うのも、1つだけ“使用禁止”とかかれた個室の戸が封鎖されているのだ。
 だがどうにも、声の主はこの中にいるらしい。

 ただ事じゃないと確信した男は、戸を封鎖しているテープを急いで剥がした。

 中の光景に、男は目を見開いた。

「おいっ、大丈夫か!?」

 中には、シャツと下着だけにされた2人の男が縛られていた。
 彼らの私服は奪い取られていたものの、違いなく萩本と中林だ。





「……まさん、あ……さん!」

 自分を呼ぶ声に、青山はボンヤリと目を開けた。

 ……あれ……。
 ダークはどうなったんだっけ。

「青山さん! 起きてください青山さんっ」

 目の前に、中林と萩本の顔。

「うぉぉ!? 本物!?」

「はい?」

 慌ててのけ反る青山を見て、首を傾げる2人。

「大丈夫ですか……?」

「寝ぼけてるだけっすよね? いやー、でもホント無事でよかったっすよ、お互いに!」

 あ……、中林。本物だ。
 何だこの変な敬語の、実家のような安心感は。

「何だよ、無事だったのかよ……。何事もなかったように笑いやがって……」

「はい?」

「青山さん、早く行きますよ! 立ってくださいっ」

 萩本が慌てて青山の腕を掴む。

「は?」

「あぁもう! 今12時になりましたよ! 僕らはバイキング会場の警備ですよね、行きましょう」

「嘘だろ!?」

 最悪だ。ホント最悪!
 俺が今日、ダークと対峙するのをどんだけ楽しみにしてたことか知らないで……!

 青山は、先程殴られた後頭部をさすりながら立ち上がった。
 少しよろめきながら、青山たちは会場へ急いで向かう。





【ダーク出没予定時刻より1分経過】

「……こちらバイキング会場、異常ありません」

「こっち甲板です。異常ありません」

「こっちも……」

 おかしい。12時1分を過ぎた。
 時間が過ぎているのに何故現れない!?

 ……前回も0分59秒の犯行だったとは言え、ギリギリ予告時間内だった筈だ。

 おいおい、まさかの遅刻か!?

「……んなわけねーだろ。あのダークが」

 全力疾走でバイキング会場へと戻った青山たちだったが、それは杞憂に終わる。
 ダークが現れない。それは想定外だ。

 会場の真ん中には、再び入れられた偽物のダイヤがケースに入ったまま。

『俺が殺したいのはダークだけだ』

 数分前の黒いローブの仮面の男、DKの言葉を思い出す。

 ニセ中林と萩本は依然行方をくらましたまま。
 奴等は変装が出来るんだ。
 また客に成り済まし、今度はダークを狙って……。

「まさか……」

 青山は嫌な予感に汗がにじむ。
 ダークは1人、DKは2人。
 おまけにDKは拳銃を所持していて……。

「青山刑事」

 聞き覚えのない声が、上から降って来た。


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