(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏

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1 夫に顧みられない悲しみ

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「君をとても愛しているんだ! 君なしでは息もできない……」
そのような熱烈な言葉でプロポーズされたジュリエット。

「嬉しいですわ。私もイリスィオス・ケビン公爵様をお慕いしております」
ジュリエットは感動に胸を震わせながら言葉を紡いだ。

かくして二人はめでたくゴールイン。結婚という永遠の愛を誓ったのである。

しかしである、結婚はゴールではなく新しい生活の始まりであり、ここからが勝負なことを純粋無垢なジュリエットはまだ知らなかったのである。




結婚して半年まではとても幸せな日々が続いていたが、徐々に広がる不安の闇がジュリエットを覆い始めていく。
(なぜ、最近外泊が増えたのかしら? このところ月の半分は屋敷にお戻りにならない……私がなにか気に障るようなことをしてしまったのかしら?)

思い悩むジュリエットに答えが出されたのは、それから数日経っての良く晴れた気持ちのいい朝だった。悪びれる様子もなく朝帰りしたイリスィオスは、赤毛の豊満で妖艶な体つきの女性を伴っていた。

「その方はどなたですか?」

「あぁ、この女はエラスティス。今日から離れに住まわせるよ」

「あぁ、新しい侍女ですね? エラスティス、私がケビン公爵夫人ですわ。これからよろしくお願いしますね」

「違うよ。これは僕の愛人さ。」
ジュリエットは耳を疑う言葉に顔を青ざめさせる。

「それはおかしいと思います。普通は愛人がいても正妻には隠すものですし、敷地内には住まわせないのではありませんか?」
「そうかなぁ。僕にとってはエラがいるから、ジュリエットに優しくできる。潤滑油のようなものだよ。必要悪だ。それに、こそこそ隠れてしたら浮気になってしまうじゃないか。僕のこれは浮気ではない。一種の気分転換だよ」

どこまで議論しても平行線。その日から食事の時以外は離れにいることが多くなったイリスィオスであった。




しかしその三ヶ月後、またもや外泊が増えだしたイリスィオス。今度は小柄で華奢な子リスのような女性を連れてきてやはり意味不明な言葉を吐いたのだった。
「これは僕の愛人だよ。必要悪だ。僕たちの純粋な高尚であるべき愛の為には必要なストレスのはけ口だ」
当然のようにのたまう夫にジュリエットは困惑した。

(この訳のわからない理由を納得しろと言うの? あり得ないと思うのは私だけなの?)

ジュリエットに仕えている使用人達は目を逸らせ誰もなにも言わない。無表情な者、クスクス笑う者、さまざまだがジュリエットに同情的な者は誰一人いないのだった。

いっそ、ずっと離れに行ったままならばまだしも食事だけは一緒にとって、たまには夜のお相手としても求めてくるのだ。

(気持ち悪い! 他の女性を触った体で私に触れないで!)
心の中で何度もこの言葉を呟き、それでも声に出して拒絶できない気弱なジュリエット。食欲もなくなり眠ることもできない。

「聞いておくれよ。嬉しい知らせがあるよ。ペクスィモが懐妊した!」
嬉しそうに報告するイリスィオスに絶望的な思いを抱えたジュリエットは、その日の午後に冷たい湖に飛び込み自殺を図ったのだった。



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