緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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廃洋館

#28

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 「もう一つ聞いて良いか?」
 寺井さんが、人差し指を立て、訊ねた。
 「俺たちは、あの事件があった時代に飛ばされちまったのか?」
 それを、彼だけじゃなく、私も大谷も気になっていただろう。今が一体何年で、本当に、この館の住人が生きていた時間に、飛ばされて閉まっていたのなら、どうすれば、戻れるのかも、知っているなら、教えて欲しい…。
 しかし、彼女の口から返って来たのは、驚くべき真実だった。
 『幾ら、私たちが、“悪霊”や、“化け物”“怪物”と呼ばれていようとも、時間を超越することはできません…。出来るのは、精々、透過と、呪う事と、幻影を見せる事くらいです。
 今あなた方が、見ている風景は、この館の、昔の記憶。つまり、私の記憶です…。』
 「私たち?」
 私が彼女の言葉の、そこに引っかかった。
 現に、“ナツミさん”は目の前にいる。彼女以外に、もう一人、“化け物”が居るのか…。そう考えるだけで、少し震えた。
 『それは…。』
 「それは、彼女とは別にもう一人、“ナツミさん”が居るんですよね?」
 彼女の言葉を遮り、答えたのは大谷だった。例の本のある一ページを広げ語りだした。
 「そもそも、ナツミさんに掛けられた、術は、呪術の類ではなく、人や他の生物を、神格にするための儀式だったんです。」
 『それが、読めたのですか?』
 ナツミさんはこの時、初めて、怪訝そうな顔を見せた。
 「シンカク?」
 「神や、それに近い存在の者だな…。人間は昔から、天体や自然的な現象、不可解な存在に対し、“神”という名を与えてきた。」
 私の問いに、今度は寺井さんが応えた。
 「本来なら、普通の人間が神格になるどころか、近づくこともできない…。
 だが、それを、無理やりする方法は、昔から、呪術や儀式で行われてきた。ナツミさんを、こんな存在にしちまえたのも、その儀式の仕業か?」
 『…はい…。その本が読めた、貴方なら、その儀式で、私たちが、どうなってしまったのか、もうご存知ですよね?』
 ナツミさんは、大谷の方を見詰めた。それに、大谷は、頷き、話し始めた。
 「この儀式は、本来、失敗と成功の二択しかありません。神格化させるための対象者の“正”のエネルギーが高ければ、成功になる確率が上がる。その逆で、“負”のエネルギーが高ければ、邪悪な者へと生まれ変わってしまう…。
 ですが、極稀に、神格化した物と、邪悪な者が同時に産み落とされてしま場合。
 この本では、その理由まではまだ解明されていませんが、そう言う事があるという様な感じに、書かれています…。
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