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ファイルⅠ:連続ひったくり事件
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午後の茹だる様な暑さの中、女性三人はとある神社の境内にいた。
「ここが、第三の事件現場の神社です。被害者は、買い物帰りにお参りに寄った際に、カバンをひったくられています。」
工藤刑事が境内を歩きながら、説明する。
「時間帯は日中の十四時ころ、ちょうど今みたいな時間帯ですね。」
「日中っていうと、目撃者とかいそうだけど、これだけ薄暗いと難しいね。」
天木さんが色々ときょろきょろしながら、行った。柏木さんは、あちこち一眼レフカメラで写真を撮りながら、着いて回る。
「そうです。ただ当時、あの社務所でお仕事していた、巫女さんが通報してくれました。」
「なるほどー。カエ、話聞いてきて。」
「イエッサー!」
天木さんは柏木さんを社務所の方に差し向けた。
「で、実際ひったくりが起きたところはここ?」
「そうです。お参りを終えて、鳥居の方に向かう途中に…。その際、ケガ自体は軽傷らしいですが、被害者は転倒しています。」
「逃走は原付バイクって書いてあるけど…。」
「被害者が起き上がって追いかけた時には原付バイクが向こうの方に。」
この神社は境内に入るのに、五段ほど石段を登らなくてはならない。更にその石段が面しているのは九十度近く曲がった、道路の突き当りにある。まっすぐ行くと、下り坂、左に行くと上り坂になっている。
「原付はこっちの上り坂の方に逃走した…。」
天木さんが呟きながら、上り坂下り坂と交互に見回す。すると何かを見つけたのか、急にしゃがみこんだ。
「どうしました。」
工藤刑事が聞きながら、のぞき込む。その視線の先には、舗装されていないのか泥がむき出しになっていた。さらに、細いタイヤ痕の様なものが、固まっていた。
「クドー…。せっかく来たんだし、お参りしていこー。」
そういうと天木さんが境内に戻って行った。
お参りも済ませ、車に戻ろうとした時だった。背後から勢いよく何かにぶつかった。その拍子に工藤刑事が派手に転んだ。天木さんはかろうじて、よろけただけだった。
ぶつかったのは黒い服を着た人だった。
「クドー!ダッシュダッシュ!」
天木さんが叫ぶ。工藤刑事は何とか起き上がりながら鳥居を抜け、道路まで出た。左の上り坂の上の方に消えていくオートバイが見えた。
逃げられた。メモ帳をひったくられた…。どうしよう。あれには、捜査情報が書かれている…。
呆然としていると、スーツの裾を引っ張られた。
「ダイジョーブ?クドー。」
天木さんだった。
「大丈夫じゃないです。メモをひったくられました…。」
工藤刑事が悔しそうに言う。
「で?犯人どっちに逃げた?」
「向こうの上の方です。オートバイでした。ナンバーは見てませんでした…。」
「ダイジョーブ。もう少しで戻ってくるから。」
「え?」
思わず聞き返した。
すると、どういうわけか、さっきのオートバイが戻って来た。
「どうしてクドーは、犯人が向こうに逃げたと思ったの?」
「どうしてって、オートバイだったし、それに同じ服装だったし…。」
「じゃぁ、答え合わせしようか。」
「は?」
「ケガはない?クドーさん?」
そう聞いてきたのは黒いジャンパーを着た、柏木さんだった。しかも、下り坂の方から歩いてやってくる。持っていたメモ帳をひらひらさせながら。
「なるべくケガがない様に、押し倒したんだけど。」
「え?あれ?どうして?」
「混乱してるねぇ~?」
天木さんが楽しそうにしゃべる。
「じゃ、じゃぁ、あのバイクの人は⁈」
ちょうど、オートバイが工藤刑事たちの前に停まる。
「彼はリューの部下のタケ。実験するからって呼んでおいた。」
天木さんが更に楽しそうに紹介する。ヘルメットを取り、バイクから降りてきたのは、爽やか風の男性だった。
「ふぅ…。どうも、リューさんチームの岡本武彦と言います。驚かせてしまって、申し訳ない。」
「実験…。もしかして…。」
「そう、今クドーのメモ帳をひったくったのは、オートバイのタケじゃなくて、カエ。」
「でも、どうやって…。」
「クドーさん、下り坂の方見た?」
「もちろ…いや、見てない…?」
工藤刑事が困惑しながら、答えた。
「理由は、ダッシュで逃げたひったくり犯が、誰もがのんびり歩くとは思わないから。
仮に思ったとしても、爆音のするバイクって大きい物体が目の前を通れば自然とそれを目で追っちゃう。」
「これは、手品なんかで使われる、視線誘導ってやつ。しかも転んだとき、目線はこの石段の下は見えなくなる。だから、目的の人物が入れ替わったことなんて気づかない。ただ、これを偶然で出来るかと言ったら、ほぼ不可能に近い、だからこれもちゃんとした計画的犯行。」
柏木さんが説明する。
「はぁ…。な、なら、早く本部に知らせないと…。」
工藤刑事がスマホを取り出した。が、天木さんに制止させられた。
「ツッチー頭いいからダイジョーブ。」
「そ、あたしでも天木さんの考えに気付いたんだから、あの人ならとっくに気付いてるよ。」
「だから次の現場行くよ!タケはどうする?」
「俺は日下部さんの命でお供しますよ、天木さん。」
「オッケー!じゃあ、ゴーゴー!」
天木さんが工藤刑事の手を引っ張りながら、愛車の海外メーカーのクロカン車に押し込む。
「ここが、第三の事件現場の神社です。被害者は、買い物帰りにお参りに寄った際に、カバンをひったくられています。」
工藤刑事が境内を歩きながら、説明する。
「時間帯は日中の十四時ころ、ちょうど今みたいな時間帯ですね。」
「日中っていうと、目撃者とかいそうだけど、これだけ薄暗いと難しいね。」
天木さんが色々ときょろきょろしながら、行った。柏木さんは、あちこち一眼レフカメラで写真を撮りながら、着いて回る。
「そうです。ただ当時、あの社務所でお仕事していた、巫女さんが通報してくれました。」
「なるほどー。カエ、話聞いてきて。」
「イエッサー!」
天木さんは柏木さんを社務所の方に差し向けた。
「で、実際ひったくりが起きたところはここ?」
「そうです。お参りを終えて、鳥居の方に向かう途中に…。その際、ケガ自体は軽傷らしいですが、被害者は転倒しています。」
「逃走は原付バイクって書いてあるけど…。」
「被害者が起き上がって追いかけた時には原付バイクが向こうの方に。」
この神社は境内に入るのに、五段ほど石段を登らなくてはならない。更にその石段が面しているのは九十度近く曲がった、道路の突き当りにある。まっすぐ行くと、下り坂、左に行くと上り坂になっている。
「原付はこっちの上り坂の方に逃走した…。」
天木さんが呟きながら、上り坂下り坂と交互に見回す。すると何かを見つけたのか、急にしゃがみこんだ。
「どうしました。」
工藤刑事が聞きながら、のぞき込む。その視線の先には、舗装されていないのか泥がむき出しになっていた。さらに、細いタイヤ痕の様なものが、固まっていた。
「クドー…。せっかく来たんだし、お参りしていこー。」
そういうと天木さんが境内に戻って行った。
お参りも済ませ、車に戻ろうとした時だった。背後から勢いよく何かにぶつかった。その拍子に工藤刑事が派手に転んだ。天木さんはかろうじて、よろけただけだった。
ぶつかったのは黒い服を着た人だった。
「クドー!ダッシュダッシュ!」
天木さんが叫ぶ。工藤刑事は何とか起き上がりながら鳥居を抜け、道路まで出た。左の上り坂の上の方に消えていくオートバイが見えた。
逃げられた。メモ帳をひったくられた…。どうしよう。あれには、捜査情報が書かれている…。
呆然としていると、スーツの裾を引っ張られた。
「ダイジョーブ?クドー。」
天木さんだった。
「大丈夫じゃないです。メモをひったくられました…。」
工藤刑事が悔しそうに言う。
「で?犯人どっちに逃げた?」
「向こうの上の方です。オートバイでした。ナンバーは見てませんでした…。」
「ダイジョーブ。もう少しで戻ってくるから。」
「え?」
思わず聞き返した。
すると、どういうわけか、さっきのオートバイが戻って来た。
「どうしてクドーは、犯人が向こうに逃げたと思ったの?」
「どうしてって、オートバイだったし、それに同じ服装だったし…。」
「じゃぁ、答え合わせしようか。」
「は?」
「ケガはない?クドーさん?」
そう聞いてきたのは黒いジャンパーを着た、柏木さんだった。しかも、下り坂の方から歩いてやってくる。持っていたメモ帳をひらひらさせながら。
「なるべくケガがない様に、押し倒したんだけど。」
「え?あれ?どうして?」
「混乱してるねぇ~?」
天木さんが楽しそうにしゃべる。
「じゃ、じゃぁ、あのバイクの人は⁈」
ちょうど、オートバイが工藤刑事たちの前に停まる。
「彼はリューの部下のタケ。実験するからって呼んでおいた。」
天木さんが更に楽しそうに紹介する。ヘルメットを取り、バイクから降りてきたのは、爽やか風の男性だった。
「ふぅ…。どうも、リューさんチームの岡本武彦と言います。驚かせてしまって、申し訳ない。」
「実験…。もしかして…。」
「そう、今クドーのメモ帳をひったくったのは、オートバイのタケじゃなくて、カエ。」
「でも、どうやって…。」
「クドーさん、下り坂の方見た?」
「もちろ…いや、見てない…?」
工藤刑事が困惑しながら、答えた。
「理由は、ダッシュで逃げたひったくり犯が、誰もがのんびり歩くとは思わないから。
仮に思ったとしても、爆音のするバイクって大きい物体が目の前を通れば自然とそれを目で追っちゃう。」
「これは、手品なんかで使われる、視線誘導ってやつ。しかも転んだとき、目線はこの石段の下は見えなくなる。だから、目的の人物が入れ替わったことなんて気づかない。ただ、これを偶然で出来るかと言ったら、ほぼ不可能に近い、だからこれもちゃんとした計画的犯行。」
柏木さんが説明する。
「はぁ…。な、なら、早く本部に知らせないと…。」
工藤刑事がスマホを取り出した。が、天木さんに制止させられた。
「ツッチー頭いいからダイジョーブ。」
「そ、あたしでも天木さんの考えに気付いたんだから、あの人ならとっくに気付いてるよ。」
「だから次の現場行くよ!タケはどうする?」
「俺は日下部さんの命でお供しますよ、天木さん。」
「オッケー!じゃあ、ゴーゴー!」
天木さんが工藤刑事の手を引っ張りながら、愛車の海外メーカーのクロカン車に押し込む。
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