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14 カミーユの因果応報-2
ところが、それがただの幻想だったと気づいたのは、王家主催の舞踏会でのことだった。
ルーベルト公爵夫人として、公の場に姿を現すのはこれが初めてだった。
かつてレティシア叔母様と連れ立って舞踏会に出たとき――叔母様のまわりには、まるで花に群がる蝶のように人々が集まっていた。
彼らは皆、レティシア叔母様に声をかけてもらいたくて、少しでも近くにいたいと、自然に輪を作っていたのだ。
あの時の私は、その中心にいる叔母様の姿を誇らしく思っていた。
まさか、同じ立場になったはずの私が、ここまで冷たく扱われるとは夢にも思わずに。
今回、私が歩いても、人の流れは私の前でゆるやかに分かれていく。
目を合わせようともしない。
視線は通り過ぎるだけで、まるで私は“そこにいてはいけないもの”のようだった。
「まぁまぁ! 本当にいらしたのね、“例の姪御さん”。あんな噂、さすがに脚色されてると思っていたけれど……見事にそのままだわ」
「レティシア様って、やっぱりお優しいのね。あんな子のために、身を引いて離縁したなんて。いくら、お腹の子供のためと言ってもねぇ?」
「私だったら耐えられない……身内に、あんな娘がいるなんて、考えるだけで気が滅入るもの」
「いいえ、レティシア様の“身内”だなんて、とんでもないわ……オックスリー伯爵の血が、ほんの少し混じってるだけの子よ。家族のうちになんて入らないわ」
私の出自を語る声が、あちらこちらから、ひそやかに、それでいて確かに響いてくる。
オックスリー伯爵と下女のあいだに生まれた娘が、平民と駆け落ちして産んだ子――それが私。
彼らにとって、そんな私が“貴族”を名乗る資格など、最初からないのだ。
笑い声が、まるで鋭い刃のように突き刺さる。
「……裏切り者」
「図々しい女……」
「レティシア様の顔に泥を塗ったくせに、のうのうと出てきて……」
聞こえてくる言葉のすべてが、私を貶め、見下し、笑っていた。
周囲に目をやると、見知った顔がいくつもあった。
かつて、レティシア叔母様に微笑みかけ、敬意をもって接していた貴族たちだ。
叔母様は、優しく、寛容で、誰よりも他者を思いやる女性だった。
だからこそ、皆に慕われ、深く信頼されていた。
そんな人望と影響力のあるレティシア叔母様に守られていたからこそ、私はこれまで“幸せ”に暮らせていたのだ。
このときになって、やっとその事実にも気づいたけれど、遅すぎた。
その叔母様が私を責めず庇ってルーベルト公爵家を去ったことが、かえって彼らの怒りを買い、それが一斉に牙を剝く。
「レティシア様がどれだけ偉大な方だったかも分からない、身の程知らずな小娘が――」
「恩を仇で返すとは、こういうことを言うのね」
誰も私を見ていない。
華やかな音楽が流れ、ドレスの裾が舞い、笑い声が飛び交う中で――私はまるで、そこにいない者のように立ち尽くしていた。
私はただ、誰からも認められない“恥さらしの影”だった。
オズワルド叔父様も例外ではなかった。どの貴族の当主たちも距離を置き、話しかけても気づかぬふりで通り過ぎる――その冷たい空気のなかで、彼もまた孤立していた。
そしてこれは、私の地獄の、ほんの入口にすぎなかった。
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※明日もカミーユの因果応報が続きます。
※カミーユにもっと因果応報を! とご希望する方は💓をお願いします。あと、マリーが気持ち悪いと、思う方も💓を。作者への応援もしていただけると、飛び上がって喜びます🙇🏻♀️
ルーベルト公爵夫人として、公の場に姿を現すのはこれが初めてだった。
かつてレティシア叔母様と連れ立って舞踏会に出たとき――叔母様のまわりには、まるで花に群がる蝶のように人々が集まっていた。
彼らは皆、レティシア叔母様に声をかけてもらいたくて、少しでも近くにいたいと、自然に輪を作っていたのだ。
あの時の私は、その中心にいる叔母様の姿を誇らしく思っていた。
まさか、同じ立場になったはずの私が、ここまで冷たく扱われるとは夢にも思わずに。
今回、私が歩いても、人の流れは私の前でゆるやかに分かれていく。
目を合わせようともしない。
視線は通り過ぎるだけで、まるで私は“そこにいてはいけないもの”のようだった。
「まぁまぁ! 本当にいらしたのね、“例の姪御さん”。あんな噂、さすがに脚色されてると思っていたけれど……見事にそのままだわ」
「レティシア様って、やっぱりお優しいのね。あんな子のために、身を引いて離縁したなんて。いくら、お腹の子供のためと言ってもねぇ?」
「私だったら耐えられない……身内に、あんな娘がいるなんて、考えるだけで気が滅入るもの」
「いいえ、レティシア様の“身内”だなんて、とんでもないわ……オックスリー伯爵の血が、ほんの少し混じってるだけの子よ。家族のうちになんて入らないわ」
私の出自を語る声が、あちらこちらから、ひそやかに、それでいて確かに響いてくる。
オックスリー伯爵と下女のあいだに生まれた娘が、平民と駆け落ちして産んだ子――それが私。
彼らにとって、そんな私が“貴族”を名乗る資格など、最初からないのだ。
笑い声が、まるで鋭い刃のように突き刺さる。
「……裏切り者」
「図々しい女……」
「レティシア様の顔に泥を塗ったくせに、のうのうと出てきて……」
聞こえてくる言葉のすべてが、私を貶め、見下し、笑っていた。
周囲に目をやると、見知った顔がいくつもあった。
かつて、レティシア叔母様に微笑みかけ、敬意をもって接していた貴族たちだ。
叔母様は、優しく、寛容で、誰よりも他者を思いやる女性だった。
だからこそ、皆に慕われ、深く信頼されていた。
そんな人望と影響力のあるレティシア叔母様に守られていたからこそ、私はこれまで“幸せ”に暮らせていたのだ。
このときになって、やっとその事実にも気づいたけれど、遅すぎた。
その叔母様が私を責めず庇ってルーベルト公爵家を去ったことが、かえって彼らの怒りを買い、それが一斉に牙を剝く。
「レティシア様がどれだけ偉大な方だったかも分からない、身の程知らずな小娘が――」
「恩を仇で返すとは、こういうことを言うのね」
誰も私を見ていない。
華やかな音楽が流れ、ドレスの裾が舞い、笑い声が飛び交う中で――私はまるで、そこにいない者のように立ち尽くしていた。
私はただ、誰からも認められない“恥さらしの影”だった。
オズワルド叔父様も例外ではなかった。どの貴族の当主たちも距離を置き、話しかけても気づかぬふりで通り過ぎる――その冷たい空気のなかで、彼もまた孤立していた。
そしてこれは、私の地獄の、ほんの入口にすぎなかった。
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※明日もカミーユの因果応報が続きます。
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