緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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廃洋館

#20

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 一体、何時からそこに置かれていたのかは、不明だが、腐敗している見た目でもなければ、臭いもしない。
 むしろ、艶があり、最近の物と言っても、誰も、疑いようがないほど、綺麗な髪だ…。
「俺は、そう言うオカルト系には、余り詳しくないが、何かの儀式に使われていたのは、確かなようだな…。」
 寺井さんが恐る恐る、紫の布ごと、持ち上げた。
 長さや質感からして、先ず、女性の物で、間違いなさそうだ…。女性の私でも、ずっと見ていると、嫉妬してしまいそうな程、綺麗な、髪だ。
 「一体、誰の髪なんでしょう…。」
 大谷が、そう呟いた…。その時、本を、棚の上に広げて置いた。そのページに描かれていた、もう一つの模様に、見覚えがあった。
 「こ、これ、私、見覚えがあります!」
 私が指で示した模様は、二等辺三角形の底辺が、無い、矢印の様な、山折り線が、三つ縦に描かれたものだった。
 「これ、一階の階段下の、倉庫の中で見ました!」
 「本当か!」
 寺井さんが、いち早く反応した。
 「確か、あそこには、血の付いた、ナイフが、落ちてましたね…。」
 「もう一度、行ってみるか。」
 私たちは、本を持ち出し、書斎を後にした。そして、階段を降り、もう一度、階段下の倉庫の扉の前に着いた。
 「開けるぞ。」
 寺井さんの声を、合図に、扉を開けた。中は、先ほどと変わらず、掃除用具などが、置かれていた。だが、唯一、変っていたことがあった。
 「このバケツ、さっきは、床に置かれていましたよね?」
 先ほど、ナイフが出てきたのは、床に置かれていた、ブリキのバケツの陰からだった。だが、そのバケツは、なぜか、物をひっかける為に、もうけられたであろう、釘にぶら下がっていた。
 そして、ナイフも無くなっていた…。
 「妙だな…。俺たち以外には、誰も…。」
 寺井さんが、言葉を詰まらせた。私も、その瞬間、気が付いてしまった…。
 私は、慌てて、スマホを取り出した。画面に映し出された、時刻と日付には、特別な変化は無いが、“圏外”の表記が、上の方に、映し出されていた。
 ここは、幾ら森の中と言えど、スマホの電波が、届かない訳では無い。現に、ロケが始まる直前、私は、スマホで、ゲームをしていたから。建物内部に入ったからと言えど、電波が急に、圏外になる事なんて、考えられない…。
 「どうして…。」
 大谷が、そう呟いた。
 それに応える様に、寺井さんが、口を開いた。
 「40年前に、スマホの電波なんて、存在するか?」
 「え?」
 「俺たちは、この館に入った瞬間に、事件があった、日に送り込まれたんじゃないか?」
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