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9 パトリシア、涙をひねり出す
それからイボンヌは屋敷にずっと居座っている。いつも手の込んだ料理を作り屋敷を掃除し、まるでこの家の女主人のようだ。
彼女が略奪するのはモノだけではない。私の居場所を取るのも昔から得意だった。
「パトリシアも少しは見習えよ。イボンヌさんはすごい料理を何品も作ってくれる。君の倍以上の品数だ」
(まぁね、イボンヌはずっと家にいるしね)
「そうですよ。パトリシアが仕事を辞めて家のことだけやっていれば、こんなにいつもお部屋が綺麗なのよ。イボンヌさんを見習いなさいよ」
あら、まぁ! 女って共通の敵の前にはホント連帯感増すのよね・・・・・・イボンヌと敵対していたと思われたジェンナ様は嬉々として私を責め立てる。
「全くだ。イボンヌさんがショーンの嫁だったら良かったのに!」
とギガンテッド元男爵。
「ふふふ。そうですよねぇーー。だったら、私がこの家の嫁になってあげますわ! いかがですか? 皆様!」
「あら、いいわねぇ!」
「ほぉ、それは名案だ」
「へぇ、天使のように綺麗なイボンヌさんが私の妻になってくれるのなら、仕事にもますます精がで出るよ」
彼らの意見の一致に、私は昔飼っていたインコのピーコを必死で思い出す。ここはなんとしても涙が欲しい。
(あぁ、ピーコ! 私のかわいい鳥ちゃん。死んだ時はとても悲しかった)
ホロリと流れた涙は、幼い頃飼っていたピーコの死への涙。今となっては夫と別れるにあたり、自然と流れる涙など一滴もないからこうしてひねり出す。
「そうですか・・・・・・ショーンの幸せの為に諦めるしかないですね。とても悲しいですけれど・・・・・・」
「え? そんなに簡単に離婚してくれるのか? そちらから身を引くと言ったからには、慰謝料も財産分与もなしでいいよな?」
「それについては、後日書類を送ります」
「あっははは。ありがとう! パトリシアお姉様って、結局いつも私にいろいろなモノを取られる運命なのよねぇ? 私に見せびらかすからそうなるのですわ。私は、より良い物を得るように生まれついているのですから」
「そうね、とても良い物が今回も奪えて良かったわね。では私はこれにて・・・・・・荷物はあとで使いの者に取りに来させますね」
「使いの者? なんだよ、偉そうに。裏通りの小さい薬種屋の薬師が使いの者なんて雇えるわけがないだろう? パトリシア、私を失って気が動転しているのか? 可哀想に・・・・・・だが、私の気持ちは変わらない・・・・・・君が怠けるから良くないんだよ。せっかくの文官夫人の地位もなくなって・・・・・・惨めだな」
「まぁ、これも自業自得だろう。イボンヌさんのように努力しない女は不幸になっても仕方がないさ」
ギガンテッド元男爵は、鼻を伸ばしてイボンヌに熱い視線を送る。
(気持ちわるっ!! とにかくこんな所にはもういる必要がないわね)
「・・・・・・イボンヌ、あなたは酷い子ね。・・・・・・一生恨むわよ。二度と会いたくないわ」
私はピーコを思って、今や号泣していた。
(ピーコちゃん、とてもおしゃべりで人間の言葉まで話せたのに・・・・・・)
「クスクス。止めてよ、こっちだってもう二度と会いたくないわよ」
いつものように出仕し、王妃殿下には以前より提案されていたことのお返事をする。
「やはり、こちらに住まわせて頂くことにしました。ルビー宮の薬草園側に面した一画を、私の住まいにするようにおっしゃってくださいましたよね?」
「まぁ、それはありがたいわ! いつでもあなたの美容ドリンクが飲めるし、薬師長の魔法の手は国宝ですからね。市井に住まわせるのは心配でした。ショーンにだけはこのことを打ち明けて、夫婦で一緒に住んでも良いですよ」
「ショーンは一緒に住みません。詳細はこの件が終わってからご説明しますね。ただ、屋敷の荷物をこちらに運び込むのに、人を雇わないとならなくて・・・・・・」
「私の薬師長のお引っ越しなら、もちろん王妃付の使用人にさせましょう。ルビー宮の庭師は皆力自慢ですよ」
お昼休みになると、私は王宮から歩いてすぐの不動産仲介業者に足を運ぶ。
「あぁ、こんにちは! パトリシアさん。今月のお支払いに来たのですね?」
「いいえ。これからは夫の・・・・・・いいえ、夫だったショーンが払いに来ますわ。私はあの家から出て行きますので。離婚することになったので・・・・・・毎月の請求はあちらのお屋敷にしていただけます?」
「かしこまりました。賦払金は、あちらのお屋敷に直接請求書を送らせて頂きますね」
ショーンのお給料は民間の商会に務める男性よりは多めだけれど、特に役職もついていないのでそれなりだ。それなのに彼はたっぷりとそこから自分のお小遣いを取り、両親にも気前良くお小遣いをはずむ。
彼らが満足のいく金額を取った後の残金では、とてもあの生活を維持するのは無理だ。彼らが好む高給食材が毎月いくらかかっているか、あの屋敷の維持にどれだけのお金が必要なのか、ショーン達は少しもわかっていない。
私が毎月の生活費の足が出たぶんと、あの屋敷の賦払金を払っていたから成り立っていたのに過ぎない。
彼らには隠していたけれど・・・・・・私の年俸はショーンの10倍以上なのだから!!
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※賦払金(フバライキン):割賦販売契約において、分割返済する各返済額のこと。
彼女が略奪するのはモノだけではない。私の居場所を取るのも昔から得意だった。
「パトリシアも少しは見習えよ。イボンヌさんはすごい料理を何品も作ってくれる。君の倍以上の品数だ」
(まぁね、イボンヌはずっと家にいるしね)
「そうですよ。パトリシアが仕事を辞めて家のことだけやっていれば、こんなにいつもお部屋が綺麗なのよ。イボンヌさんを見習いなさいよ」
あら、まぁ! 女って共通の敵の前にはホント連帯感増すのよね・・・・・・イボンヌと敵対していたと思われたジェンナ様は嬉々として私を責め立てる。
「全くだ。イボンヌさんがショーンの嫁だったら良かったのに!」
とギガンテッド元男爵。
「ふふふ。そうですよねぇーー。だったら、私がこの家の嫁になってあげますわ! いかがですか? 皆様!」
「あら、いいわねぇ!」
「ほぉ、それは名案だ」
「へぇ、天使のように綺麗なイボンヌさんが私の妻になってくれるのなら、仕事にもますます精がで出るよ」
彼らの意見の一致に、私は昔飼っていたインコのピーコを必死で思い出す。ここはなんとしても涙が欲しい。
(あぁ、ピーコ! 私のかわいい鳥ちゃん。死んだ時はとても悲しかった)
ホロリと流れた涙は、幼い頃飼っていたピーコの死への涙。今となっては夫と別れるにあたり、自然と流れる涙など一滴もないからこうしてひねり出す。
「そうですか・・・・・・ショーンの幸せの為に諦めるしかないですね。とても悲しいですけれど・・・・・・」
「え? そんなに簡単に離婚してくれるのか? そちらから身を引くと言ったからには、慰謝料も財産分与もなしでいいよな?」
「それについては、後日書類を送ります」
「あっははは。ありがとう! パトリシアお姉様って、結局いつも私にいろいろなモノを取られる運命なのよねぇ? 私に見せびらかすからそうなるのですわ。私は、より良い物を得るように生まれついているのですから」
「そうね、とても良い物が今回も奪えて良かったわね。では私はこれにて・・・・・・荷物はあとで使いの者に取りに来させますね」
「使いの者? なんだよ、偉そうに。裏通りの小さい薬種屋の薬師が使いの者なんて雇えるわけがないだろう? パトリシア、私を失って気が動転しているのか? 可哀想に・・・・・・だが、私の気持ちは変わらない・・・・・・君が怠けるから良くないんだよ。せっかくの文官夫人の地位もなくなって・・・・・・惨めだな」
「まぁ、これも自業自得だろう。イボンヌさんのように努力しない女は不幸になっても仕方がないさ」
ギガンテッド元男爵は、鼻を伸ばしてイボンヌに熱い視線を送る。
(気持ちわるっ!! とにかくこんな所にはもういる必要がないわね)
「・・・・・・イボンヌ、あなたは酷い子ね。・・・・・・一生恨むわよ。二度と会いたくないわ」
私はピーコを思って、今や号泣していた。
(ピーコちゃん、とてもおしゃべりで人間の言葉まで話せたのに・・・・・・)
「クスクス。止めてよ、こっちだってもう二度と会いたくないわよ」
いつものように出仕し、王妃殿下には以前より提案されていたことのお返事をする。
「やはり、こちらに住まわせて頂くことにしました。ルビー宮の薬草園側に面した一画を、私の住まいにするようにおっしゃってくださいましたよね?」
「まぁ、それはありがたいわ! いつでもあなたの美容ドリンクが飲めるし、薬師長の魔法の手は国宝ですからね。市井に住まわせるのは心配でした。ショーンにだけはこのことを打ち明けて、夫婦で一緒に住んでも良いですよ」
「ショーンは一緒に住みません。詳細はこの件が終わってからご説明しますね。ただ、屋敷の荷物をこちらに運び込むのに、人を雇わないとならなくて・・・・・・」
「私の薬師長のお引っ越しなら、もちろん王妃付の使用人にさせましょう。ルビー宮の庭師は皆力自慢ですよ」
お昼休みになると、私は王宮から歩いてすぐの不動産仲介業者に足を運ぶ。
「あぁ、こんにちは! パトリシアさん。今月のお支払いに来たのですね?」
「いいえ。これからは夫の・・・・・・いいえ、夫だったショーンが払いに来ますわ。私はあの家から出て行きますので。離婚することになったので・・・・・・毎月の請求はあちらのお屋敷にしていただけます?」
「かしこまりました。賦払金は、あちらのお屋敷に直接請求書を送らせて頂きますね」
ショーンのお給料は民間の商会に務める男性よりは多めだけれど、特に役職もついていないのでそれなりだ。それなのに彼はたっぷりとそこから自分のお小遣いを取り、両親にも気前良くお小遣いをはずむ。
彼らが満足のいく金額を取った後の残金では、とてもあの生活を維持するのは無理だ。彼らが好む高給食材が毎月いくらかかっているか、あの屋敷の維持にどれだけのお金が必要なのか、ショーン達は少しもわかっていない。
私が毎月の生活費の足が出たぶんと、あの屋敷の賦払金を払っていたから成り立っていたのに過ぎない。
彼らには隠していたけれど・・・・・・私の年俸はショーンの10倍以上なのだから!!
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※賦払金(フバライキン):割賦販売契約において、分割返済する各返済額のこと。
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