俺の最悪な異世界転移の顛末

胡桃 ぱんこ

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本編

俺の望みは

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 誘拐事件から一夜明け、俺とジェードはシアンに呼び出された。


「あ」


 シアンの後ろに紫眼の美人が立っている。

 目が合うと軽く首を傾げて、目を細めている。

 (む、なんかバカにされてる気がするな)


「ワンちゃん元気そうじゃん」
「…………俺は犬じゃない」
「ひゃははッ」
「揶揄うな、……朝から呼び出してすまないな、体は平気か?」
「……はい」
「シアン団長!昨日は助けていただきありがとうございました!」
「あぁジェード、大事なくてよかった」


 昨日のジェードの魔法は漫画やアニメのようで興奮したが、その後のシアンの魔法はもはや意味がわからなかった。


 (拍手一つであの場の敵全員が戦闘不能、魔王かよ……)


 初めてのファンタジー世界体験に一夜明けて遅れて興奮してきたが、そもそもなぜあの場所がわかったのだろう?


 (ジェードはあの美人が教えてくれたって言ってたけど……。)


「あの……昨日は、なんで?」
「あぁ、そのことか。その前にまず紹介させてくれ、俺の秘書兼護衛のリラだ。」


 リラと紹介された人物を見る。

 昨日の黒装束とは違う、騎士団長に似たデザインの軍服をラフに着崩している。

 銀糸の長髪を緩く結い、紫の瞳が上品に輝いている、極上の砂糖菓子のような容姿。


「一応俺の部下だ。気が向いた時に命令を聞いてくれる。ユツキのことも見てくれるよう頼んでいたのだが、仕事をしてくれたようでよかった。」
 

 ((気が向いた時に?????))


ジェードと俺の頭の上にはてなが浮かぶ、それは一体どんな関係性だ?


「リラは魔力操作がうまい。人の動きや感情を感知したり、自身の気配を完全に隠すこともできる。異変に気づき、アジトを突き止め報告してくれた。」
「ワンちゃんが死にたくないってキャンキャン泣いてたからな、愉快になって追いかけてやった。一生感謝して地面に頭擦り付けてろよ、駄犬。」
「……泣いてねぇし、駄犬じゃねぇ」


 (感謝すべき内容でしかないはずなのに、素直にありがとうって言えねぇ……)


「リラに気に入られたようでなによりだ、滅多に人に懐かないからな」
「懐いてねぇよ」


 むすっと不服そうなリラをシアンが優しい眼差しで見ている、大型犬が威嚇する猫を宥めているようなそんな感じ。



「それで本題だが」

 部屋の空気が変わる。

「リラから報告を受けたが、スキルが発現したそうだな」
「……」
「団長!それは……!」
「ジェード、気持ちはわかるが少し待て。」


 やはり見られていた。

 スキルを使った時から覚悟していたことだが、この後のことを想像すると気が重くなる。


「治癒スキルと聞いたが、スキルの全容は把握しているか?」
「……わかりませんが、神様みたいな人は望んだことができるって言ってました。」
「神託というものか、お前は何を望んたんだ?」
「……」


 ジェードを見つめる。

 心配そうなエメラルドの瞳が見えてちょっと面白くなる。


 (お前…過保護ってか心配性の飼い主みたいになっちゃったな、初めはチャラチャラしたナンパ男だったのに)
 

「こいつを治してやりたいって、ずっと元気で一緒にいて欲しいって思った」
「ユウ……」


 ジェードの瞳にみるみる涙が湧いてくる。

 王子様フェイスが台無しの泣き顔に笑えてくる。
 

「泣いてるし、バカじゃん、ははっ」


 自然に笑いが溢れる。

 心の底から笑ったのってどんくらいぶりだろう、それこそ前の世界で父親が出て行ったあの朝以来かもしれない。

 ジェードの存在がどんどん自分の中で大きくなっているのを感じる。これを失ったらどうなるか全く想像がつかないが、その時は潔く全てを投げ出して終わらせてやろう。


 どうせこの世界での俺の人生は、神様がくれたロスタイムみたいなもんだ。
 

「なるほど、過去に治癒能力のスキルを持った異世界人はいなかった。どのレベルの治癒が可能かは慎重に確かめていく必要があるだろうな。」

「ユウは戦争に出されるんですか?それなら俺は宮殿騎士から前線へ移動します。ユウを守るのは俺だ、それだけは死んでも譲りたくありません。」

「……まぁお前の力は明らかに宮殿騎士には過剰だ。試験で手を抜いていたことは後でしっかり詰めさせてもらうが、所属を移動する必要はない。」

「なぜですかっ!俺の手が届かないところでユウを失うなんて、考えられない!」
「だからお前が守ればいい」
「……え?」
「…………どういうこと?」


 シアンはジェードからユウに視線を移す。

「ユウ、お前のスキルは自身の治癒に使えるのか?」
「え……?」
「昨日の傷に治癒をしてみろ」
「はい」


 床に転がされている時にできた擦り傷が腕にいくつか残っている。

 意図はわからないが言われた通り意識を集中させて祈ってみる


……が、うんともすんとも言わない。


「……何も起きない、なんで?」
「神託が本当であるならお前の願いの対象に自分は入っていなかったのだろう。お前は自身を蔑ろにする傾向にある、その可能性はあると思っていた。」

「ユウっお前!なんでそんな大切なことを忘れるんだ!バカ!」

「うるせぇなぁ、仕方ないだろそうなっちまったもんは」
 

 意識していなかったことではあるが、俺はなんとなくこうなった理由がわかった。


 俺は心の奥でことを恐れたのだろう。

 終わりは救いとなることがある、前の世界での俺の最後みたいに。
 

「この世界で自分の治癒ができない、攻撃手段もないというのはかなり致命的だ。すぐ死ぬか、攫われて敵国に使われるのがオチだろう。」

「お前ヒョロイし、鍛えても強くなる気は全くしねぇなぁ~」
「……そんなんこと言われても」


 神様も転移させるなら、もっと強い体にしてくれたらよかったのに。前の世界と変わらない俺の体は、同年齢の子供と比べてもさらにヒョロイ。


「……何か考えがあるんですか?」


 全員の視線が集中する中、シアンは真顔でとんでもないことを言い出した。



「お前には本物の聖人になってもらう」


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