(完結)妹に虐げられた私は・・・・・・

青空一夏

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8 留学するローラ

「私は故ローズ・スエンソン伯爵夫人の娘のローラです。ノア伯父様にお会いしたくて・・・・・・」
 コスタ伯爵家に着くと、私は執事にお母様宛に届いた手紙を見せた。

 慌てた執事が屋敷の奥に引っ込むと、すぐにノア伯父様が姿を現す。
「ローラ! しばらく見ないうちに、どうしてそんなに痩せてしまったんだ! さぁ、早く入りなさい。ここまで、歩いて来たのかい? ずいぶん時間がかかったろうに」
 お母様にそっくりな瞳のノア伯父様に優しく言葉をかけられて、思わず涙が一筋流れた。

「どなたかしら? えぇ? ノア様の姪っ子なの?」
 初めて見るその綺麗な女性は、ノア伯父様の奥方のようだった。私の知っている伯父様は独身だったはずだけれど、きっと会わない間に結婚されていたんだ。

(どうしよう・・・・・・来たら迷惑だったかしら。でも、他に行くところがないわ)

「ノア様! この子はずいぶん痩せているわね。それにとても怯えているみたいよ。可哀想に。さぁ、こちらにいらっしゃい。今、ホットミルクを持って来させますからね」
 私の頬をそって撫でてにっこりと微笑む女性に、安心してそのままその腕の中で気を失う。








 眩しさに顔を歪めて慌てて跳ね起きると、先ほどの女性とノア伯父様の心配そうな顔が目に入る。コスタ伯爵家に着いたのは夜遅い時間だったけれど、今はすっかり明るい。

「いったい、なにがあったんだい?」
 ノア伯父様の質問に私は全てを話していく。

 お母様が病気になってみるみる弱っていったこと。
 あっという間に亡くなって、侍女のマーガレットが我が物顔で屋敷を仕切りだしたこと。
 やがてお父様はマーガレットと結婚し、連れ子のマリアと一緒になって嫌がらせをされたこと。
 食べる物も最低限の食事でメイドとして働かされていたこと。
 さらには、お兄様がお帰りになったけれど、マリアと恋仲になってしまったこと。

 
「ジョセフの奴め! ただではおかん! その女達もだ」
 私の話を聞いたノア伯父様は、顔を真っ赤にして怒ってくださった。

 
「ローラ様。私はニーヴよ。半年前にあなたの伯父様と結婚したばかりなの。仲良くしてくれると嬉しいわ。ところで、ローラ様のお兄様がマリアという娘などに誘惑されるなんてことがあるかしら? あの英雄と尊敬されているアレキサンダー様でしょう?」

「あぁ、おかしいな。だが、私の大事な姪ローラを傷つけたことは確かだ。どんな理由があるにせよ、許せんなぁ」
 


☆彡・.。*☆彡


 私はそのままコスタ伯爵家に居心地の良い部屋を与えられ、ニーヴ様とは姉妹のように仲良くなっていく。ニーヴ様はノア伯父様よりずっと若くて、私にはお姉様のようだ。

 しばらくしてからノア伯父様が私に、お兄様がマーガレットとマリアを断罪する証拠を、国王陛下に明らかにしたことを教えてくださった。

「どうやらアレキサンダーは、ローズが亡くなった真相を暴くためにマリアに近づいたようだよ」

 ノア伯父様の説明は理解できたけれど、あの状況で私がどんなに心細かったのかを思い起こせば、お兄様とはしばらく会いたくないと思ってしまう。

(だって、マリアと抱き合っていたんだもの!)






 マーガレットとマリアが亡くなった、という話はだいぶ経ってからニーヴ様に教えていただいた。どのように亡くなったかを聞かされても嬉しいとは思えなかった。だってお母様は戻って来ないし、時間は巻き戻せないのだから。

 お父様は媚薬を盛られたとかで、病院で治療を受けているそうだが、元に戻ることはないらしい。あれほど仲良しだった家族も今はバラバラになり、あの幸せな家庭はすっかり跡形も無く消えてしまった。






 それからお兄様は、私がコスタ伯爵家にいることをつきとめたようだ。何度となくこちらに来訪し、伯父様に冷たく追い返されていた。
「ローラはここにいるが、君には会いたくないそうだ。まぁ、胸に手をあてて考えてみることだね」

 私は来る日も来る日もやって来るお兄様を、自室の窓から見つからないように盗み見ていた。お兄様を見るとマリアと抱き合っている場面を思い出してしまう。それがたまらなく嫌だった。





「ノア伯父様。私を隣国へ留学させていただけませんか? しばらくこの国を離れて自分を見つめ直したいです」
 ここにいてはダメになる。私はそう考えたのだ。もっと外の世界で、いろいろなことを経験しなければ!

「あぁ、それはいいかもしれないなぁ。留学のお金は心配せずともいい。ただ留学の前にひとつ教えておくことがあるよ。アレキサンダーはローラの実の兄じゃなくて、コスタ伯爵家の縁戚モーガン侯爵家の三男だ。ローズがローラを出産したときに、もうこれ以上子供は産めないと判断されたからね。この国は男性しか爵位が継げないから、養子に迎えられたのだ。いずれはアレキサンダーとローラが結婚することも想定されていたんだ」

「それは、初めて聞きました。お母様はおっしゃらなかったです」

「うん。ローラの気持ちを優先したのだろう。ローラはアレキサンダーを兄として信じ込み、懐いていたからね」

(お兄様だと思っていたのに違ったんだ・・・・・・)

「だったらなおさら私はこの国を出たいです。2年後にまた戻ってきますわ」
 私はキッパリとそう宣言した。

(伯父様の屋敷でウジウジとしていてもなにも変わらないわ。私はきっと素敵なレディになって、またここに戻ってくる!)

「ふふふ。2年後ね。素敵な女性になって戻っていらっしゃい。アレキサンダー様がびっくりするようなね。隣国には確かローラと同じ年頃の王族もいたと思うわよ。仲良くなれるといいわね。そう、アレキサンダー様よりずっと素敵な男性を連れて帰ってくるといいわ!」
 ニーヴ様は楽しそうにコロコロとお笑いになった。

「ローラ様の年頃の2年はね、魔法のように美しく変わる奇跡の2年になるわよ。艶やかな美女になって戻っていらっしゃい」

 私は隣国で有名な貴族学園に留学した。そこは各国の王族や高位貴族の女性達が通う女学校。そこで身につけたマナーはどこに行っても通用する、最高の教育を受けられる場所だ。







 その2年後、ノア伯父様の屋敷に戻って来た私。ノア伯父様は私の帰国祝いに夜会を開いてくださった。そこには2年ぶりに会うアレキサンダーお兄様もいらっしゃった。

 そして私の横にはスラリと背が高く、サラリと長い髪を後ろで束ねた麗しい黒髪の貴公子がいたのだった。
 
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