探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルXV:奪還作戦

#24

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 「ポン刀は本来、打ち合うものじゃない。だから、俺が刀を抜くときは、できるだけ、柔らかく、斬りやすいところを狙う。
 ただ、ここまでボロボロだったら、あまり意味がない…。今回はあえて打ち合わせようと試みたが、やはり駄目だったか…。」
 久本は一度納めたばかりの刀を、再度抜き出し、刀身を眺めていた。
 「…刃毀はこぼれなし。腕は、鈍っていなかったな…。」
 血振りをし、ゆっくりと納刀するその姿はまるで”侍”のそれだった。
 その場に居た人間なら、その立ち振る舞いに、見惚れるなという方が難しいだろう…。何せ、出雲や柿崎はおろか、石井までもが、最後の鍔と鞘が当たる音までに、耳を澄ませていた。
 「…はっはっは!」
 敷島が豪快に笑った。
 「やはり、久本。血は争えないな!」
 「やっぱり、“久本一峰かずみね”の息子か…。顔も声もそっくりで、最初見たときは驚いた…。」
 柿崎まで笑っていた。
 「久本一峰?」
 石井と林田が首を傾げた。
 「あぁ、知らないのも無理はないか…。久本一峰は、居合道の達人だ。
 一度刀を抜けば、百人斬り倒すまで、鞘には納まらないという噂もあって、『百斬一峰ひゃくぎりひとみね』や『百斬納刀ひゃくざんのうとう』なんて、異名もあった。」
 「でも、そんな人の事、私聞いたことない。」
 「お嬢ちゃんの様に、若い刑事なら聞いたことがないのも無理はねぇ。一峰は、今から15年程前に、持病の悪化で亡くなっちまった。」
 「息子が一人居るってのは、聞いたことがあったが、まさかここで会えるとはな…。」
 「ということだ。出雲、諦めろ。」
 だが、出雲の耳にはその言葉は、届いていなかった。
 無理もない。組長の。それも、かなりの名刀を、名も無きボロボロの刀に斬り込まれ、ひびを入れられた。彼も、達人の域に達しているわけではないが、かなりの手練れだ。それなのに、ぽっと出の若い男に、ねじ伏せられるなど、理解できなかった。
 普段は、参謀として金条組を知恵で支えている出雲だが、やはり彼もヤクザ…。頭に血が上れば、理性を忘れる…。
 「うぉぉぉぉぉおおお」
 周りが気が付いたときには、出雲は背後から、久本に斬りかかっていた。
 「馬鹿が…。」
 敷島がそう呟いたときには、出雲の刀は、甲高い金属音を立てて、久本の刀に止められていた。
 「納めて下さい。」
 久本の言葉は、出雲には届かず、ただただ力任せに、切り伏せようとしていた。
 「…仕方ない…。」
 よく斬れる刀は、宙に舞った木の葉さえも、当たれば斬ってしまう程と言われている。だが、久本が手にしている刀は、お世辞にもよく斬れそうだとは言えない。
 そんな、素人が見ても“鈍刀なまくらがたな”は、透き通るほど、綺麗な出雲の刀の罅の部分に、斬れ込みを入れ、まるで、豆腐を切るような滑らかな動きで、刀身をし折った。
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