勘違い令嬢の行動力が異常な件~愛しの貴方が男が好きだというのなら男にだってなってみせます~

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
10 / 17

第十話

しおりを挟む
 ミハエルがシユニナを抱きしめた日から数日。
 
 いつものように、シユニナが訓練場で素振りをしていると、一人の騎士がシユニナの目の前に立ち、何かを地面に叩きつけたのだ。
 
 視線を地面に向けると、そこには黒い手袋が落ちていた。
 首を傾げつつも、シユニナは自分の足元に落ちている手袋を拾って、目の前に立つ落とし主に差し出したのだが……。
 
「はい。落としましたよ?」

「拾ったな?」

「はい?」

「よし! これで互いに決闘に合意したとみなす!! お前! ボクと決闘しろ!」

 シユニナは、全く会話の噛み合っていない相手に首を傾げる。
 
(えぇ~。この人何を言っているの? 私は落とした手袋を拾っただけなのに……)

 シユニナは、知らなかったのだ。
 叩きつけられた手袋が決闘の申し込みだということを。
 そして、その手袋を拾うことが決闘成立の証になることを。
 
 そんな二人のやり取りを少し離れた場所から見ていた他の騎士たちは、面白そうなことが始まったとばかりに囃し立てるのだ。
 
 困惑するシユニナに構わず、目の前の人物は好き勝手に話を進めてしまう。
 
「ボクは、シューヤ・シュライン。お前に副団長を賭けて決闘を申し込む!! ボクが勝ったらお前は大人しく副団長の前から消えろ」

「えっ?」

「ボクは、誰にでも冷たくて、強くて、格好いい、そんな副団長に憧れて騎士団に入ったんだ!! それなのに……、それなのに!! お前のような男が、ボクの副団長を誘惑するなんて許さないんだからな!!」

(えっ? 私がミーシャを誘惑? この人は何を言っているの?)

 思い当たることがなく、シユニナが黙り込んでいると、シューヤはさらにヒートアップしていく。
 
「ボクは見たんだ!! 副団長に抱き着いているところを! そして、無理やり……、あっあんなうらや……、じゃなくて。とにかく、お前の行動は許されないんだ!!」

(あぁ~~。もしかして、この前扉の外にいた人がこのシューヤって人? でも……、すごく誤解している……。別に私が無理やり迫った訳じゃ……。って! もしかして、ミーシャのこと好きなことバレバレな感じなの?! それはまずいわ……)

 ひとり、ぐるぐる考え込んでしまったシユニナに苛立ちが限界に達したシューヤは、指をビシッと指して宣言するのだ。
 
「とにかく、ボクと決闘するんだ!!」

「……。分かった。でも、私が勝ったら、今の発言を全て訂正してもらう。私と副団長様は、君が邪推しているような、そんな関係じゃない。ただの上司と部下だ」

「ふん。勝つのはボクだ!!」

「いえ、私です!」

 こうして、シユニナは吹っ掛けられた決闘を受けることとなるのだ。
 
 
 決闘は、相手に膝を付かせるか、参ったと言わせた方の勝ちというルールの元開始した。
 シューヤは、シユニナの想像よりも剣筋がよく、勝負は拮抗していた。
 鋭いシューヤの突きをギリギリでかわしたシユニナだったが、木刀を避けた瞬間、服の下に隠すように下げていたネックレスが服の外に飛び出してしまう。
 あっと、思った時にはシューヤの木刀がネックレスの鎖を千切ってしまっていた。
 
 シユニナは、外れることの無いはずのネックレスが千切れて吹き飛ぶ姿に目を丸くさせていた。
 そんな、隙だらけのシユニナを見逃さないシューヤは、止めの突きを繰り出す。
 その突きは、シユニナの肩に当たり、シャツのボタンを数個飛ばしたが致命傷には程遠いものだった。
 突きが当たる一瞬、シユニナが下から木刀で突きを打ち上げてほんの少しではあったが、軌道をずらしたためだった。
 突きを下から打ち上げられるような態勢になっていたシューヤのがら空きの横っ腹に遠慮のない一撃がヒットしていた。
 痛みによろめいたシューヤは、そのまま数歩後ろに下がった後、ガクリと膝を付いていた。
 
 何とか勝利を収めたシユニナだったが、周囲の声を潜めるような騒めきに首を傾げる。

「おい……。あれって……」

「えっ?」

「ヤバくないか……」

「なにがどうなってるんだ……」

「なんで……?」

 周囲の騎士たちの信じられないものでも見たかのような視線にさらされたシユニナは、状況が分からず、無意識に助けを求めるように周囲に視線を彷徨わせる。
 
 すると、人垣の奥に、顔を青くさせたミハエルの姿が見えたのだ。
 周囲の突き刺さるような視線とヒソヒソ声に不安で堪らないシユニナは、こちらに駆けてくるミハエルの姿に胸が震えた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者

月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで…… 誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

婚約者に「ブス」と言われた私の黒歴史は新しい幸せで塗り替えました

四折 柊
恋愛
 私は十歳の時に天使のように可愛い婚約者に「ブス」と言われ己の価値を知りました。その瞬間の悲しみはまさに黒歴史! 思い出すと叫んで走り出したくなる。でも幸せを手に入れてそれを塗り替えることが出来ました。全四話。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

処理中です...