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6 カミーユ視点-2
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(※カミーユ視点)
ある日のこと、オズワルド叔父様が、初めて私の刺繍を褒めてくれた。
「君の手は、とても器用なんだな」――その一言だけで、胸の奥がじんわりと熱くなった。
子どもの頃、褒められた記憶なんてほとんどない。
失敗すれば怒られたし、両親は毎日の暮らしで手一杯だった。
私に目を向ける余裕なんて、きっとなかったのだと思う。
だからこそ、オズワルド叔父様の何気ない言葉が、私には特別だった。
もちろん、レティシア叔母様だって、よく褒めてくれる。
でも、あの人は私の何倍も、何十倍も上手に刺繍を仕上げてしまう。
褒められれば褒められるほど、自分の未熟さが際立つ気がして、少しだけ惨めな気持ちになる。
でも、オズワルド叔父様だけは違った。
オズワルド叔父様に褒められると、不思議と――ほんの一瞬だけど、私がレティシア叔母様に並べた気がしたのよ。
それからの私は、オズワルド叔父様の前では、ちょっとだけ背伸びをするようになった。
髪型を整えたり、紅をほんのり引いてみたり。
気づいてほしかった。子どもじゃない、私に。レティシア叔母様よりも、もっと近くで、私を見てほしい。
けれど、その気持ちが恋なのかどうかは、自分でもよくわからなかった。
◆◇◆
そして季節はめぐり、私が18歳を迎える少し前のことだった。
庭先で、レティシア叔母様がオズワルド叔父様にそっと抱き寄せられているのを見かけた。
ほんのひとときの夫婦の触れ合い。
それだけのことなのに、私はその場から動けなくなった。
胸の奥が、ぎゅっと痛んだ。
温かいはずの光景が、なぜか遠くて冷たく感じられた。
「……どうして、あんなに幸せそうなの? なんで、レティシア叔母様はなんでも持ってるの?」
レティシア叔母様は、美しくて、頭も良くて、気品があって。
だからこそ、愛されるのは当然なのに――それなのに、私は耐えられなかった。
わかってる。私がレティシア叔母様より劣っていることなんて、ずっと前から知ってる。
オズワルド叔父様を奪おうなんて、そんなつもりはない。
レティシア叔母様みたいになりたいなんて、望んだって叶うわけがないってことも。
全部、ちゃんとわかってる。
それでも、ほんの少しだけでいい。
一瞬でいいから、私だけを見てほしかった。
いずれ私は結婚する。あと数年もすれば、この家を出て、よその家の人間になる。
叔母様が選んでくれるのは、きっと由緒ある高位貴族の令息だろう。
不満なんて出るはずがない、申し分のない人生が待っているのよ。
公爵令嬢として嫁ぎ、子を産み、夫に尽くす――それが私の未来。
だからこそ、今だけは。
この屋敷にいる“今”だけは、オズワルド叔父様に――私を、愛してほしかった。
「ねぇ、オズワルド叔父様」
呼びかける声が震えた。けれど、それを止める気にはなれなかった。
このまま何も言わなければ、きっと、すべてが流れていってしまうから。
「あと数年で私はお嫁に行くわ。この屋敷を出て、もう二度とあなたのそばにいられなくなるのよ。だから、今だけでいいの。私に――夢を見させてください」
触れてくれなくてもいい。
ただ、私を“女”として、見てほしい。
誰にも言わない。誰にもバレない。だから、今だけ……私だけを見て。
本当は、触れてほしかった。
でも、それを言ってしまったら、きっとオズワルド叔父様にすぐに拒絶されてしまうわ。
この一瞬すら、手に入らなくなる気がして――言えなかった。
バレなければ、誰も傷つかないのよ。
私は、可哀想な立場の少女だったんだから。
少しの慰めくらい、もらったっていいはずでしょう?
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※これから朝と夕方に、毎日2回更新します。
※少しでも楽しい、続きが気になると思っていただけたら💓や応援お願いします!
モチベーションあがるので。
ある日のこと、オズワルド叔父様が、初めて私の刺繍を褒めてくれた。
「君の手は、とても器用なんだな」――その一言だけで、胸の奥がじんわりと熱くなった。
子どもの頃、褒められた記憶なんてほとんどない。
失敗すれば怒られたし、両親は毎日の暮らしで手一杯だった。
私に目を向ける余裕なんて、きっとなかったのだと思う。
だからこそ、オズワルド叔父様の何気ない言葉が、私には特別だった。
もちろん、レティシア叔母様だって、よく褒めてくれる。
でも、あの人は私の何倍も、何十倍も上手に刺繍を仕上げてしまう。
褒められれば褒められるほど、自分の未熟さが際立つ気がして、少しだけ惨めな気持ちになる。
でも、オズワルド叔父様だけは違った。
オズワルド叔父様に褒められると、不思議と――ほんの一瞬だけど、私がレティシア叔母様に並べた気がしたのよ。
それからの私は、オズワルド叔父様の前では、ちょっとだけ背伸びをするようになった。
髪型を整えたり、紅をほんのり引いてみたり。
気づいてほしかった。子どもじゃない、私に。レティシア叔母様よりも、もっと近くで、私を見てほしい。
けれど、その気持ちが恋なのかどうかは、自分でもよくわからなかった。
◆◇◆
そして季節はめぐり、私が18歳を迎える少し前のことだった。
庭先で、レティシア叔母様がオズワルド叔父様にそっと抱き寄せられているのを見かけた。
ほんのひとときの夫婦の触れ合い。
それだけのことなのに、私はその場から動けなくなった。
胸の奥が、ぎゅっと痛んだ。
温かいはずの光景が、なぜか遠くて冷たく感じられた。
「……どうして、あんなに幸せそうなの? なんで、レティシア叔母様はなんでも持ってるの?」
レティシア叔母様は、美しくて、頭も良くて、気品があって。
だからこそ、愛されるのは当然なのに――それなのに、私は耐えられなかった。
わかってる。私がレティシア叔母様より劣っていることなんて、ずっと前から知ってる。
オズワルド叔父様を奪おうなんて、そんなつもりはない。
レティシア叔母様みたいになりたいなんて、望んだって叶うわけがないってことも。
全部、ちゃんとわかってる。
それでも、ほんの少しだけでいい。
一瞬でいいから、私だけを見てほしかった。
いずれ私は結婚する。あと数年もすれば、この家を出て、よその家の人間になる。
叔母様が選んでくれるのは、きっと由緒ある高位貴族の令息だろう。
不満なんて出るはずがない、申し分のない人生が待っているのよ。
公爵令嬢として嫁ぎ、子を産み、夫に尽くす――それが私の未来。
だからこそ、今だけは。
この屋敷にいる“今”だけは、オズワルド叔父様に――私を、愛してほしかった。
「ねぇ、オズワルド叔父様」
呼びかける声が震えた。けれど、それを止める気にはなれなかった。
このまま何も言わなければ、きっと、すべてが流れていってしまうから。
「あと数年で私はお嫁に行くわ。この屋敷を出て、もう二度とあなたのそばにいられなくなるのよ。だから、今だけでいいの。私に――夢を見させてください」
触れてくれなくてもいい。
ただ、私を“女”として、見てほしい。
誰にも言わない。誰にもバレない。だから、今だけ……私だけを見て。
本当は、触れてほしかった。
でも、それを言ってしまったら、きっとオズワルド叔父様にすぐに拒絶されてしまうわ。
この一瞬すら、手に入らなくなる気がして――言えなかった。
バレなければ、誰も傷つかないのよ。
私は、可哀想な立場の少女だったんだから。
少しの慰めくらい、もらったっていいはずでしょう?
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