86 / 309
8章:上り
2 評判
しおりを挟む
「益子焼、窯元はあずまの窯先代当主、東仁左の一等品、『珈琲一択』だ!」
二代目が鼻息荒く、紹介する。
「ほう…。これが…。」
古川マスターも興味津々で、それらを覗き込む。私自身、こういった陶器や骨董品には詳しくはないが、確かに、カウンター内にあるインテリアのコーヒーカップたちとは訳が違う。底に行くほど、黒く、グラデーションが掛かっている。コーヒーカップとソーサーは二つずつあり、サーバーもそれに合わせた大きさになっている様だった。
「東仁左って、去年亡くなったっていう、あの?」
九条さんも知って居るらしく、珍しく食いついて来た。男三人で盛り上がり、私と寧々は完全に、蚊帳の外だった…。
「ねぇ、ティーカップとコーヒーカップの違いって何なの?」
寧々が私の腕の裾を引っ張り、耳打ちしてきた。とっても素朴な疑問だった。言われてみれば、なかなか答えられないだろう…。
「大まかには、高さが違うの。ティーカップは、基本的に香りを楽しみやすい様に、低くて、熱を逃がしやすい様に低く作られている。
コーヒーカップはその逆。容量を増やすために高くしてある。
まぁ、ティーカップだから紅茶じゃなきゃとか、コーヒーカップにはコーヒーしか、とかは無くて、使い分けは自由にって所…。」
私の唯一自慢できる知識だった。コーヒーに関しては、相当勉強した。味や香り、抽出方法から器具のメーカーまで。
もしかしたら、俗に言う、『オタク』に当たるのかもしれない。それでも、聞かれて他人に説明できると言う事は、自慢しても良いと思う…。
「へぇ~。じゃぁあれは、コーヒーカップか…。」
「欲しいの?」
「いや、ふと気になって…。」
二人で納得していると、二代目がコーヒーを一杯注文してきた。二人とも忙しそうなので、仕方なく、私が淹れた。手が滑って、何故かホイップクリームが大量に乗ってしまったが、そのまま出した。
九条さんと古川マスターは何かを察したらしく、何も言わなかった。寧々は二代目に対して、『ご愁傷様』とだけ言っていた。
話によると、この一セット、完成当時で、既に120万は下らない、幻の逸品らしい。それが、オークションに出され、約5倍の値段で、落札された。
「だが、これを買った奴等は、悉く不慮の事故やら、原因不明の病やらで、おっ死んじまって、呪いの逸品として、買い手が付かなくなったって話でさぁ…。」
口の周りにホイップクリームの髭を蓄えた二代目が、神妙な面持ちで話した。
「確か、当の本人、東仁左も自殺したって、一時期、話題になっていたな…。」
「ちょ、ちょっと、怖い事言わないでよ!」
どうやら、寧々はこういった話は苦手らしい。私も、「きゃー」の一言でも言えれば、可愛げがあるのかもしれないが、生憎嫌いでも好きでもない…。
むしろ、死人に会えるなら、会いたい人もいるので、是非とも会ってみたい…。
「でも、なんでそんな不気味な物、二代目が持ってるんですか?」
「知り合いの古物商が、偶々買っちまったらしくてな?気味が悪いってんで、俺の店に持ってきたってわけよ。」
「それ、大丈夫なんですか?」
「さぁな…。だが、折角名のある職人に作ってもらったってのに、噂だけで忌み嫌われるってぇのは、何か、解せねぇじゃねぇか…。」
「たまにはいい事言いますね…。」
古川マスターが感心した様に呟いた。確かに、そうかもしれない…。他人は何時から、周りの評判を気にする様になったのだろうか…。
粗悪品や不良品はともかく、万人が万人、使えない、価値がないとほざいても、一人でも『自分はこれが良い』という声があれば、生み出された意味が出てくる。
私も最近まで、似た様な境遇に立たされていたから、それが辛い事は知って居る。だからなのかもしれないが、二代目にはそんな呪いが掛からない。そんな気がした。
二代目が鼻息荒く、紹介する。
「ほう…。これが…。」
古川マスターも興味津々で、それらを覗き込む。私自身、こういった陶器や骨董品には詳しくはないが、確かに、カウンター内にあるインテリアのコーヒーカップたちとは訳が違う。底に行くほど、黒く、グラデーションが掛かっている。コーヒーカップとソーサーは二つずつあり、サーバーもそれに合わせた大きさになっている様だった。
「東仁左って、去年亡くなったっていう、あの?」
九条さんも知って居るらしく、珍しく食いついて来た。男三人で盛り上がり、私と寧々は完全に、蚊帳の外だった…。
「ねぇ、ティーカップとコーヒーカップの違いって何なの?」
寧々が私の腕の裾を引っ張り、耳打ちしてきた。とっても素朴な疑問だった。言われてみれば、なかなか答えられないだろう…。
「大まかには、高さが違うの。ティーカップは、基本的に香りを楽しみやすい様に、低くて、熱を逃がしやすい様に低く作られている。
コーヒーカップはその逆。容量を増やすために高くしてある。
まぁ、ティーカップだから紅茶じゃなきゃとか、コーヒーカップにはコーヒーしか、とかは無くて、使い分けは自由にって所…。」
私の唯一自慢できる知識だった。コーヒーに関しては、相当勉強した。味や香り、抽出方法から器具のメーカーまで。
もしかしたら、俗に言う、『オタク』に当たるのかもしれない。それでも、聞かれて他人に説明できると言う事は、自慢しても良いと思う…。
「へぇ~。じゃぁあれは、コーヒーカップか…。」
「欲しいの?」
「いや、ふと気になって…。」
二人で納得していると、二代目がコーヒーを一杯注文してきた。二人とも忙しそうなので、仕方なく、私が淹れた。手が滑って、何故かホイップクリームが大量に乗ってしまったが、そのまま出した。
九条さんと古川マスターは何かを察したらしく、何も言わなかった。寧々は二代目に対して、『ご愁傷様』とだけ言っていた。
話によると、この一セット、完成当時で、既に120万は下らない、幻の逸品らしい。それが、オークションに出され、約5倍の値段で、落札された。
「だが、これを買った奴等は、悉く不慮の事故やら、原因不明の病やらで、おっ死んじまって、呪いの逸品として、買い手が付かなくなったって話でさぁ…。」
口の周りにホイップクリームの髭を蓄えた二代目が、神妙な面持ちで話した。
「確か、当の本人、東仁左も自殺したって、一時期、話題になっていたな…。」
「ちょ、ちょっと、怖い事言わないでよ!」
どうやら、寧々はこういった話は苦手らしい。私も、「きゃー」の一言でも言えれば、可愛げがあるのかもしれないが、生憎嫌いでも好きでもない…。
むしろ、死人に会えるなら、会いたい人もいるので、是非とも会ってみたい…。
「でも、なんでそんな不気味な物、二代目が持ってるんですか?」
「知り合いの古物商が、偶々買っちまったらしくてな?気味が悪いってんで、俺の店に持ってきたってわけよ。」
「それ、大丈夫なんですか?」
「さぁな…。だが、折角名のある職人に作ってもらったってのに、噂だけで忌み嫌われるってぇのは、何か、解せねぇじゃねぇか…。」
「たまにはいい事言いますね…。」
古川マスターが感心した様に呟いた。確かに、そうかもしれない…。他人は何時から、周りの評判を気にする様になったのだろうか…。
粗悪品や不良品はともかく、万人が万人、使えない、価値がないとほざいても、一人でも『自分はこれが良い』という声があれば、生み出された意味が出てくる。
私も最近まで、似た様な境遇に立たされていたから、それが辛い事は知って居る。だからなのかもしれないが、二代目にはそんな呪いが掛からない。そんな気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる