緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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顔無人形

#2

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 二本目の橋の丁度中間地点の辺りで、案の定、ぽつぽつと雨が降り始めた。急いで橋を渡り切り、直ぐ近くの林状になっている小道に逸れた。この道でも、目的地の運動公園まで行けるのだが、少し遠回りになってしまうが、生い茂る木々が傘の様になっており、小雨程度なら、濡れずに済む。
 しかし、雨の勢いは増し、バケツを引っ繰り返した様な、土砂降りになってしまった。
 流石に、まずいと思い丁度近くにあった、神社で雨宿りをする事にした。
社の軒先を間借りし、汗拭き用に持ってきていたタオルで服や髪をある程度拭き、あとは自然乾燥に任せた。
 改めて、この神社に目を向けた。
社自体はしばらく手入れをされていないのか、所々に蜘蛛の巣が張っていたり、枯れ枝が落ちていたりと、少々荒れていた。
 境内には、社務所の様な建物もなく、我々以外の人影すらない。
あるのは、苔だらけの狛犬一対と、石灯篭が一つ。それと、少し離れたところに、庚申塔の様な物が、三つ並べられている。
 薄気味悪い場所だが、田舎の神社は、大体こんなものだ。
 私は、賽銭箱に10円を一枚放り投げた。雨が止むまでの間、お世話になるのだから、宿賃代わりのつもりだった。
 
 社の階段に座り、ウトウトしていた時だった。社の周りを見回っていたシンが、私たちを呼ぶ声がした。
 何事かと思い、軒伝いに彼が居る、社の裏に向かった。裏の方は少し狭くなっており、人ひとり通るのがやっとのくらいだ。
 その少し先のくぼんだ叢に、小さな古民家の様な建物が建っている。
 古民家の周りは蔦や草木で覆われ一目見ただけでは、建物と認識するのは困難だ。
 だが、不自然だった。
 外壁は蔦で覆われ、柱や壁は所々朽ちていることから、ここもこの神社と同じで暫く手入れをされていないことが分かる。
 それなのに、その建物に向かう一本の道があった。
 しかも、ただの道ではない。土の道だった。特別、飛び石があるわけでも、砂利が敷き詰められているわけでもない。
 そこだけ、草が生えておらず、建物に向かって伸びている。まるで、毎日そこを通って、あの建物に出入りしている人が居る。そんな感じだった。
 
 私たちは、意を決し、その建物に向かって、歩を進めた。
 シンを先頭に、ナナ、アヤ、私の順にその道を通った。境内から5メートルほどの距離だが、少し長く感じた。
 道の先には、出入り口用の硝子戸があった。ガラスも所々割れていて、触るのが怖いくらいだった。
 しかし、そこにも違和感を覚えさせられた。割れた筈の硝子は、外側に散らばっていた。
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