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出会い編

9 私と突然の来訪者

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 そんなこんなで、お肉を恋しく思いながらも魔の森で十分な暮らしを送っていた。
 その日は、森には出かけずにマイホームに新しく作った工房で作業をしていた。
 
 そう、異世界に召喚されてから、家主がMASTERレベルになっていたのだ。
 そのお陰で、工房を持つことができた。
 家の横に新しく工房を作った。工房と家は繋がるように建てているため、簡単に行き来できるようになっていた。
 工房内は、広々とした作りになっていて、広い作業机と錬金釜が置かれている。
 ちなみに、この錬金釜はフェイクです。
 別に、錬金釜がなくてもアイテムを作成できるんだけど、雰囲気って大事でしょ?
 という訳で、見た目重視で工房内は成り立っていたので、実際に使わないインテリア的な道具が所狭しと置かれていたりする。
 
 でも、これぞ錬金術師の工房といった見た目で、私は大満足だった。
 そんな、大満足な気分の中、新しいアイテムの作成に勤しんでいた。
 今回作りたいものは、動物除けのアイテムだ。
 頻繁ではないけど、稀にモンスターらしき生物が、敷地の近くを彷徨くことがあるんだよね。
 冷静になれば、ミスリル製の柵だから、ちょっとやそっとじゃ侵入はされないけど、やっぱり近くを徘徊されるのはいい気持ちじゃない。
 だから、生き物を遠ざけるようなアイテムを作ろうと考えたんだよね。
 ここ数日、色々試したお陰でどういうものにするのかアイディアが固まったので、試作を作ることにした。
 菜園からいくつかの薬草を摘んできて、それを錬金術師のスキルでブレンドしていく。
 匂いは、甘くていい匂いがしていた。だけど、この薬草は猛毒だったりするのよね。
 で、このブレンドした薬草からポーションを抽出していく。
 名付けて、「モンスター除けポーション~甘い香りの猛毒を添えて~」の完成だ!!
 ちょっと名前が長いかも……。じゃぁ、魔除けのポーションでいいや。
 これを使って、実際にモンスターを退ける事が出来るか実験だぁ!!
 
 私は、出来たての魔除けのポーションを片手に意気揚々と工房を飛び出した。
 飛び出したのはいいんだけど、ここからが大変だった。
 
 アイテム制作に夢中になってて気が付かなかったけど、すっかり日が暮れていたのだ。
 気が付くと、お腹が空腹を訴えるように鳴った。実験は諦めて、今日はご飯を食べて休むことに決めた私は、夕飯の準備に取り掛かった。
 粗方おかずが出来たので、後はご飯が炊きあがるのを待つだけだった。
 だから、先にひとっ風呂浴びてさっぱりすることに決めた。
 お風呂セットを用意してから、自慢のお風呂場に向かった。
 体を洗ってから、露天風呂に移動して湯に浸かった。
 お湯の温かさで、凝り固まっていた体が解れていくように感じた。一人なのを良いことに、チャプチャプとお湯で遊びながら、お気に入りのアヒルさんと戯れる。
 空を見上げると、異世界らしい真っ赤に輝く月が見えた。
 何気なく、今日は満月だとその月に見入っていた。
 
 異世界に来た当初は、分厚い眼鏡を掛けていたけど今は裸眼でも問題なく周囲が見えていた。
 何気なく、ポーションで視力が良くならないかと毎日ポーションを目薬代わりにしていたら本当に視力が回復したのだ。
 今では、両目ともくっきりバッチリ見えるようになっていた。
 そんな、視力の回復した目で月をみていると、月に黒い点が出来たことに気がついた。
 その黒い点は、よく見ると1つではなく2つもあった。
 謎の黒い点を確かめようと、目を細めて赤い月を見上げていると、その黒い点が少しずつ大きくなっている事に気がついた。
 
 そこで私は、その黒い点が大きくなっているのではなく、私の方に近づいてきているのだと遅まきながらに気がついたが、全ては遅かった。
 あっと、思ったときにはその黒い何かが露天風呂に落ちてきたのだ。
 
 バシャーーーーン!!!
 
 大きな飛沫を上げて、勢い良くお湯が水柱を上げていた。
 私は、呆気にとられながらそのお湯が飛び散るさまを見ていた。
 飛び散ったお湯が、雨のように頭上から勢い良く降り注ぎ、それが落ち着いた後も私は呆然としていた。
 だって、目の前に広がる光景にどうリアクションしていいのか分からなかったんだもの。
 
 あっけにとられる私の前では、お湯から勢いよく出てきた二人の人間が喧嘩を始めるという異常な光景が広がっていたのだから。
 
「ああああぁぁ!!死ぬかと思ったぁ。下が水場で良かった」

「兄様の方向音痴!!どうして、一本道で迷った挙げ句にあんなトラップに引っかかるんですか!」

「俺は、方向音痴なんかじゃない!!それに、あのトラップは仕方ないよ。だって、全然罠感知に引っかからななかったし」

「ですが!もともと兄様が一本道で迷わなければ引っかからなかったんですよ!僕は、兄様を尊敬していますが、方向音痴だけはどうにか改善していただきたいです」

「だから、俺は方向音痴じゃない!!」

「なら、どうしてこうなったんですか!」

「知らん!!」

 私はと言うと、目の前で口喧嘩を始めた人物たちを見て身動き一つすることもなく硬直していた。
 
 そんな私に気が付かない二人は、ようやく口喧嘩を収めてくれた。
 
「はぁ。アーク、ごめん。俺がいながら、こんな事になってしまって」

「いいえ、僕ももう少し注意していればよかったです。先程は口が過ぎました。兄様申し訳ございません」

「いいって。それよりも、状況確認だな。というか、この水なんでこんなに温かいんだ?」

「はい。僕もそれが不思議でした。確か、異国では温かい水が湧く泉があるとかなんとか。ここはその温かい水が湧く泉なのだとしたら、僕たちはフェールズ王国の外にいるということになりますね」

「ああ。そうなると、国に帰還するのに時間が……、かかる……」

 そこまで言って、口を噤んだ男と私はバッチリ目があっていた。
 その男の視線は、下の方に移動してある一点で止まっていた。
 私が何か行動を起こす前に、その男が叫び声を上げてもう一人の男を小脇に抱えてその場を飛び出していったのだった。
 
「うわああああああああああ!!!!!!」

「ちょっ?兄様??」

 まさかの展開だったけど、これだけは言いたい。
 
「ちょっと待ってよ。悲鳴を上げたいのは私の方なんだけど……」

 裸を見られた私が悲鳴を上げるのではなく、見たほうが悲鳴を上げて逃げていくとはこれ如何に?
 解せぬ。
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