16 / 21
本編
俺の望みは
しおりを挟む誘拐事件から一夜明け、俺とジェードはシアンに呼び出された。
「あ」
シアンの後ろに紫眼の美人が立っている。
目が合うと軽く首を傾げて、目を細めている。
(む、なんかバカにされてる気がするな)
「ワンちゃん元気そうじゃん」
「…………俺は犬じゃない」
「ひゃははッ」
「揶揄うな、……朝から呼び出してすまないな、体は平気か?」
「……はい」
「シアン団長!昨日は助けていただきありがとうございました!」
「あぁジェード、大事なくてよかった」
昨日のジェードの魔法は漫画やアニメのようで興奮したが、その後のシアンの魔法はもはや意味がわからなかった。
(拍手一つであの場の敵全員が戦闘不能、魔王かよ……)
初めてのファンタジー世界体験に一夜明けて遅れて興奮してきたが、そもそもなぜあの場所がわかったのだろう?
(ジェードはあの美人が教えてくれたって言ってたけど……。)
「あの……昨日は、なんで?」
「あぁ、そのことか。その前にまず紹介させてくれ、俺の秘書兼護衛のリラだ。」
リラと紹介された人物を見る。
昨日の黒装束とは違う、騎士団長に似たデザインの軍服をラフに着崩している。
銀糸の長髪を緩く結い、紫の瞳が上品に輝いている、極上の砂糖菓子のような容姿。
「一応俺の部下だ。気が向いた時に命令を聞いてくれる。ユツキのことも見てくれるよう頼んでいたのだが、仕事をしてくれたようでよかった。」
((気が向いた時に?????))
ジェードと俺の頭の上にはてなが浮かぶ、それは一体どんな関係性だ?
「リラは魔力操作がうまい。人の動きや感情を感知したり、自身の気配を完全に隠すこともできる。異変に気づき、アジトを突き止め報告してくれた。」
「ワンちゃんが死にたくないってキャンキャン泣いてたからな、愉快になって追いかけてやった。一生感謝して地面に頭擦り付けてろよ、駄犬。」
「……泣いてねぇし、駄犬じゃねぇ」
(感謝すべき内容でしかないはずなのに、素直にありがとうって言えねぇ……)
「リラに気に入られたようでなによりだ、滅多に人に懐かないからな」
「懐いてねぇよ」
むすっと不服そうなリラをシアンが優しい眼差しで見ている、大型犬が威嚇する猫を宥めているようなそんな感じ。
「それで本題だが」
部屋の空気が変わる。
「リラから報告を受けたが、スキルが発現したそうだな」
「……」
「団長!それは……!」
「ジェード、気持ちはわかるが少し待て。」
やはり見られていた。
スキルを使った時から覚悟していたことだが、この後のことを想像すると気が重くなる。
「治癒スキルと聞いたが、スキルの全容は把握しているか?」
「……わかりませんが、神様みたいな人は望んだことができるって言ってました。」
「神託というものか、お前は何を望んたんだ?」
「……」
ジェードを見つめる。
心配そうなエメラルドの瞳が見えてちょっと面白くなる。
(お前…過保護ってか心配性の飼い主みたいになっちゃったな、初めはチャラチャラしたナンパ男だったのに)
「こいつを治してやりたいって、ずっと元気で一緒にいて欲しいって思った」
「ユウ……」
ジェードの瞳にみるみる涙が湧いてくる。
王子様フェイスが台無しの泣き顔に笑えてくる。
「泣いてるし、バカじゃん、ははっ」
自然に笑いが溢れる。
心の底から笑ったのってどんくらいぶりだろう、それこそ前の世界で父親が出て行ったあの朝以来かもしれない。
ジェードの存在がどんどん自分の中で大きくなっているのを感じる。これを失ったらどうなるか全く想像がつかないが、その時は潔く全てを投げ出して終わらせてやろう。
どうせこの世界での俺の人生は、神様がくれたロスタイムみたいなもんだ。
「なるほど、過去に治癒能力のスキルを持った異世界人はいなかった。どのレベルの治癒が可能かは慎重に確かめていく必要があるだろうな。」
「ユウは戦争に出されるんですか?それなら俺は宮殿騎士から前線へ移動します。ユウを守るのは俺だ、それだけは死んでも譲りたくありません。」
「……まぁお前の力は明らかに宮殿騎士には過剰だ。試験で手を抜いていたことは後でしっかり詰めさせてもらうが、所属を移動する必要はない。」
「なぜですかっ!俺の手が届かないところでユウを失うなんて、考えられない!」
「だからお前が守ればいい」
「……え?」
「…………どういうこと?」
シアンはジェードからユウに視線を移す。
「ユウ、お前のスキルは自身の治癒に使えるのか?」
「え……?」
「昨日の傷に治癒をしてみろ」
「はい」
床に転がされている時にできた擦り傷が腕にいくつか残っている。
意図はわからないが言われた通り意識を集中させて祈ってみる
……が、うんともすんとも言わない。
「……何も起きない、なんで?」
「神託が本当であるならお前の願いの対象に自分は入っていなかったのだろう。お前は自身を蔑ろにする傾向にある、その可能性はあると思っていた。」
「ユウっお前!なんでそんな大切なことを忘れるんだ!バカ!」
「うるせぇなぁ、仕方ないだろそうなっちまったもんは」
意識していなかったことではあるが、俺はなんとなくこうなった理由がわかった。
俺は心の奥で終われなくなることを恐れたのだろう。
終わりは救いとなることがある、前の世界での俺の最後みたいに。
「この世界で自分の治癒ができない、攻撃手段もないというのはかなり致命的だ。すぐ死ぬか、攫われて敵国に使われるのがオチだろう。」
「お前ヒョロイし、鍛えても強くなる気は全くしねぇなぁ~」
「……そんなんこと言われても」
神様も転移させるなら、もっと強い体にしてくれたらよかったのに。前の世界と変わらない俺の体は、同年齢の子供と比べてもさらにヒョロイ。
「……何か考えがあるんですか?」
全員の視線が集中する中、シアンは真顔でとんでもないことを言い出した。
「お前には本物の聖人になってもらう」
18
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
記憶喪失のフリをしたあざといスパイですが、全部お見通しの皇帝陛下に「嘘の婚約者」として閉じ込められています
たら昆布
BL
処刑寸前のスパイが事故にあった後、記憶喪失のフリをして皇帝の婚約者だと偽る話
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる