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3 奇妙な通知
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ある日、僕のスマホに一通のメールが届いた。行政からの通知だった。
【返却のお知らせ】
登録されている返却期限が到来しました。
返却を希望される場合は、以下より手続きを行ってください。
(何だ、これは……?)
内容はよく分からなかったが、行かない理由も思いつかなかった。指定された日時に区役所を訪れる。受付で番号札を取り、硬い椅子に腰を下ろした。周囲には高齢者が多く、書類を抱えて神妙な顔で待つ人や、無表情でスマホを眺めている人がいる。 風景はいつもと変わらない。
電子音が鳴り、番号が呼ばれた。窓口の職員は淡々とした口調で言う。
「御本人確認をお願いします」
マイナンバーカードを差し出すと、確認した職員は一度だけ頷き、無言で奥の部屋を示した。案内されたのは、小さな個室だった。簡素な椅子と机。余計なものは何もなく、壁は一様に白い。病院の処置室によく似ている。
「こちらにお掛けください」
感情の起伏を感じさせない声だった。指示されるまま椅子に座ると、ヘッドレストが装着される。
「数分で終わります」
それだけ告げて、職員は手際よく準備を進める。説明はない。こちらの反応をうかがう様子もない。部屋は静まり返っていた。機械の駆動音すら聞こえない。
映像が流れてくる。頭の中で再生された場面は、コンサート会場からの帰り道だった。夜風に冷えた頬を少し赤く染めながら、玲奈は楽しそうに、僕の指に自分の指を絡めてくる。
「すごかったわね。やっぱり生で聴くと、全然違う」
「玲奈が楽しめて良かったよ。また一緒に行こうな」
そう答えると、玲奈は満足そうに頷いた。二人で他愛もない感想を交わしながら、並んでマンションへ戻る。
エントランスに入ると、いつものコンシェルジュがこちらに気づき、穏やかな声で言った。
「おかえりなさいませ」
僕は軽く会釈し、玲奈はにこやかに笑って応えた。
次の場面では、キッチンに柔らかな照明が灯っている。エプロンをつけた玲奈が、カウンターに立っていた。白身魚に軽く塩を振り、オリーブオイルをひいたフライパンで焼き色をつけている。その横で、同じフライパンでアスパラガスとミニトマトをさっとソテーし、仕上げにレモンを絞った。温められたオリーブオイルと野菜の香りが、キッチンにふわりと広がる。
「今日は、軽めがいいと思って」
そう言って、玲奈は微笑む。カウンターには、ハーブを散らしたサラダと、バゲット、それから白ワインが一本、すでに開けられていた。
「いい匂いだね」
「でしょう。座ってて。すぐできるから」
僕はテーブルを拭き、カトラリーを並べて、グラスにワインを注ぐ。
そのときだった。ガシャン、と音が響いた。
「……玲奈?」
思わず声を上げて駆け寄った。フライパンが床に落ち、オイルが跳ねている。そのすぐそばで、玲奈が倒れていた。呼びかけても反応がない。目を閉じたまま、身動きもしない。
「玲奈! しっかりしろ! 大丈夫か?」
返事はない。僕は震える手でスマホを取り出し、救急車を呼んだ。その後のことは、ひどく静かだった。
【返却のお知らせ】
登録されている返却期限が到来しました。
返却を希望される場合は、以下より手続きを行ってください。
(何だ、これは……?)
内容はよく分からなかったが、行かない理由も思いつかなかった。指定された日時に区役所を訪れる。受付で番号札を取り、硬い椅子に腰を下ろした。周囲には高齢者が多く、書類を抱えて神妙な顔で待つ人や、無表情でスマホを眺めている人がいる。 風景はいつもと変わらない。
電子音が鳴り、番号が呼ばれた。窓口の職員は淡々とした口調で言う。
「御本人確認をお願いします」
マイナンバーカードを差し出すと、確認した職員は一度だけ頷き、無言で奥の部屋を示した。案内されたのは、小さな個室だった。簡素な椅子と机。余計なものは何もなく、壁は一様に白い。病院の処置室によく似ている。
「こちらにお掛けください」
感情の起伏を感じさせない声だった。指示されるまま椅子に座ると、ヘッドレストが装着される。
「数分で終わります」
それだけ告げて、職員は手際よく準備を進める。説明はない。こちらの反応をうかがう様子もない。部屋は静まり返っていた。機械の駆動音すら聞こえない。
映像が流れてくる。頭の中で再生された場面は、コンサート会場からの帰り道だった。夜風に冷えた頬を少し赤く染めながら、玲奈は楽しそうに、僕の指に自分の指を絡めてくる。
「すごかったわね。やっぱり生で聴くと、全然違う」
「玲奈が楽しめて良かったよ。また一緒に行こうな」
そう答えると、玲奈は満足そうに頷いた。二人で他愛もない感想を交わしながら、並んでマンションへ戻る。
エントランスに入ると、いつものコンシェルジュがこちらに気づき、穏やかな声で言った。
「おかえりなさいませ」
僕は軽く会釈し、玲奈はにこやかに笑って応えた。
次の場面では、キッチンに柔らかな照明が灯っている。エプロンをつけた玲奈が、カウンターに立っていた。白身魚に軽く塩を振り、オリーブオイルをひいたフライパンで焼き色をつけている。その横で、同じフライパンでアスパラガスとミニトマトをさっとソテーし、仕上げにレモンを絞った。温められたオリーブオイルと野菜の香りが、キッチンにふわりと広がる。
「今日は、軽めがいいと思って」
そう言って、玲奈は微笑む。カウンターには、ハーブを散らしたサラダと、バゲット、それから白ワインが一本、すでに開けられていた。
「いい匂いだね」
「でしょう。座ってて。すぐできるから」
僕はテーブルを拭き、カトラリーを並べて、グラスにワインを注ぐ。
そのときだった。ガシャン、と音が響いた。
「……玲奈?」
思わず声を上げて駆け寄った。フライパンが床に落ち、オイルが跳ねている。そのすぐそばで、玲奈が倒れていた。呼びかけても反応がない。目を閉じたまま、身動きもしない。
「玲奈! しっかりしろ! 大丈夫か?」
返事はない。僕は震える手でスマホを取り出し、救急車を呼んだ。その後のことは、ひどく静かだった。
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