男装令嬢の恋の行方

バナナマヨネーズ

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第十話

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「あの……。やっぱり着付はわたし一人でできるので……」

 わたしがそう言って両手で自分を抱きしめながら身を守るような体勢で後退ると、少し鼻息を荒くしたエレジーが両手をわきわきとさせながら距離を詰めた結果、わたしは壁際まで追いつめられていた。
 
「さあさあ、観念してくださいね。シュナイゼル様。痛みなんて一切ございませんから。それよりも気持ちいいことをして差し上げますから」

「やめてください。それ以上ちかよら―――」

「くすくす。お可愛らしいことですわね」

 わたしの静止の言葉を遮ったエレジーは、舌なめずりをしながら一気に距離を詰めてきたのだった。

 わたしは……。
 わたしは無力だった。
 

「いやーーーーーーーーー!!」





 こうしてわたしは、エレジーによって床に組み敷かれて服を脱がされてしまっていた。
 思えば、最初からおかしかったのだ。
 何故ベルナー様は、わたしを抱きかかえるようにしてここに入ってきたのか。
 それは、わたしに逃げられないよう施した細工に気付かれないようにするためだったのだ。
 そうじゃなければ、女性に押し倒されることなんてありえないのだ。

 恐らく、魔力使用の話をした時に、ベルナー様には、魔力で補助しなければならないくらいひ弱だと思われた結果、魔力封じをされたのだろう。 
 だけど、わたしにとっては、魔力封じは効果絶大だった。

 そうと知らないわたしは、気が付かないうちに魔力が少しずつ抑えられていたのだ。そしてそのことに気が付いたのは押し倒された後だった。
 最初は、これから自分の身に降りかかる女装という困難に身がすくんでいるだけだと思ったけど、そうじゃなかったのだ。
 エレジーに追いつめられた時に足が思うように動かず、逃げることも出来ず、易々と組み敷かれてしまったのだ。
 そして、悲しいことに全てを見られてしまっていた。
 
「ううぅぅ……」

「あらあら……。ごめんなさいね。でも、ご安心ください。このことは誰にも言いませんから。さあ、それよりも時間がございません。お湯の準備は出来ていますので準備に取り掛かりましょう」

 ぐすん。全然ご安心なんてできないわよ!!
 だけど、今現在完全に魔力が封じられてしまっている状態では、動くことすら出来ないわたしは、シャツも脱がされて、さらには胸を押しつぶしていたさらしも外されてしまって、顔を両手で覆うことしか出来なかった。
 だけど、エレジーは凄かった。
 華奢な女性に見えたのだけど、わたしのことを軽々と横抱きにしてお風呂まで運んでしまったのだ。
 そして、あっという間にわたしの手入れしていないボロボロの肌を磨き上げたのだ。
 
「あらあら、まあまあ。お肌がボロボロではございませんか。この際に磨き上げますわね」
「まあまあ。マシュマロのようなお胸。ゴクリ……。これは、お肌を整えるマッサージで決してそのこぼれんばかりのお胸を揉みしだきたいという欲望に負けた訳ではございませんことよ」
「はぁはぁ。細い腰が堪りませんわ。ゴクリ……。はぁはぁ」
「ふぁぁ。最高です。むっちりとした太腿……。最高ですわ!! ジュル……」

 磨き上げられる間(特に胸と太腿)、わたしはまさに生きる屍となっていたと思う。
 エレジーの少し? いえ、結構変態じみた言葉の数々にわたしは恐怖していたのだと思う。
 下手な行動を取ればきっと……。
 いえ、なんでもないわ。
 
 そんな訳で(どんな訳よ!!)全身を磨かれ終わったときには、わたしはぐったりとしていて、されるがままにドレスを着せられて、メイクも施されて、髪のセットも終わっていた。
 そして、部屋の中に置かれていた大きな鏡の前にエレジーの腕力をもって運ばれたときには、半分意識を失っていたと思う。
 そんなわたしを鏡の前に置かれた椅子にそっと降ろしてから、エレジーは言ったのだ。
 
「はぁ。完璧です。最高傑作ですわ!! お可愛らしい! ああぁ、お美しい!」

 わたしが視線を鏡に向けると、そこには虚ろな目をした金髪の少女がいたのだ。
 淡いブルーのドレスは可愛らしかったが、鏡に映る少女の形のいい豊満な胸が強調されるようになっていたのだ。
 それを見たわたしは、一気に覚醒していた。
 
「ふえ? ふええーーーー!! だめ!! これはだめ!! 完全にアウトです!!」

「どうしたのですか? とてもよくお似合いですよ? それに今社交界で流行しているお胸を盛るドレスがとてもよくお似合いですよ。普通は、詰め物をして盛に盛るのですが、自前のお胸で出来るなんて最高ですわ」

「それがだめなんです!! 胸を潰して目立たないようにしてください!!」

 じゃないと女だとばれてしまう!
 エレジーには、もう全身見られてしまって手遅れだけど、他の人にばれる訳にはいかないのよ!!
 だけど時間は無情にも過ぎていて……。
 
「あら、もうこんな時間。申し訳ございません。お時間が来てしまいました。今から着替えているお時間がございません」

「そ……そんなぁ……」

 エレジーの死刑宣告のような時間オーバーという言葉に、わたしは涙目になっていた。
 それを見たエレジーは、親指を立てて自信満々に言ったのだ。
 
「大丈夫ですわ。私にお任せください!!」

 自信満々にそう言ったエレジーを見たわたしは、安堵の息を吐いて彼女に感謝の視線を送ったことを後々後悔することとなったのだ。
 この時のわたしは、エレジーがどうにかしてくれると信じていたのだ。
 だけど……。
 
 エレジーは、わたしを満足げに見た後に言ったのだ。
 
「ベルナルドゥズ殿下、準備が出来ました」

 え? さっき自信満々に言った「お任せください」は何だったの?
 ベルナー様は、部屋の外で待ち構えていたのではないかという位の速さで部屋にやってきたのだ。
 そして、ドレス姿のわたしを見てエレジーに無言で親指を立てたのだ。
 エレジーはというと、同じくとてもいい笑顔で親指を立てていた。
 
「エレジー、完璧だ。よくやった」

「ありがとうございます。私もとても役得……、ではなくて、お役に立てたようで何よりでございます」

「おま……。まぁいい。いい仕事をしたことは事実だ。ところで……」

 そう言ったベルナー様は、わたしの胸に視線を向けていたのだ。
 わたしはとっさに両手で胸を隠すようなポーズをしてベルナー様に背を向けるように体を捻っていた。
 そんなわたしを見たエレジーは、力強く言ったのだ。
 
「特殊メイクです!!」

「これがメイクだと?」

「はい!! 偽乳です!!」

「そう…なのか? 見るからに本物の様な弾力と柔らかさを感じるのだが?」

「特殊メイクです! 今社交界でご令嬢たちに流行っているスタイルなんですよ」

 そう言って、エレジーは、わたしの胸を指でつんつんと突いて見せたのだ。
 わたしは悲鳴を上げそうになってなんとかそれを飲み込んだが、ベルナー様の行動に悲鳴を上げてしまっていた。
 
「ゴクリ……。この柔らかさでか?」

「はい」

 そう言って、エレジーの指先を食い入るように見てから、右手の人差し指をわたしの胸に向かって伸ばしたのだ。
 それを見たわたしは……。
 
「いやぁーーーーーーーー!!」

 悲鳴を上げて、ベルナー様の頬を平手打ちしてしまっていたのだ。

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