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第十五話
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夢見心地でふわふわした感覚の中でわたしは、美しい黄金の瞳と目が合った瞬間、意識が覚醒するのが分かった。
驚いたように見開かれた美しい瞳から目を逸らさないといけないのに逸らすことが出来ないでいるわたしをベルナー様が連れ出してくれた。
だけど、馬車の中でベルナー様がわたしの両手を握り、膝を付いて告げた言葉が衝撃的で、わたしを更なる混乱へと叩き落したのだ。
「ゼルに聞いて欲しい話があるんだ。俺の思い人の話を」
「ベルナー様?」
「俺は、兄上の婚約者だった人に恋をしていたんだ。だけど、俺の好きなその人は、兄上のことが大好きで、俺のことなんて男として見ていなかったんだと思う。でも、彼女の優しさや可愛い笑顔、小鳥が歌うかのような声、彼女の全てが俺を魅了していたんだ。だけど、四年の前あの日、何者かに狙われた兄上を庇ってその人は大怪我をしてしまったんだ。兄上は、その人を守れなかったことを後悔していた。当時、兄上を狙った者の背後にいるのが誰か確信がなかった。だから、兄上はその人がまた傷つくことが無いように離れることにしたんだよ。馬鹿だよね。俺なら、傍で守るってのに、兄上は遠ざけることを選んだんだよ」
「…………」
「兄上だって、その人のこと大好きで……。本当に馬鹿だよ。襲撃の黒幕を突き止めて身の安全を確保した後、もう一度その人に好きだと言えばよかったのに、それをしなかったんだよ。アホらしいことに、そんな資格ないって言ってさ。俺なら、泣きついてでももう一度婚約者になってもらうのにさ……。分かってるよ。大切な人を守るって決めても、どうしようもないことが起こることだってあるって。兄上は怖かったんだ。彼女は優しくて、強くて、誰かのために自分を犠牲にすることを厭わない人だからね……」
ベルナー様がわたしのことを……いえ、フェルルカのことを言っていると分かった。
マティウス様がどうして婚約破棄したのか、マティウス様がフェルルカのことが嫌いでそうしたのではないと知れて、少しだけ心が軽くなった。
それと同時に、ベルナー様がフェルルカのことを好きだという事実に動揺もした。
だけど、それを表に出してはいけない。
だって、今のわたしはフェルルカではなくシュナイゼルとしてここにいるのだから。
でも、なんて言ったらいいの?
何も言えないでいるわたしの両手を強く握ったベルナー様が強い意志の籠った視線でわたしの瞳を見つめて言ったのだ。
「フェルルカ……。俺は、君が好きだ。君が今も兄上を好きだと分かっている。けど、兄上ではなく俺を選んで欲しい」
「な……なにを? わたしは、姉上ではないですよ? おかしなベルナー様ですね」
誤魔化すようにそう言ったけど、ベルナー様の瞳には何の揺らぎもなかった。
わたしがフェルルカだと確信しているとその瞳が告げていた。
「俺の前で偽らないでいい。ごめん。君がフェルルカだって、ずっと気が付いていた。だけど、君と一緒にいたくて気が付いていない振りを続けていた」
誤魔化しきれないと分かった途端、これ以上嘘を吐くのが苦しくて、わたしは何に対してなのか分からない謝罪の言葉を口にしていた。
「ご……ごめんなさい……。ごめんなさい……」
「謝らなくていいんだ。フェルルカ、教えて欲しい。どうして君がシュナイゼルの振りをしているのか。俺で力になれることがあれば言って欲しい」
今まで、誰にも頼れなかった。
誰にも相談できなかった。
言えば、シュナイゼルがどうなってしまうのか怖くて、どうにかして自分で解決しないとと思い続けていた。
だけど、ベルナー様に相談していいの?
頼ってもいいの?
今まで胸の内にしまい込んでいた不安が一気に溢れていくのが分かったけど、もう押しとどめることが出来なかった。
「ふ……っ。だ、誰にも言えなかった。相談できなかった。どうしたらいいの、シュナイゼルが誰かに呪われてしまったの……。怖い、怖いよ……。もし、この呪いが進行形の酷い類のもので、体だけじゃなく、心や命にかかわるものだったらどうしよう……。シュナイゼルが死んでしまったらどうしよう……。ふぇ……えええーーーん」
奥底に押し込めていた恐怖が溢れて止まらなかった。
子供の様に泣きじゃくるわたしをベルナー様は、優しく抱きしめて涙を拭ってくれた。
「ベルナー様……。ごめんなさい。わたしは、シュナイゼルではなくフェルルカです。今まで騙していてごめんなさい……。聞いてもらってもいいのですか? 頼ってしまってもいいのですか?」
「ああ。俺を頼れ。俺以外を頼るな。俺に君を助けさせてくれ」
「ありがとうございます……。ごめんなさい……」
わたしはどうしようもなく酷い人間だと思った。
少しの再会だったけど、マティウス様が今でも好きだとあの短い時間で思い知ってしまった。
なのに、わたしを好きだというベルナー様の好意を利用して、シュナイゼルの呪いをどうにかしようとしているんだもの。
こんなわたし、地獄に落ちればいいのよ。
でも、地獄に落ちるのはシュナイゼルの呪いをどうにかした後だ。
そのあとなら、どんな罰でも受けるわ。
驚いたように見開かれた美しい瞳から目を逸らさないといけないのに逸らすことが出来ないでいるわたしをベルナー様が連れ出してくれた。
だけど、馬車の中でベルナー様がわたしの両手を握り、膝を付いて告げた言葉が衝撃的で、わたしを更なる混乱へと叩き落したのだ。
「ゼルに聞いて欲しい話があるんだ。俺の思い人の話を」
「ベルナー様?」
「俺は、兄上の婚約者だった人に恋をしていたんだ。だけど、俺の好きなその人は、兄上のことが大好きで、俺のことなんて男として見ていなかったんだと思う。でも、彼女の優しさや可愛い笑顔、小鳥が歌うかのような声、彼女の全てが俺を魅了していたんだ。だけど、四年の前あの日、何者かに狙われた兄上を庇ってその人は大怪我をしてしまったんだ。兄上は、その人を守れなかったことを後悔していた。当時、兄上を狙った者の背後にいるのが誰か確信がなかった。だから、兄上はその人がまた傷つくことが無いように離れることにしたんだよ。馬鹿だよね。俺なら、傍で守るってのに、兄上は遠ざけることを選んだんだよ」
「…………」
「兄上だって、その人のこと大好きで……。本当に馬鹿だよ。襲撃の黒幕を突き止めて身の安全を確保した後、もう一度その人に好きだと言えばよかったのに、それをしなかったんだよ。アホらしいことに、そんな資格ないって言ってさ。俺なら、泣きついてでももう一度婚約者になってもらうのにさ……。分かってるよ。大切な人を守るって決めても、どうしようもないことが起こることだってあるって。兄上は怖かったんだ。彼女は優しくて、強くて、誰かのために自分を犠牲にすることを厭わない人だからね……」
ベルナー様がわたしのことを……いえ、フェルルカのことを言っていると分かった。
マティウス様がどうして婚約破棄したのか、マティウス様がフェルルカのことが嫌いでそうしたのではないと知れて、少しだけ心が軽くなった。
それと同時に、ベルナー様がフェルルカのことを好きだという事実に動揺もした。
だけど、それを表に出してはいけない。
だって、今のわたしはフェルルカではなくシュナイゼルとしてここにいるのだから。
でも、なんて言ったらいいの?
何も言えないでいるわたしの両手を強く握ったベルナー様が強い意志の籠った視線でわたしの瞳を見つめて言ったのだ。
「フェルルカ……。俺は、君が好きだ。君が今も兄上を好きだと分かっている。けど、兄上ではなく俺を選んで欲しい」
「な……なにを? わたしは、姉上ではないですよ? おかしなベルナー様ですね」
誤魔化すようにそう言ったけど、ベルナー様の瞳には何の揺らぎもなかった。
わたしがフェルルカだと確信しているとその瞳が告げていた。
「俺の前で偽らないでいい。ごめん。君がフェルルカだって、ずっと気が付いていた。だけど、君と一緒にいたくて気が付いていない振りを続けていた」
誤魔化しきれないと分かった途端、これ以上嘘を吐くのが苦しくて、わたしは何に対してなのか分からない謝罪の言葉を口にしていた。
「ご……ごめんなさい……。ごめんなさい……」
「謝らなくていいんだ。フェルルカ、教えて欲しい。どうして君がシュナイゼルの振りをしているのか。俺で力になれることがあれば言って欲しい」
今まで、誰にも頼れなかった。
誰にも相談できなかった。
言えば、シュナイゼルがどうなってしまうのか怖くて、どうにかして自分で解決しないとと思い続けていた。
だけど、ベルナー様に相談していいの?
頼ってもいいの?
今まで胸の内にしまい込んでいた不安が一気に溢れていくのが分かったけど、もう押しとどめることが出来なかった。
「ふ……っ。だ、誰にも言えなかった。相談できなかった。どうしたらいいの、シュナイゼルが誰かに呪われてしまったの……。怖い、怖いよ……。もし、この呪いが進行形の酷い類のもので、体だけじゃなく、心や命にかかわるものだったらどうしよう……。シュナイゼルが死んでしまったらどうしよう……。ふぇ……えええーーーん」
奥底に押し込めていた恐怖が溢れて止まらなかった。
子供の様に泣きじゃくるわたしをベルナー様は、優しく抱きしめて涙を拭ってくれた。
「ベルナー様……。ごめんなさい。わたしは、シュナイゼルではなくフェルルカです。今まで騙していてごめんなさい……。聞いてもらってもいいのですか? 頼ってしまってもいいのですか?」
「ああ。俺を頼れ。俺以外を頼るな。俺に君を助けさせてくれ」
「ありがとうございます……。ごめんなさい……」
わたしはどうしようもなく酷い人間だと思った。
少しの再会だったけど、マティウス様が今でも好きだとあの短い時間で思い知ってしまった。
なのに、わたしを好きだというベルナー様の好意を利用して、シュナイゼルの呪いをどうにかしようとしているんだもの。
こんなわたし、地獄に落ちればいいのよ。
でも、地獄に落ちるのはシュナイゼルの呪いをどうにかした後だ。
そのあとなら、どんな罰でも受けるわ。
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