男装令嬢の恋の行方

バナナマヨネーズ

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第一話

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 自領から王都に用意した小さな家に移り住んでから一月が経過したこの日、わたしは大きなため息を吐いていた。
 
「はぁ。憂鬱だ……。どうしてこんなことになってしまったんだ……」

 そう独り言ちたわたしに、フェルルカ姉上・・・・・・・が心配そうな表情で聞いてきたのだ。
 
「どうしたの? 騎士団で何か辛いことでもあったの? 無理なんてしなくてもいいのよ?」

 心配そうな姉上にわたしは誤魔化すように微笑みかけていた。
 
「姉上、大丈夫です。姉上はご自身の体のことだけをお考え下さい。今は、わたしの魔力で補助しているとはいえ、呪いがいつどうなってしまうのか予想できませんから」

 わたしがそう言うと、姉上は眉を吊り上げてわたしを叱りつけていた。
 
「もう! 俺のことなんかよりも、自分のことを大切にしてくれよ!! 俺は、あね―――」

「姉上は、あなたでしょう?」

「もう止めよう。俺は、姉上の方が大事だ」

 わたしは、姉上……、いえ、双子の弟のシュナイゼルを抱きしめて懇願するように言っていた。
 
「駄目よ。わたしは、シュナイゼルの未来を守りたいの。軍部への在籍期間はわたしが代わりに勤めを果たすから。シュナイゼルは、体を労わって。呪いを解く方法も必ず見つけるから」

 ディアドラ王国には、爵位を継ぐ者は最低一年間は王都の軍部に在籍しなければならないという決まりがあった。
 本来は、アーデン侯爵家の跡取りであるシュナイゼルが軍部に在籍するはずだった。
 だけど、シュナイゼルは、一年前にある呪いを受けてしまって体の自由を奪われてしまっていた。
 だれにも頼ることなど出来なかったわたしは、シュナイゼルの身代わりになることを決めたわ。
 そしてシュナイゼルには、呪いを何とかできるめどが立つまでは、わたしとし暮らしてもらうことを提案したの。
 わたしのこの提案にシュナイゼルは、猛反対したっけ。
 だけど、わたしは卑怯だから自分の心の傷を利用してシュナイゼルに無理やり提案を飲ませたのよ。
 そして、十六歳になって軍部に在籍しなければならない日が目前に迫っても呪いを解く手がかりは掴めず、わたしがシュナイゼルとして王都に行くこととなったのよ。
 でも、シュナイゼルをひとりで領地に残すことなんて出来なかったから、一緒に王都で暮らすことにしたんだけど、王都にある侯爵家の屋敷には、父と継母と義理の弟妹がいるから、一緒の屋敷に住むことなんて出来なかった。
 
 父は、母が死んで継母と再婚してからわたしたちに見向きもしなくなっていた。
 領地には戻らず、ずっと王都で仕事仕事仕事……。
 継母と義理の弟妹とわたしたちは仲が良くなかった。
 というか、シュナイゼルが呪いにかかったのは恐らく、継母か義理の弟妹の仕業……、いいえ、決めつけは良くないわね。
 そんな訳で、ある意味敵地のような屋敷で暮らすことは憚られたので、わたしは王都に小さな家を購入することにしたのだ。
 
 もちろん購入資金はわたしのポケットマネーよ。
 シュナイゼルにも言ってないんだけど、いつか侯爵家を出て一人で生きるためにと貯めていたお金よ。
 わたしは、絶大な魔力を活かして魔道具の開発や魔法薬を作って商売をしていたのよね。
 自領で隠れて商売するのも大変で、ポータルと呼ばれる移動魔法を使って王都で委託販売もしていたりもしたっけ。
 
 そんな訳で、資金は潤沢にあったので、二人で暮らす家を買って、そのうえで暮らしやすいように家をいじって、ある意味侯爵家で暮らすよりも快適な住まいを手に入れていたのよね。
 
 謎の呪いの所為で自由に動けないシュナイゼルは、わたしの魔力供給と身体操作の合わせ技で日常生活は送れているけど、走ったり、ましてや剣を振るうなんて出来ない状態に変りはなかったの。
 
 だから、わたしがシュナイゼルとして軍部に在籍しているのよね。
 わたしとシュナイゼルは、双子だけあってそっくりだったから出来た荒業だった。
 もともと、シュナイゼルは、剣の天才と呼ばれるほどの使い手だったから、わたしに代わりが務まるか不安もあったけど、身体操作と体力増強、身体強化のゴリ押しで何とか誤魔化せている状態なのよね。
 でも、シュナイゼルの本当の実力を知っている人に見られたら一目で見破られてしまうような張りぼてなわたしだけど、幸いにしてシュナイゼルの真の実力を知っている人間がいなかったから何とか誤魔化せている状態だった。
 
 わたしは、いまだに心配そうにしているシュナイゼルの薄桃色の髪を優しく梳いてから、緑色の瞳を覗き込む。
 
「大丈夫よ。お姉ちゃんに任せて。さ、ご飯にしようか」

 わたしが、話はここまでだと瞳に込めて見つめると、シュナイゼルはため息を吐いた後にニコリと可愛らしく微笑んだのだ。
 
「はぁ。わかりました。でも、シュナイゼル、無理は駄目ですよ。うん。ご飯にしよう」

 シュナイゼルに感謝の笑みを向けたわたしは再びシュナイゼルの仮面を被ったのだった。
 
「はい、姉上」

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