緋色の小刀-ナイフ-

八雲 銀次郎

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廃洋館

#35

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 「もう一つ、聞いて良いか?」
 寺井さんが、更に訊ねた。
 「何故、神格化した方が、力を欲したんだ?神格…神と言われる存在になったという事は、それなりの力を有していても、可笑しくないと思うんだが。」
 寺井さんの質問は、私も気になっていた。神に近い存在ならば、“欲する”こと自体矛盾している様な気がするのだが…。
 『そうねぇ…。あっちが話してくれないから、詳しくは分らないけど、おそらく私が居るからかしらねぇ…。』
 今まで、無機質に聞こえていたナツミさんの声が、この時初めて寂しそうに聞こえた。
 「貴女が居るから?」
 『えぇ…。私の力は主の寿命さえあれば、無限大…。そんな私を機に食わないんでしょうね…。私の事だから、何となく分かる…。二つに分かれなければ、こんなことにはならなかったのかもね…。』
 「…。」
 私は、彼女のその言葉に、何も言えなかった。本来なら、殺されたはずの自分の命が、呪術の力で、延命され更には、全く別の存在として、今後この館に縛られて行くしかない運命をたどることになってしまった…。
 私には、そんな彼女の気持ちを、知り尽くすことは、出来ないだろう…。でも、何となくだが、彼女のその寂しそうな感情は、理解できた気がした。
 『さ、もう行きなさい。今のところ、もう一人の私は疲れたのか眠ってるみたい。だから、抜け出すのなら、今しかない…。』
 彼女は声色を戻すと、入り口の方の階段を指さした。
 「ナツミさんは、この部屋に残るんですか?」
 大谷が、彼女にそう訊ねた。
 「いや、暫くはこの館を徘徊するよ。あっちの様子も気になるから、少し話してみたいからね…。」
 「そうですか…。じゃぁ、入り口まで付いてきてくれますか。ちゃんと明るい所で、ナツミさんの顔を見て置きたいです。」
 『…随分物好きな人ね…。あの人にもそんな事言われた事ないのだけれど…。』
 彼女はそう言うと、自ら歩みを進め、階段の方に向かった。
 「良い画になりそうね…。」
 私が大谷に向かってそう言うと、彼は慌てた様に、応えた。
 「そ、そんな事ないですよ!ただ、本当に、気になっただけですよ。僕の伯母さんに当たる人ですから…。」
 
 階段を上り、大広間に出た。大広間の景色は変わっていなかった。
 「懐かしいわね…。昔と何も変わっていない…。なんだかんだで、あっちもちゃんと、約束は守ってくれているみたいね…。」
 ナツミさんはテーブルを摩った。埃が多少舞ったがテーブルには、彼女の手形は残らず、舞った埃が、まるで吸い込まれる様に、元のテーブルの上に戻って行った。
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