終わらないエピローグを君に

胡桃 ぱん

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本編

これって監禁ってやつでは?



 「ルカ……」

 目の前のアレクは大人に成長していた。学生の頃と比べさらに伸びた身長、幼さが抜けて隙のなくなった精悍な顔。馬に跨り豪奢な騎士服に身を包んだアレクは、変わらず眩しいほどに輝いて見えた。

 あぁ、くそ。やっぱり死ぬほどかっこいいや

 2年経っても全く色褪せない恋心に絶望しながらも、心の奥では喜びが溢れるのを止められない。心が体が、アレクを求めていたのがわかって白旗をあげる。仕方ないよな、こんなカッコいいんだから、こんな存在感他にいない。こいつの代わりなんて、どこにもいるわけがないんだから。

 それでも、こいつの隣に俺の場所はないから。踵を返した瞬間、

「捕えろ」

 背後からアレクの冷徹な声が響いた。




 
 そこからは怒涛の展開だった。

 アレクの一声で騎士に捕縛された俺は、抵抗する間もなく王城に連れて行かれた。手荒な様子はなかったが周りを屈強の騎士たちに囲まれ、逃げられる状況ではなかった。

 アレクと別れたあの日、最後に嘘をついたのは間違いないが、俺は何か罪に問われるのだろうか?牢にでも繋がれるかと思ったが、特に拘束されることもなく部屋に通される。

 天蓋のついた大きなベッドが真ん中に鎮座するその部屋は、輝かしい装飾品が並び王城の部屋の中でも殊更豪華に見えた。ただまともな家具がベッドしかない上、部屋の扉に改造されたと見られる鍵がいくつも備えられており、豪華な部屋とのギャップに違和感を覚える。


「あれから何年経っているんだろう」

 俺の世界で経過したのは2年、だがアレクの変わり方を見るにこちらの世界ではそれ以上に時が経っていそうだ。一瞬だけ目にした成長したアレクの姿を思い出す。しゃがみこんで、顔に手を当て膝に顔を埋める。


「くそ――!カッコ良すぎる――!」

 年をとってさらに洗練されたアレクの姿はあまりにも魅力的だった。もともと一目惚れだったのだ、それなのにさらにカッコよくなるなんてズルすぎだろ!

 ただ、それだけ時が経ったということは、


「もう子供の1人や2人、いるんだろうな……」

 卒業時点で婚約者がいたアレクのことだ。相手の卒業を待って結婚し、将来の王太子だって誕生していることだろう。


「……本当に手が届かない人に、なっちゃったんだなぁ」

 学生時代の2年、苦しいことだってあったけど好きな人と体を重ねて一緒に時を過ごして、それはなんて幸せなことだったんだろうと思う。今はきっと、顔を見て話すことだってままならない。それくらいの差が俺とアレクの間にはある。


「神様はなんでアレクのところに俺を飛ばすかな」

 シロから俺とアレクの話を聞いていなかったのか。よりにもよって目の前、逃げる隙も与えてもらえなかった。ため息をついた時、ベッドの下で何かが光ったのが見えた。


「なんだ?」

 ベッドに近寄ってしゃがみ込む、大きなベッドの足に何かが落ちている。これは……、

「………………鎖、首輪?」

「お前のために作ったんだ」

 え?

 振り返ると、アレクがいた。

 いつも不機嫌そうな顔をして、笑う時は悪い顔してる時か俺を馬鹿にしてる時。そんなアレクが、綺麗に笑っていた。ただ貼り付けた能面のような笑顔はまるで感情が感じ取れなかった。

 呆然とした俺の手から首輪をとり、アレクは言った。

「次は逃さない」

 笑みが消えたアレクの表情に背筋がゾワっとした、逃げなきゃ、そう思うのに恐怖で体が動かない。

「おかえり、ルカ」

 首筋にアレクの手がかかり、首輪の錠がかかる音が響く。その首輪は宝石があしらわれ美しく豪華だが、金属でできており冷たくずっしり重い。目線で首輪から伸びる鎖を辿ると、ベッドの足に溶接されているのが見える。これって………………、


「アレク、これ……」
「どうした?」

 アレクは薄い笑みを浮かべて、返事をする。目の前にいるはずなのに、アレクと意思疎通が図れている気がしない。

「あの、外して」
「ルカは嘘つきだから、仕方ないよな」
「……」


 あの、これって、監禁ってやつでは?


 あまりの異常事態に思考を放棄していた脳が、やっと仕事を始めたようだ。頭の中でけたたましく警鐘がなっている。これはやばいぞ、と。

「あー……、これって……」
「安心しろ、不自由させないから」
「いや、もう現時点で不自由」
「3食昼寝付き、お前は何もしなくていいから」
「えーと」
「反撃されるとお前には負けかねん、剣は握らせてやれないが許せ」
「いや、そういうことじゃないんだよな」


 明らかにおかしい状況なのに、アレクの口調が学生時代と変わらない軽い様子なのが逆に恐怖を煽る。こいつ、なんかおかしくないか?


「あー、何もしなくていいは嘘だわ」
「え?」

 アレクに押されてベッドに仰向けで倒れ込む。押し倒された形で、覆い被さるアレクを見る。俺の大好きな黄金の瞳をゆっくりすがめて、今日何度も見た感情の見えない顔でうっそりと笑う。



「毎日、愛し合おう」



 頭の中で、警鐘が鳴る。

 
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