探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルXV:奪還作戦

#25

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 折られた切先は床に落ち、道場に甲高い金属音が響いた。それと同時に出雲は膝から崩れ落ちた。
 「わ、私居合術にはそんなに詳しくないけど、刀ってあんな簡単に折られて良い物なの?」
 石井のその言葉に、河辺が答えた。
 「簡単じゃねぇだろ…。現在の居合道は対人相手の実践は行わない。相当な手練れでも、100%事故が起きないとは言い切れないからな。
 だから、試し斬りなんかでは、巻き藁なんかを使ってる。
 だが、あいつがやっていたのは、居合じゃねぇ。完全に、実践向けの抜き方だ。」
 「実践向け?」
 「居合術は、別名抜刀術とも言われているくらいに、鞘から刀身を抜くことに技があると考えられた武術だ。だから、“斬る”というよりは、刀身を抜くことに業を使う。
 だが、あいつが最初に見せたのは、刀を抜いたというよりは、鞘を“引いた”に近い。
 それによって、出雲よりも数段早い段階で刀身を露わにし、太刀筋を見定め、刀の弱点を一気に斬り込み、刀に致命傷を与えた。
 それだけでもかなりすげぇが、出雲が暴走したときの方が、もっとすげぇ。何せ、一度罅を入れた場所に、寸分の狂いもなく、刃先を当てて、そのまま斬りつけた。
 才能や技術でどうにかなるレベルじゃねぇ…。おそらく、俺らじゃぁ想像もつかない程の鍛錬と実践を経験してきたんだろうな…。男の俺でも、惚れそうだ…。」
 河辺の説明は、なんとなくだが理解はできた。だが、目の前に居る久本と言う男が、最初に会ったときとは、全く違う顔つきだった。そんな彼は、またも刃先を確認し、納刀した。
 「刃毀れなし。」
 そう呟くと、折れた刀の切先を持ち上げた。
 「すまねぇ組長さん、鈍どころか圧し折っちまった…。これだから、ヤクザは好きじゃねぇんだ。どいつもこいつも、焦ると血が上る…。折角の名刀も簡単に台無しにしやがって…。」
 「お前の親父も同じこといってたな…。懐かしい…。」
 敷島は折れた切先を受け取った。
 「出雲!お前が言い出したことだ、このケジメはしっかりしろよ!」
 だが、出雲は刀を折られたことが、相当ショックだったのか、声も出さず頷くだけだった。
 「まぁそう言うことだ。柿崎、後で他の刑事も呼んで来い、クラブ・ジョーカーのアジト捜索に手を貸す。それ以外に必要な情報があれば連絡くれ。」
 「あぁ、わかった。引き上げるぞ、お前ら。」
 久本は、借りた刀を元の位置に戻した。そして、こちらに向き直った時には、顔つきはここに来た時と同じに戻ってしまった。
 「ヤバい…。めっちゃカッコいい…。」
 石井がそう呟いた瞬間、他の3人の刑事はかなり驚いた表情をした。
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