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13 今度は処刑されない-1
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同僚の侍女たちが部屋から日記を見つけて持ってきた。
ルシアンもその場にいたけれど、私たちは躊躇なくページを開く。
そこに並んでいたのは――
「ルシアン様の、髪の色が尊い……声が素敵……くしゃみが可愛い……」
びっしりと綴られた恋文もどきの“推し語り”だった。
女の私ですら引いた。いや、これはもうホラーの域よ。
「怖っ……推し活、こじらせすぎでしょ……」
さらに部屋を調べると、引き出しにはルシアンが使ったペン、ハンカチ、高価でもなんでもない小物類がズラリ。
「……これ、完全に私物収集コレクションよね? 彼女の身分は?」
「フリードマン男爵家の三女です」
「やっぱり。平民じゃなくて貴族の端くれ。つまり――“玉の輿狙い”も視野にいれた推し活なのね」
そして突然現れた私に、ルシアンが関心を持ち始めたことで、“推し”を奪われたと感じた彼女は、毒を盛られた!と自作自演で私を追い出そうとしたわけね。
「わかりやすいし……なにより、浅はかすぎる」
とにかく、私はクラリッサを助けることにした。ここは毒公爵の屋敷、薬草も毒サンプルもそろっているしね。
「デトックス・ブック、起動っと!」
薬草を手際よく選び、地下室で毒のサンプルもあれこれ混ぜながら調合していく。毒って少量なら良薬になることもあるのよね。
ふんふんふ~ん♪と鼻歌まじりに仕上げた、特製・解毒スムージー。
私はスポイトでクラリッサの口にそれを注ぎ込む。
数分後、彼女の顔に生気が戻り、やがてうっすらと目を開いた。
さてと、白状してもらいましょうか。
「ねえ、クラリッサさん。好きな人に振り向いてもらえないって……寂しいわよね。しかも“推し”が無関心なところに、突如“新ヒロイン”が現れたら――そりゃ暴走もしたくなるわよね?」
「え? 意味がわかりません」
「つまり、私が言いたいのは、クラリッサさんはブランデン公爵が好きなのでしょう? 私に嫉妬して毒殺事件を自作自演したのよね?」
彼女は震える声で言った。
「……ごめんなさい。私、ブランデン公爵様に……ずっと……憧れてたんです。生きがいで……癒やしで……」
――うん、前世でいうところの完全に“推し活”こじらせ女子よね。
「でもね、女の幸せって、推しに好かれることだけじゃないのよ。本当のことを正直に話してくれたなら、あなたをルシアンに毒研究助手として推薦してあげる。今よりも一緒にいられるわよ。私に罪を被せようとしたことも忘れてあげる。……どう?」
クラリッサはこくんと頷いた。
こうして、事件は「推しに狂ったメイドの暴走」として一件落着。
ルシアンの信用も回復し、ブランデン公爵家の使用人たちは私に拍手喝采を送った。
……そして月日は流れ、私はちょうど、前の転生人生で処刑された歳になった。
その日、王家主催の舞踏会は、黄金のシャンデリアがきらめく中で華やかに幕を開けた。
貴族たちは着飾り、笑い合い、グラスの中で宝石のようなワインが揺れていた。
私はホールの片隅で静かに立っていた。この歳になるのを、ずっと意識していた。過去を断ち切ったつもりでも、やはり心のどこかに――処刑される瞬間がまた訪れるのではないか、という不安が残っている。
だけど、もう私は、あの時の私じゃない。父やルシアンも味方につけたし、ローズミント侯爵家やブランデン公爵家の使用人たちも、私に良い感情しかもっていない。だから、あの時のようなことには絶対にならない!
けれど、着飾った人々のざわめきの中、突然、甲高い叫び声が響いた。
「お姉様が……私に毒を盛ったのよぉおおおお!!」
ビオラが私を指さした。
王族も貴族も一斉にざわめき、私を見つめる視線が突き刺さる。まるであの日の再現のように、状況は再び整えられた。場所も状況も全く違うけれど、私を罪人に貶めようとするビオラとイザベル。傍らにはお約束の王太子。ならば今度こそ、私は運命そのものをねじ伏せてみせる。
――さあ、今度は私の番よ、ビオラ!
ルシアンもその場にいたけれど、私たちは躊躇なくページを開く。
そこに並んでいたのは――
「ルシアン様の、髪の色が尊い……声が素敵……くしゃみが可愛い……」
びっしりと綴られた恋文もどきの“推し語り”だった。
女の私ですら引いた。いや、これはもうホラーの域よ。
「怖っ……推し活、こじらせすぎでしょ……」
さらに部屋を調べると、引き出しにはルシアンが使ったペン、ハンカチ、高価でもなんでもない小物類がズラリ。
「……これ、完全に私物収集コレクションよね? 彼女の身分は?」
「フリードマン男爵家の三女です」
「やっぱり。平民じゃなくて貴族の端くれ。つまり――“玉の輿狙い”も視野にいれた推し活なのね」
そして突然現れた私に、ルシアンが関心を持ち始めたことで、“推し”を奪われたと感じた彼女は、毒を盛られた!と自作自演で私を追い出そうとしたわけね。
「わかりやすいし……なにより、浅はかすぎる」
とにかく、私はクラリッサを助けることにした。ここは毒公爵の屋敷、薬草も毒サンプルもそろっているしね。
「デトックス・ブック、起動っと!」
薬草を手際よく選び、地下室で毒のサンプルもあれこれ混ぜながら調合していく。毒って少量なら良薬になることもあるのよね。
ふんふんふ~ん♪と鼻歌まじりに仕上げた、特製・解毒スムージー。
私はスポイトでクラリッサの口にそれを注ぎ込む。
数分後、彼女の顔に生気が戻り、やがてうっすらと目を開いた。
さてと、白状してもらいましょうか。
「ねえ、クラリッサさん。好きな人に振り向いてもらえないって……寂しいわよね。しかも“推し”が無関心なところに、突如“新ヒロイン”が現れたら――そりゃ暴走もしたくなるわよね?」
「え? 意味がわかりません」
「つまり、私が言いたいのは、クラリッサさんはブランデン公爵が好きなのでしょう? 私に嫉妬して毒殺事件を自作自演したのよね?」
彼女は震える声で言った。
「……ごめんなさい。私、ブランデン公爵様に……ずっと……憧れてたんです。生きがいで……癒やしで……」
――うん、前世でいうところの完全に“推し活”こじらせ女子よね。
「でもね、女の幸せって、推しに好かれることだけじゃないのよ。本当のことを正直に話してくれたなら、あなたをルシアンに毒研究助手として推薦してあげる。今よりも一緒にいられるわよ。私に罪を被せようとしたことも忘れてあげる。……どう?」
クラリッサはこくんと頷いた。
こうして、事件は「推しに狂ったメイドの暴走」として一件落着。
ルシアンの信用も回復し、ブランデン公爵家の使用人たちは私に拍手喝采を送った。
……そして月日は流れ、私はちょうど、前の転生人生で処刑された歳になった。
その日、王家主催の舞踏会は、黄金のシャンデリアがきらめく中で華やかに幕を開けた。
貴族たちは着飾り、笑い合い、グラスの中で宝石のようなワインが揺れていた。
私はホールの片隅で静かに立っていた。この歳になるのを、ずっと意識していた。過去を断ち切ったつもりでも、やはり心のどこかに――処刑される瞬間がまた訪れるのではないか、という不安が残っている。
だけど、もう私は、あの時の私じゃない。父やルシアンも味方につけたし、ローズミント侯爵家やブランデン公爵家の使用人たちも、私に良い感情しかもっていない。だから、あの時のようなことには絶対にならない!
けれど、着飾った人々のざわめきの中、突然、甲高い叫び声が響いた。
「お姉様が……私に毒を盛ったのよぉおおおお!!」
ビオラが私を指さした。
王族も貴族も一斉にざわめき、私を見つめる視線が突き刺さる。まるであの日の再現のように、状況は再び整えられた。場所も状況も全く違うけれど、私を罪人に貶めようとするビオラとイザベル。傍らにはお約束の王太子。ならば今度こそ、私は運命そのものをねじ伏せてみせる。
――さあ、今度は私の番よ、ビオラ!
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