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第十三話 side-ベルナルドゥズ-

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 俺が用意したドレスを身に纏ったゼルを見た時、正直屋敷から出たくなくなっていた。
 あんな可愛いゼルを他の人間に見せるなんて嫌だと思ったのだ。
 だけど、兄上が屋敷に現れて、慌てて馬車に乗り込むことになったのだ。
 
 残念なことに、馬車の中で居心地悪そうに座っているゼルの可愛らしい姿に見惚れている間に王城に付いてしまった。
 遠慮するゼルを横抱き、つまりお姫様抱っこして会場を進む。
 周囲の男どもに、ゼルは俺のものだとアピールすることを忘れない。
 淡いブルーのドレスから覗く小さな足が可愛いと思いながら腕の中のゼルの様子を見ると、頬に朱を走らせて瞳を潤ませていた。
 恥ずかしくて堪らないと言った様子でソワソワと落ち着かない様子のゼルは小動物的な可愛さがあり、俺の腕の中で守ってやりたいと思わせた。
 だけど、付き合いのある貴族連中の挨拶に突き合わせて疲れさせてしまうのも可哀相だった。
 だから、出来るだけ会場の端の目立たない場所にあるソファーに座らせて、待っているように言ったのだ。
 俺は、挨拶をしながらも心ここにあらずといった様子で、早々に挨拶を終えてゼルの元に戻ったのだった。
 しかし、そこには小さな人だかりができていたのだ。
 何事かと人垣をかき分けてゼルの元に向かった俺の目には、ソファーですやすやと眠っている可愛らしい姿があったのだ。
 他の男の目に晒したくないほどの可愛らしい姿を独占したいと思った俺は、近くにいた男どもに殺意を向けていたのは仕方ないことだろう?
 
 俺が殺気を向けると、近くにいた者が全員さっと蜘蛛の子を散らすようにいなくなっていた。
 俺は、周囲に人がいなくなったことを確認した後に、ゼルが眠っているソファーに近づいて膝を付いていた。
 
「こら、こんなところで寝るなんて無防備が過ぎるぞ」

 俺がそう言うと、ゼルは目を覚ましたのかトロンとした様子で顔を上げたのだ。
 いつもは真珠のような肌が上気し、桃色に輝いていた。
 瞳は熱っぽく潤んでいて、薄く紅の塗られた小さな唇に自然と視線が行ってしまった。
 俺は、衝動を抑え込むかのように何かを飲み込むように喉を鳴らしてしまっていた。
 そんな俺に気が付いた様子もなく、ゼルは舌っ足らずな喋り方で言ったのだ。
 
「べるなーしゃまぁ……。おかえりにゃさいましぇ」

「遅くなって悪かった……。ところで……酒を飲んだのか?」

「おしゃけ? わからにゃいれす。ふぁ、あついれすね」

 そう言ったゼルは、無意識に胸元に指を入れて服の下に風を送ろうとしたのだ。
 しかし、コルセットもありそれは叶わなかった。
 それに少し頬を膨らませたと思ったらとんでもないことを言い出したのだ。
 
「あついんでしゅぅ。おねがいれす。これ、ぬがしぇてくらしゃい。はやくぅ」

 そう言って、背中を俺に向けたのだ。
 
「ちょ、ゼル。ここでは駄目だ」

 ちょっと、俺ってば何言ってんのかな?
 ここ以外なら脱がす気満々みたいな言い方だな。
 だけど、ゼルの細い首筋と華奢な肩と小さな背中を見ている間に、ゼルが俺の方にコテンと倒れてきたのだ。
 慌てて抱きとめると、見上げるようにしてゼルが言ったのだ。
 
「むにぇがくるしいんれす。はやくにゅがせてくらさい」

 そう言って、柔らかい体を俺に押し付けるもんだから、俺の忍耐が大変なことになってきていた。
 だから、俺は悪くない。
 悪くなんだ……。
 
 気が付いた時には、ゼルの細い腰を抱きしめてきつく抱きしめていた。
 
「べるなーしゃま……。くるしいれす……」

「ごめん。でも、好き……好きだよ……。君が昔から好きだった。もう、我慢なんてしない。好きだ。好きだよ」

 一度口にしてしまった言葉を引っ込めることなんて出来なかった。
 長年の想いを伝えるように馬鹿みたいに好きだと繰り返していた。
 だけど、ゼルからの返事はなかった。
 そうだよな。突然こんなこと言われたって驚くよな……。
 でも、自分にうそなんて付けない。
 気持ちを抑えることなんて出来ない。
 ゼルが誰を想っているか知っている。けど……。
 
 そんなことを考えていると、ゼルの寝息が聞こえてきた。
 そして俺は、安堵の息を吐いてしまっていた。
 きっと酔っているゼルは、俺の告白なんて聞いてはいなかったということに。
 だけど、ゼルの酔いが冷めたら今度こそ言おう。
 俺の気持ちを彼女・・に話そう。

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