妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
1 / 113
第一部

序章

しおりを挟む
 硬い石の壁に囲まれた塔の最上階には、今にも壊れてしまいそうなほどぼろぼろなベッドとトイレ代わりのツボだけがあった。
 掃除をする人間もここには居ないため、薄汚れていた。
 この場所には、疲れ切った表情の一人の少女が居た。
 少女は信じていた最愛の妹に全てを奪われてたのだ。
 
 少女は、小さく切り取られた窓の外に見える青い空に向かって懸命に腕を伸ばした。

 その行動は、無意識に少女が行ったものだったが、傍から見るとこの世界に別れを告げようとしているようにも、何かの希望にすがようにも見えた。

 彼女のいる場所は、囚人の塔と呼ばれる場所だった。
 その場所は王族や貴族などで、表には出せない罪人を密かに囚えておくための場所だった。

 彼女は、その塔の最上階に閉じ込められていた。
 謂れのない罪を背負わされたためだ。
 
 そして、誰も彼女の思いを知ろうともしない。この冷たい牢獄の中で、日々体が腐り落ちる感覚に、気が狂いそうになりながらも、自分の命を助けてくれた守護騎士のことを考えると自ら命を断つことが出来なかった。
 彼のことを思うと、生きなければと思う反面、もう体も心も限界まで来ていることも分かっていた。

 彼女は考えていた。どうしてこうなってしまったのかと。
 なぜ、大切な最愛の片割れである妹がこんな恐ろしいことをしたのか、何度考えても理由がわからなかった。
 妹に、恨まれるようなことに心当たりがなかったのだ。
 そこで、やはり妹も自分と同じ人を好きになってしまって、このようなことをしでかしたのではないかと考えが行った。
 しかし、いくら考えても分からなかった。
 いくら同じ人を好きになったからと言って、これほどのことをしでかすものなのかと。
 それに、妹はあの人を好いているようには思えなかったのだ。むしろ、その逆で、今思うと憎悪しているように感じた。

 そこまで考えてから、何時もは思い出さないようにしていたあの人のことを思い出してしまい、物悲しくなった。
 彼女と、妹が入れ替わっていることに気が付かない年下の愛おしい婚約者のことを考えると何故分かってくれないのかと悲しくなった。

 どんなに似ていようとも、彼なら分かってくれると思っていた。しかし、彼は彼女に気が付かない。
 そして、イシュミールは弱々しく微笑んだ。

 そう言えば、最初もそうだったと。

 そして、そこまでの思考を断ち切るかのように彼女は更に空に向かって腕をのばす。
 肘から先がない腕を空に向けて、存在しない手で何かを掴むように。

 思いは届いたのだろうか、彼女が腕を伸ばせる限界まで達した時に、「パチンッ」と金属が爆ぜるような音がしたかと思うと、彼女の姿はその場から消えていた。否、この世界から消えたのだ。
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

双子だからと捨てておいて、妹の代わりに死神辺境伯に嫁げと言われても従えません。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ツビンズ公爵家の長女に生まれたパウリナだったが、畜生腹と忌み嫌われる双子であった上に、顔に醜い大きな痣があったため、殺されそうになった。なんとか筆頭家老のとりなしで教会の前に捨てられることになった。時が流れ、ツビンズ公爵家に死神と恐れられる成り上がりの猛将軍との縁談話を国王から命じられる。ツビンズ公爵家で大切に育てられていた妹のアイリンは、王太子と結婚して王妃になる事を望んでいて……

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

処理中です...