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第十二話
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時が止まったように身動きできないでいるわたしの元に駆けよったベルナー様は、マティウス様からわたしを隠すかのような位置に立っていた。
「兄上、お話は後ほど。今は俺の大切なレディーをエスコートしなければなりませんからね。それでは」
そう言ったベルナー様は、わたしを横抱きにしたと思ったら急ぎ足でその場を立ち去ったのだ。
だけど、マティウス様とすれ違う時、何か言いかけた声が聞こえた気がしたけど、それを確かめることは出来なかった。
わたしはそのままベルナー様に抱きかかえられて用意されていた馬車迄移動していた。
馬車の中でベルナー様は、わたしに謝ってきたのだ。
「すまない。兄上がここに来るなんて思ってもいなかった。ゼル、ごめんな」
何に対しての謝罪なのか考えたけど、ベルナー様が謝ることなんて何一つないと思ったからその謝罪を首を振って否定していた。
「ベルナー様が謝られることなどなにもありません」
「そう……か。うん。分かった。ところで、さっきはとっさに抱き上げてしまって悪かった」
ベルナー様の言葉にわたしは、咄嗟の言い訳をしていた。
だって、魔力なしには歩けないことは絶対の絶対に秘密なのだから。
「いいえ、わたしの方こそ助かりました。この靴ではまともに歩けませんからね」
そう言って、困ったような表情を作ってから、ドレスの裾を上げて高めのヒールの付いた靴を見せた。
向かいに座るベルナー様は、ドレスの裾から見える踵の高い靴を見て、何故か少しだけ頬を赤らめて言ったのだ。
「あ……ああ。そうだな。そんな歩きにくそうな靴を履いていたんだったな。よし、それなら、今日は俺がお前の足になってやるから安心しろ」
「え?」
「それよりも、お前、前から思っていたが軽すぎるぞ。そんな重いドレスやらを身に着けているのはずなのに、抱き上げた時全く重さを感じなかったぞ。もっと肉を食え」
「え? あの……」
「ほら、もうすぐ着くぞ」
足になる発言について質問をすることが出来ないまま会場に付いてしまったのだ。
そして、わたしはベルナー様の言葉の意味をすぐに知ることになったのだ。
「ベ…ベルナー様。降ろしてください!」
「駄目だ。そんな靴ではまともに歩けないどころか逆に足を痛めそうだからな。鍛錬にもなるし問題ない」
「そんなぁ……」
そうなのだ。わたしは、舞踏会の会場をベルナー様に横抱きにされて移動していたのだ。
あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆うことしか出来なかったのだ。
そして、挨拶に行かなければならないところがあると言ったベルナー様は、わたしを会場の端に置かれたソファーにそっと降ろすと、「すぐに戻るから、知らない男に声を掛けられても無視するんだぞ。いや、知っている男でもだ!」そう言って颯爽と駆け出してしまったのだ。
そして、残されたわたしは会場にいる多くの人たちにちらちらと好奇の視線を向けられて居心地の悪いどころの話ではなかったのだ。
一人になって、改めて久しぶりに見たマティウス様のお姿を思い出して顔が熱くなっていった。
四年前よりも美しさに磨きがかかり、大人の男性の色気が感じられた。
そんなことを考えていると鼓動がどんどん早くなっていくのが分かった。
そして、四年も離れていたのにまだこんなに心が動くのだと呆れてしまっていた。
この四年間、自身の動かない足のことだったり、シュナイゼルの呪いのことだったり、無くなった母の代わりに父の妻となった継母とその連れ子のことなど、考えることがありすぎて、改めて思い出すことはなかったのだ。
だけど、一目会って分かってしまったのだ。
マティウス様から嫌われていようとも、わたしの気持ちはあの日から変わっていないことを。
いえ、あの日よりも大きくなっている恋慕の気持ち。
そんな考えに至ったとき、あまりにも恥ずかしい自分の思考を振り払うように頭を振っていた。
恥ずかしいことを考えていたせいなのか、会場の空気の所為なのか、体がとても熱くなっていた。
そういえば、朝食を食べて以降何も口にしていないことを思い出したら、急に喉が渇いて仕方なかった。
そんなことを考えていると偶然近くに給仕係が通ったのだ。
わたしは、これ幸いと給仕係から飲み物を受け取ってそれを口にした瞬間、しまったと思ったが遅かった。
わたしの受け取った飲み物はジュースではなく、アルコールだったのだ。
以前のことだ。
婚約式の時、これで自分も大人のレディーの仲間入りだと、りんご酒を口にして意識を失ったのだ。
あの後、すぐに意識を取り戻していたらしいけど、マティウス様から「お願いだ。今後、アルコールを飲みたいときは、私と二人の時だけにしてくれ」と、注意をされてしまったのだ。
それから、アルコールを口にすることはなかったのだ。
あの時、あの場所にいた人に聞いても、わたしが記憶を失っている間のことは教えてもらえなかったのだ。
そのことから、わたしはものすごい酒乱なのかもしれないと思うようになったけど、それを確かめることもできず今に至っている。
それなのに、アルコールを口にしてしまったわたしは……。
「兄上、お話は後ほど。今は俺の大切なレディーをエスコートしなければなりませんからね。それでは」
そう言ったベルナー様は、わたしを横抱きにしたと思ったら急ぎ足でその場を立ち去ったのだ。
だけど、マティウス様とすれ違う時、何か言いかけた声が聞こえた気がしたけど、それを確かめることは出来なかった。
わたしはそのままベルナー様に抱きかかえられて用意されていた馬車迄移動していた。
馬車の中でベルナー様は、わたしに謝ってきたのだ。
「すまない。兄上がここに来るなんて思ってもいなかった。ゼル、ごめんな」
何に対しての謝罪なのか考えたけど、ベルナー様が謝ることなんて何一つないと思ったからその謝罪を首を振って否定していた。
「ベルナー様が謝られることなどなにもありません」
「そう……か。うん。分かった。ところで、さっきはとっさに抱き上げてしまって悪かった」
ベルナー様の言葉にわたしは、咄嗟の言い訳をしていた。
だって、魔力なしには歩けないことは絶対の絶対に秘密なのだから。
「いいえ、わたしの方こそ助かりました。この靴ではまともに歩けませんからね」
そう言って、困ったような表情を作ってから、ドレスの裾を上げて高めのヒールの付いた靴を見せた。
向かいに座るベルナー様は、ドレスの裾から見える踵の高い靴を見て、何故か少しだけ頬を赤らめて言ったのだ。
「あ……ああ。そうだな。そんな歩きにくそうな靴を履いていたんだったな。よし、それなら、今日は俺がお前の足になってやるから安心しろ」
「え?」
「それよりも、お前、前から思っていたが軽すぎるぞ。そんな重いドレスやらを身に着けているのはずなのに、抱き上げた時全く重さを感じなかったぞ。もっと肉を食え」
「え? あの……」
「ほら、もうすぐ着くぞ」
足になる発言について質問をすることが出来ないまま会場に付いてしまったのだ。
そして、わたしはベルナー様の言葉の意味をすぐに知ることになったのだ。
「ベ…ベルナー様。降ろしてください!」
「駄目だ。そんな靴ではまともに歩けないどころか逆に足を痛めそうだからな。鍛錬にもなるし問題ない」
「そんなぁ……」
そうなのだ。わたしは、舞踏会の会場をベルナー様に横抱きにされて移動していたのだ。
あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆うことしか出来なかったのだ。
そして、挨拶に行かなければならないところがあると言ったベルナー様は、わたしを会場の端に置かれたソファーにそっと降ろすと、「すぐに戻るから、知らない男に声を掛けられても無視するんだぞ。いや、知っている男でもだ!」そう言って颯爽と駆け出してしまったのだ。
そして、残されたわたしは会場にいる多くの人たちにちらちらと好奇の視線を向けられて居心地の悪いどころの話ではなかったのだ。
一人になって、改めて久しぶりに見たマティウス様のお姿を思い出して顔が熱くなっていった。
四年前よりも美しさに磨きがかかり、大人の男性の色気が感じられた。
そんなことを考えていると鼓動がどんどん早くなっていくのが分かった。
そして、四年も離れていたのにまだこんなに心が動くのだと呆れてしまっていた。
この四年間、自身の動かない足のことだったり、シュナイゼルの呪いのことだったり、無くなった母の代わりに父の妻となった継母とその連れ子のことなど、考えることがありすぎて、改めて思い出すことはなかったのだ。
だけど、一目会って分かってしまったのだ。
マティウス様から嫌われていようとも、わたしの気持ちはあの日から変わっていないことを。
いえ、あの日よりも大きくなっている恋慕の気持ち。
そんな考えに至ったとき、あまりにも恥ずかしい自分の思考を振り払うように頭を振っていた。
恥ずかしいことを考えていたせいなのか、会場の空気の所為なのか、体がとても熱くなっていた。
そういえば、朝食を食べて以降何も口にしていないことを思い出したら、急に喉が渇いて仕方なかった。
そんなことを考えていると偶然近くに給仕係が通ったのだ。
わたしは、これ幸いと給仕係から飲み物を受け取ってそれを口にした瞬間、しまったと思ったが遅かった。
わたしの受け取った飲み物はジュースではなく、アルコールだったのだ。
以前のことだ。
婚約式の時、これで自分も大人のレディーの仲間入りだと、りんご酒を口にして意識を失ったのだ。
あの後、すぐに意識を取り戻していたらしいけど、マティウス様から「お願いだ。今後、アルコールを飲みたいときは、私と二人の時だけにしてくれ」と、注意をされてしまったのだ。
それから、アルコールを口にすることはなかったのだ。
あの時、あの場所にいた人に聞いても、わたしが記憶を失っている間のことは教えてもらえなかったのだ。
そのことから、わたしはものすごい酒乱なのかもしれないと思うようになったけど、それを確かめることもできず今に至っている。
それなのに、アルコールを口にしてしまったわたしは……。
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