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ファイルⅢ:行方不明調査
#3
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電話を貰ってから、急いで病院に向かった。着いた頃には、土屋さんや宮間さん、工藤刑事も一緒だった。手術中の赤いランプはまだ、煌々と光っている。
この扉の向こうに居るのは、日下部さんと岡本さんと久本三弘(キューちゃん)。他二人もクサカベ班の中ではトップクラスに強い。この三人が血を流し、気を失った状態で倒れていたらしい。
「何がどうなって…。」
天木さんの後に入ってきた浩史がそう呟いた。
宮間さんの話を要約すると、日下部さんと他二名は、暴力団絡みの事件に向かったらしい。だが、気が付けばこんな状態だった。
「近くにこれが落ちてました…。」
後からその現場に駆け付けた浩二が手にしていたのは、小さいゲームセンターのコインの用だった。
「ミヤマ…これ…。」
その時、上の赤いランプが消え、中から医師が出てきた。
「三人は?」
土屋さんが落ち着いた声で訊ねた。
「二人は、骨は所々折れていますが、内臓には損傷なしです。頭の方も、切れてはいますが、脳に異常は見られませんでした。脈も乱れていませんし、問題ないでしょう。
ただ、もう一人の彼はかなり危険な状態です。手は尽しましたが、後は待つだけです。」
その後三人は、集中治療室に移された。他の刑事たちもやってきて、関係者は事情聴取さていた。
天木さんは集中治療室の前の長椅子に座り、先ほどのコインを眺めていた。自分で買った缶ココアにも手を付けずに。
「懐かしいですね…。」
宮間さんが彼女の隣に腰を降ろし、そう声を掛けた。
「うん…。」
「もう五年も経ってるのか。早いもんだね。」
「私、今日は帰る。」
そう言って、立ち上がり、すたすたと出て行った。メダルはその場に残したまま。
初めて、彼と会ったのは、七年前のとある事件だった。当時私は、まだ一七歳。ザッキーと出会って半年も経っていない時だった。本来なら高校に通ってはずなのだが、二ヶ月ほど前に、自主退学した。
彼が用意してくれた居場所には不満はなかった。が、社会から見放された、という事実は未成年の私の心を折るには充分過ぎた。
今日も、特にやることがある訳でもなく、行く当てがある訳でもなく、街をブラついていた。引きこもりにはなったが、外に出歩くのは嫌いじゃなかった。私を知らない他人が山ほど居るから。また、私はその逆で、すれ違った人の癖、向こう岸で信号待ちをしている人の顔、電話している人の声…。すべて私の頭にインプットされていく。この感覚は嫌いじゃなかった。
当然お昼になれば、お腹は空く。彼が用意してくれた、ビルの地下二階にある貸店舗に入った。内装は今よりも質素で、ちょっとした四角いテーブル何組かとキッチンがあった程度で、ふかふかのソファもない。
壁や天井は打ちっぱなしのコンクリート壁で、どちらかと言うと工場に近い。カウンターの代わりに背の高い長いテーブルがあり、そこに彼が座っていた。
「お帰り。お散歩楽しかった?」
「別に…。」
怒っているわけではなかった。家に帰っても、『お帰り』と言われたのは幼稚園生の時以来だ。『ただいま』の一言が言えなかった。
彼から一席分離れて、テーブルに座った。彼はまだ私よりも二つ下で、今年、高校に上がったばかりだという。初めの内は、彼も私と同じ様に苦しめば良いと思っていたが、最近は、違う。彼は私の事を見てくれた。それを知るのに時間が掛かったのは多分、そういう思考がマヒしていたのだろう。
「今日は簡単な物しかできないけど、良い?」
この宮間と言う男も彼と一緒で、私を嫌な顔せずに受け入れてくれた。元料理人とだけあって、淹れてくれるココアや料理は絶品だった。私は、宮間の質問にこくりと頷いた。
その日の午後も、私は街をブラついていた。繫華街を抜け、駅ビルに向かおうとしていた時、背中に衝撃を受け、気を失った。
目を覚ました時は、薄暗い部屋で電球が一つだけ着いている部屋だった。窓が無いから地下なのは容易に想像が付く。気付くのが遅かったが、腕も縛られている。いじめを受けていたからと言って、流石に慣れはしない…。
「お目覚めかな?お嬢ちゃん。いや、天木涼子さん。」
このねっとりとした話口調は、今でも夢に出てくる…。
この扉の向こうに居るのは、日下部さんと岡本さんと久本三弘(キューちゃん)。他二人もクサカベ班の中ではトップクラスに強い。この三人が血を流し、気を失った状態で倒れていたらしい。
「何がどうなって…。」
天木さんの後に入ってきた浩史がそう呟いた。
宮間さんの話を要約すると、日下部さんと他二名は、暴力団絡みの事件に向かったらしい。だが、気が付けばこんな状態だった。
「近くにこれが落ちてました…。」
後からその現場に駆け付けた浩二が手にしていたのは、小さいゲームセンターのコインの用だった。
「ミヤマ…これ…。」
その時、上の赤いランプが消え、中から医師が出てきた。
「三人は?」
土屋さんが落ち着いた声で訊ねた。
「二人は、骨は所々折れていますが、内臓には損傷なしです。頭の方も、切れてはいますが、脳に異常は見られませんでした。脈も乱れていませんし、問題ないでしょう。
ただ、もう一人の彼はかなり危険な状態です。手は尽しましたが、後は待つだけです。」
その後三人は、集中治療室に移された。他の刑事たちもやってきて、関係者は事情聴取さていた。
天木さんは集中治療室の前の長椅子に座り、先ほどのコインを眺めていた。自分で買った缶ココアにも手を付けずに。
「懐かしいですね…。」
宮間さんが彼女の隣に腰を降ろし、そう声を掛けた。
「うん…。」
「もう五年も経ってるのか。早いもんだね。」
「私、今日は帰る。」
そう言って、立ち上がり、すたすたと出て行った。メダルはその場に残したまま。
初めて、彼と会ったのは、七年前のとある事件だった。当時私は、まだ一七歳。ザッキーと出会って半年も経っていない時だった。本来なら高校に通ってはずなのだが、二ヶ月ほど前に、自主退学した。
彼が用意してくれた居場所には不満はなかった。が、社会から見放された、という事実は未成年の私の心を折るには充分過ぎた。
今日も、特にやることがある訳でもなく、行く当てがある訳でもなく、街をブラついていた。引きこもりにはなったが、外に出歩くのは嫌いじゃなかった。私を知らない他人が山ほど居るから。また、私はその逆で、すれ違った人の癖、向こう岸で信号待ちをしている人の顔、電話している人の声…。すべて私の頭にインプットされていく。この感覚は嫌いじゃなかった。
当然お昼になれば、お腹は空く。彼が用意してくれた、ビルの地下二階にある貸店舗に入った。内装は今よりも質素で、ちょっとした四角いテーブル何組かとキッチンがあった程度で、ふかふかのソファもない。
壁や天井は打ちっぱなしのコンクリート壁で、どちらかと言うと工場に近い。カウンターの代わりに背の高い長いテーブルがあり、そこに彼が座っていた。
「お帰り。お散歩楽しかった?」
「別に…。」
怒っているわけではなかった。家に帰っても、『お帰り』と言われたのは幼稚園生の時以来だ。『ただいま』の一言が言えなかった。
彼から一席分離れて、テーブルに座った。彼はまだ私よりも二つ下で、今年、高校に上がったばかりだという。初めの内は、彼も私と同じ様に苦しめば良いと思っていたが、最近は、違う。彼は私の事を見てくれた。それを知るのに時間が掛かったのは多分、そういう思考がマヒしていたのだろう。
「今日は簡単な物しかできないけど、良い?」
この宮間と言う男も彼と一緒で、私を嫌な顔せずに受け入れてくれた。元料理人とだけあって、淹れてくれるココアや料理は絶品だった。私は、宮間の質問にこくりと頷いた。
その日の午後も、私は街をブラついていた。繫華街を抜け、駅ビルに向かおうとしていた時、背中に衝撃を受け、気を失った。
目を覚ました時は、薄暗い部屋で電球が一つだけ着いている部屋だった。窓が無いから地下なのは容易に想像が付く。気付くのが遅かったが、腕も縛られている。いじめを受けていたからと言って、流石に慣れはしない…。
「お目覚めかな?お嬢ちゃん。いや、天木涼子さん。」
このねっとりとした話口調は、今でも夢に出てくる…。
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