妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
35 / 113
第二部

第四章 蓋をしたはずの気持ち 3

しおりを挟む
 シーナの膝枕で眠ってしまった日の翌日、カインはソワソワしながらも書類仕事をしていた。
 
 柔らかく、甘い匂いに包まれたカインは久しぶりにぐっすりと眠ってしまった。
 あの日からカインの眠りは浅くなり、まともに眠れたことなど無かったのだ。
 
 久しぶりに体が軽いと感じた。
 
 ソワソワしながら仕事をしていたが、いつの間にか必要な書類が全て書き上がっていた。
 カインは覚悟を決めてシーナに昨日のことを謝りに行こうと執務室から外に出た。
 
 昨日は長い時間シーナの膝の上で眠ってしまった。
 そのことが少し恥ずかしくもあったが、カインは会いたいと感じる心を抑えることが出来なかったのだ。
 
 執事には散歩に出るとだけ言って、執務室を出て庭園に向かった。
 庭園を見渡すと、ソル夫婦が作業しているのが見えた。

 カインは、何気なさを装ってシーナの居場所を聞いた。
 しかし、残念なことにシーナは街に降りていると返事が返ってきた。
 
 残念に思いつつも、屋敷にそのまま引き返した。
 だが、その次の日も、そのまた次の日もシーナに会うことは出来なかった。
 
 シーナとのすれ違いが数日ほど続いたある日、ソル夫婦からシーナが森に行っていると話を聞いたカインはその足で森へと入っていった。
 
 ソル夫妻の話によると「領主様、養蜂のこと。本当にありがとうございました。シーナったら、今日は蜂蜜を搾るって森に出かけているんですよ」と、言うことだったため、養蜂をしている場所を思い出しながらその場所に向かった。
 
 数日ぶりにシーナの顔を見られると思うと、カインの足取りはいつもよりも早いものとなっていたが、そのことにカインは気が付かなかった。
 
 数分ほど歩くと、目の前に養蜂場と小さな作業用に作られた小屋が見えてきた。
 巣箱の付近にはシーナの姿が無かったことから、小屋の中で作業をしていると考えて、小屋に向かって進んだ。
 
 カインは作業小屋の扉の前で立ち止まった。
 数日前にシーナの膝枕で眠ってしまったことを思い出し、どんな顔をすれば良いのかと急に照れくさくなってしまったのだ。
 そんな事を考えていると、小屋の中から人の声とギシギシという物音が聞こえてきた。
 てっきり、シーナが一人でいると思っていたカインは胸がモヤモヤとした。
 カインは、胸に手を当てて首を傾げた。
 
(ん?どうしたんだ?急に胸が……。今日の食事のメニューはそんなに重いものではなかったはず……。先程まではなんとも無かったのだが?)

 そんな事を考えていると、小屋の中から聞こえてくる声が先程よりも大きなものとなりカインの耳に届いた。
 
「だっ、だめ!!そ‥に…ないよ」

「だい…ぶだよ。もう、こん‥トロト‥なってる」

「だめだよ。それ…うは、む…ら」

 シーナとシエテではない知らない男の声が切れ切れに聞こえてきた。
 カインは、とっさに扉に張り付き耳を欹てた。
 
 中からは、先ほどと変わらずギシギシという音とその他にもピチャピチャという水音が聞こえてきた。
 
 シーナと知らない男との会話も鮮明に聞こえてきた。
 
「駄目だよ。そんなに大っきいの。壊れちゃうよ」

「大丈夫だよ。少しずつ入れるし。ちゃんと解すから」

「そっ、そんなに一気にいれたら溢れちゃうから!!」

「あぁ。本当だね。もうこんなに壺から溢れちゃったね。もったいないことしちゃったなぁ。でも、俺が舐めるから勿体なくないよね?」

「駄目だよ。そんなとこ舐めたら汚いよ」

「大丈夫だよ。全然汚くなんてないし。だって、最初に一緒に洗ったから凄くキレイだよ?全然汚くなんてないよ?」

「そういうことじゃないよ。そんなとこ直接舐めちゃ駄目なの」

「でも、このままじゃどんどん溢れちゃうよ?良いの?」

「良くないよ。だからお願い。それ以上は入れないで」

「え~。でも、いっぱい入れたほうが一度に沢山出ると思うんだけどなぁ?」

「駄目!!ちょっとずつ優しくして。そんなに乱暴にされたら壊れちゃうよ!!」

「俺はとっても丁寧に扱ってるよ?ほら、よく見て。ここだよ。凄くよく締まるから、ちょっと揺らすとどんどん溢れてくるよ?」
 
「そういうことじゃないよ。早く、それとって!」

「え~。でも零れた分は俺が舐めても良いって言ったよね?もっと甘いの舐めたいよ~」

「言った。言ったけど、無理に零そうとするの禁止!!」

 そこまで聞いたところで、中で起こっている事を想像したカインは居ても立っても居られなくなり、混乱したカインは勢いよく作業小屋の扉を開けた。
 いや、正しくは開けようとしたが出来なかったのだ。
 カインが扉を開ける前に、背後から声をかけられたことで実行することは出来なかったのだ。
 驚いたカインは、飛び上がりそうになった自身をぐっと堪えた。
 
「領主様?扉に張り付いてどうしたんですか?」

 後ろから声を掛けられたカインは、冷静さを装って振り向いた。
 そこには、カインを胡乱な目で見るシエテと、無表情のフェルエルタが立っていた。
 
「何も……」

 何と答えて良いのか分からずに、それだけ口に出して黙ったカインをシエテは胡散臭そうに見た後に言った。
 
「領主様?中に入りたいのですが、退いていただけますか?」

「あっ、いや。今は不味い。色々と不味い」

「は?何が不味いんです?それよりも早く退いてくれませんか?」

「いや、しかし」

 一人、慌てふためくカインを他所に、シエテはそれに構わずにカインを押し退けて扉を開けた。
 カインは、中で起こっていることを想像して顔を背けた。
 
 そんなカインを知ってか知らずか、シエテは何事もなかったように中に入っていった。
 それに続くように、シエテとともにいたフェルエルタも中に入っていった。
 フェルエルタは、カインとすれ違いざまに小さな声で言った。
 
「領主様。いやらしい」

 そう言われたカインは、驚き思わず視線でフェルエルタを追った。
 そして、見てしまったのだ。
 作業小屋の中で、蜂の巣を搾っているシーナとクリストフの至って健全な姿を。
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

処理中です...