大好きな第三王子の命を救うため全てを捨てた元侯爵令嬢。実は溺愛されていたことに逃げ出した後に全力で気付かされました。

バナナマヨネーズ

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 シュナイデンが天に向かって叫ぶ声を聴きながら、ヴィラジュリオが女性に拒否反応を起こすという話にアストレイアは、心臓が痛くなるほどの衝撃を受けていた。
 無意識に胸元の服を握り、全身が震えそうになるのを必死に抑え込む。
 浅く呼吸を繰り返したアストレイアは、今の自分が男の身だったことに感謝した。
 一瞬、今までの研究が全て無駄になってしまったことが頭を掠めはしたが、それよりも今のヴィラジュリオの状態のことを考えることに集中する。
 
「シュナイデン。改めての確認だけど、殿下は意識がない状態なんだね」

「ああ……。典医の処置で呼吸は出来ていたけど、すごく浅かった。あと体温が異常に低くて……」

「うん。ありがとう」

 それだけ口にしたアストレイアは、様々な書物から得た知識を思い出しながらフル回転で考えを巡らせる。
 そうこうしているうちに、二人を乗せた馬は王城にたどり着いていた。
 シュナイデンに馬から降ろしてもらったアストレイアは、ヴィラジュリオのもとに走り出した。
 いや、正確には走り出そうとしたが、足の遅いアストレイアのことをよく知るシュナイデンによって横抱きにされた状態で走り出したというのが正しかった。
 自分でも足が遅いことを自覚しているアストレイアは、抱きかかえられていることは恥ずかしく思ったが、今は自分の恥よりもヴィラジュリオの方が大事だった。
 だから、シュナイデンの好意に甘えて運ばれることにしたのだ。
 そして、自分で走るよりも早くヴィラジュリオの元にたどり着くのだ。
 
 シュナイデンは、アストレイアを抱えたままの状態でヴィラジュリオの部屋にたどり着くと、扉を蹴破る勢いで部屋に入ったのだ。

「兄者!! アスタヴァイオンを連れてきた!!」

 そう言って、ヴィラジュリオが眠るベッドのすぐ横の椅子に座る男に声を掛けたのだ。
 兄者と呼ばれたダークブラウンの髪の男は、ジュトレイゼ=イゾ・スリーズ。
 シュナイデンの実の兄で、アストレイアたちの二つ上の十五歳だ。彼は、ヴィラジュリオの補佐、相談役的な役割を果たしていた。
 シュナイデンとは違って、一見細身で繊細な容貌の美青年ではあるが、それなりに筋肉の付いた体つきをしていた。
 そんなジュトレイゼは、勢いよく部屋に入ってきた弟を見て、盛大なため息を吐く。
 
「はぁぁ……。お前というやつは……。それよりも、アスタヴァイオンを降ろしてやれ」

「おお、そうだった。アスタヴァイオンが妙におさまりがよく、抱えているのを忘れていた!」

「ああ……、そうか。殿下が寝ていてある意味良かったな……」

「ん?」

 ジュトレイゼの言葉に首を傾げながらもアストレイアを降ろしたシュナイデンは、特にジュトレイゼの言葉の意味を聞き返すことはしなかった。
 その代わり、ジュトレイゼの様子からヴィラジュリオの容体が良い方に向かっていることが分かり胸を撫で下ろしたのだ。
 
「ふう。慌ててアスタヴァイオンを連れてくる必要ななかったみたいだな……。よかった、殿下の身が無事で」

「そうだな。お前は考えるよりも体が先に動くからな。今はそれでも何とかなっているが、これからはそうも言ってられないこともあるだろう。だから、まずは深呼吸して、考えろ」

「おう。分かった兄者! アスタヴァイオン、すまない」

 そう言って頭を下げるシュナイデンに、アストレイアは、慌てて言うのだ。
 
「ううん。そんなことない。僕は、殿下が大変な時にお傍に居られてよかったよ。だから、頭をあげて、シュナイデン。ありがとう」

 そう言ったアストレイアは、シュナイデンの下げられたままの頭を撫でて、短く切られたダークブラウンの髪が以外に柔らかいと思いながら、困ったような表情になる。
 そして、シュナイデンの頭から手を離した後に、ジュトレイゼに改めてヴィラジュリオの容体を聞いた。
 ジュトレイゼは、苦笑いの表情でシュナイデンが飛び出した後のことを話してくれたのだ。
 
「シュナイデンが慌てて部屋を出た後、典医が持ってきた香を焚いたんだ。そうしたら、徐々に浅かった呼吸も元に戻って、体温も戻った。顔色も今は良くなっている。典医からは、あと一、二時間ほどで目を覚ますと言われたよ」

「よかった……」

「よかったぁ~~~」

 ジュトレイゼからの説明にアストレイアとシュナイデンは同時に安堵の言葉を口にしていた。
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