終わらないエピローグを君に

胡桃 ぱん

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本編

好きみたいじゃん



 カーテンから差し込む光が眩しい、ゆっくり目を開ける。

「……ぃた」

 下肢はだるく腰は動くたびに鈍い痛みを訴える。喉は掠れて声は出ない、全身がピリピリ痛むのは鬱血痕と噛み跡のせいか。後ろにまだ入ってるような違和感はあるが、腹が膨らむほどに吐き出された精はかき出されているようだ。アレクがやったのか?


「……っぃだ、ま、じゃん……」

 首輪は外されていない。鎖を介してベッドにつながれており、監禁状態は継続中らしい。ベッドサイドのテーブルに手紙がある、几帳面なアレクの字だ。


 ―時間になったら飯が届く、シャワーとトイレは奥の扉―


「はっ、らしぃな」

 笑ってしまう。アレクらしい、簡潔な文章だった。とりあえずシャワー浴びるか。

 鎖は奥の部屋まで届くギリギリの長さだった。計算された部屋の配置と鎖の長さに、監禁の現実味が増して少しゾワっとした。

「うわ」

 浴室の鏡に映った自身の姿に、声が出る。病気かと思うほど全身に散らばった鬱血痕、こんなもの一度もつけられたことはなかったのに、一体アレクはどうしてしまったのか。

 暖かい湯を浴びながら、考える。昨日のアレクはまるで別人のようだった。過去のアレクにはなかった言動に、驚きと共に切なさが胸をよぎる。

 結婚して、子供ができて、アレクも丸くなったってことか。俺がいない数年の間に、彼に愛を教え、変えた存在がいたことにショックを受けている自分がいる。アレクは俺と恋をしてはくれなかったが、他の人間とは違う特別な位置においてくれていた。俺はそれを知っていたから、アレクの隣にいることができたんだ。だがその特別も、もう唯一では無くなったのだろう。


「いぃな…」


 アレクと両思いになれて、特別になれて、法的に家族にもなれるんだから、羨ましいことこの上ない。


 シャワーを浴びさっぱりした俺は、脱衣所に用意されていた衣服に袖を通す。長いワンピースのようなゆるい服は肌触りが良くて気持ちがいい。部屋に戻るとベッドのシーツが整えられ、恐らく昼食と思われる豪華の食事が配膳されていた。


「早業過ぎる」


 あ、声出るようになってきた。お腹も空いてきたし、ありがたく頂いてしまおう。豪華な食事に舌鼓を打ち、ぼうっと考える。


 前の世界で俺は事故に遭って体は死んで、恐らく心(魂?)だけをシロが掬い上げてこちらの世界に送ってくれた。そこで神様に体を用意してもらって、こっちの世界で生きられるようになって、これから新生活を始めるはずだった。

 が、召喚直後アレクに見つかって王城に連れさられ監禁、しこたま抱かれ夜どころか朝も超え、現在昼過ぎ。アレクはおらず、枷をはめられ鍵のかかった部屋で1人きりと。


「もしかして、すんごい怒ってる?」


 アレクを裏切り逃げた俺も悪いが、監禁は良くないと思う、犯罪だし。しかも王妃も子供もいてのセックスは、流石の俺も良心が痛む。それに昨日の愛し合う恋人同士のようなセックスは、勘違いしてしまいそうになるからやめてほしい。

 アレクは倫理観が昔から死んでいるので、俺から逃げなければこの関係が続いてしまうかもしれない。アレクはなぜか、昔から俺とのセックスを気に入っていたし。


 方針が固まったのに胸が痛むのは、いつまでたっても捨てられない恋心のせい。


「いいかげん、諦めろよ、バカ」

 
 なんとも思わなくなったら、楽になれるのに。卒業の日にした約束通り騎士としてそばにいて、アレクとアレクの家族を守って、時々友達みたいに軽口を叩き合って運動がてら剣を交えたりして、そんな未来があったかもしれないのに。



 食事の手が止まる。なんだか、虚しい。ため息をついたその時、

 慌ただしい足音と共に扉の向こうで、錠が落ちる音が響く。身構える俺の耳に、


「ルカ!」


 懐かしい声が聞こえた。

 それは2年ぶりに見る、友人の姿だった。





「シンラ?」
「本当に、ルカなのか!」
「うん、そうだけど。シンラも大人になったねぇ」
「何を呑気な」


 俺と同じくらいまで背がのびメガネをかけたシンラは、詰襟の裾の長いピシッとした服を着ていた。理知的ですごく仕事ができそうだ。


「どうして戻ってきたんだ?」
「え?それは不可抗力なんだけど」
「この枷!外鍵も内鍵もある、完全に監禁じゃないか」
「やっぱそうだよね、これ」
「だから!なんでそんな呑気なんだよ!」


 シンラが焦っている、珍しいこともあるもんだ。


「凱旋パレードで王がおかしかったって聞いて、気になって来てみたら。我が君は何てことを」
「やっぱりアレク、おかしいよな。今更俺に何の用があるんだろう」
「………………王から何も聞いていないんですか?」
「ん?何も?」
「……はーーーーーーー、信じられない。あのポンコツが」
「え、何て」


 シンラが下を向いて特大のため息をこぼす。今、自国の王に向かってポンコツって言った?


「まぁ、僕から話すことではないので。執務が終わり次第王が来るでしょうから、直接話をしてください」
「あー、シンラさ。俺ここから出たいんだけど、協力してくれない?」
「………………それは、おすすめしませんね」
「そう言わないでさ、俺、もうアレクのそばにはいたくないんだ」
「………………」


 妻と子供と過ごすアレクを眺めながら、ここで一人アレクが来る日を待ちつづける。そんな生活はごめんだ。


「……確かに、君にとって学園での生活は辛いものだったでしょう。逃げたくなるのも仕方がない。でも、彼だって昔と同じではないんですよ」
「…………シンラがアレクを庇うなんて、珍しいな」
「ふふ、まぁそうですね。私、あの人大嫌いでしたから」
「はは!不敬罪ってやつだ!」
「いいでしょう、あのおバカは今居ないんですから」


 シンラがくすくす笑う。昔から真面目で冗談を言うところもほとんど見たことがなかったのに。この数年で、シンラも変わったんだな。
 


「一つ、いいことを教えてあげます」
「え?」
「王は結婚していませんよ、もちろん子供もいません」
「は?」

 え?そんなことあるのか?婚約者だっていたのに?一国の王様なのに?



「ずっと待っていたそうですよ」
「う、うそ」
「嘘かどうかは、本人に聞いて下さい」
 

 それって。

 頬が赤く染まる。頭が昨日のアレクの姿でいっぱいになる。じゃぁ、昨日の全部は俺だけに向けたものってこと??そんなの、そんなの……



「お、俺のこと、好きみたいじゃん」



 微笑むシンラ、

 その顔を見た瞬間

 

「お前だけ幸せになるなんて許さない」

 頭に声が響き、意識が飛んだ。

 
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